30 / 36
Ⅳ
1.ドライブ
しおりを挟む彰永に車で、駅前の有料駐車場まで送ってもらうことにした。一晩置いてしまったが、千円くらいで済むといいなあと思っている。
俺は昨夜と同じ仕事着だが、彰永はチェックシャツと妙な十字架のプリントされたダメージジーンズに着替えていた。中二病くさいチェーンベルトなんかしやがって、まったく期待を裏切らないオタクくんだぜ。
普通は駐車が下手なヤツのことを、運転を上手いとは言わないと思うが、彰永は別だ。
予知能力でもあるのか、赤信号に全く引っかからないんだよな。いや、地図がしっかり頭の中に入っていて無意識に前の車の速度と秒数と傾斜を計算してアクセルを踏んでいる感じがある。加速も停車も緩やかで、驚く。
まあ良い車に乗ってるせいもあるかも。
でも、バックが下手なのだって、切り替えができないだけだから、世の中の車がみんなバックで走るようになったら合わせてうまくなるんじゃないか? 俺としてはそんな後ろ向きに突き進む社会は御免だが。
行く途中で、反対車線で事故があったのを見かける。
結構な大破の仕方で、救急車も何台か来ていた。車社会ではありえる事故だが、他人事ではない。死別もあるんだよなあと思った。
青信号だから一瞬で通り過ぎて、見えなくなる。俺は隣りの彰永に話しかけた。
「彰永ぁ」
「うん?」
「あのさ、怒らないで聞いてほしいんだけど」
「うん」
俺は助手席から、ずっと外を見ていた。
運転中の彰永は絶対にわき見をしないので目が合う心配などないのだが、どうしても、彰永の方を見たくなかった。
「俺、赤ちゃん産めないんだよ。なんつうか、機能的に」
「ふん……」
彰永の相槌は、耳で聞いただけじゃ、どう思っているのか全然わからなかった。なんか怒らないでとか言ったこと自体、失敗だったような気がする。それだけで真面目じゃないみたいに聞こえるんじゃないか。いや、俺が口にした時点で言葉は真面目じゃない響きを帯びるんだけど。傷つきたくなくて、いつもふざけた適当なことばっかり言ってるから。
でもまあ、俺が彰永みたいに喋れないのは今さら仕方ない。だから、下手くそでも喋り続けるしかなかった。
「いや……彰永の言うことを、信じないってわけじゃないんだよ。信じたいとは思うし、俺だって、彰永の赤ちゃんを産みたいって、すごい本気で思っているから。本当だよ」
彰永は何も言わない。一定のスピードで車を動かしているのが、座席に伝わる振動だけでわかる。俺はますます怖くなった。
「あ……お、俺、もしかして、うるさい? 黙った方がいいなら黙る」
「いいよ。話してて大丈夫」
聞いてはいるらしい。なんでこんなに怖いんだろうな、彰永は別に、俺をうるさいとか言って怒鳴ったことなんて一度もないのに。
窓ガラスに額を付けている。車は、すごく震えている。呼吸を整えながら考える。
さっき彰永に、なんで否定から入るんだと言われて、考えたんだけど、たぶん俺は人間不信なんだよな。相手の機嫌を損ねたくない。人から喜ばれたい気持ちが強いって言えば、聞こえはいいし、だから接客業もある意味、向いているんだろうが、嫌われるのが怖い。
嫌われたその瞬間、物凄く恐ろしい何かに心臓を握りつぶされて死ぬ気がする。
彰永には世界で一番嫌われたくない。
俺が何を言っても、彰永が俺を好きでいてくれると本当の意味で信じることができない。
そんなことあっちゃだめだとさえ思う。
「えっと、だからさ」
続けてみたけど、別に続きなんてないような気がした。大体、俺の話の終わりを決めるのは俺じゃなくて彰永なんじゃないか。
彰永が嫌って言えばやめるし。いや別に今、嫌なんて一言も言われてないけど。ちゃんと嫌って言ってくんないなら、じゃあ言うけど。
「俺、あのね、あの、赤ちゃんできないけど、でも、あ、彰永に……抱かれたい」
わ、自分でもめちゃくちゃ気持ち悪いこと言ってるってわかるな、何を言ってんだろ、ダカレタイって、響きがもう嫌だ。何語だ。言葉が古い。いつもみたいにチンポほしいって汚い言葉でねだればいいじゃん。そっちのが俺っぽいしわかりやすいのに。エロい顔でいつも発情してる変態なんだから。
5
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる