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2巻
2-3
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やることとは何だろう。殺戮か、ノアを王にすることか、子供を産むことか。きっと自分でもその答えは出せない。
地震でも起こったかのように、葵がよろける。葵は壁に寄りかかったまま、顔を深く伏せて呟いた。
「なに、それ。気持ち悪い。気持ち悪いよ。やだやだ、ありえない。やだぁ」
呪詛のように葵が何度も繰り返す。葵は俯いたまま、その頭部を前後にぐらぐらと揺らしていた。そうして、不意にその声が弾けた。
「気ッ色悪いんだよ!」
叫び声と共に、葵はテーブルに置かれていたティーカップを鷲掴みにした。それを雄一郎に向かって一息に投げ付けてくる。至近距離だったため避けることもできず、ティーカップは雄一郎の額にぶち当たった。残っていた茶が顔面にかかり、ティーカップが割れる様子が視界の端に映る。
「っ……!」
割れた破片で額の右上辺りが切れた。花の香りのする茶と共に血がこめかみを伝って流れていく。傷口を確かめようと雄一郎が片手を上げた瞬間、葵が甲高い悲鳴を張り上げた。
「いやぁあぁッ! たすけて、たすけてっ! いやぁー!」
叫ぶのと同時に、葵は自分自身のセーラー服を一気に引き裂いた。破れた胸元から、ピンク色のブラに覆われたかすかな膨らみが覗く。その小さな胸の上で、赤い石がはめられたペンダントが左右に揺れていた。
葵の悲鳴に、慌ただしく背後の扉が開かれる。入ってきたのは、扉の外側で待機していた見張りの朽葉の民だった。見張り兵は着衣を乱した葵の姿を見ると、サッと顔色を変えた。
「アオイ様っ! 何が……!」
「やだ、やだぁー! その人、わたしのこと襲おうとしたのっ! 身体さわってきたのっ! 気持ち悪い、やだぁあ!」
葵は壁に縋り付いたまま、雄一郎を真っ直ぐ指さした。そのとんでもない台詞に、雄一郎は口角を引き攣らせた。
「お前……」
純真な少女なんてとんでもない。とんだ嘘吐き女じゃねぇか。
唾棄したい思いが込み上げて、握り締めた拳がかすかに震える。こめかみに青筋を浮かべた雄一郎を見て、見張り兵が両腰に差していた短刀を引き抜いた。
「アオイ様から離れなさい!」
短刀の先端が胸元へと突きつけられる。だが、雄一郎は葵を睨み付けたまま目を逸らさなかった。葵は両手で顔を覆ったまま、ぐずぐずと鼻を鳴らしている。もうその姿を哀れとは思えなかった。
「この嘘吐き女が」
そう吐き捨てた瞬間、怒りに駆られた見張り兵が片腕を振り上げた。短刀の柄が雄一郎に向かって振り下ろされる。だが、短刀が雄一郎の頭部へ叩き付けられるよりも早く、見張り兵の身体がテーブルの上に叩き伏せられていた。大型の猫のように素早く現れたキキが、見張り兵の両腕を背後から取り押さえている。
「この方に危害を加えることは許さん!」
驚愕を浮かべた見張り兵に、キキが叫ぶ。暴れようとする見張り兵の首元へ、キキが肘を叩き付ける。見張り兵は咽喉からグゥッと苦しげな音を漏らして、そのまま意識を失ったようだった。その手から短刀が滑り落ちて、床を転がっていく。
壁に背を押しつけたまま、葵が首を左右に振りながら呟く。
「どうして? どうして、その人を守るの? わ、わたしが襲われたのに……」
呆然とする葵を見て、キキは苦しそうに顔を歪めた。だが、葵を庇おうとはしない。
葵の手がぶるぶると痙攣するように震える。だが次の瞬間、その手が床に転がった短刀を握り締めた。
「わたしが女神なのにッ!」
短刀を振り上げる葵の目は、すでに正気ではなかった。真っ赤に血走った目で、雄一郎を見据えている。だが、その刃が雄一郎に届く前に、再びノアの声が聞こえた。
『行け、イズラエル』
囁くような声と同時に、左手首に巻き付けた鎖がかすかに熱くなった。白い石がほのかに光を帯びて、ずるりと長細い緑色の身体が石の中から這い出てくる。金色の瞳がちらと雄一郎を見て笑った気がした。
「まったく王様まで龍使いが荒いわぁー」
軽口を漏らしながら石の中から現れたのは、イズラエルだった。突然現れた龍の姿に、葵がヒッと息を呑む。葵が怯んだ隙を逃さず、イズラエルはロープのように自身の身体を葵の両腕へ巻き付けた。葵が掠れた悲鳴をあげて、握り締めていた短刀を取り落とす。
「やっ、なんでっ、なんでぇ!」
「五月蠅い小娘やなぁ。黙らんと、その舌噛み千切ったるで」
二股の舌をチロチロと見せつけながらイズラエルが脅すように囁くと、葵は顔を恐怖に歪めて唇を閉じた。雄一郎は自身の左手首を軽く掲げて、イズラエルへと呆れたように呟いた。
「お前、これはどういうことだ」
左手首に巻き付いた金の鎖を揺らして問い掛ける。
「あぁ、それ外さんでよかったのぅ」
「じゃなくて、何だと聞いてるんだ」
雄一郎の詰問に、イズラエルはその龍面をにやりと歪めて答えた。
「その石なら前に見たことあるやろ?」
そう問い掛けられて、雄一郎はわずかに片眉を跳ね上げた。この世界に来てからの記憶を探り始めてすぐに、思い出した。
「……あの台座の石か」
イズラエルと初めて会った時、白い台座の上で輝いていた白い丸石と、左手首の鎖の石は確かに似ていた。イズラエルは正解と言わんばかりに、ひゃっひゃっと軽快な笑い声をあげた。
「そやそや。その石と台座の石とは繋がっとって、石を通じて景色や音やらを見聞きできるんや。龍も召喚できるし、むっちゃ便利なアイテムやろぉ?」
ドヤ顔で答える龍を思い切り殴り飛ばしてやりたくなる。そんなストーカー御用達のようなアイテムを、何の説明もなく付けたノアも同様だ。だが、それに助けられたのも事実で、責めるに責められず、雄一郎は深く溜息を漏らした。
「宝珠の、龍」
不意に、背後からひとり言のような声が聞こえた。キキが呆然と立ち尽くしたまま、イズラエルを凝視している。しばらくイズラエルを見つめた後、キキは雄一郎に視線を向けた。
「宝珠を連れているということは、貴方が女神なんですか」
改めての問い掛けに、ひどく歯がゆいような恥ずかしいような心地になる。雄一郎は視線を逸らしたまま、投げやりに答えた。
「そういうこと、だろうな」
前までだったら「さぁな」だとか「知るか」と答えていただろう。だが、先ほどのノアとのやり取りを思い出すと、自分に与えられた女神という呼び名を容易く否定することができなくなった。
雄一郎の返答に、キキはその場に片膝を付いて頭を垂れた。
「これまでのご無礼、申し訳ございませんでした。我々朽葉の民は大いなる間違いを犯しました。存分に処罰をお与えください」
馬鹿真面目すぎるキキの申し出に、雄一郎は投げやりに首を左右に振って言い放った。
「処罰云々の前に、先にテメレアを俺のもとに連れてこい」
テメレアが雄一郎に会いたくないと言ったのが真実か嘘かは判らない。だが、たとえ真実だったとしても、本人の口から聞くまでは納得できそうになかった。
雄一郎の命令に、キキは再び頭を垂れた。そのまま素早い足取りで部屋から出ていく。
改めて葵に視線を投げて、雄一郎はイズラエルに問い掛けた。
「それで、その女は一体なんなんだ」
雄一郎が軽く顎をしゃくると、イズラエルは首を伸ばして、硬直している葵の顔を覗き込んだ。葵は唇を一文字に引き結んだまま、その額に冷や汗を滲ませている。
じろじろと無遠慮に葵を見つめてから、イズラエルは感嘆したように呟いた。
「あぁ、驚いたなぁ。この子もきみと同じ世界から飛んできた人間や」
「つまり、葵も女神ということか?」
雄一郎が急くように訊ねると、イズラエルは頭を軽く傾げた。
「そうとも言えんこともないなぁ」
「そういう曖昧な言い方はよせ。正確に言え」
噛み付くような口調の雄一郎に対して、イズラエルはやけに余裕綽々な様子で長い髭を揺らした。金色の瞳を細めて、真っ赤な口を開く。
「たぶんな、この子はスペアや」
「スペア?」
「きみが死んだ時用の代替え品の女神や言うたら分かりやすいか?」
サァッと血の気が引くのを感じて、雄一郎は思わず葵を見つめた。葵も信じられないものを見るような眼差しで雄一郎を凝視している。イズラエルが知ったかぶりな口調で続ける。
「もしかしたら、ほんまはきみの方がスペアやったんかもしれん。小娘の方がほんまもんの女神で、小娘が足らん部分を補うためにきみが呼ばれたんかもしれん。王の寵愛や民からの敬愛を受けるのは小娘、軍事方面で采配振るうんはきみ。今まで女神一人やと負担が大きくて、折角の女神がようけ壊れてしもうとったから、今回は二人呼んで役割分担させるつもりやったんかもしれんなぁ」
つまり、雄一郎と葵は、ニコイチの女神として呼ばれたということか。お互いに足りない部分を補い合い、助け合い、そして、どちらかが死んだ時のスペアとなるために。
唖然とする雄一郎と葵を置いてきぼりにして、イズラエルが、うーん、と悩むような声をあげる。
「でも、正直言うと、神様が考えることは僕にもよう分からん。二人の女神なんて前代未聞やし、まさか男の方が王に選ばれるとは神様も予想外だったかもしれんしのう」
神様のくせに、なんていい加減なことを、と吐き捨てたくなる。
すると、両腕をイズラエルに取り押さえられたままの葵が、震える声を漏らした。
「じゃ、じゃあ、おじさんじゃなくて、わたしが王様に女神として選ばれてる可能性もあったってこと……?」
「まぁ、そやな」
「じゃあ、なんで? なんで、わたしがスペアになってるの?」
「そんなん僕に分かるわけないやろう。単なる運やないか、運」
運と一言で切り捨てるには、あまりにも残酷な現実だった。もしも川に流されたのが雄一郎で、地下神殿に現れたのが葵だったら。もしくは、二人ともが地下神殿に現れていたら、きっと今女神と呼ばれていたのは、雄一郎ではなく葵だったはずだ。
葵が呆然とした表情で宙を見つめている。不意に、その首がガックリと折れた。
「やっと……わたしを必要としてくれる世界に来られたと思ってたのに……」
ぽつりと漏らされた言葉には、途方もない悲哀が滲み出していた。葵の肩が小刻みに震えている。泣いているのだろうかと思った瞬間、薄暗い笑い声が鼓膜を揺らした。
ふ、ふふ、ふ、と羽虫が耳元で飛び回っているような不快な声が響く。顔を上げた葵の口元には紛れもない笑みが浮かんでいた。少女特有の残酷さを含んだ、とびきり無邪気な笑顔だ。
「じゃあ、おじさんが死んだら、私が女神になれるってことだね」
愛らしい笑みを浮かべたまま、葵が続けざまに呟く。
「来て、アズラエル」
その言葉の意味を考える暇はなかった。葵の胸元で、赤い石がはめられたネックレスが一際強い光を放つ。イズラエルが出てきた時と同じ光だと思った次の瞬間、腹部に衝撃が走った。まるで車でもぶつかってきたような重たい衝撃に、咽喉の奥から呻き声が漏れる。
『雄一郎!』
石の中からノアの叫び声が聞こえた。だが、その声に返事はできなかった。衝撃で、左手首から金の鎖が外れて、床へと転がっていく。
気が付けば、胴体を巨大な爪に鷲掴みにされて、ギリギリと締め上げられていた。圧迫感と苦痛に、ガフッ、ガフッと濁った咳が漏れる。不規則な呼吸を繰り返しながら、雄一郎はゆっくりと顔を上げた。
視線の先に、真紅の龍がいた。巨大な体躯で部屋をみちみちと圧迫しながら、真紅の龍はまるで玩具のように雄一郎の身体を握り締めている。巨大な爪に持ち上げられているせいで、爪先が床から浮かんで揺れていた。
「イズラエル、久方ぶりだな」
真紅の龍の口から、壮年の紳士のような落ち着いた声が聞こえてくる。イズラエルはその面を歪めて、真紅の龍を睨み付けていた。
「アズラエル……今回はお前の番やないはずやろう」
「仕方がないだろう。今回は女神が二人いるのだから、我々守護獣も二頭いるのがセオリーというものだ」
まるで小さな子を窘めるような口調で、アズラエルと呼ばれた真紅の龍は言った。その間も、雄一郎の胴体を握り締める手にどんどん力が込められていく。内臓が押し潰されて、背中に鋭く尖った爪がずぶずぶと食い込んでくるのを感じた。
「ッグ、ぅ……!」
あまりの激痛に、咽喉の奥から殺し切れなかった呻き声が零れる。傷口から溢れた血が服に染み込んで、ぽたぽたと床へと滴り落ちていく。その血を眺めて、イズラエルがすぅっと目を細めた。
「アズラエル、僕の女神を離さんか」
「きみこそ私の女神を離してくれないか。そうでないと、うっかり力加減を誤って、この子の腹を突き破ってしまいそうだ」
鋭い爪が更に背に潜り込んでくる。背筋が裂かれ、神経をそのままナイフで貫かれるような痛みに、咽喉から絶叫が迸る。
「ッぎ、ぁアアッ!」
「やめぇ! 離すけぇ、やめぇや!」
らしくもないイズラエルの切迫した声が響く。朦朧とした視界の中、イズラエルが葵の腕からするすると離れていくのが見えた。途端、葵が勝ち誇ったように笑みを深める。
アズラエルを見つめたまま、イズラエルが低い声で問い掛ける。
「お前、どうするつもりなんや」
「どうするつもりとは?」
「雄一郎を殺したところで、正しき王はその娘を選ばんで。お前がどんだけその娘を女神にしよう思うても、もうノアの心は決まっとる。テメレアもその娘に仕えることは死んでも選ばんやろう」
「そうだね。正しき王も仕え捧げる者も、随分と一途な子達のようだからね」
「女神にもなれん娘を守ってどうするんや。お前は、僕らの使命を忘れたんか」
イズラエルの言葉に、アズラエルは少し首を傾げた。その仕草はかすかに笑っているようにも見える。
「彼らが私の女神を選ばないのなら、私達が正しき王や仕え捧げる者を選べばいい」
「何を……」
困惑するイズラエルに、アズラエルは高らかにこう叫んだ。
「正しき王は『エドアルド=ジュエルド』! 仕え捧げる者は『ロンド=ジュエルド』! 導く女神は『葛城葵』! 私達は偽りの女神と王を屠り、国賊共を殲滅し、新たな国を創り上げる!」
紛れもない宣戦布告に、イズラエルが息を呑む。長い沈黙の後、イズラエルが唸り声を漏らした。
「お前ら……最初から反乱軍に手を貸しとったんか……」
アム・イースに反乱軍を匿ったのも意図的だったのだろう。最初から葵は反乱軍側の人間だったのだ。
雄一郎は息も絶え絶えに二頭の話を聞いていた。背から溢れる血は、すでに床に真っ赤な血だまりを作っている。失血のせいで頭がぐらぐらと揺れて、目の前の光景がぼやけていく。
アズラエルが柔らかな声音で答える。
「きみ達がそうであるように、私達にも選ぶ権利があるということだよ」
「神の意志に背くつもりか」
ぐるるる、と威嚇するようなイズラエルの唸り声に、アズラエルは和やかな声を返した。
「イズラエル、神はすべてを解ってくださる」
その返答に、イズラエルは呆気に取られたように硬直した。すると、葵がそっと呟いた。
「わたしを必要としないなら、こんな世界いらない」
葵は、雄一郎を見つめて微笑んでいた。慈愛に満ちた、女神のような微笑みを浮かべたまま続ける。
「殺して、アズラエル」
その言葉が発せられた瞬間、部屋の空気がぶわんと大きく揺らいだようだった。
葵の言葉を皮切りに、イズラエルがアズラエルに向かって一気に飛び掛かってきた。先ほどまでは小さかったイズラエルの身体が見る見るうちに巨大になっていく。
「僕の女神を離せッ!」
甲高い声をあげながら、イズラエルがアズラエルにヤモリのように張り付き、その胴体に鋭い爪を突き立てる。だが、爪が食い込むよりも早く、アズラエルの尻尾が鞭のように大きくしなった。ヒュンッという風を切る音と同時に、アズラエルの尻尾がイズラエルの身体を跳ね飛ばす。イズラエルの巨体が壁にぶち当たった瞬間、激しい轟音が響き渡った。
崩れた壁の下からイズラエルの唸り声が聞こえる。アズラエルは、尻尾の先をゆらゆらと揺らしながら、イズラエルの方を眺めて呟いた。
「イズラエル、運命に逆らうんじゃない」
諭すようなアズラエルの口調に、不意に激しい怒りが込み上げた。
「ふッ、ざけるな」
激痛の中、雄一郎は強張った咽喉を動かした。自身の胴体を握り締めるアズラエルの巨大な手を鷲掴みにする。硬く冷たい鱗に爪を突き立てながら、雄一郎は唸るように吐き捨てた。
「なに、が運命だ。なにが、神の意志だ。お前達が神と呼んでる奴は、人形遊びを楽しんでる、ただのガキじゃねぇか」
これが運命だと言うのなら、雄一郎達がやってきたことは何もかも無意味だということか。これまでの戦いも、死んだ人間も、所詮は運命の予定調和でしかないということか。
雄一郎の言葉に、アズラエルは楽しそうに目を細めた。イズラエルと同じ、三日月が浮かんだ金色の瞳が雄一郎を見つめている。
「きみは、とても不思議な子だね」
世間話でも振るような、親しげで柔らかな声だった。
「滅茶苦茶に破綻しているようで破綻していない。壊れるギリギリのところで踏みとどまっているようで、いっそ壊れてしまいたいと願っている。理知的なようで、衝動で動く。何も怖くないように振る舞っているが、本当は人間を心から恐れている。誰にも愛されたくなどないのに、愛を与えられて、それを失いたくないと思っている。もう二度と、失うことに耐えられないと思っている」
告げられた内容に、雄一郎は言葉を失った。唇を閉じられないまま、アズラエルを凝視する。鋭い牙が並んだ真っ赤な口がそっと雄一郎の耳元へ近付く。
「きみの奥さんと娘さんのことは、本当に気の毒だった。言葉にできないほど痛ましく、哀れなことだ」
頭の中が真っ白になった。なぜ、アズラエルが雄一郎の妻と娘のことを知っているのか。
アズラエルの瞳を凝視する。アズラエルの瞳に滲んだ哀れみの色を見た瞬間、『運命』という言葉が思い浮かんだ。
あれが運命なのか。妻と娘が死んだことが運命だと言うのか。あんな残酷な、惨めな死に方が、正しく生きてきた人間に与えられた運命だと。
腹の底から憎悪が這い上がってくる。全身がパンッと音を立てて弾けてしまいそうなほどの怒りに、目の前が真っ赤に染まった。アズラエルの爪が深く突き刺さるのも構わず、雄一郎は身体を捩るようにして自身の左足に手を伸ばした。
ブーツに隠していたナイフを引き抜く。両手でグリップを握り締め、全身の力を込めてナイフの切っ先をアズラエルの爪の付け根に突き刺す。だが、鱗が硬すぎるのか、ナイフは数センチほど埋まったところで止まってしまった。
爪が深く潜り込んだ自身の背中から、ぼたぼたと血が零れ落ちる音が聞こえる。雄一郎は荒い息を吐き出したまま、アズラエルを見据えた。水中にいるように、視界がゆらゆらと揺らぐ。
「可哀想に、泣いているのかい」
自身の手に突き刺さったナイフに構いもせず、アズラエルが哀れむように囁く。その言葉で、雄一郎は自分が泣いていることに気付いた。両目からぼろぼろと大粒の涙が溢れ出して、止まらない。
「殺して、やる」
涙でくぐもった声で、呪詛を吐き捨てる。だが、それは一体誰へ向けた言葉なのか自分でも分からなかった。目の前のアズラエルか、神か、自分自身か、この世界のすべての人間へか。
だが、煮え滾るような殺意に反して、ナイフを握り締める指先が震える。失血のせいで指に力が入らず、ナイフが手から滑り落ちた。涙が目尻を伝って、床の血だまりへぽたぽたと落ちていく。
「アズラエル、早く殺してよ!」
葵が焦れたように叫ぶ。そのヒステリックな声に、アズラエルは穏やかに声を返した。
「分かっているよ、私の女神。きみの願いは叶える」
不意に、ぐんっと身体に重力がかかった。雄一郎の身体を掴んだまま、アズラエルが凄まじいスピードで屋敷の中を飛行している。まるでロケットにでも乗ったかのように、周りの光景がぐんぐんと通り過ぎていく。
屋敷の中から飛び出すと、アズラエルは雄一郎を掴んだまま空高く昇っていった。背の高い木が見る見るうちに小さくなっていく。涙で滲んだ視界に、真っ赤な空が映った。夕暮れ時なのか、おぞましいほどに巨大な夕日が間近に見える。天も地も赤く染まり、まるで世界が地獄の業火で焼かれているかのような光景だった。
あれは本当に太陽だろうか。もしかしたら、雄一郎が知らない別の惑星かもしれない。掠れていく思考の中、そんなことをぼんやりと考える。
雲にすら届きそうなほどの高みまで来ると、アズラエルはようやく上昇を止めた。空中に浮かんだまま、ゴム人形のように力の抜けた雄一郎の顔を覗き込んでくる。
「あれを見なさい」
大きな爪で、カクリと首を真横に倒される。視界に映ったのは、赤い大地に並んだ軍列だ。一見したところ、旅団程度の編成に思える。森を挟んだ先に、反乱軍の軍旗が大量に翻っていた。
まだ森の中に反乱軍が隠れていたのか。それともアム・イースの件でうかうかしている間に、ここまで距離を詰められたのか。どちらにしても自分のしくじりだった。
ぐぅ、と咽喉が呻き声を漏らす。意識が飛びそうだというのに、それでも何かを求めるように指先が戦慄いた。
この手にナイフを。この手に銃を。敵を皆殺しにし、運命すらも叩き潰せる力を、この手に。
「きみは怖い子だ。こんな状況でも、戦うことを選ぶのか」
空中を漂いながら、アズラエルが囁く。憎悪に血走った目で睨み付けると、アズラエルはひどく嬉しそうに咽喉を鳴らした。滑らかな鱗が生えた口元を、するりと雄一郎の頬へ擦り寄せてくる。
「きみを食べてしまいたい」
うっとりとしたアズラエルの声に、反吐が出そうになる。雄一郎は真っ直ぐアズラエルを見据えて口角を吊り上げた。
「俺が、お前を、食ってやる」
いつか必ず切り刻んで、生きたまま食い殺してやる。鋭い断末魔を聞きながら、龍の血潮を啜り、その肉を食い千切る。その瞬間が待ち遠しいと言わんばかりに、雄一郎はかすかに笑った。
アズラエルの瞳に恍惚とした色が滲む。金色の瞳に、じわりと情欲が溶け出していた。
「もしもきみが私の女神だったら、きみを傷つける何もかもから守ってあげたのに――残念だ、尾上雄一郎」
惜しむような、憐れむような、それでいて恋焦がれるような声音が聞こえた次の瞬間、ふっと身体から重さが消えた。視線の先に、何も掴んでいないアズラエルの手が見える。
一瞬の浮遊感の後、空から落ちていく。浮遊感は即座に重力へと変わった。空中に放り出された身体が猛烈な勢いで地面に引っ張られていく。風圧のせいで、背中から溢れ出した血が上に飛び散る。まるで血の雨が空に向かって降り注いでいるようだった。
目に入った血のせいで、血と夕日の色が混じり合ってチカチカと乱反射する。回転する万華鏡の中に放り込まれてしまったかのような光景に、目が眩んだ。
このまま死ぬのかと思った。死ぬのは当然だ。むしろ、死こそ自分に与えられた最大の安らぎのように思えた。苦しみはなく、全身に満ちていた怒りも、張り裂けそうなほどの悲しみも、今はない。まるで眠りに落ちる前のまどろみのような心地よさが身体を包んでいく。
死ねば、もう何も感じない。やっと、この惨めな人生を終えられる。身体に満ち満ちた憎悪や悔恨から解放され、ようやくこの悪夢から逃れることができる。
それなのに――どうして涙が出てくるのか。
眼球に入った血を押しのけて、涙が止め処なく溢れてくる。恐怖からの涙ではない。後悔の涙だ。俺は、今まで後悔しかしていない。そう思った瞬間、雄一郎は叫んでいた。
「イズラエル!」
腹の底から龍の名を叫ぶ。酸欠のせいで、声を張り上げる度に意識が途絶えそうになる。
先ほどアズラエルに胴体を掴まれた時に、左手首の鎖は外れてしまっている。それでも、雄一郎は何かを掴み取るように空へ左腕を伸ばした。
「イズラエル、来い!」
叫んだ瞬間、風を切る音が聞こえた。まるで弾丸が飛んでくるような音だと思った。
重力のまま落ちていた身体が、ぼすんと柔らかいものに受け止められた。振り返ると、巨大化したイズラエルが雄一郎の身体を抱き締めていた。
地震でも起こったかのように、葵がよろける。葵は壁に寄りかかったまま、顔を深く伏せて呟いた。
「なに、それ。気持ち悪い。気持ち悪いよ。やだやだ、ありえない。やだぁ」
呪詛のように葵が何度も繰り返す。葵は俯いたまま、その頭部を前後にぐらぐらと揺らしていた。そうして、不意にその声が弾けた。
「気ッ色悪いんだよ!」
叫び声と共に、葵はテーブルに置かれていたティーカップを鷲掴みにした。それを雄一郎に向かって一息に投げ付けてくる。至近距離だったため避けることもできず、ティーカップは雄一郎の額にぶち当たった。残っていた茶が顔面にかかり、ティーカップが割れる様子が視界の端に映る。
「っ……!」
割れた破片で額の右上辺りが切れた。花の香りのする茶と共に血がこめかみを伝って流れていく。傷口を確かめようと雄一郎が片手を上げた瞬間、葵が甲高い悲鳴を張り上げた。
「いやぁあぁッ! たすけて、たすけてっ! いやぁー!」
叫ぶのと同時に、葵は自分自身のセーラー服を一気に引き裂いた。破れた胸元から、ピンク色のブラに覆われたかすかな膨らみが覗く。その小さな胸の上で、赤い石がはめられたペンダントが左右に揺れていた。
葵の悲鳴に、慌ただしく背後の扉が開かれる。入ってきたのは、扉の外側で待機していた見張りの朽葉の民だった。見張り兵は着衣を乱した葵の姿を見ると、サッと顔色を変えた。
「アオイ様っ! 何が……!」
「やだ、やだぁー! その人、わたしのこと襲おうとしたのっ! 身体さわってきたのっ! 気持ち悪い、やだぁあ!」
葵は壁に縋り付いたまま、雄一郎を真っ直ぐ指さした。そのとんでもない台詞に、雄一郎は口角を引き攣らせた。
「お前……」
純真な少女なんてとんでもない。とんだ嘘吐き女じゃねぇか。
唾棄したい思いが込み上げて、握り締めた拳がかすかに震える。こめかみに青筋を浮かべた雄一郎を見て、見張り兵が両腰に差していた短刀を引き抜いた。
「アオイ様から離れなさい!」
短刀の先端が胸元へと突きつけられる。だが、雄一郎は葵を睨み付けたまま目を逸らさなかった。葵は両手で顔を覆ったまま、ぐずぐずと鼻を鳴らしている。もうその姿を哀れとは思えなかった。
「この嘘吐き女が」
そう吐き捨てた瞬間、怒りに駆られた見張り兵が片腕を振り上げた。短刀の柄が雄一郎に向かって振り下ろされる。だが、短刀が雄一郎の頭部へ叩き付けられるよりも早く、見張り兵の身体がテーブルの上に叩き伏せられていた。大型の猫のように素早く現れたキキが、見張り兵の両腕を背後から取り押さえている。
「この方に危害を加えることは許さん!」
驚愕を浮かべた見張り兵に、キキが叫ぶ。暴れようとする見張り兵の首元へ、キキが肘を叩き付ける。見張り兵は咽喉からグゥッと苦しげな音を漏らして、そのまま意識を失ったようだった。その手から短刀が滑り落ちて、床を転がっていく。
壁に背を押しつけたまま、葵が首を左右に振りながら呟く。
「どうして? どうして、その人を守るの? わ、わたしが襲われたのに……」
呆然とする葵を見て、キキは苦しそうに顔を歪めた。だが、葵を庇おうとはしない。
葵の手がぶるぶると痙攣するように震える。だが次の瞬間、その手が床に転がった短刀を握り締めた。
「わたしが女神なのにッ!」
短刀を振り上げる葵の目は、すでに正気ではなかった。真っ赤に血走った目で、雄一郎を見据えている。だが、その刃が雄一郎に届く前に、再びノアの声が聞こえた。
『行け、イズラエル』
囁くような声と同時に、左手首に巻き付けた鎖がかすかに熱くなった。白い石がほのかに光を帯びて、ずるりと長細い緑色の身体が石の中から這い出てくる。金色の瞳がちらと雄一郎を見て笑った気がした。
「まったく王様まで龍使いが荒いわぁー」
軽口を漏らしながら石の中から現れたのは、イズラエルだった。突然現れた龍の姿に、葵がヒッと息を呑む。葵が怯んだ隙を逃さず、イズラエルはロープのように自身の身体を葵の両腕へ巻き付けた。葵が掠れた悲鳴をあげて、握り締めていた短刀を取り落とす。
「やっ、なんでっ、なんでぇ!」
「五月蠅い小娘やなぁ。黙らんと、その舌噛み千切ったるで」
二股の舌をチロチロと見せつけながらイズラエルが脅すように囁くと、葵は顔を恐怖に歪めて唇を閉じた。雄一郎は自身の左手首を軽く掲げて、イズラエルへと呆れたように呟いた。
「お前、これはどういうことだ」
左手首に巻き付いた金の鎖を揺らして問い掛ける。
「あぁ、それ外さんでよかったのぅ」
「じゃなくて、何だと聞いてるんだ」
雄一郎の詰問に、イズラエルはその龍面をにやりと歪めて答えた。
「その石なら前に見たことあるやろ?」
そう問い掛けられて、雄一郎はわずかに片眉を跳ね上げた。この世界に来てからの記憶を探り始めてすぐに、思い出した。
「……あの台座の石か」
イズラエルと初めて会った時、白い台座の上で輝いていた白い丸石と、左手首の鎖の石は確かに似ていた。イズラエルは正解と言わんばかりに、ひゃっひゃっと軽快な笑い声をあげた。
「そやそや。その石と台座の石とは繋がっとって、石を通じて景色や音やらを見聞きできるんや。龍も召喚できるし、むっちゃ便利なアイテムやろぉ?」
ドヤ顔で答える龍を思い切り殴り飛ばしてやりたくなる。そんなストーカー御用達のようなアイテムを、何の説明もなく付けたノアも同様だ。だが、それに助けられたのも事実で、責めるに責められず、雄一郎は深く溜息を漏らした。
「宝珠の、龍」
不意に、背後からひとり言のような声が聞こえた。キキが呆然と立ち尽くしたまま、イズラエルを凝視している。しばらくイズラエルを見つめた後、キキは雄一郎に視線を向けた。
「宝珠を連れているということは、貴方が女神なんですか」
改めての問い掛けに、ひどく歯がゆいような恥ずかしいような心地になる。雄一郎は視線を逸らしたまま、投げやりに答えた。
「そういうこと、だろうな」
前までだったら「さぁな」だとか「知るか」と答えていただろう。だが、先ほどのノアとのやり取りを思い出すと、自分に与えられた女神という呼び名を容易く否定することができなくなった。
雄一郎の返答に、キキはその場に片膝を付いて頭を垂れた。
「これまでのご無礼、申し訳ございませんでした。我々朽葉の民は大いなる間違いを犯しました。存分に処罰をお与えください」
馬鹿真面目すぎるキキの申し出に、雄一郎は投げやりに首を左右に振って言い放った。
「処罰云々の前に、先にテメレアを俺のもとに連れてこい」
テメレアが雄一郎に会いたくないと言ったのが真実か嘘かは判らない。だが、たとえ真実だったとしても、本人の口から聞くまでは納得できそうになかった。
雄一郎の命令に、キキは再び頭を垂れた。そのまま素早い足取りで部屋から出ていく。
改めて葵に視線を投げて、雄一郎はイズラエルに問い掛けた。
「それで、その女は一体なんなんだ」
雄一郎が軽く顎をしゃくると、イズラエルは首を伸ばして、硬直している葵の顔を覗き込んだ。葵は唇を一文字に引き結んだまま、その額に冷や汗を滲ませている。
じろじろと無遠慮に葵を見つめてから、イズラエルは感嘆したように呟いた。
「あぁ、驚いたなぁ。この子もきみと同じ世界から飛んできた人間や」
「つまり、葵も女神ということか?」
雄一郎が急くように訊ねると、イズラエルは頭を軽く傾げた。
「そうとも言えんこともないなぁ」
「そういう曖昧な言い方はよせ。正確に言え」
噛み付くような口調の雄一郎に対して、イズラエルはやけに余裕綽々な様子で長い髭を揺らした。金色の瞳を細めて、真っ赤な口を開く。
「たぶんな、この子はスペアや」
「スペア?」
「きみが死んだ時用の代替え品の女神や言うたら分かりやすいか?」
サァッと血の気が引くのを感じて、雄一郎は思わず葵を見つめた。葵も信じられないものを見るような眼差しで雄一郎を凝視している。イズラエルが知ったかぶりな口調で続ける。
「もしかしたら、ほんまはきみの方がスペアやったんかもしれん。小娘の方がほんまもんの女神で、小娘が足らん部分を補うためにきみが呼ばれたんかもしれん。王の寵愛や民からの敬愛を受けるのは小娘、軍事方面で采配振るうんはきみ。今まで女神一人やと負担が大きくて、折角の女神がようけ壊れてしもうとったから、今回は二人呼んで役割分担させるつもりやったんかもしれんなぁ」
つまり、雄一郎と葵は、ニコイチの女神として呼ばれたということか。お互いに足りない部分を補い合い、助け合い、そして、どちらかが死んだ時のスペアとなるために。
唖然とする雄一郎と葵を置いてきぼりにして、イズラエルが、うーん、と悩むような声をあげる。
「でも、正直言うと、神様が考えることは僕にもよう分からん。二人の女神なんて前代未聞やし、まさか男の方が王に選ばれるとは神様も予想外だったかもしれんしのう」
神様のくせに、なんていい加減なことを、と吐き捨てたくなる。
すると、両腕をイズラエルに取り押さえられたままの葵が、震える声を漏らした。
「じゃ、じゃあ、おじさんじゃなくて、わたしが王様に女神として選ばれてる可能性もあったってこと……?」
「まぁ、そやな」
「じゃあ、なんで? なんで、わたしがスペアになってるの?」
「そんなん僕に分かるわけないやろう。単なる運やないか、運」
運と一言で切り捨てるには、あまりにも残酷な現実だった。もしも川に流されたのが雄一郎で、地下神殿に現れたのが葵だったら。もしくは、二人ともが地下神殿に現れていたら、きっと今女神と呼ばれていたのは、雄一郎ではなく葵だったはずだ。
葵が呆然とした表情で宙を見つめている。不意に、その首がガックリと折れた。
「やっと……わたしを必要としてくれる世界に来られたと思ってたのに……」
ぽつりと漏らされた言葉には、途方もない悲哀が滲み出していた。葵の肩が小刻みに震えている。泣いているのだろうかと思った瞬間、薄暗い笑い声が鼓膜を揺らした。
ふ、ふふ、ふ、と羽虫が耳元で飛び回っているような不快な声が響く。顔を上げた葵の口元には紛れもない笑みが浮かんでいた。少女特有の残酷さを含んだ、とびきり無邪気な笑顔だ。
「じゃあ、おじさんが死んだら、私が女神になれるってことだね」
愛らしい笑みを浮かべたまま、葵が続けざまに呟く。
「来て、アズラエル」
その言葉の意味を考える暇はなかった。葵の胸元で、赤い石がはめられたネックレスが一際強い光を放つ。イズラエルが出てきた時と同じ光だと思った次の瞬間、腹部に衝撃が走った。まるで車でもぶつかってきたような重たい衝撃に、咽喉の奥から呻き声が漏れる。
『雄一郎!』
石の中からノアの叫び声が聞こえた。だが、その声に返事はできなかった。衝撃で、左手首から金の鎖が外れて、床へと転がっていく。
気が付けば、胴体を巨大な爪に鷲掴みにされて、ギリギリと締め上げられていた。圧迫感と苦痛に、ガフッ、ガフッと濁った咳が漏れる。不規則な呼吸を繰り返しながら、雄一郎はゆっくりと顔を上げた。
視線の先に、真紅の龍がいた。巨大な体躯で部屋をみちみちと圧迫しながら、真紅の龍はまるで玩具のように雄一郎の身体を握り締めている。巨大な爪に持ち上げられているせいで、爪先が床から浮かんで揺れていた。
「イズラエル、久方ぶりだな」
真紅の龍の口から、壮年の紳士のような落ち着いた声が聞こえてくる。イズラエルはその面を歪めて、真紅の龍を睨み付けていた。
「アズラエル……今回はお前の番やないはずやろう」
「仕方がないだろう。今回は女神が二人いるのだから、我々守護獣も二頭いるのがセオリーというものだ」
まるで小さな子を窘めるような口調で、アズラエルと呼ばれた真紅の龍は言った。その間も、雄一郎の胴体を握り締める手にどんどん力が込められていく。内臓が押し潰されて、背中に鋭く尖った爪がずぶずぶと食い込んでくるのを感じた。
「ッグ、ぅ……!」
あまりの激痛に、咽喉の奥から殺し切れなかった呻き声が零れる。傷口から溢れた血が服に染み込んで、ぽたぽたと床へと滴り落ちていく。その血を眺めて、イズラエルがすぅっと目を細めた。
「アズラエル、僕の女神を離さんか」
「きみこそ私の女神を離してくれないか。そうでないと、うっかり力加減を誤って、この子の腹を突き破ってしまいそうだ」
鋭い爪が更に背に潜り込んでくる。背筋が裂かれ、神経をそのままナイフで貫かれるような痛みに、咽喉から絶叫が迸る。
「ッぎ、ぁアアッ!」
「やめぇ! 離すけぇ、やめぇや!」
らしくもないイズラエルの切迫した声が響く。朦朧とした視界の中、イズラエルが葵の腕からするすると離れていくのが見えた。途端、葵が勝ち誇ったように笑みを深める。
アズラエルを見つめたまま、イズラエルが低い声で問い掛ける。
「お前、どうするつもりなんや」
「どうするつもりとは?」
「雄一郎を殺したところで、正しき王はその娘を選ばんで。お前がどんだけその娘を女神にしよう思うても、もうノアの心は決まっとる。テメレアもその娘に仕えることは死んでも選ばんやろう」
「そうだね。正しき王も仕え捧げる者も、随分と一途な子達のようだからね」
「女神にもなれん娘を守ってどうするんや。お前は、僕らの使命を忘れたんか」
イズラエルの言葉に、アズラエルは少し首を傾げた。その仕草はかすかに笑っているようにも見える。
「彼らが私の女神を選ばないのなら、私達が正しき王や仕え捧げる者を選べばいい」
「何を……」
困惑するイズラエルに、アズラエルは高らかにこう叫んだ。
「正しき王は『エドアルド=ジュエルド』! 仕え捧げる者は『ロンド=ジュエルド』! 導く女神は『葛城葵』! 私達は偽りの女神と王を屠り、国賊共を殲滅し、新たな国を創り上げる!」
紛れもない宣戦布告に、イズラエルが息を呑む。長い沈黙の後、イズラエルが唸り声を漏らした。
「お前ら……最初から反乱軍に手を貸しとったんか……」
アム・イースに反乱軍を匿ったのも意図的だったのだろう。最初から葵は反乱軍側の人間だったのだ。
雄一郎は息も絶え絶えに二頭の話を聞いていた。背から溢れる血は、すでに床に真っ赤な血だまりを作っている。失血のせいで頭がぐらぐらと揺れて、目の前の光景がぼやけていく。
アズラエルが柔らかな声音で答える。
「きみ達がそうであるように、私達にも選ぶ権利があるということだよ」
「神の意志に背くつもりか」
ぐるるる、と威嚇するようなイズラエルの唸り声に、アズラエルは和やかな声を返した。
「イズラエル、神はすべてを解ってくださる」
その返答に、イズラエルは呆気に取られたように硬直した。すると、葵がそっと呟いた。
「わたしを必要としないなら、こんな世界いらない」
葵は、雄一郎を見つめて微笑んでいた。慈愛に満ちた、女神のような微笑みを浮かべたまま続ける。
「殺して、アズラエル」
その言葉が発せられた瞬間、部屋の空気がぶわんと大きく揺らいだようだった。
葵の言葉を皮切りに、イズラエルがアズラエルに向かって一気に飛び掛かってきた。先ほどまでは小さかったイズラエルの身体が見る見るうちに巨大になっていく。
「僕の女神を離せッ!」
甲高い声をあげながら、イズラエルがアズラエルにヤモリのように張り付き、その胴体に鋭い爪を突き立てる。だが、爪が食い込むよりも早く、アズラエルの尻尾が鞭のように大きくしなった。ヒュンッという風を切る音と同時に、アズラエルの尻尾がイズラエルの身体を跳ね飛ばす。イズラエルの巨体が壁にぶち当たった瞬間、激しい轟音が響き渡った。
崩れた壁の下からイズラエルの唸り声が聞こえる。アズラエルは、尻尾の先をゆらゆらと揺らしながら、イズラエルの方を眺めて呟いた。
「イズラエル、運命に逆らうんじゃない」
諭すようなアズラエルの口調に、不意に激しい怒りが込み上げた。
「ふッ、ざけるな」
激痛の中、雄一郎は強張った咽喉を動かした。自身の胴体を握り締めるアズラエルの巨大な手を鷲掴みにする。硬く冷たい鱗に爪を突き立てながら、雄一郎は唸るように吐き捨てた。
「なに、が運命だ。なにが、神の意志だ。お前達が神と呼んでる奴は、人形遊びを楽しんでる、ただのガキじゃねぇか」
これが運命だと言うのなら、雄一郎達がやってきたことは何もかも無意味だということか。これまでの戦いも、死んだ人間も、所詮は運命の予定調和でしかないということか。
雄一郎の言葉に、アズラエルは楽しそうに目を細めた。イズラエルと同じ、三日月が浮かんだ金色の瞳が雄一郎を見つめている。
「きみは、とても不思議な子だね」
世間話でも振るような、親しげで柔らかな声だった。
「滅茶苦茶に破綻しているようで破綻していない。壊れるギリギリのところで踏みとどまっているようで、いっそ壊れてしまいたいと願っている。理知的なようで、衝動で動く。何も怖くないように振る舞っているが、本当は人間を心から恐れている。誰にも愛されたくなどないのに、愛を与えられて、それを失いたくないと思っている。もう二度と、失うことに耐えられないと思っている」
告げられた内容に、雄一郎は言葉を失った。唇を閉じられないまま、アズラエルを凝視する。鋭い牙が並んだ真っ赤な口がそっと雄一郎の耳元へ近付く。
「きみの奥さんと娘さんのことは、本当に気の毒だった。言葉にできないほど痛ましく、哀れなことだ」
頭の中が真っ白になった。なぜ、アズラエルが雄一郎の妻と娘のことを知っているのか。
アズラエルの瞳を凝視する。アズラエルの瞳に滲んだ哀れみの色を見た瞬間、『運命』という言葉が思い浮かんだ。
あれが運命なのか。妻と娘が死んだことが運命だと言うのか。あんな残酷な、惨めな死に方が、正しく生きてきた人間に与えられた運命だと。
腹の底から憎悪が這い上がってくる。全身がパンッと音を立てて弾けてしまいそうなほどの怒りに、目の前が真っ赤に染まった。アズラエルの爪が深く突き刺さるのも構わず、雄一郎は身体を捩るようにして自身の左足に手を伸ばした。
ブーツに隠していたナイフを引き抜く。両手でグリップを握り締め、全身の力を込めてナイフの切っ先をアズラエルの爪の付け根に突き刺す。だが、鱗が硬すぎるのか、ナイフは数センチほど埋まったところで止まってしまった。
爪が深く潜り込んだ自身の背中から、ぼたぼたと血が零れ落ちる音が聞こえる。雄一郎は荒い息を吐き出したまま、アズラエルを見据えた。水中にいるように、視界がゆらゆらと揺らぐ。
「可哀想に、泣いているのかい」
自身の手に突き刺さったナイフに構いもせず、アズラエルが哀れむように囁く。その言葉で、雄一郎は自分が泣いていることに気付いた。両目からぼろぼろと大粒の涙が溢れ出して、止まらない。
「殺して、やる」
涙でくぐもった声で、呪詛を吐き捨てる。だが、それは一体誰へ向けた言葉なのか自分でも分からなかった。目の前のアズラエルか、神か、自分自身か、この世界のすべての人間へか。
だが、煮え滾るような殺意に反して、ナイフを握り締める指先が震える。失血のせいで指に力が入らず、ナイフが手から滑り落ちた。涙が目尻を伝って、床の血だまりへぽたぽたと落ちていく。
「アズラエル、早く殺してよ!」
葵が焦れたように叫ぶ。そのヒステリックな声に、アズラエルは穏やかに声を返した。
「分かっているよ、私の女神。きみの願いは叶える」
不意に、ぐんっと身体に重力がかかった。雄一郎の身体を掴んだまま、アズラエルが凄まじいスピードで屋敷の中を飛行している。まるでロケットにでも乗ったかのように、周りの光景がぐんぐんと通り過ぎていく。
屋敷の中から飛び出すと、アズラエルは雄一郎を掴んだまま空高く昇っていった。背の高い木が見る見るうちに小さくなっていく。涙で滲んだ視界に、真っ赤な空が映った。夕暮れ時なのか、おぞましいほどに巨大な夕日が間近に見える。天も地も赤く染まり、まるで世界が地獄の業火で焼かれているかのような光景だった。
あれは本当に太陽だろうか。もしかしたら、雄一郎が知らない別の惑星かもしれない。掠れていく思考の中、そんなことをぼんやりと考える。
雲にすら届きそうなほどの高みまで来ると、アズラエルはようやく上昇を止めた。空中に浮かんだまま、ゴム人形のように力の抜けた雄一郎の顔を覗き込んでくる。
「あれを見なさい」
大きな爪で、カクリと首を真横に倒される。視界に映ったのは、赤い大地に並んだ軍列だ。一見したところ、旅団程度の編成に思える。森を挟んだ先に、反乱軍の軍旗が大量に翻っていた。
まだ森の中に反乱軍が隠れていたのか。それともアム・イースの件でうかうかしている間に、ここまで距離を詰められたのか。どちらにしても自分のしくじりだった。
ぐぅ、と咽喉が呻き声を漏らす。意識が飛びそうだというのに、それでも何かを求めるように指先が戦慄いた。
この手にナイフを。この手に銃を。敵を皆殺しにし、運命すらも叩き潰せる力を、この手に。
「きみは怖い子だ。こんな状況でも、戦うことを選ぶのか」
空中を漂いながら、アズラエルが囁く。憎悪に血走った目で睨み付けると、アズラエルはひどく嬉しそうに咽喉を鳴らした。滑らかな鱗が生えた口元を、するりと雄一郎の頬へ擦り寄せてくる。
「きみを食べてしまいたい」
うっとりとしたアズラエルの声に、反吐が出そうになる。雄一郎は真っ直ぐアズラエルを見据えて口角を吊り上げた。
「俺が、お前を、食ってやる」
いつか必ず切り刻んで、生きたまま食い殺してやる。鋭い断末魔を聞きながら、龍の血潮を啜り、その肉を食い千切る。その瞬間が待ち遠しいと言わんばかりに、雄一郎はかすかに笑った。
アズラエルの瞳に恍惚とした色が滲む。金色の瞳に、じわりと情欲が溶け出していた。
「もしもきみが私の女神だったら、きみを傷つける何もかもから守ってあげたのに――残念だ、尾上雄一郎」
惜しむような、憐れむような、それでいて恋焦がれるような声音が聞こえた次の瞬間、ふっと身体から重さが消えた。視線の先に、何も掴んでいないアズラエルの手が見える。
一瞬の浮遊感の後、空から落ちていく。浮遊感は即座に重力へと変わった。空中に放り出された身体が猛烈な勢いで地面に引っ張られていく。風圧のせいで、背中から溢れ出した血が上に飛び散る。まるで血の雨が空に向かって降り注いでいるようだった。
目に入った血のせいで、血と夕日の色が混じり合ってチカチカと乱反射する。回転する万華鏡の中に放り込まれてしまったかのような光景に、目が眩んだ。
このまま死ぬのかと思った。死ぬのは当然だ。むしろ、死こそ自分に与えられた最大の安らぎのように思えた。苦しみはなく、全身に満ちていた怒りも、張り裂けそうなほどの悲しみも、今はない。まるで眠りに落ちる前のまどろみのような心地よさが身体を包んでいく。
死ねば、もう何も感じない。やっと、この惨めな人生を終えられる。身体に満ち満ちた憎悪や悔恨から解放され、ようやくこの悪夢から逃れることができる。
それなのに――どうして涙が出てくるのか。
眼球に入った血を押しのけて、涙が止め処なく溢れてくる。恐怖からの涙ではない。後悔の涙だ。俺は、今まで後悔しかしていない。そう思った瞬間、雄一郎は叫んでいた。
「イズラエル!」
腹の底から龍の名を叫ぶ。酸欠のせいで、声を張り上げる度に意識が途絶えそうになる。
先ほどアズラエルに胴体を掴まれた時に、左手首の鎖は外れてしまっている。それでも、雄一郎は何かを掴み取るように空へ左腕を伸ばした。
「イズラエル、来い!」
叫んだ瞬間、風を切る音が聞こえた。まるで弾丸が飛んでくるような音だと思った。
重力のまま落ちていた身体が、ぼすんと柔らかいものに受け止められた。振り返ると、巨大化したイズラエルが雄一郎の身体を抱き締めていた。
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