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11.はい、論破

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「んっ……ふ……っ」

 酒を飲んでいるから鈍いが、キスの時点で股間は緩やかに起き上がっている。

 よお、おまえはもうイかせてもらえないらしいぜ。

 どっか遠くの国でも行っちゃえよ。

 つまめるほどの肉も付いてないというのに、吸いやすくするために、絞るように手を添えてくる彰永は、赤ちゃんみたいで可愛い。

 よしよしと頭を撫でてやると、嬉しかったのか舌を使い始めた。気持ちいい。

「はぁ……ン……」

 やめてほしくなくて、撫で続ける。

 だが、同時に俺は意地悪く彰永に囁きかけた。

「おまえ、要は女を抱きたいんじゃねーの」

「うん?」

「おっぱいとか、赤ちゃんとか、俺といたら手に入らないものが欲しくなってきてんだろ」

「うーん?」

「なんの変化もないまま年だけ食ってるから飽きてきてんだよ。俺に」

 ちゅぱっと音を立てて、彰永が乳首から口を離す。

 何度も吸われたせいで、本当に吸うかたちになってきているから笑う。

 唾液で濡れて光っている輪郭が、確かに、おっぱいらしくはある。

 でもこういうのじゃないと俺は思う。

 すごくよく似ているだけの安いバッタモンって感じだ。

 それを丁寧に指で撫でながら彰永は言った。

「人に飽きるって、なくない?」

「……なくもないぜ?」

 彰永の手が熱くて気持ちいい。指と指の間で乳首が固く勃ちあがっているが、酔っているおかげで少しも痛くなかった。陽だまりの中にいるような心地さえする。

「ふふ、変態オヤジとかさ……子供の時だけオモチャにして飽きたりするし……」

 おっと、変な例を先に出してしまった。俺は目を開けて、彰永の手に手を重ねた。

「ドラマでも、よくあるだろ。好きで一緒にいたはずの相手でも、付き合っていくうちにお互いに状況が変わるんだよ。一緒にいないほうが、かえって幸せになれたりする」

 彰永の三白眼が、眼鏡の奥で揺れている。

 その蝋燭の火みたいな微かな揺らめきが、俺は好きだ。

 じっくり見つめないとわからないから。

 勘違いでも、いまこの瞬間だけは、俺のものだと思える。

 その目が、不意に呆れたように細められ、彰永は俺のおっぱい(仮)をしまった。

 ぽんぽんと子供をあやすように服の上から叩く。ごろんとカーペットに横たわった。

「卯月。じゃあ聞くけどさ」

「……あん?」

「卯月はイく時に、種付けしてとか孕ませてとかよく言うけど、アレって何?」

 これにはさすがの俺も目が泳いだ。

「あの……彰永ちゃんよぉ、よがり狂ってる人間の淫語喘ぎを言質とったみたいに言うのは、さすがにヤバいんじゃない?」

「じゃあ、アレは嘘なの?」

「いや、だからぁ……」

「アレは絶対に嘘じゃないだろ。卯月はさあ、イッてる時に自分がどんな顔してるか知らないから、平気でそんなこと言えるんだよ」

「おい。なんか話をすりかえてるだろ」

「卯月はね、俺に種付けされてる時いつも、もう幸せで幸せでしょうがないってトロけるような顔してるんだよ。本当だよ。食いちぎりそうに俺のチンポを締め付けて精子が一滴も外に漏れないようにして、俺が射精すると、無意識に腰を一回大きく揺するんだ。お腹の奥の方までザーメンを擦りつけるために」

 彰永は、聞いているだけで耳が爆発しそうな具体的事実で俺をタコ殴りしてきた。

「あんなに必死にしがみついて、俺の名前を何度も呼んで、あなたの赤ちゃんが欲しいよ、産ませて欲しいよって体中で叫んでるのは、卯月だろ」

 おいおい。勘弁してくれよ。

 あんな水飲み鳥のオモチャみたくコクコクうなずきながらピストン連打キメてくるヤツが、ずいぶん広い視野してんじゃねえか。

 口をへの字に曲げて羞恥に耐えている俺に、彰永はボクサーも真っ青になるような激しいラッシュを繰り出してきた。

「おっぱいが欲しいのも赤ちゃんが欲しいのも卯月。女の子の体が欲しいのも卯月の方。俺は、最初っから卯月のことしか好きじゃないし、欲しくないよ。それなのに、なんで俺が心変わりしたみたいな言い方するんだ?」

「うううるせーっ。おまえがアナルセックスで子供ができるとか言い出すからじゃーっ」

 さすがに我慢の限界で俺は沸騰したヤカンみたいに甲高い声を上げて言い返した。

「うん」

 彰永はむくっとカーペットから起きた。

「このままだと卯月は絶対に妊娠すると思う」

「だから無茶苦茶言うなっ。俺のケツは都合のいいびっくり箱じゃないぞ。十年セックスして十年ウンチしか出ねえモンを、おまえ」

「卯月を孕ませたいって気持ちが、どんどん強くなるんだよ」

 え、そうなんすか。喉が、ひゅっと鳴った。
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