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16 また話せた、けれど
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“プルルル、プルルル”
呼び出し音が鳴り始める。1回。2回。3回……ユウマくんは出ない。
トイレに行っているんだろうか。それとも私の想像とは逆で、タクマくんは元気になって、2人とも公園で遊んでる? それとも──。
グルグルと考えていると、呼び出し音がフッと消えた。
(出た!)
ごくん、と唾をのみこんで、耳にケータイを押しつける。
「も、もしもし?」
『……もしもし』
「ユウマくん!」
安心のあまり、つい叫んでしまった。私は慌てて声を落とした。
「よかった。昨日、電話してこなかったから、何かあったのかと思ったの。ごめんね、急にかけて」
『あ……ううん。ぼくも、ごめんね……約束したのに、電話できなくて。昨日は、ちょっと、いろいろあったから……』
ユウマくんの声は、モゴモゴとぼやけていて、少し聞き取りにくい。眠くて仕方がない、みたいな声。
(まさか、さっきまで寝てたの?)
一瞬そう思ったけれど、眠そうっていうだけじゃない。ヘトヘトに疲れている感じもする。
「ユウマくん、大丈夫?」
『え? あ、ああ……まあ……』
「何かあった? 声、ちょっと変だよ。ユウマくんも、お腹が痛くなっちゃった?」
『そうじゃない……けど、タクマが……』
ユウマくんは黙った。
少ししてから何か言いかけて、だけど、また黙りこむ。そういう息づかいがした。何度も、何度も。
「タクマくんがどうかした? もしかして、体調、金曜日よりも悪くなったの?」
ムツバスーパーでお母さんの話を聞いてから、ふくらみ続けていた不安を口にすると。
『……うん』
ユウマくんは、さっきまでとは違ってハッキリとした、だけど重い声で言った。
『昨日の朝からどんどん調子が悪くなって、何を食べても吐いちゃうんだ』
「えっ……み、水は?」
『今日は、ほとんど飲めてない……熱はあんまりないと思うんだけど』
それなら、私が3歳の時にかかった胃腸炎と似ている。
「ねえ、病院に行った?」
お母さんから聞いた水の飲ませ方を、電話でユウマくんに伝えてもいいのだけれど、私よりもお医者さんのほうが説明が上手だろう。薬だってもらえる。
するとユウマくんは、ぐっと黙りこんで、それから低くかすれた声で「病院には行ってない」と返してきた。
「行ったほうがいいよ。お医者さんに診てもらいなよ。そうしたら……」
『無理だよっ!』
怒ったような、それでいて泣きそうな声だった。
「む、無理って、なんで?」
『お金、あと3千円もないもん。病院ってすごく高いんでしょ? お母さんが言ってた。絶対、足りないよ』
「え? 病院で払うお金って、ふつうの風邪とかなら、千円ぐらいだよね?」
いや、もっと安いかもしれない。小児科へ行った時、お母さんは受付で小銭を出していたから。
『えっ……で、でも、お母さんは、何千円もかかるって……』
「何千円も?」
どういうことだろう。考えているうちに、そういえば、と思い出した。
昔、お母さんが、必死の形相で家じゅうを駆け回っていた。引き出しという引き出しを開け、ポーチや財布、ファイルの中をひっくり返し、「誰か、私の保険証見てない⁉︎」と騒ぎながら。
なんでそれが必要なの? とお父さんに聞いたら、「病院で払うお金がだいぶ安くなるんだよ」と言っていた。「初めて行く病院だし、保険証がなかったら、3千円以上かかるだろうなあ」とも。
ユウマくんのお母さんも、保険証がない時の話をしていたのかもしれない。だとしたら、それさえあれば、病院でお金を払える。タクマくんをお医者さんに診せられる。
そう思って、尋ねた。
「ユウマくん。保険証は?」
だけど、返ってきた言葉に、私は呆然とした。
呼び出し音が鳴り始める。1回。2回。3回……ユウマくんは出ない。
トイレに行っているんだろうか。それとも私の想像とは逆で、タクマくんは元気になって、2人とも公園で遊んでる? それとも──。
グルグルと考えていると、呼び出し音がフッと消えた。
(出た!)
ごくん、と唾をのみこんで、耳にケータイを押しつける。
「も、もしもし?」
『……もしもし』
「ユウマくん!」
安心のあまり、つい叫んでしまった。私は慌てて声を落とした。
「よかった。昨日、電話してこなかったから、何かあったのかと思ったの。ごめんね、急にかけて」
『あ……ううん。ぼくも、ごめんね……約束したのに、電話できなくて。昨日は、ちょっと、いろいろあったから……』
ユウマくんの声は、モゴモゴとぼやけていて、少し聞き取りにくい。眠くて仕方がない、みたいな声。
(まさか、さっきまで寝てたの?)
一瞬そう思ったけれど、眠そうっていうだけじゃない。ヘトヘトに疲れている感じもする。
「ユウマくん、大丈夫?」
『え? あ、ああ……まあ……』
「何かあった? 声、ちょっと変だよ。ユウマくんも、お腹が痛くなっちゃった?」
『そうじゃない……けど、タクマが……』
ユウマくんは黙った。
少ししてから何か言いかけて、だけど、また黙りこむ。そういう息づかいがした。何度も、何度も。
「タクマくんがどうかした? もしかして、体調、金曜日よりも悪くなったの?」
ムツバスーパーでお母さんの話を聞いてから、ふくらみ続けていた不安を口にすると。
『……うん』
ユウマくんは、さっきまでとは違ってハッキリとした、だけど重い声で言った。
『昨日の朝からどんどん調子が悪くなって、何を食べても吐いちゃうんだ』
「えっ……み、水は?」
『今日は、ほとんど飲めてない……熱はあんまりないと思うんだけど』
それなら、私が3歳の時にかかった胃腸炎と似ている。
「ねえ、病院に行った?」
お母さんから聞いた水の飲ませ方を、電話でユウマくんに伝えてもいいのだけれど、私よりもお医者さんのほうが説明が上手だろう。薬だってもらえる。
するとユウマくんは、ぐっと黙りこんで、それから低くかすれた声で「病院には行ってない」と返してきた。
「行ったほうがいいよ。お医者さんに診てもらいなよ。そうしたら……」
『無理だよっ!』
怒ったような、それでいて泣きそうな声だった。
「む、無理って、なんで?」
『お金、あと3千円もないもん。病院ってすごく高いんでしょ? お母さんが言ってた。絶対、足りないよ』
「え? 病院で払うお金って、ふつうの風邪とかなら、千円ぐらいだよね?」
いや、もっと安いかもしれない。小児科へ行った時、お母さんは受付で小銭を出していたから。
『えっ……で、でも、お母さんは、何千円もかかるって……』
「何千円も?」
どういうことだろう。考えているうちに、そういえば、と思い出した。
昔、お母さんが、必死の形相で家じゅうを駆け回っていた。引き出しという引き出しを開け、ポーチや財布、ファイルの中をひっくり返し、「誰か、私の保険証見てない⁉︎」と騒ぎながら。
なんでそれが必要なの? とお父さんに聞いたら、「病院で払うお金がだいぶ安くなるんだよ」と言っていた。「初めて行く病院だし、保険証がなかったら、3千円以上かかるだろうなあ」とも。
ユウマくんのお母さんも、保険証がない時の話をしていたのかもしれない。だとしたら、それさえあれば、病院でお金を払える。タクマくんをお医者さんに診せられる。
そう思って、尋ねた。
「ユウマくん。保険証は?」
だけど、返ってきた言葉に、私は呆然とした。
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