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宮司の息子
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数日後、稲荷へ出向いた私はウカ様とたくさん話をした。
今回の高天原出張で、街の神域を再構築してほしいという願いは断られたそうだ。
曰く、神は自らの縄張りを守ることが役目では無いと。
それだけの話に五十年かかったらしい。
神々の時間はこちらと進み方が違うのだろうか。
ウカ様が言いたかったことは、人との共生を受け入れつつ、神域を広げ、氏子の教化をすすめたいということだと思う。
しかし、最高神のヒルメ様は地上に等しく太陽の恩恵を与え、まさに自然神としての力を発揮し続けている神だ。
ある地区の神域に偏りがあっても、それを調整することなど自然神のおこなう仕事では無い。
実は私もそう感じていた。
日本の神という存在が『自然』に宿るのだとすれば、その行動も自然に基づいていなくてはならない。
人間社会の発展は脅威となる自然現象の平坦化が必須だ。
当然、自然の驚異である神々は姿を消してゆく。
私が人間だったからか、それは仕方ないことと思うのだけれど。
では神の存在が人間社会の発展に影響を与えるためにはどうしたら良いのかはまだわからなかった。
ウカ様は帰り際にヒルメ様の言ったことを教えてくれた。
「わたしからのお願いは断られちゃったけどね。ヒルメ様、ゆかりさんがなにをするのか知れっておっしゃったの。
帰ってみたら、ゆかりさんと夜刀神であの様子だったでしょう。
ヒルメ様が気にしている方ってどんな荒神なのかってワクワクしてたのよ」
最悪の第一印象が残ってしまったようだが、私なんぞを観察しても神界部屋の快適化ぐらいしか参考にならないと思う。
しかしヒルメ様はわたしの働きに期待していることだけはわかった。
まずは稲荷の繁盛のため、近所にあるシャッター商店街をどうにかするように宮司に伝えなくては。
夜刀神は新しくできた公園神社空間にとどまるそうだ。
しばらくしてイチから聞いた話では、公園に来る人たちから『祠の神様』と呼ばれ、愛されるようになったと。
その影でイチが町内の事故、事件の発生を人知れず防ぎ、祠の神様の霊験を広める努力もしているらしい。
きりは神使会の仲間ができてから時々おこなわれる寄り合いに出席するようになった。
帰ってくると街の情報を楽しそうに話してくれる。
きりが楽しそうにしている姿を見られることが私には嬉しかった。
「やっと平和な街や村でスローライフが送れるようになったなぁ」
神の言葉で死亡フラグのセリフを言うのはやめたほうが良い……。
獅子の前に若い男が立っていた。
男は手にしたコンビニ袋からなにかを取り出して獅子の前脚の間に置く。
同じように狛犬の前にも置いて拝殿に向かって歩きながら呟く。
「どうぞ、お好きでしたよね」
二匹の前に置かれていたのはたこ焼きだった。
(ぬぅぅう、あいつぁ何モンだぁ? さっそく頂くけどよ)
(獅子、ちょっと待ちなさい! あの男、私達の気配が見えています)
(そんなわけ……、あいつから神気は感じられねぇぜ、悪い感じもしなかったが)
(ヨダレをたらしながら話すなー)
警戒しつつも、供え物は食べるのがこれまでの流儀で礼儀だった。
拝殿では宮司が夕拝の祝詞を奏上している。
静かに扉が開けられ、ほっそりとしたシルエットの男が静かに拝殿に上がり、背筋の伸びた美しい正座をした。
「恐み恐みも白す……。ん、葉介、来たか。おまえもご挨拶なさい」
夕拝が終わり、宮司は座っている男に向き直り声を掛けた。
「神様ならいませんよ。さっきお二人でお酒持って御山に上がっていきました」
「はぁ? そんなわけ……。いや、おまえ、なにを見た」
「なにをって女の人が二人で日本酒とビール何本も入れた袋持って遊歩道を上がっていきましたよ。
今夜は満月ですから、御山の上で一杯やるんじゃないですかね。
でも人の姿のままで大丈夫かな」
少し前まで息子の葉介が話す、人には視えない者について全く信じていなかった。
しかし、山の神神社の宮司を兼務したとき、廃神社寸前の社が今では白蛇山神社となるまでを目の当たりにしている。
白蛇山大神はまちがいなく存在することを確信していた。
そして先日急遽おこなわれた村議会だ。
白蛇山大神は別名、ゆかりちゃんと言うらしい。
見かけた者はまだ少なく、自分も見たことはない。
「そうか、おまえの力とかではなく、普通に見たのか……。
神ってなんなんだろうな」
「父さんがそんなこと言わないでください」
宮司は先ほどまで目の前の祭壇に、心を込めて奏上していた祝詞の事を思い出してため息をついた。
この若者は『榊 葉介』、父から神職を継ぐため、大学で神職の資格を取ったあと、社会勉強として都内の広告代理店に勤めていた。
現在二十五歳。背は父と変わらず男性にしては小柄で童顔であった。
宮司は息子を白蛇山神社に奉職させる予定だ。
「葉介、おまえの力は信じるほか無い。いままで悪かったな」
いったい父に何があったのか知るよしも無いが、視えないものが視える力について認めざるを得ないなにかが起きたのだろうと気がついた。
それより葉介は、いつも厳粛で口うるさい父が謝ったことに驚いた。
嬉しいような恥ずかしいような微妙な表情を隠すため立ち上がり、拝殿の外に歩き出した。
「父さん、神様は居るって信じてたんですよね、なにをいまさら。
ちょっと挨拶してきますよ」
「あぁ、そうしなさい」
拝殿を出て黒いリュックを背負った葉介は狛犬の近くをゆっくり歩きながら独り言を呟いた。
「さてと、今から御山に登ってみるかな。でも山道は暗いし危なくないかなぁ」
その間、チラチラと狛犬に視線を送っている。
「あーもぅ、仕方ありませんね。わたしが一緒に行きます」
狛犬が人の姿で葉介の前に立つ。
「あっあっあのっ、すみません……」
葉介は赤くなってうつむいてしまう。
狛犬はいつもの黒スーツ姿で腰に手を当て冷たい視線を彼に向けている。
視線は彼を見下ろしていた。
「あの、実は、例大祭でお見かけして、神社の関係者なのかなと思ったのですけど、なんか違うなって気になってて」
「あら、そうでしたか。あの時見られていましたか。
それより、すぐ出発しますよ。
二十分くらい登りますのでついてきてください」
「あっ、はいっ!」
葉介はスタスタと登り始めた狛犬の後をあわててついて行く。
「なんでぇ、狛犬狙いだったってわけか。まぁ、これから一緒に仕事することになるんだ。気持ちよく働いて貰いたいもんだ」
獅子は口出しせずに二人のやりとりを眺めていたが、宮司の息子が神職という情報は既に掴んでいたようだった。
息を切らせながら山頂に着いた葉介は、誰もいない東屋の前に歩いて行った。
「僕でも視えないか。狛犬さん、こちらにお二人がいらっしゃるんですよね」
「よくわかりましたね。既に呑んでます」
葉介は地面に黒いリュックを降ろすと、中から細長い袋を取り出した。
紐を外し、中から取りだしたのは普通の篠笛より太い龍笛だった。
唇を準備し、東屋に向かって笛を構える。
息を吸い込み、一拍すると龍が吠えた。
夜空に浮かぶ満月も切り裂かんばかりの鋭い旋律に続く柔らかな響き。
「ん? 見事な音色じゃな」
「凄い、綺麗な音」
ゆかりは手に酒を持ったまま笛の音に聞き入っていた。
「うむ、酒が美味くなった。彼奴なかなかの業を持っておる」
葉介の後ろで腕組みをして見ていた狛犬は唖然とした顔でなにか言いたそうにしていた。
一小節を演奏し、葉介は東屋に近寄り、深く頭を下げた。
「榊葉介と申します。宮司の父に代わり、白蛇山神社の神職を務めさせていただくことになりました。
どうぞよろしくお願いいたします」
「あれっ、ええっ? あなた、私達が視えるの?」
「はい、視えるというか、ご神体を直接視ることは出来ませんので、現れて頂いたというか
登って行く時は見えてましたけど」
「へぇ、すごいねえ。
登りは最近運動不足だったから歩いてたのよ。
そうか、見られてたかぁ」
「ははは、確かにすごい、誰からも丸見えにされてしまったのぅ。
しかし、ここにおるのは関係者ばかり。問題無い。
わしは山神比売じゃ。葉介、さぁ一杯呑め」
「いきなり酒を勧めるか! まぁいいや。
交代の話は宮司さんから拝殿で聞いていたよ。
私が祭神の白蛇山大神っていうか、ゆかりさんって呼んでね。
で、缶ビール呑む?」
「ゆかりさんですか。聞いた通りなんだな……、あ、頂きます」
「なんか言った?」
父から聞いていた、村人全員で騙されましょうという話を思い出した。
「いえ、祭神様にお会い出来て光栄です」
「さぁ、まずは乾杯じゃ、神職就任よろしく頼むぞ! 乾杯っ」
葉介は顔色が優れなかった。
父の前では軽く挨拶してきますよとか言っていたが、本当は視えるものが怖いのだ。
今は神を目撃してしまっている。
日本の神は隠すもの。見てはいけないものという考え方がある。
すなわち、怖い。
御山を登るときも、狛犬に手を引かれそうになってあわてて両手を隠した。
それは照れくさかったからなのだが。
ゆかりだけが普通の人っぽくて安心出来る相手だった。
「おぬしの笛、かなり良い物だな。名を何という」
「はい、鬼炎丸と伝わっています」
「一杯呑み終わったら、なにか曲を頼みたい」
「もちろんです」
龍笛は神楽のBGMにも使われる。
思わぬ奉納演奏となったようだ。
狛犬も月見会に交じって酒を注がれ、冷たい美女がほんのり赤くなり、うっとりとした表情で笛の音を聞いていた。
そのあと葉介は、酔った狛犬がカップのフチまで注いだ酒を、一気飲みして酔い潰れた。
そして急遽呼ばれた獅子に背負われて帰ることになった。
今回の高天原出張で、街の神域を再構築してほしいという願いは断られたそうだ。
曰く、神は自らの縄張りを守ることが役目では無いと。
それだけの話に五十年かかったらしい。
神々の時間はこちらと進み方が違うのだろうか。
ウカ様が言いたかったことは、人との共生を受け入れつつ、神域を広げ、氏子の教化をすすめたいということだと思う。
しかし、最高神のヒルメ様は地上に等しく太陽の恩恵を与え、まさに自然神としての力を発揮し続けている神だ。
ある地区の神域に偏りがあっても、それを調整することなど自然神のおこなう仕事では無い。
実は私もそう感じていた。
日本の神という存在が『自然』に宿るのだとすれば、その行動も自然に基づいていなくてはならない。
人間社会の発展は脅威となる自然現象の平坦化が必須だ。
当然、自然の驚異である神々は姿を消してゆく。
私が人間だったからか、それは仕方ないことと思うのだけれど。
では神の存在が人間社会の発展に影響を与えるためにはどうしたら良いのかはまだわからなかった。
ウカ様は帰り際にヒルメ様の言ったことを教えてくれた。
「わたしからのお願いは断られちゃったけどね。ヒルメ様、ゆかりさんがなにをするのか知れっておっしゃったの。
帰ってみたら、ゆかりさんと夜刀神であの様子だったでしょう。
ヒルメ様が気にしている方ってどんな荒神なのかってワクワクしてたのよ」
最悪の第一印象が残ってしまったようだが、私なんぞを観察しても神界部屋の快適化ぐらいしか参考にならないと思う。
しかしヒルメ様はわたしの働きに期待していることだけはわかった。
まずは稲荷の繁盛のため、近所にあるシャッター商店街をどうにかするように宮司に伝えなくては。
夜刀神は新しくできた公園神社空間にとどまるそうだ。
しばらくしてイチから聞いた話では、公園に来る人たちから『祠の神様』と呼ばれ、愛されるようになったと。
その影でイチが町内の事故、事件の発生を人知れず防ぎ、祠の神様の霊験を広める努力もしているらしい。
きりは神使会の仲間ができてから時々おこなわれる寄り合いに出席するようになった。
帰ってくると街の情報を楽しそうに話してくれる。
きりが楽しそうにしている姿を見られることが私には嬉しかった。
「やっと平和な街や村でスローライフが送れるようになったなぁ」
神の言葉で死亡フラグのセリフを言うのはやめたほうが良い……。
獅子の前に若い男が立っていた。
男は手にしたコンビニ袋からなにかを取り出して獅子の前脚の間に置く。
同じように狛犬の前にも置いて拝殿に向かって歩きながら呟く。
「どうぞ、お好きでしたよね」
二匹の前に置かれていたのはたこ焼きだった。
(ぬぅぅう、あいつぁ何モンだぁ? さっそく頂くけどよ)
(獅子、ちょっと待ちなさい! あの男、私達の気配が見えています)
(そんなわけ……、あいつから神気は感じられねぇぜ、悪い感じもしなかったが)
(ヨダレをたらしながら話すなー)
警戒しつつも、供え物は食べるのがこれまでの流儀で礼儀だった。
拝殿では宮司が夕拝の祝詞を奏上している。
静かに扉が開けられ、ほっそりとしたシルエットの男が静かに拝殿に上がり、背筋の伸びた美しい正座をした。
「恐み恐みも白す……。ん、葉介、来たか。おまえもご挨拶なさい」
夕拝が終わり、宮司は座っている男に向き直り声を掛けた。
「神様ならいませんよ。さっきお二人でお酒持って御山に上がっていきました」
「はぁ? そんなわけ……。いや、おまえ、なにを見た」
「なにをって女の人が二人で日本酒とビール何本も入れた袋持って遊歩道を上がっていきましたよ。
今夜は満月ですから、御山の上で一杯やるんじゃないですかね。
でも人の姿のままで大丈夫かな」
少し前まで息子の葉介が話す、人には視えない者について全く信じていなかった。
しかし、山の神神社の宮司を兼務したとき、廃神社寸前の社が今では白蛇山神社となるまでを目の当たりにしている。
白蛇山大神はまちがいなく存在することを確信していた。
そして先日急遽おこなわれた村議会だ。
白蛇山大神は別名、ゆかりちゃんと言うらしい。
見かけた者はまだ少なく、自分も見たことはない。
「そうか、おまえの力とかではなく、普通に見たのか……。
神ってなんなんだろうな」
「父さんがそんなこと言わないでください」
宮司は先ほどまで目の前の祭壇に、心を込めて奏上していた祝詞の事を思い出してため息をついた。
この若者は『榊 葉介』、父から神職を継ぐため、大学で神職の資格を取ったあと、社会勉強として都内の広告代理店に勤めていた。
現在二十五歳。背は父と変わらず男性にしては小柄で童顔であった。
宮司は息子を白蛇山神社に奉職させる予定だ。
「葉介、おまえの力は信じるほか無い。いままで悪かったな」
いったい父に何があったのか知るよしも無いが、視えないものが視える力について認めざるを得ないなにかが起きたのだろうと気がついた。
それより葉介は、いつも厳粛で口うるさい父が謝ったことに驚いた。
嬉しいような恥ずかしいような微妙な表情を隠すため立ち上がり、拝殿の外に歩き出した。
「父さん、神様は居るって信じてたんですよね、なにをいまさら。
ちょっと挨拶してきますよ」
「あぁ、そうしなさい」
拝殿を出て黒いリュックを背負った葉介は狛犬の近くをゆっくり歩きながら独り言を呟いた。
「さてと、今から御山に登ってみるかな。でも山道は暗いし危なくないかなぁ」
その間、チラチラと狛犬に視線を送っている。
「あーもぅ、仕方ありませんね。わたしが一緒に行きます」
狛犬が人の姿で葉介の前に立つ。
「あっあっあのっ、すみません……」
葉介は赤くなってうつむいてしまう。
狛犬はいつもの黒スーツ姿で腰に手を当て冷たい視線を彼に向けている。
視線は彼を見下ろしていた。
「あの、実は、例大祭でお見かけして、神社の関係者なのかなと思ったのですけど、なんか違うなって気になってて」
「あら、そうでしたか。あの時見られていましたか。
それより、すぐ出発しますよ。
二十分くらい登りますのでついてきてください」
「あっ、はいっ!」
葉介はスタスタと登り始めた狛犬の後をあわててついて行く。
「なんでぇ、狛犬狙いだったってわけか。まぁ、これから一緒に仕事することになるんだ。気持ちよく働いて貰いたいもんだ」
獅子は口出しせずに二人のやりとりを眺めていたが、宮司の息子が神職という情報は既に掴んでいたようだった。
息を切らせながら山頂に着いた葉介は、誰もいない東屋の前に歩いて行った。
「僕でも視えないか。狛犬さん、こちらにお二人がいらっしゃるんですよね」
「よくわかりましたね。既に呑んでます」
葉介は地面に黒いリュックを降ろすと、中から細長い袋を取り出した。
紐を外し、中から取りだしたのは普通の篠笛より太い龍笛だった。
唇を準備し、東屋に向かって笛を構える。
息を吸い込み、一拍すると龍が吠えた。
夜空に浮かぶ満月も切り裂かんばかりの鋭い旋律に続く柔らかな響き。
「ん? 見事な音色じゃな」
「凄い、綺麗な音」
ゆかりは手に酒を持ったまま笛の音に聞き入っていた。
「うむ、酒が美味くなった。彼奴なかなかの業を持っておる」
葉介の後ろで腕組みをして見ていた狛犬は唖然とした顔でなにか言いたそうにしていた。
一小節を演奏し、葉介は東屋に近寄り、深く頭を下げた。
「榊葉介と申します。宮司の父に代わり、白蛇山神社の神職を務めさせていただくことになりました。
どうぞよろしくお願いいたします」
「あれっ、ええっ? あなた、私達が視えるの?」
「はい、視えるというか、ご神体を直接視ることは出来ませんので、現れて頂いたというか
登って行く時は見えてましたけど」
「へぇ、すごいねえ。
登りは最近運動不足だったから歩いてたのよ。
そうか、見られてたかぁ」
「ははは、確かにすごい、誰からも丸見えにされてしまったのぅ。
しかし、ここにおるのは関係者ばかり。問題無い。
わしは山神比売じゃ。葉介、さぁ一杯呑め」
「いきなり酒を勧めるか! まぁいいや。
交代の話は宮司さんから拝殿で聞いていたよ。
私が祭神の白蛇山大神っていうか、ゆかりさんって呼んでね。
で、缶ビール呑む?」
「ゆかりさんですか。聞いた通りなんだな……、あ、頂きます」
「なんか言った?」
父から聞いていた、村人全員で騙されましょうという話を思い出した。
「いえ、祭神様にお会い出来て光栄です」
「さぁ、まずは乾杯じゃ、神職就任よろしく頼むぞ! 乾杯っ」
葉介は顔色が優れなかった。
父の前では軽く挨拶してきますよとか言っていたが、本当は視えるものが怖いのだ。
今は神を目撃してしまっている。
日本の神は隠すもの。見てはいけないものという考え方がある。
すなわち、怖い。
御山を登るときも、狛犬に手を引かれそうになってあわてて両手を隠した。
それは照れくさかったからなのだが。
ゆかりだけが普通の人っぽくて安心出来る相手だった。
「おぬしの笛、かなり良い物だな。名を何という」
「はい、鬼炎丸と伝わっています」
「一杯呑み終わったら、なにか曲を頼みたい」
「もちろんです」
龍笛は神楽のBGMにも使われる。
思わぬ奉納演奏となったようだ。
狛犬も月見会に交じって酒を注がれ、冷たい美女がほんのり赤くなり、うっとりとした表情で笛の音を聞いていた。
そのあと葉介は、酔った狛犬がカップのフチまで注いだ酒を、一気飲みして酔い潰れた。
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