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17 2人でなんとかするしかない
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『ホケンショウって、何?』
ユウマくんは、保険証を知らない……!
少しの間、言葉を失っていた私は、首を振って思い直した。名前を知らないだけで、実物を見たことはあるかもしれない。
「あのね。保険証っていうのは、片手に乗るくらいの大きさの、プラスチックのカードだよ。小さい字で、名前とか誕生日が書いてあるんだけど、知らない?」
『さあ……それがあると、どうなるの?』
「病院で払うお金が安くなるんだって」
『ほ、本当⁉︎』
ユウマくんは大声を上げて、だけどすぐに力をなくした。
『でも、そんなにすごいもの、特別な人しか持ってないんでしょ……?』
「ち、違うよ。みんな受付で出してるって。……たぶん」
だから、ユウマくんの家にもあるはずだ。そう言ったけれど、電話口から聞こえたのは、長いため息だった。
『ダメだよ、見たことない。ホケンショウが家にあるとしても、どこに置いてあるのか、わからない……』
「病院に行く時、タンスとかから出してなかった? お母さんが」
私のお母さんの保険証は、結局、カバンの底に落ちていたけれど。
『最後に病院へ行ったのは、幼稚園の時だから……覚えて、ない』
ユウマくんの声が、しゃくりあげるように震えた。
『ごめん……しっかりしないといけないのに……』
「ううん、大丈夫」
そう言いながら、心の中は全然大丈夫じゃなかった。頭の外へと、いくら弱気を押しやっても、しつこく舞い戻ってくる。
(どうしよう……保険証は当てにできないんだ)
それなら、タクマくんを病院へ連れて行っても、お金が払えなくて怒られるかもしれない。最悪、警察を呼ばれちゃうかも。
ギリギリ足りたとしても、ユウマくんたちがごはんを買えなくなってしまう。ほかにも鉛筆とか、トイレットペーパーとか、いろいろ必要なものがあるのに。
(こうなったら……)
体育座りのひざに置いた手を、強く握った。きゅっと心が引き締まって、しつこい弱気が薄れていく。
「2人で何とかしよう」
『2人……? 誰と、誰?』
ユウマくんが、怪訝そうに聞き返してくる。
「私とユウマくん。2人でタクマくんを看病するの」
『メイさん……手伝ってくれるの?』
「うん。声だけしか送れないけど……どうしたらいいか、一緒に考えるくらいはできるよ」
『あ、ありがとう……!』
鼻水をすする音に続いて、「でも」とユウマくんはつぶやいた。
『どうしたらいいんだろ……水すら吐いちゃうのに』
「その水なんだけどさ。スプーンであげてみたらどうかな?」
ユウマくんが、小さく「え?」と言った。
『なんで? コップじゃダメなの?』
「コップだと飲みすぎちゃうんだって。だから時間を空けながら、スプーンでひと口ずつ……」
『わかった、やってみる!』
私が言い終える前に、ゴトッ! というかたい音がして、ユウマくんの気配が遠くなった。
小走りの足音の合間に、あっちでガチャガチャ、こっちでゴソゴソ。忙しそうだな、と思いながら耳をすませていたら、またユウマくんの声が近くなった。
『とりあえずひと口、飲ませてみたよ』
「どう?」
『吐かない、かも』
「よかった……!」
わあっと湧き上がりかけた歓声を、息を詰めて押し殺した。それから深呼吸をして、またユウマくんに声をかける。
「あとね。できれば、水よりスポーツドリンクの方がいいみたい」
『スポーツドリンク……近くの自販機にはないなあ』
「じゃあ、スーパー?」
『うん。タクマが寝たら行ってみる。ムツバスーパーまで、走れば5分だから』
ユウマくんは、保険証を知らない……!
少しの間、言葉を失っていた私は、首を振って思い直した。名前を知らないだけで、実物を見たことはあるかもしれない。
「あのね。保険証っていうのは、片手に乗るくらいの大きさの、プラスチックのカードだよ。小さい字で、名前とか誕生日が書いてあるんだけど、知らない?」
『さあ……それがあると、どうなるの?』
「病院で払うお金が安くなるんだって」
『ほ、本当⁉︎』
ユウマくんは大声を上げて、だけどすぐに力をなくした。
『でも、そんなにすごいもの、特別な人しか持ってないんでしょ……?』
「ち、違うよ。みんな受付で出してるって。……たぶん」
だから、ユウマくんの家にもあるはずだ。そう言ったけれど、電話口から聞こえたのは、長いため息だった。
『ダメだよ、見たことない。ホケンショウが家にあるとしても、どこに置いてあるのか、わからない……』
「病院に行く時、タンスとかから出してなかった? お母さんが」
私のお母さんの保険証は、結局、カバンの底に落ちていたけれど。
『最後に病院へ行ったのは、幼稚園の時だから……覚えて、ない』
ユウマくんの声が、しゃくりあげるように震えた。
『ごめん……しっかりしないといけないのに……』
「ううん、大丈夫」
そう言いながら、心の中は全然大丈夫じゃなかった。頭の外へと、いくら弱気を押しやっても、しつこく舞い戻ってくる。
(どうしよう……保険証は当てにできないんだ)
それなら、タクマくんを病院へ連れて行っても、お金が払えなくて怒られるかもしれない。最悪、警察を呼ばれちゃうかも。
ギリギリ足りたとしても、ユウマくんたちがごはんを買えなくなってしまう。ほかにも鉛筆とか、トイレットペーパーとか、いろいろ必要なものがあるのに。
(こうなったら……)
体育座りのひざに置いた手を、強く握った。きゅっと心が引き締まって、しつこい弱気が薄れていく。
「2人で何とかしよう」
『2人……? 誰と、誰?』
ユウマくんが、怪訝そうに聞き返してくる。
「私とユウマくん。2人でタクマくんを看病するの」
『メイさん……手伝ってくれるの?』
「うん。声だけしか送れないけど……どうしたらいいか、一緒に考えるくらいはできるよ」
『あ、ありがとう……!』
鼻水をすする音に続いて、「でも」とユウマくんはつぶやいた。
『どうしたらいいんだろ……水すら吐いちゃうのに』
「その水なんだけどさ。スプーンであげてみたらどうかな?」
ユウマくんが、小さく「え?」と言った。
『なんで? コップじゃダメなの?』
「コップだと飲みすぎちゃうんだって。だから時間を空けながら、スプーンでひと口ずつ……」
『わかった、やってみる!』
私が言い終える前に、ゴトッ! というかたい音がして、ユウマくんの気配が遠くなった。
小走りの足音の合間に、あっちでガチャガチャ、こっちでゴソゴソ。忙しそうだな、と思いながら耳をすませていたら、またユウマくんの声が近くなった。
『とりあえずひと口、飲ませてみたよ』
「どう?」
『吐かない、かも』
「よかった……!」
わあっと湧き上がりかけた歓声を、息を詰めて押し殺した。それから深呼吸をして、またユウマくんに声をかける。
「あとね。できれば、水よりスポーツドリンクの方がいいみたい」
『スポーツドリンク……近くの自販機にはないなあ』
「じゃあ、スーパー?」
『うん。タクマが寝たら行ってみる。ムツバスーパーまで、走れば5分だから』
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