神様になった私、神社をもらいました。 ~田舎の神社で神様スローライフ~

きばあおき

文字の大きさ
24 / 46

村人達の困惑

しおりを挟む
「ゆかりちゃんの偉いお客様って誰だろうねぇ。粗相が無いといいんだけど」

村唯一の甘味処、団子屋のおばあちゃんは暖簾のれんをしまいながらつぶやいた。

今日はゆかりが大量に買い物をしてくれたおかげで、売り切れ続出となり早々に店を閉めてのんびりすることができそうだ。

「ほんと助かるよ。いつも村の中だけでお金使ってくれるからねぇ。

でもせっかくあげたお賽銭が全部戻ってきちゃうねぇ」

おばあちゃんはお茶をすすりながらしみじみとつぶやいた。

「ほんと、いい神様がきてくれたよ」


話の出所でどころは村長の奥さんからだった。

村に一つしか無いパーマ屋で話した、山の神神社に神様が降りたというヨタ話は、時間とともに信憑性が上がっていった。

五十年続けているパーマ屋の女主人は、村長の奥さん以上にスピーカーだった。

そのあと例大祭がおこなわれる頃には、村の誰もが神がかり的な神社の復興に神の存在を認めざるを得なかった。

村人達でおこなえる祭りが帰ってきた喜びは、特に老人世代に多かったようだ。

その話は近隣老人ネットワークにより大きな尾ひれが付いて益々広まった。

そして、例大祭当日に村長の奥さんが出会ったという、神様が普段着で祭りに来ていて青年会の皆と酒を飲んでいたという話。

さすがに村長の奥さんの正気を疑う者もいた。

もしかして変な宗教でも始めるつもりなんじゃないかとまで言う人もいたぐらいだ。


ところがたたみ掛けるように御山を傷つけようとした村長の失脚、青木さんとこの無職だった息子さんが御山で大発見。

しかも大発見は神様のお告げときたもので、これはほんとうに神様が降りたのでは? 

人の姿をして村に出歩いているのではないかと思う人が増えていった。

また最近、街の若い娘さんが団子屋でお菓子を買い、酒屋で大量の酒を買う姿が度々見られるようになり、どこの娘だろうと噂になっていた。

綺麗な顔立ちではあるが、街の娘にしてはお菊人形のように和風。

村人と挨拶を欠かさず、見かけによらず社交的で、なにより村人の事をよく知っている。

”こんにちは。なくし物は見つかりましたか?”

挨拶がてら、このように問われた村人は、ゆかりとは初対面だった。

酒屋では、ボディガードのような男が荷物運びをしていることもあり、街のお嬢様が村にお忍びで買いものに……、いやいや、それはありえないと、狭い村の噂第一位となっていたのだ。

あるとき、酒と肴を買ったゆかりが山の神神社に歩いてゆく姿が目撃された。

すぐに宮司は質問攻めに遭った。

しかし、宮司もわけがわからない。年頃の息子はいるが、若い娘に心当たりなどは無い。

唯一あるとすれば、夢で出会う神様……。

ゆかりはうかつだった。

社会人としての経験は長いが、神としては新入社員だった。

すなわち、神としての自覚が無い。

お店で買いものができると知ってから、生きている時と同じ、普段通りの行動を取っていたのだ。

コンビニがあれば常連になっていただろう。

宮司から不思議な話としてその目撃情報を聞いた現村長の奥さんは、このままではなにか問題が起きるかもしれないと緊急の村議会を開いた。

『極秘!白蛇山大神さま対策会議』

そして、「ゆかりちゃんが神様だと誰も気づいていないことにする」と決議された。

そんなことも知らず、今日もビールを買いに行くゆかりだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...