33 / 37
第2章:Drug & Monsters Party
9.雨季 1話
しおりを挟む
カラン、カラン
聞きなれたベルの音。
【STRAND(ストランド)】のドアが金属音でカイルを出迎えた。
まだ午前中の上に何だかどんよりとしたはっきりとしない天気である。
そのせいもあってか、珍しく店内は閑散としていた。
都合がいい、どうも自分が唯一の客らしい。
「やぁ、マスター」
「よぉ、一人で来るなんて珍しいじゃねえか」
「うん、まぁね」
豪快な口調で問いかけるマスターに苦笑まじりに答えるカイル。
そのやりとりは普段と変わりないように見えるが、微妙な空気の違いを二人とも敏感に感じ取っている。
「実はさ、フェンリルに戻ることになったんだ」
「ほぉ、そうか。まぁ、座れよ。わざわざ来て何も飲まないってのもなんだしな」
マスターは大げさにうなづくと、すぐに香ばしい湯気を放つコーヒーをカップに注いで差し出した。
「ありがとう。やっぱりここのコーヒー美味しいよね。もういっそ本格的に喫茶店にすればいいのに」
コーヒーを一口啜るとカイルは少し柔らかい表情で満足そうにそう言った。
「おいおい、勘弁してくれ。俺はみんながワイワイしてる空気が好きなんだ。それにな、立地的に酒場やってる方が流行るんだからしょうがねぇだろ?誰だって全てが自分の思うがままにできるわけじゃねぇんだ」
マスターは口元をいつものようにニヤッと歪め笑ったように見えた。
色付き眼鏡のせいでしっかりとは読み取れなかったが。
「それで、あいつらにはもう話したのか?」
「いや、話すと喧嘩になりそうだし。リュウガは怒ると問答無用で殴るし」
「ハッハッハッ、確かにあいつならやりそうだ」
「でもさ、きっとみんな分かってくれると思う」
「そうか」
マスターのぶっきらぼうなその一言は掴みどころのないカイルの言葉をしっかりと受け止めているように感じられた。
「じゃあ、そろそろ行くよ。コーヒーご馳走様。すごい美味しかった。えっと、お代はここにおいとくから」
「………ああ」
そういえばカイルはよく、「どうせまた来るんだからツケでいいじゃない!!」とか変な理屈をこねていたな。
「あそこへ戻るのですか?」
出口へと向かっていたカイルに丁度厨房から出てきたエミリアが声をかけた。
「さっきの話聞いてたの?」
「そうやって、私が話を聞いていたことも全て分かっていながらとぼける嫌なクセはやめた方がいいですよ。気持ち悪い」
「ごめん、ごめん。気をつけるよ」
「あなたは昔からそうですよね。そうやって謝ってばかりで、少しは………」
「ごめん。でもさ、これは俺自信が解決しなきゃいけないことだから」
来た時と同じように扉のベルを鳴らしてカイルは静かに店を後にした。
「はぁ・・・本当に、相変わらずですね」
「ほぉ、そんなに心配ならお前も動いたらどうだ?」
マスターがニヤニヤしながらエミリアに問いかけた。
「ウルサイですよ、マスター。誰もあんなゴミ虫の心配なんてしてません。どうせ誰かが助けようとしても勝手に何とかするでしょう。それに、私が行動したところで大局が変わるとも思えないですから。・・・誠に不本意ですが」
「フッ、そうかい。それにしてもお前はカイルのことをけなす時はえらく饒舌になるよなぁ」
「気のせいです」
ピシャリと言い放つとエミリアは店の奥に引っ込んでしまった。
店の奥からは、
「あれ?エミィどうしたの?なんか顔赤いよ。ブリッツのみんな来たの?」
「大丈夫です。姉さんには関係ないですから」
「えぇ~、何々?教えてよぉ!」
という会話が聞こえてきてマスターは思わず苦笑した。
(ウチだけでもこれだけお前のことを心配してくれてる奴がいるんだぜ。またコーヒーでも飲みに来いよ、カイル)
そんなマスターのつぶやきは、静かに降り続ける雨の音に溶けていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~登場人物紹介~
・カイル・ブルーフォード:廃棄区画にて「なんでも屋 BLITZ」を営む。
元【Fenrir(フェンリル)】1番小隊隊長
・マスター:酒場「ストランド」を営む情報通。本名は不明。
・エミリア:双子の妹。「ストランド」の給仕と掃除を担当。
・フレイ:双子の姉。「ストランド」の経理関係と比較的安全~怪しい依頼を扱う仲介業を営む。
聞きなれたベルの音。
【STRAND(ストランド)】のドアが金属音でカイルを出迎えた。
まだ午前中の上に何だかどんよりとしたはっきりとしない天気である。
そのせいもあってか、珍しく店内は閑散としていた。
都合がいい、どうも自分が唯一の客らしい。
「やぁ、マスター」
「よぉ、一人で来るなんて珍しいじゃねえか」
「うん、まぁね」
豪快な口調で問いかけるマスターに苦笑まじりに答えるカイル。
そのやりとりは普段と変わりないように見えるが、微妙な空気の違いを二人とも敏感に感じ取っている。
「実はさ、フェンリルに戻ることになったんだ」
「ほぉ、そうか。まぁ、座れよ。わざわざ来て何も飲まないってのもなんだしな」
マスターは大げさにうなづくと、すぐに香ばしい湯気を放つコーヒーをカップに注いで差し出した。
「ありがとう。やっぱりここのコーヒー美味しいよね。もういっそ本格的に喫茶店にすればいいのに」
コーヒーを一口啜るとカイルは少し柔らかい表情で満足そうにそう言った。
「おいおい、勘弁してくれ。俺はみんながワイワイしてる空気が好きなんだ。それにな、立地的に酒場やってる方が流行るんだからしょうがねぇだろ?誰だって全てが自分の思うがままにできるわけじゃねぇんだ」
マスターは口元をいつものようにニヤッと歪め笑ったように見えた。
色付き眼鏡のせいでしっかりとは読み取れなかったが。
「それで、あいつらにはもう話したのか?」
「いや、話すと喧嘩になりそうだし。リュウガは怒ると問答無用で殴るし」
「ハッハッハッ、確かにあいつならやりそうだ」
「でもさ、きっとみんな分かってくれると思う」
「そうか」
マスターのぶっきらぼうなその一言は掴みどころのないカイルの言葉をしっかりと受け止めているように感じられた。
「じゃあ、そろそろ行くよ。コーヒーご馳走様。すごい美味しかった。えっと、お代はここにおいとくから」
「………ああ」
そういえばカイルはよく、「どうせまた来るんだからツケでいいじゃない!!」とか変な理屈をこねていたな。
「あそこへ戻るのですか?」
出口へと向かっていたカイルに丁度厨房から出てきたエミリアが声をかけた。
「さっきの話聞いてたの?」
「そうやって、私が話を聞いていたことも全て分かっていながらとぼける嫌なクセはやめた方がいいですよ。気持ち悪い」
「ごめん、ごめん。気をつけるよ」
「あなたは昔からそうですよね。そうやって謝ってばかりで、少しは………」
「ごめん。でもさ、これは俺自信が解決しなきゃいけないことだから」
来た時と同じように扉のベルを鳴らしてカイルは静かに店を後にした。
「はぁ・・・本当に、相変わらずですね」
「ほぉ、そんなに心配ならお前も動いたらどうだ?」
マスターがニヤニヤしながらエミリアに問いかけた。
「ウルサイですよ、マスター。誰もあんなゴミ虫の心配なんてしてません。どうせ誰かが助けようとしても勝手に何とかするでしょう。それに、私が行動したところで大局が変わるとも思えないですから。・・・誠に不本意ですが」
「フッ、そうかい。それにしてもお前はカイルのことをけなす時はえらく饒舌になるよなぁ」
「気のせいです」
ピシャリと言い放つとエミリアは店の奥に引っ込んでしまった。
店の奥からは、
「あれ?エミィどうしたの?なんか顔赤いよ。ブリッツのみんな来たの?」
「大丈夫です。姉さんには関係ないですから」
「えぇ~、何々?教えてよぉ!」
という会話が聞こえてきてマスターは思わず苦笑した。
(ウチだけでもこれだけお前のことを心配してくれてる奴がいるんだぜ。またコーヒーでも飲みに来いよ、カイル)
そんなマスターのつぶやきは、静かに降り続ける雨の音に溶けていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~登場人物紹介~
・カイル・ブルーフォード:廃棄区画にて「なんでも屋 BLITZ」を営む。
元【Fenrir(フェンリル)】1番小隊隊長
・マスター:酒場「ストランド」を営む情報通。本名は不明。
・エミリア:双子の妹。「ストランド」の給仕と掃除を担当。
・フレイ:双子の姉。「ストランド」の経理関係と比較的安全~怪しい依頼を扱う仲介業を営む。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる