神様になった私、神社をもらいました。 ~田舎の神社で神様スローライフ~

きばあおき

文字の大きさ
3 / 46

神社の引き継ぎ

しおりを挟む
 私ときりは、満天の星の下に浮かんでいた。先ほど映像で見せられた神社の真上だ。

「おおーっ高いっ! なんだこれ、夢じゃ無い? 落ちちゃうー! って、だんだん降りているのか」

徐々に視線が低くなり、神社の屋根を通り抜け、社殿の中へ降り立った。

薄暗く埃くさいその場所は、まるで体育館の地下にあった物置部屋のように色々な道具が置かれていた。

「真っ暗なのに見えるね。うわー、きたない、これ神社ってレベルじゃないよねぇ」

「すまんのぅ、村人達の倉庫になっているのじゃ」

無人だと思っていた社殿の奥から突然話し掛けられた。

「ああっ、すみませんすみません。あれ」

その場所には埃が積もり、厚く積もった埃が白い絨毯のように見える祭壇があった。

そんな場所に腰掛けた人物。

真っ白い髪、同じく白く長いあごひげの好々爺であった。

「話は聞いておる、ようやく後任が来てくれたか。

異動願の木簡もっかんを送ってから千五百年待ったぞ」

おじいさんが着ている真っ白な狩衣はまったく汚れていない。

(肌感覚で分かる。うん、間違いない。これはもう夢の中じゃない)

「は、はじめまして。佐藤ゆかりと申します。
このたび神社を預からせていただくことになりました」

「まぁまぁ、堅くならんでもよい。そして夢でもないぞ。

儂は山の神と呼ばれておる。話はヒルメ様より聞いておるよ。

災難じゃったなぁ、鳥居に当たって。

ぶっ、鳥居で人死にとは、ぶっはははは、ありえんってわはははは」

山の神と名乗る神は腹を抱え、祭壇を叩きながら大爆笑している。

「まぁ、実感はないのですけれど、死んでしまったらしいです」

「あぁ愉快。こんな不祥事始めて聞いたわ。驚くやらおかしいやら。

人心から信仰が薄くなりつつある下界において、天津神あまつかみの社が罪も無い人間を死なすなど絶対に、あってはならない不祥事じゃからのう」

「しかし、千五百年も待っていたって、そんなに高天原って入れないところなんですか?」

なにせ自分は高天原に住んで良いといわれたばかりだ。

「儂は国津神くにつかみじゃからの。天津神の連中からしたら敗戦国の神じゃ。

とはいえ、儂は高天原との併合は賛成派だったのじゃ。

元々のご神体は後ろにある御山おやまでな、それを鎮めるために出雲から異動させられて、そのままずっとこの仕事を任されておった。

天津神の世になっても同じ仕事を続けるよう言われてな。

きっと忘れられていたんじゃろ」

「はぁ、なるほど」

(神様になって神社を貰ったときはちょっと驚いたけど、本社の勤務の天津神から見たら国津神の仕事なんて誰と交代しても問題無い雑用レベルって事じゃないのかなぁ)

「そのとおりじゃて」

「あ、思ってたこと読めたりします?」

私の思考に返事をされたことで、驚いたが、相手は神様だ。

「どうやってもうでる人間の言葉を聞き分けていると思っとるんじゃ。

神々は人の祈りや思考を読み取れる」

「神様同士でもですか?」

「いや、それは神威によって遮断出来る。おぬしはまだじゃな」

「そうですよね。神様同士で心が読めたら戦争になりかねませんもんね」

「そうでもないがの。まぁ、やしろの引き継ぎが済めば、おぬしも最低限の神威が身につく」

夢見の神威はもっているはずだが、神威というものは技と力の両方の意味をもっているようだ。
夢見という技、神として持っている力を総じて神威と言うのが正しいのだろう。

「さあて、早速じゃが御山おやまへ行くぞ」

「御山って、ここの裏山ですか?」

「うむ。引き継ぎじゃ。神使は猫か。おまえはここに残りなさい。

それでは佐藤ゆかり殿、儂について参られよ」

山の神の身体がふわりと浮き上がり、祭壇の奥を通り抜けてゆく。

私は後を追って壁を通り抜けた。

山の神のあとを稜線に沿ってすーっと登る。

山と言っても小山の部類に入るサイズだ。

標高二百メートル程度の綺麗な円錐型をしていた。

そして二人は頂上にたどりついた。

「今時はここらが頭だな。おーい、山神やまがみよ。挨拶にきたぞ」

山頂には菱形の巨岩が横たわっているだけだった。しかし、突然その岩が起き上がった。

「なんじゃ山の神、久しいな。挨拶じゃと? どうした」

腹に響くような太い声。

起き上がった大岩には金色をした爬虫類の瞳が開いていた。

頭が姿を現すと、続けて太く長い胴体が山体すべてに巻かれているのが見えてきた。

巨大な物が怖いというフォビア(恐怖症)ではない私だが、生きている超巨大な蛇と対峙していることに戦慄した。

しかし、その蛇体は真っ白で艶やかで美しい。

「おぬしとは長い付き合いじゃったがな、こたびの神事異動じんじいどうで儂は高天原に住むこととなった。

ついてはこの佐藤ゆかり殿が山の神となる。

二柱の神々におきまして幾久しくご繁栄をお祈り申し上げたてまつる」

「おっ、神らしい口上を申したのも久しぶりじゃな。

この佐藤ゆかりとやらはわらわを鎮められるのか?」

「まぁ、儂の後任に選ばれたのじゃ、和魂にぎたまも和魂、見るからに温和な神じゃて。

お手柔らかに頼んだぞ」

(この巨大な白蛇が本当のご神体ってことなのか。
この神を鎮めるのが仕事!? 無理だってこんなのー)

巨大な白蛇の瞳が私に向けられている。

しかし、彼らの気心知れた話しぶりから、そんなに怖い存在では無いように思えた。

「私は佐藤ゆかりと申します。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

「おおぉ、まともそうな奴じゃ。高天原の連中とは違うようじゃ。

ならよろしい。

山の神とは長い付き合いで楽しく過ごせたが、おぬしも当然酒は呑めるんじゃろ?

送別会と歓迎会じゃ! 酒は社にあるんか? 呑もう呑もう」

「かなり昔のじゃが二本だけあったかのぅ、それじゃ社に行くんべぇ」

山の神センパイに群馬弁が出た。どうやらこれがいつものノリのようだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...