上 下
4 / 6

『不思議な春の夜と「終わり」を感じた夏の日』初稿版 ─「終わり」を感じた夏の日─

しおりを挟む
望んでも再会できない人との時間を過ごした建物が、まだ残っていた。
もう取り壊されたと思っていた、あの建物が。

駅との距離を、勘違いしていたんだね。
今日のような酷暑こくしょの日、駅まで一緒に歩いたのは途中からだった。
取り壊されたんだと思ったあの日、一緒に歩き始めた地点に建物がなくて、勘違いをしたんだ。

同じ建物で時間を過ごしていても、不思議と同時に出て一緒に歩く機会がなかったよね……。
あの時も同時には出なかったけど、途中から駅まで一緒に歩けた。
一度きりでも。

まだ残っている建物を見て、ようやく「終わり」を感じることができた。
そっくりな若者に会えたことは、きっと「終わり」の前触まえぶれだったんだ。


あの時は、嬉しかったよ。
さようなら。
しおりを挟む

処理中です...