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発見
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昼食を終えた諸井早紀は、自身の席で、薄めた血液飲料を飲んだ。だが、喉の渇きに似た禁断症状は、大して改善されず、純粋な血液飲料を飲んだ時のように、芳醇な味も、体に行き渡る瑞々しい満足感も得られなかった。
もうすでに所持している血液飲料は底を尽きかけており、また、どこを探しても血液飲料を入手するのは困難であったため、無理に薄めて長持ちさせるしか血を飲み続ける方法はなかった。
それは早紀の両親や兄妹も同じであり、ひいては、日本全国がそのような状況に陥っている。
江府高校の現状も惨澹たるもので、禁断症状に見舞われた生徒が多数いた。それは、麻薬中毒患者を思わせた。すでに休学している生徒も少なくなく、高校の運営がまともに行えないため、数日後には学校閉鎖になると朝のSHRで神谷からの伝達があった。
中間試験が間近に迫っているにも関わらず、全クラス休校すると言うことは、それどころではないということなのだろう。
そう言えばと、早紀は思い出す。その時の神谷を見て、不思議に感じたことがあった。禁断症状がほとんどなさそうなのだ。教師も生徒同様、血液不足に見舞われており、喜屋武を始め、不安定な精神を露骨に表わす者もいた。
神谷はそうではなく、平静な精神を維持しているのだ。ストックしている血液飲料に余裕があるのかな、と早紀は解釈した。羨ましいな。
薄めた血液飲料が入ったリサ・ラーソンの水筒をリュックにしまうと、早紀は教室を見渡す。
クラスメイト達が、限られた昼休みの時間をそれぞれ好きに過ごしている――談笑したり、じゃれ合ったり、一人で読書を行ったり――は以前までの話だった。
今は、陰鬱な雰囲気が漂うばかりだ。血液が摂取できないために、皆は一様に体調が悪そうで、笑い声や、話し声も少なかった。おそらく自分も皆と同じように、ひどく顔色が悪いに違いない。
禁断症状によるフラストレーションも増すばかりで、受験間際のようにピリピリとした張り詰めた空気も肌で感じ取れた。暴力行為やトラブルも増加しており、それらも学校閉鎖の一因となっている。
ただ、例外の人間も何人か存在していた。その人間達は、神谷のように、保持している血液飲料に余裕があるのか、平静を保ったままだった。
このクラスで言えば、千夏や達夫、茂がそれに当たる。後は明日香か。
茂は、昨日までは、他の生徒と変わらず、顔色が悪かったのだが、今朝は精神状態は良好のように見えた。何かおかしい気がするが、どこかからか血液飲料を入手できたのかもしれない。
早紀は、隣の席に目を向ける。
そこには広希の席があった。知り得る限り、唯一の非感染者。今は、机のフックに何も掛かっておらず、席の主が不在であることを示していた。
広希は、四日前から学校を休んでいる。神谷の話によれば、風邪らしいのだが、随分と長引いているように思えた。SNSでメッセージを送ったものの、未読状態のままで、返信はなかった。スマホを使う余裕すらないほど、重篤化しているのだろうか。心配だ。
早紀は、席から立ち上がった。重苦しい教室の中に、いつまでもいたくはなかった。そのまま教室の扉へ向かう。もっとも、全校生徒、似た状態なので、どこに行こうとも大して違いはないのだが。
廊下に繋がる後ろの扉を通過しようとした時、近くから気になる単語が聞こえた。名詞だ。
「……広希……」
チラリとその声が聞こえた方向を確認すると、千夏の席からだった。千夏の席に、達夫や茂、明日香がたむろしている。最近、この四人は、行動を共にしていることが多いようだった。
「……美術部の人を連れて行く……」
最後に聞こえたのは、千夏のそんな言葉だ。後は、教室を出てしまい、聞こえなくなる。
千夏達の会話が妙に気になった。前後の文脈はわからないが、広希の話をしていたことは確かなようだった。
その気がかりは、午後になっても、しこりのように、いつまでも残った。
もうすでに所持している血液飲料は底を尽きかけており、また、どこを探しても血液飲料を入手するのは困難であったため、無理に薄めて長持ちさせるしか血を飲み続ける方法はなかった。
それは早紀の両親や兄妹も同じであり、ひいては、日本全国がそのような状況に陥っている。
江府高校の現状も惨澹たるもので、禁断症状に見舞われた生徒が多数いた。それは、麻薬中毒患者を思わせた。すでに休学している生徒も少なくなく、高校の運営がまともに行えないため、数日後には学校閉鎖になると朝のSHRで神谷からの伝達があった。
中間試験が間近に迫っているにも関わらず、全クラス休校すると言うことは、それどころではないということなのだろう。
そう言えばと、早紀は思い出す。その時の神谷を見て、不思議に感じたことがあった。禁断症状がほとんどなさそうなのだ。教師も生徒同様、血液不足に見舞われており、喜屋武を始め、不安定な精神を露骨に表わす者もいた。
神谷はそうではなく、平静な精神を維持しているのだ。ストックしている血液飲料に余裕があるのかな、と早紀は解釈した。羨ましいな。
薄めた血液飲料が入ったリサ・ラーソンの水筒をリュックにしまうと、早紀は教室を見渡す。
クラスメイト達が、限られた昼休みの時間をそれぞれ好きに過ごしている――談笑したり、じゃれ合ったり、一人で読書を行ったり――は以前までの話だった。
今は、陰鬱な雰囲気が漂うばかりだ。血液が摂取できないために、皆は一様に体調が悪そうで、笑い声や、話し声も少なかった。おそらく自分も皆と同じように、ひどく顔色が悪いに違いない。
禁断症状によるフラストレーションも増すばかりで、受験間際のようにピリピリとした張り詰めた空気も肌で感じ取れた。暴力行為やトラブルも増加しており、それらも学校閉鎖の一因となっている。
ただ、例外の人間も何人か存在していた。その人間達は、神谷のように、保持している血液飲料に余裕があるのか、平静を保ったままだった。
このクラスで言えば、千夏や達夫、茂がそれに当たる。後は明日香か。
茂は、昨日までは、他の生徒と変わらず、顔色が悪かったのだが、今朝は精神状態は良好のように見えた。何かおかしい気がするが、どこかからか血液飲料を入手できたのかもしれない。
早紀は、隣の席に目を向ける。
そこには広希の席があった。知り得る限り、唯一の非感染者。今は、机のフックに何も掛かっておらず、席の主が不在であることを示していた。
広希は、四日前から学校を休んでいる。神谷の話によれば、風邪らしいのだが、随分と長引いているように思えた。SNSでメッセージを送ったものの、未読状態のままで、返信はなかった。スマホを使う余裕すらないほど、重篤化しているのだろうか。心配だ。
早紀は、席から立ち上がった。重苦しい教室の中に、いつまでもいたくはなかった。そのまま教室の扉へ向かう。もっとも、全校生徒、似た状態なので、どこに行こうとも大して違いはないのだが。
廊下に繋がる後ろの扉を通過しようとした時、近くから気になる単語が聞こえた。名詞だ。
「……広希……」
チラリとその声が聞こえた方向を確認すると、千夏の席からだった。千夏の席に、達夫や茂、明日香がたむろしている。最近、この四人は、行動を共にしていることが多いようだった。
「……美術部の人を連れて行く……」
最後に聞こえたのは、千夏のそんな言葉だ。後は、教室を出てしまい、聞こえなくなる。
千夏達の会話が妙に気になった。前後の文脈はわからないが、広希の話をしていたことは確かなようだった。
その気がかりは、午後になっても、しこりのように、いつまでも残った。
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