異母妹が婚約者とこの地を欲しいそうです。どうぞお好きにして下さいませ。

ゆうぎり

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19 お母様の執務室―回想

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 屋敷に戻り、普段お母様が仕事をしている執務室に私は初めて入りました。
 セバスはお父様の所から持ち帰った書類を片付けた後、側で控えています。

「どこまで話したかしら」
「初代タスチーヌの所までです。マーリエお嬢様」
「んー、人たらしの話はまだね。とにかく破天荒で、でも憎まれず武勇に秀でた男だったそうよ。この男が元で作られた話が沢山あるの。マリナが知ってるのは最後お姫様と幸せに暮らしました、というの話かしら」
「お母様、沢山あるのですが……」

 私が『剣の人』が好きだったので、好んで読んだ物語の最後は決まってそうでした。

「実際、建国後王の妹を娶って、初代騎士団長を務めたわ。テスイールは特に振り回されて大変だった、と愚痴が書かれた日記が残っているからマリナも大きくなったら読むと面白いわよ」

 それは本当に面白いのでしょうか?お母様が仰るのだから面白いのでしょう、うん。
 ――成長後読んでみましたが、読み物としてなら呆れるほど面白かったのですが、絶対に自分の身に起きて欲しくないと思ってしまいましたわ。初代様ごめんなさい。

「初期の王国はまだ不安定でね。数代はタリ・タスチーヌ家が騎士団長でタリ・チサヤーヤ家が副団長の時代が続いたの。因みにテスイールは初代宰相でツトロークは副宰相ね」

 王と騎士団長が仲良しでよく振り回されていたそうです。

「でも、国が落ち着いてもタスチーヌの気質は変わらなかった。それどころか増長されて酷くなったわね」

 戦で感覚を研ぎ澄ませる事もないのに、プライドだけは高くなっていったそうです。

「問題は、タリ・タスチーヌ家が前面に出ると人が容易く集まることと、その武勇が諸外国に拡がり外交カードになってしまったことね」

 これほど凄い偉人が出た家が今も脈々と続いている。不用意に手を出すと痛い目を見るぞ、ということらしいです。
 聞いた当時この辺りは難しくて理解は出来なかったですわね。
 お母様は「今は流れだけわかればいいわ」と笑っていました。

 そして侯爵家の中で一番王族からの降嫁が多いそうです。

「タリ・タスチーヌ家が無謀な開拓を行っても皆ついていったわ。そしてその尻拭いはタリ・テスイール家に押し付けるのよ、呆れるわよね」

 そこでお母様は紙に円を描き始めました。王城の円、城下の円と徐々に円は大きくなっていきます。

「一番外側が建国時の侯爵家の領地よ。およそ四等分に分けて各々治めたの」

 タスチーヌ、チサヤーヤ、ツトローク、テスイールと時計回りに割り当てています。
 
 そしておもむろに取り出し見せてくれた地図には……
 膨れた三日月の様な形に、綺麗な半分の部分とまるで虫食いの様にぽつぽつと囲いがある部分にくっきりと分かれていました。

「これを見てどう思う?」
「この虫に食われたようなこれはなんですか?」

 私はあまりに不思議な地図に、お母様の質問に質問を重ねてしまいました。

「そうよね。不思議に見えるわよね。この虫食い部分が今のタリ・タスチーヌ領よ。テスイールにとって虫なのよ、虫。金食い虫」

 プチッと潰せたらどれだけ爽快かしら。
 ふふふと黒く笑いながらお母様が仰いました。

「じ、じゃあ何故お母様とお父様は結婚したのですか?何処がよかったの?」

 国政などまだわからない私は、不思議に思った気持ちだけで聞いていました。
 当時殆ど会ったこともない父です。今考えると無神経ですが、今回お父様の屋敷に行っても会えなかったのですもの。

「…………顔よ」

 そこしか取り柄がないもの、というお母様の呟きは届かず、はっきりと聞こえた顔の部分だけが頭に残ってしまいました。

 今回セバスと相談していた時に話の合間の話題に出て、記憶違いとわかりましたわ。

「何一ついい所がないとはマーリエお嬢様も言えなかったのでしょう」

 表情の消えたセバスが淡々と教えてくれました。



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