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第四章 レヴィの想い

<2>アラン様と僕2※レヴィ視点

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大国のベリンガム帝国はいくつかの国と国境を接している。今もむかしも小康状態を保っているアイルズベリー、ギルフォード、メイデンヘッド、そして今はベリンガムの従属国となった、海に面するウィンダミアだ。

当時、ベリンガムはウィンダミアとの戦いを繰り返していた。そしてもちろん、氷の狼と他国に恐れられるベリンガムの騎士団をまとめあげるアラン様も戦線に立っている。

10歳になった僕は、毎日の鍛錬の成果か同い年の子どもたちよりも身長が伸び、普段から14~15歳に間違われることも多かった。
剣術も魔術の実践も、大人の騎士たち相手にしても負けることの方が少ない。だから自分の力を過信していたのだと思う。

その日僕は戦線へと向かう騎士の一人に睡眠魔法をかけ、彼の甲冑を着こんで騎士団に紛れ込んだ。魔法陣に立つと、体は一瞬で戦地へ運ばれる。

敵か味方もわからない怒号や叫び声、剣のぶつかり合う音に発散される魔力――。馬に跨り、前を行く騎士団員についてわけもわからず戦場を駆けまわった。

戦いの中にもルールがある。剣のみしか使えない一般兵を敵であっても貴族は襲わない。もちろん一般兵も同じだ。剣と魔力を使う貴族は、貴族同士て戦う。

今思うと、もともと戦場という場所に適正があったのかもしれない。あたりに漂う血の匂いや転がる死体にも恐れを感じることはなかった。

さらに体の中には感じたことのない不思議な力が漲り、一歩選択を誤れば命を落とすかもしれないという状況に今までになく興奮していたのだ。

一刻も早く手柄を上げて、アラン様に笑ってほしい。そして自分だけを見てほしい。手柄に焦る僕は、栗毛の馬に乗ったウィンダミアの老兵に目をつけた。年のころは70~80といったところだろうか。

こんなおいぼれのくせに最前線に出てくるなんて。死に場所でも探しているのかと傲慢にも決めつけ、その老人目がけて魔力を込めた一撃を剣から放った。

だが、それが大きな間違いだった。
数秒後、僕は老人に跳ね返された一撃をもろにくらって馬上から転がり落ちた。そこを狙われ、何度も何度もいたぶるように傷をつけられる。

「さて。そろそろ遊びは終わりにするぞ、小僧。おまえは愚かにも見た目で人間を判断したな。見誤ると、最悪死ぬぞ。今のおまえのようにな」

口角を上げた老人の目は凍った海のように冷たい色を湛えている。僕の心臓に向かってまっすぐに剣が向けられた。体のあちこちを傷つけられた僕は、もう指1本動かすことすらできない。

(だめだ、もう終わりだ)
そう思って目をぎゅっと閉じたその時。

視界いっぱいに、黒が広がる。それはよく知っている黒毛の馬の艶やかな尻尾だった。
「おいジジイ、なに子ども虐待してんだよ」

相手を挑発するように笑ったのは、アラン様その人だった。
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