ドラゴンさんの現代転生

家具屋ふふみに

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140話

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「疲れた……」

「やれやれ」

 学校に登校して早々机に突っ伏した奏に、瑠華が苦笑しながら労わるようにその頭を撫でる。まだ一日しか経っていないのにも関わらず既に疲労困憊な様子の奏は、自分の見通しの甘さを呪った。

「おー、相変わらずのイチャつき…てかどったの? 随分お疲れみたいだけど」

「雫か。まぁ、なんじゃ。妾の代わりに【柊】の仕事をすると奏が意気込んでな」

「なんで?」

 雫が至極当然な疑問をぶつける。瑠華に対するお仕置の内容は配信に載せていないので、雫は知る由がないのだ。

「妾への罰らしいぞ」

「……ご褒美の間違いじゃなくて?」

「だってぇ…そう言わないと瑠華ちゃん休ませられないんだもん……」

「あー…」

 その言葉で納得したような声を上げる雫に、瑠華は自分に対する認識が雫にとっても同じだと知り何とも言えない表情を浮かべた。

「まぁかなっちがそれでいいなら口は挟まないけど…の実行委員だよね? そんな疲れてて大丈夫そ?」

 学生生活において一大イベントと呼べる存在。それが修学旅行である。瑠華達が通う【姫森中学校】は修学旅行が三年生の秋頃にあり、その実行委員に奏と瑠華は立候補していた。

「最悪妾が担当すれば良かろう」

「本末転倒過ぎるよねそれ」

「うぅ…」

 奏が見事なクリーンヒットを貰って呻く。全ては自分の想像力不足であり、恨むならば自分自身である。

「こんなに仕事有るなんて知らなかったんだもん…」

「妾は奏を含めた【柊】の子ら全員を護る義務がある。生半可な対応をしている訳がなかろうに」

「瑠華っちらしいねぇ」

 そのまま奏の頭を撫で続けていれば次の授業を知らせるチャイムが鳴り響き、瑠華が自らの席に戻った。
 すると瑠華に撫でられた事で少しばかり気力が回復した奏がむくりと起き上がり、先程まで瑠華が触れていた頭頂部に手を当てる。その頬は薄い桜色に染まっていた。

(……瑠華ちゃんが何時もより甘やかしてくれる…)

 本来の意図とはまるで違うが、これはこれで嬉しいもので。
 ……まぁそれが自分の不甲斐なさ故だと考えれば、途端に気持ちは急降下するのだが。


 ◆ ◆ ◆


「――――修学旅行、ですか?」

「うむ。二泊三日の旅行になる故、その間の事は紫乃に丸投げしてしまう事になるのじゃが……」

「構いませんよ。それが私の役目ですので」

「すまんのぅ」

 普段から紫乃には【柊】の仕事を殆ど任せている状態だが、書類仕事などの一部の仕事は瑠華が行っていた。しかし瑠華が完全に居なくなる修学旅行中は、それらも全て紫乃に任せる事となってまう。
 瑠華としては紫乃の負担が増える事に申し訳なさがあったが、紫乃からすれば瑠華に仕事を任せられる事自体が嬉しいので問題は無かったりする。

「そろそろ何か褒美を考えねばならんな」

「褒美、ですか。んー……」

 紫乃が顎に手を当てて考える。物欲が無い訳では無いが、いざそう問われると中々思い付かないものである。

「……でしたら一つ」

「なんじゃ?」

「珠李様と瑠華様の出会いを知りたいのです」

「そのような事で良いのか?」

「はいっ」

 瑠華としては聞かれれば幾らでも話せるような事を褒美とするのは不服だったが、キラキラとした眼差しで願われてはそう口にするのも憚られた。

 流石に他の子らに聞かれると拙い内容なので、瑠華の部屋で結界を張った上で話す事に。

「ふむ…あれはまだ妾が口調を改めて直ぐの時じゃったか」

 瑠華―――レギノルカがメルティアからの要望で口調を改めてから三十年ほど経った頃の事であ「ちょっと待ってください」……。

「どうしたのじゃ?」

「……三十年は直ぐじゃないです。一般的に」

「……まぁ、そうじゃな。そこは紫乃なりに解釈して理解して貰う他あるまい」

「分かりました……」

 気を取り直して瑠華が話を再開する。

「その頃妾は人間と良く遊んでおったのじゃが、ある日その噂を聞き付けた珠李が尋ねて来おってな」

「……色々と突っ込みたい所はあるんですが、続けて下さい」

 頭が痛そうに額を押さえて続きを促す紫乃の様子に思わないところがない訳ではないが、一先ず要望通りに続きを口にする。

「……そうして珠李は妾を尋ねてきたのじゃが、最初妾は珠李の存在に気付かずうっかり踏み潰してしもうてのぅ」

「……」

「そこで漸く存在に気付き蘇生させたのじゃが、開口一番に力比べをしたいと言い出しおってな。面白そうじゃからとその申し入れを受け入れたのじゃ」

「……それで?」

「正直そこまで期待はしておらんかった。じゃが珠李はその一回の斬撃で妾の鱗に傷を付けた。まさかたかが鬼如きに傷を付けられるとは思わんでな。気に入った故にその鱗を記念に珠李へ贈ったところから、ずっと珠李との関係は続いておる」

「……質問、宜しいですか」

「構わんぞ」

「ではまず一つ。人間と遊ばれていたというのは…?」

「簡単に言えば、妾を倒そうとした者たちと戦っただけじゃよ。実に愛いものじゃった」

 レギノルカからすれば赤ちゃん以下の存在の反抗期の様なものなので、微笑ましいという感情以外湧かなかったのだ。

「……二つ目。噂というのは?」

「邪龍だのなんだのと言われておったのぅ。まぁ実際に何個も国や大陸を壊滅させてきたのじゃから、そう呼ばれるのも無理は無いが」

「……辛くは、なかったのですか?」

「その憎悪を全て受け止めるのもまた、妾の役目じゃ。辛い辛くないという話では無い」

「……」

「紫乃」

「ぇ、わっ!?」

 気まずそうな表情を隠し切れなかった紫乃に、瑠華が苦笑を浮かべてその頭を抱き寄せる。そしてゆっくりと優しくその頭を撫でた。

「妾は好きでその役目を受け入れ、永きに渡り見護ってきたのじゃ。紫乃が気に病む必要も、気にする必要も無い」

「でも…っ」

「妾は紫乃より遥かに永く存在しておるのじゃぞ? 勝手にそう思う事こそ烏滸がましいとは思わんか?」

「っ…」

 クスクスと笑いながら茶化すようにそう言われれば、紫乃としてはもう口を噤むしか無かった。

「さて。そろそろ夕餉の時間じゃな」

「ぁ……」  

 瑠華が抱き締めていた腕を緩めて、紫乃へと微笑む。
 寂しいと、そう感じてしまった自分に驚く紫乃だったが、その微笑みを間近で見た瞬間そんな気持ちなど一瞬で吹き飛んでしまって。

(……酷いですよ、そんなの…)

「紫乃?」

「……申し訳ありません。少し用を思い出しましたので、私は後で向かわせて頂いても?」

「そうか? ではまた後でな」

 そう言って瑠華が部屋を出て、パタンと扉が閉まる。するとその瞬間、紫乃が膝から崩れ落ちて……瑠華のベッドに倒れ込んだ。

「……こんなの、駄目、なのに……」

 そう呟く紫乃の呼吸は乱れ、その度に鼻腔を満たす瑠華の香りに「うぅ…」と呻いて―――ジクジクとした熱がお腹に溜まっていくのを自覚する。

「ばか…瑠華様の、ばかぁ……ッ」








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