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Ⅱ
3.ラッピングマイスター
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歩美の予算、桂太の要望、両親の近況を、あれこれ聞いて、入浴剤の詰め合わせを贈ることになった。
一番、豪華で手が掛かるラッピングにして、とはいつも言われる。
親孝行らしいことを何一つしない兄を困らせる目的もあるだろうが、俺の仕事ぶりを母に見せたいのだと思う。
母は寂しがっている、その歩美の言葉を、俺は別に嘘とは思わない。
だが半分だけしか本当じゃないな、とは思う。
母は俺を見ると、なにか責められていると感じてしまうようなのだ。
宇宙人から守れなかったことや、俺が月で強制労働させられていた間に再婚して歩美を産んだこととかを、申し訳なく思うらしい。
ラッピングは、木箱にした。
灰色と藤色の花紙をずらして敷いた上に、枠を嵌め、うす緑の緩衝材を鳥の巣のように詰める。
入浴剤を彩りよく配置して、内容に間違いがないかを歩美と桂太に確認してもらう。
二色の花紙の上下を七宝つなぎの柄をした光沢のあるシールで留め、蓋をする。
七宝つなぎは日本の伝統柄の一つだ。
いわゆる吉祥紋様と呼ばれるもので、四方に連続して繋がることで永遠、転じて長寿の意味を持つと言われている、
一度目は失敗した結婚を二度目には大成功して孫にも恵まれたのだ。達者でいてほしい気持ちはあった。
青い雲竜紙を出す。文字通り、雲の中の竜のように楮の白い繊維が漉き込まれた紙で、一枚一枚、繊維の出方が違うのが面白い。
品良く斜め包みにした上に、虎の子の銀色千代紙を重ねた。
最後に青い飾り結びを水引のように掛け、すっと二人の方へ差し出した。
「仕上がりました」
歩美に抱っこされて手元を覗いていた桂太は興奮して、歓声を上げている。
俺は箱を紙袋に入れて、床に下りた桂太に渡した。桂太はすぐさま、店頭を整えている小野に走って見せに行く。
「……いくら?」
「ああ。ラッピング代は奢ってやるよ」
今日はちょっと気合を入れすぎた。
あんな可愛い子がいたら、物入りだろうと気を遣ったというのに、歩美は怒ったように「いくらかって聞いてるの!」と眦を吊り上げた。なんて短気な女なんだ。
「……毎度ありがとうございます」
俺は肩をすくめてレジを叩いた。
歩美がぽつりと呟く。
「やっぱり、さすがだね」
「まあ、これで食ってるからな。どうだ? 社内コンテスト1位の腕前を持つ兄が、誇らしかろう。尊敬していいぞ」
「嘘つき。前に5位って言ってたよ」
「うるせえな、北関東じゃ1位なんだよ」
ラッピングは関西の店舗が桁外れに強い。
イギリスの本店ともなれば世界中から猛者が集まっているのだろう。
十年やってもこんなレベルの俺など鼻くそのようなものだ。
「……桂太は、お兄ちゃんを尊敬してるよ」
「俺にぃ? ははっ、反面教師ってやつ?」
「なんで素直に喜べないかな。嬉しいくせに」
「うっひょー。やったぜえー!」
「だからさあ……」
会計を済ませて、やっとお見送りだ。
小野は桂太と仲良くハイタッチしている。
次からは歩美とセットで接客してもらってもいいかもしれん。
ラッピングは俺がやるとしても、店頭で怒られ続けるのはしんどい。
とすると、もう口を利く機会もあまりないかもしれないな。
不意にそう思って俺は妹に呼びかけようとした。
いや、桂太を産む時にどこの産婦人科に行ったか聞きたかったのだ。
ネットで調べると情報が多すぎて、違いとかよくわからないし。
寸でのところで、我に返った。
唾と一緒に、言葉を飲み込む。
歩美と手をつないだ桂太が俺に手を振る。
「ゆうとくん、ばいばーい」
俺は変な笑みを浮かべて、手を振り返す。
冷や汗がすごい。
頭がおかしくなりかけている俺の、一連の仕事を見ていた小野は元気になったようだ。
「卯月センパイは、やっぱりすごいです!」と、先輩をヨイショしてくる。
「ラッピングが綺麗で速いのもそうなんですけど、接客が上手すぎる。私、親子連れって親とばかり話しちゃうんですよ。でも先輩は桂太くんのこともお客様みたいに扱ってて」
いやいや過大評価が過ぎる。俺は小野が言い終わる前に、顔の前で手を振った。
「そりゃ身内だからだって」
「えーっ。でも、憧れちゃうなあ……」
でも君と違って妊娠することはできない、とは俺はもちろん返さない。
後輩にセクハラを働く気持ち悪い先輩にはなりたくないし。
なんか結局、ぜんぶ嘘なんだよな、と思う。
派手なラッピングにみんな騙されているが、俺の本体はお湯でしゅわしゅわ溶けるようなお粗末な何かで、残せるものが何もない。
店長が休憩から戻って来た。
小野が本来すごいと言うべきなのは俺よりも店長だ。
もとは九州にある大型店で稼ぎ頭をしていた女で、恐ろしくなんでもできる。
ただ接客スタイルがオラオラ系で、とても真似できない。
ちゃんと聞いたことはないが、おそらく、年は四十絡みだろう。武田信玄に似た強面で、セクハラ客を撃退するほど腕っぷしも強い。
というと山賊のようだが豊富な商品知識と的確な判断能力の持ち主で、接客された客はみんな「この人の言う通りにすれば大丈夫!」とメロメロになってしまう。
要するに、怒られるとめちゃくちゃ怖い。
だが小野を見ると、いつの間にか気合十分という顔付きになっていた。
この様子なら二人にしても大丈夫だろう。
俺も入れ違いで休憩へ行くことにした。
一番、豪華で手が掛かるラッピングにして、とはいつも言われる。
親孝行らしいことを何一つしない兄を困らせる目的もあるだろうが、俺の仕事ぶりを母に見せたいのだと思う。
母は寂しがっている、その歩美の言葉を、俺は別に嘘とは思わない。
だが半分だけしか本当じゃないな、とは思う。
母は俺を見ると、なにか責められていると感じてしまうようなのだ。
宇宙人から守れなかったことや、俺が月で強制労働させられていた間に再婚して歩美を産んだこととかを、申し訳なく思うらしい。
ラッピングは、木箱にした。
灰色と藤色の花紙をずらして敷いた上に、枠を嵌め、うす緑の緩衝材を鳥の巣のように詰める。
入浴剤を彩りよく配置して、内容に間違いがないかを歩美と桂太に確認してもらう。
二色の花紙の上下を七宝つなぎの柄をした光沢のあるシールで留め、蓋をする。
七宝つなぎは日本の伝統柄の一つだ。
いわゆる吉祥紋様と呼ばれるもので、四方に連続して繋がることで永遠、転じて長寿の意味を持つと言われている、
一度目は失敗した結婚を二度目には大成功して孫にも恵まれたのだ。達者でいてほしい気持ちはあった。
青い雲竜紙を出す。文字通り、雲の中の竜のように楮の白い繊維が漉き込まれた紙で、一枚一枚、繊維の出方が違うのが面白い。
品良く斜め包みにした上に、虎の子の銀色千代紙を重ねた。
最後に青い飾り結びを水引のように掛け、すっと二人の方へ差し出した。
「仕上がりました」
歩美に抱っこされて手元を覗いていた桂太は興奮して、歓声を上げている。
俺は箱を紙袋に入れて、床に下りた桂太に渡した。桂太はすぐさま、店頭を整えている小野に走って見せに行く。
「……いくら?」
「ああ。ラッピング代は奢ってやるよ」
今日はちょっと気合を入れすぎた。
あんな可愛い子がいたら、物入りだろうと気を遣ったというのに、歩美は怒ったように「いくらかって聞いてるの!」と眦を吊り上げた。なんて短気な女なんだ。
「……毎度ありがとうございます」
俺は肩をすくめてレジを叩いた。
歩美がぽつりと呟く。
「やっぱり、さすがだね」
「まあ、これで食ってるからな。どうだ? 社内コンテスト1位の腕前を持つ兄が、誇らしかろう。尊敬していいぞ」
「嘘つき。前に5位って言ってたよ」
「うるせえな、北関東じゃ1位なんだよ」
ラッピングは関西の店舗が桁外れに強い。
イギリスの本店ともなれば世界中から猛者が集まっているのだろう。
十年やってもこんなレベルの俺など鼻くそのようなものだ。
「……桂太は、お兄ちゃんを尊敬してるよ」
「俺にぃ? ははっ、反面教師ってやつ?」
「なんで素直に喜べないかな。嬉しいくせに」
「うっひょー。やったぜえー!」
「だからさあ……」
会計を済ませて、やっとお見送りだ。
小野は桂太と仲良くハイタッチしている。
次からは歩美とセットで接客してもらってもいいかもしれん。
ラッピングは俺がやるとしても、店頭で怒られ続けるのはしんどい。
とすると、もう口を利く機会もあまりないかもしれないな。
不意にそう思って俺は妹に呼びかけようとした。
いや、桂太を産む時にどこの産婦人科に行ったか聞きたかったのだ。
ネットで調べると情報が多すぎて、違いとかよくわからないし。
寸でのところで、我に返った。
唾と一緒に、言葉を飲み込む。
歩美と手をつないだ桂太が俺に手を振る。
「ゆうとくん、ばいばーい」
俺は変な笑みを浮かべて、手を振り返す。
冷や汗がすごい。
頭がおかしくなりかけている俺の、一連の仕事を見ていた小野は元気になったようだ。
「卯月センパイは、やっぱりすごいです!」と、先輩をヨイショしてくる。
「ラッピングが綺麗で速いのもそうなんですけど、接客が上手すぎる。私、親子連れって親とばかり話しちゃうんですよ。でも先輩は桂太くんのこともお客様みたいに扱ってて」
いやいや過大評価が過ぎる。俺は小野が言い終わる前に、顔の前で手を振った。
「そりゃ身内だからだって」
「えーっ。でも、憧れちゃうなあ……」
でも君と違って妊娠することはできない、とは俺はもちろん返さない。
後輩にセクハラを働く気持ち悪い先輩にはなりたくないし。
なんか結局、ぜんぶ嘘なんだよな、と思う。
派手なラッピングにみんな騙されているが、俺の本体はお湯でしゅわしゅわ溶けるようなお粗末な何かで、残せるものが何もない。
店長が休憩から戻って来た。
小野が本来すごいと言うべきなのは俺よりも店長だ。
もとは九州にある大型店で稼ぎ頭をしていた女で、恐ろしくなんでもできる。
ただ接客スタイルがオラオラ系で、とても真似できない。
ちゃんと聞いたことはないが、おそらく、年は四十絡みだろう。武田信玄に似た強面で、セクハラ客を撃退するほど腕っぷしも強い。
というと山賊のようだが豊富な商品知識と的確な判断能力の持ち主で、接客された客はみんな「この人の言う通りにすれば大丈夫!」とメロメロになってしまう。
要するに、怒られるとめちゃくちゃ怖い。
だが小野を見ると、いつの間にか気合十分という顔付きになっていた。
この様子なら二人にしても大丈夫だろう。
俺も入れ違いで休憩へ行くことにした。
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