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―――エンサー視点

 俺は今、ターナー伯爵家長女カリン嬢の執事見習いを臨時でしている。

 現在カリン嬢がハマー家当主に言葉をつらね、やり込めている現場に立ち会っている最中さ。

 カリン嬢にしてみれば当主に認められた方がこれ迄の精算が楽だから話を付けているのであって、いくらハマー伯爵がどうこう言おうと婚約破棄が覆る事はない。

 社交界への風聞も気にしているのだろう。長年婚約者をしていれば領民に情も湧いているだろう。
 ハマー家への情があるのかは難しいところだ。いい話は聞かないからさ。

 いざとなれば、宣告だけして去れば良い。
 俺は最初から宣告のみを提案したが「いざとなればね」とカリン嬢に言われた。「その時は力を貸してね」と笑いながら言葉を重ねられた。

 貴族として「説明、説得をしました」という過程は大切らしい。面倒な事だ。



 俺の本来の仕事は別にある。

 俺の生まれはこの国で浮遊地と呼ばれる領主が幾度も変わる地だった。

 表向き貴族は土地を売れない。しかし国が「融資をする」という建前で一旦預かる事により可能となる。
 領地運営の資金繰りが悪化した場合、国が一時的に買い取ることで資金を調達するのさ。
 そして、買い戻せなければそのまま国のものとなる。売り出されたりもするが国も報奨としての土地が必要だからさ、タイミングが最も重要になる。


 この国ではよくある事だ。貴族の都合が最も激しく表れる。

 持参金代わりに買われたなら、かなりの確率で土地が編成され安泰だ。しかし特に特徴や特産がなければ主なしで過ごす事になる。領主がいない土地は廃れる。

 長く領主が付かなくなり俺の家族は俺が小さい頃に違う場所に移った。
 そんな育ちのせいか、学園を出て王都での安定した職を求めた。これもよくある話さ。


 カリン嬢と出会ったのは王都にある俺の働いている役所の受付だった。部署は違ったがな。たまたま休憩時間だっただけさ。
 その時カリン嬢は13歳、学園へ入学してすぐにやって来ていたらしい。

 気の強そうな目をして、何かを決意した様に思い詰めていたのが印象に残った。

 カリン嬢が14歳の時ある契約を持ちかけられた。

 その頃、仕事で悩んでいた時期だったからさ、タイミングが良かったんだろう。
 俺は悩んだ末に受け、カリン嬢がターナー領へ戻る際に付き添う様になった。

 今回はかなり急ではあったが、職場には事情を話して臨時休暇を貰った。

 元々カリン嬢が学園卒業と同時に今の仕事を辞める事は伝えていたから、すぐに休みが取れた。
 執事というか雑用含め色々な事を任される立場になる予定だ。
 悩み抜いた末の決断という訳さ。



 さて、この話し合い俺の出番は来るかな?



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