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「ハマー伯爵、土地を返せと言われましても困りますわ。私はハマー伯爵から土地を預かった事も盗んだ事もないですもの。完全な言い掛かりです」

 カリンは呆れながら毅然と言い放った。

「何を言っている。あれば私の土地だ。先祖代々のな。それを奪っておいて何を言っているんだ!」
「そ、そうよ。土地は返して貰わなければ!私達の土地ですもの!」

 激怒するハマー伯爵とヒステリックに叫ぶ夫人。
 今まで他人事に思っていたのだろう夫人がここに来て青ざめながら叫んだ。

「あら?ハマー夫人。今まで何もおっしゃらなかったので、伯爵と違ってご理解頂けていたと思っていましたのに」

 頬に手を当てにっこり笑うカリンは、ちょっとイヤミっぽいかな、と思いながらハマー夫人だから理解していないだろうと考えた。

 はっきりいって、カリンとハマー夫人の仲はあまり良くない。夫人はオリバーに甘く深く考えず同調するのだ。この婚約破棄もオリバーが署名したならそれでいいと考えていたのだろう。

 ここに来てハマー伯爵の『土地』という発言で自分の立場を思い出したのかもしれない。



 カリンが土地に興味を持ったのは祖父が亡くなる少し前だった。

 祖父が病床で謝った事が発端だった。

「カリン済まない。持参の土地を用意してやれなかった。土地があれば決して蔑ろにされる事がないのになぁ。本当に済まない」

 カリン8歳の時だった。あまりに悔しそうにしていたので祖父が亡くなった後、気になって気になって仕方なくなり調べたのだ。

 結果この国での『土地を持つこと』の意味を噛みしめる事になる。


 この国では土地と爵位は密接な繋がりがある。

『爵位あるものは土地を持ち、土地を持つものは爵位あるもののみとする』

 つまり、爵位を持つものは必ず・・土地を持つ。
 例外は認められていない。

 平民は土地を貴族より貸し与えられるのみ。所持する事は許されていなかった。

 ただ、仮成人で準爵位を賜ったものや王宮や騎士団勤めの準爵位を持つものは、爵位の準備期間・・・・として土地を持つことが許された。貴族の特権として可能だった。

 但し、準爵位が土地を持つのはかなり難易度が高く、維持するのはそれ以上に難しかった。


 この国は王都を中心に上位貴族の領地があり、遠くなる程下位貴族がひしめき、外環の他国と接する地は辺境伯の地となる。

 土地の取り決めもこの国独自となり、色々な決まり事がある。

 土地の広さや最低限の領民の数は爵位によって定められていた。

 上位貴族の伯爵以上は飛び地を所有する事を許され、多少の領地領民の変動では爵位に変化はない。

 そのかわり下位貴族の子爵や男爵は土地の広さや領民の数によって、降爵や陞爵は簡単に行われ、返上や奪爵も有りうる。

 この国では領地経営の能力の有無が爵位維持には不可欠だった。



 爵位を持っていないと土地は持てない。
 カリンにとって調べた時点で土地を持つ予定は全くなかった。




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