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血を飲むということ
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「広ちん、美術部に入るの?」
昼休み、早紀がそう質問をして来た。手にはリサ・ラーソンの水筒を持っている。中身はもちろん血だろう。しかし、それを持ったまま、飲もうとはしていなかった。
「入るかどうかはまだ決めてないよ」
広希は正直に答える。しかし、なぜ早紀はこのことを知っているのだろうか。広希は疑問に思う。朝、その場にはいなかったはずなのに。
早紀の隣にいた明日香が、口を挟む。
「でも、千夏から誘われたら、その気になったでしょ」
明日香も、勧誘の件を知っているようだった。
「そんなことないよ。今、悩んでいる最中」
おそらく、朝の千夏から受けた勧誘のシーンを見ていた誰かが、広めたのだろう。その場にいなかったこの二人が知っているのであれば、もしかしたら、相当その話が知れ渡っているのかもしれない。
「だけど千夏からもアプローチを受けるとはねー」
明日香が、ペットボトルから血を飲みながら、そう言った。飲んでいるペットボトルは、自身の物だろう。
明日香は、あの時、広希が非感染者だと発覚したことの元凶と言える存在だった。あれから謝罪こそはなかったにせよ、明日香も、他のクラスメイト同様、気遣う行動を見せてくれていた。特に、発覚の引き金となった『他人の血液飲料を飲む行為』は控えているようだ。そのため、あれ以来、ちゃんと自分で血を用意しているようである。
しかし、広希の目の前で血を飲む行為は、始めから控えなかった。もっとも、今では、ほとんどのクラスメイトがそうであったが。
「広ちんは、何の部活に入りたいの?」
早紀が訊いてくる。手にはまだ水筒を持ったままだ。指先で、落ち着きなく、水筒の蓋を弄っている。禁断症状のように見えた。
「うーん、色々候補はあるけど、決めかねてる段階かな」
「候補って言うと、例えば?」
なおも、早紀は、水筒を忙しなく触っている。本人は無意識のようだ。
「運動部だと、バトミントンとかかな。文化系だと、文芸部とか」
「ふーん」
頷いた早紀に、広希は言う。
「諸井さん、僕のことは気にせず、血を飲んでいいよ」
早紀は、ハッとした表情をした。今気付いたのだろう、弄っていた水筒から慌てたように手を離した。水筒は、手から滑り落ち、床に金属の不愉快な音を立てながら転がった。
「もう、何をやってるのよ」
明日香が、血液飲料のペットボトルを机の上に置くと、しゃがみ込んで、早紀が落とした水筒を拾った。
「はい」
明日香は、その水筒を早紀に手渡す。
「あ、ありがとう」
早紀はどこか戸惑ったように、水筒を受け取る。明日香は、様子がおかしい早紀の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「う、うん」
「本当に、血を飲むのを遠慮しているの?」
明日香の言葉に、早紀は首を慌てて振った。
「そんなことないよ」
「諸井さん、本当に気にしなくていいよ」
広希は、やんわりとそう言った。
「そうよ。もう誰も遠慮せずに、広希の前で血を飲んでるんだから、早紀も気にせず、いっちゃいなよ」
だが、早紀はなおも飲まないようだ。こう付け加える。
「大丈夫。飲みたくないから」
早紀は、優しく、広希に笑いかけた。
明日香が言った通り、慣れもあってか、今は皆が広希の前で、血液飲料を気兼ねなく飲んでいる。広希にとっても、必要以上に遠慮されるよりかは、そちらの方が気が楽だった。
だが、思えば、早紀だけは、発覚してからも、血を飲んでいる姿を見たことがない気がした。
広希は、ぼんやりとこれまでの早紀の姿を思い出す。
その時、ちょうど、達夫と茂が広希の席へとやってきた。手に弁当と水筒を持っている。
そこで、早紀達との会話は終了した。
昼休み、早紀がそう質問をして来た。手にはリサ・ラーソンの水筒を持っている。中身はもちろん血だろう。しかし、それを持ったまま、飲もうとはしていなかった。
「入るかどうかはまだ決めてないよ」
広希は正直に答える。しかし、なぜ早紀はこのことを知っているのだろうか。広希は疑問に思う。朝、その場にはいなかったはずなのに。
早紀の隣にいた明日香が、口を挟む。
「でも、千夏から誘われたら、その気になったでしょ」
明日香も、勧誘の件を知っているようだった。
「そんなことないよ。今、悩んでいる最中」
おそらく、朝の千夏から受けた勧誘のシーンを見ていた誰かが、広めたのだろう。その場にいなかったこの二人が知っているのであれば、もしかしたら、相当その話が知れ渡っているのかもしれない。
「だけど千夏からもアプローチを受けるとはねー」
明日香が、ペットボトルから血を飲みながら、そう言った。飲んでいるペットボトルは、自身の物だろう。
明日香は、あの時、広希が非感染者だと発覚したことの元凶と言える存在だった。あれから謝罪こそはなかったにせよ、明日香も、他のクラスメイト同様、気遣う行動を見せてくれていた。特に、発覚の引き金となった『他人の血液飲料を飲む行為』は控えているようだ。そのため、あれ以来、ちゃんと自分で血を用意しているようである。
しかし、広希の目の前で血を飲む行為は、始めから控えなかった。もっとも、今では、ほとんどのクラスメイトがそうであったが。
「広ちんは、何の部活に入りたいの?」
早紀が訊いてくる。手にはまだ水筒を持ったままだ。指先で、落ち着きなく、水筒の蓋を弄っている。禁断症状のように見えた。
「うーん、色々候補はあるけど、決めかねてる段階かな」
「候補って言うと、例えば?」
なおも、早紀は、水筒を忙しなく触っている。本人は無意識のようだ。
「運動部だと、バトミントンとかかな。文化系だと、文芸部とか」
「ふーん」
頷いた早紀に、広希は言う。
「諸井さん、僕のことは気にせず、血を飲んでいいよ」
早紀は、ハッとした表情をした。今気付いたのだろう、弄っていた水筒から慌てたように手を離した。水筒は、手から滑り落ち、床に金属の不愉快な音を立てながら転がった。
「もう、何をやってるのよ」
明日香が、血液飲料のペットボトルを机の上に置くと、しゃがみ込んで、早紀が落とした水筒を拾った。
「はい」
明日香は、その水筒を早紀に手渡す。
「あ、ありがとう」
早紀はどこか戸惑ったように、水筒を受け取る。明日香は、様子がおかしい早紀の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「う、うん」
「本当に、血を飲むのを遠慮しているの?」
明日香の言葉に、早紀は首を慌てて振った。
「そんなことないよ」
「諸井さん、本当に気にしなくていいよ」
広希は、やんわりとそう言った。
「そうよ。もう誰も遠慮せずに、広希の前で血を飲んでるんだから、早紀も気にせず、いっちゃいなよ」
だが、早紀はなおも飲まないようだ。こう付け加える。
「大丈夫。飲みたくないから」
早紀は、優しく、広希に笑いかけた。
明日香が言った通り、慣れもあってか、今は皆が広希の前で、血液飲料を気兼ねなく飲んでいる。広希にとっても、必要以上に遠慮されるよりかは、そちらの方が気が楽だった。
だが、思えば、早紀だけは、発覚してからも、血を飲んでいる姿を見たことがない気がした。
広希は、ぼんやりとこれまでの早紀の姿を思い出す。
その時、ちょうど、達夫と茂が広希の席へとやってきた。手に弁当と水筒を持っている。
そこで、早紀達との会話は終了した。
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