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第三部
第2章〜共鳴せよ! 市立芦宮高校文芸部〜⑬
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~黒田竜司の見解~
生徒会主催の連絡会が終わった直後から始めた、モモカとふたりで行うクラブ訪問の行脚も、ようやく終わりが見えてきた。
市立芦宮高校には、多数のクラブが活動していて、自分たち広報部や、壮馬と行動をともにする文芸部、すでにシロが協力を取り付けているダンス部を除いても、なお20団体以上のクラブが存在する。
オレが、普段から仲の良い二年の運動部系の部員たちを通じて、事前にクラブ訪問や取材のオファーを出していたので、最初のころは、相手の反応も良く、順調に訪問件数を重ねていけたが、文化系のクラブ訪問となる後半になると、訪問先のクラブの反応は、やや鈍いものになっていた。
「くろセンパイ、残りの訪問先は、あと何件ですか?」
訪問をはじめた当初の歓待ぶりから、訪問先の対応が、少し変わってきたこともあり、火曜日から一日5件以上のクラブ訪問をこなしてきたモモカの顔にも、疲労の色がうかがえる。
「残りは、茶道部・華道部・書道部と美術部、コンピュータークラブだな……ここは、部室も近いし……もう、あと一息だ」
「わかりました……今度は、良いお返事が聞けるとイイですね」
モモカは、そう言って笑みを浮かべ、次の訪問先に希望を託したのだが――――――。
「広報部ですか? 昨日、文芸部と広報部の共同企画の取材依頼があったところなんだけど……文芸部の人たちとは、また違う活動をしてるの?」
他の文化系クラブと同じく、前日あたりから、こんな反応が多くなってきた。
どうやら、壮馬と文芸部のメンバーは、いくつかのグループに別れて、各クラブを訪問しているらしい。
なかでも、自分の見通しに詰めの甘い部分があったことを認めざるを得なかったのは、コーラス部に訪問したときだ。
浦嶋部長のもとを訪れたのは、壮馬たちの後になってしまったようで、彼女からは、
「あ~、ちょっと前に、二年の黄瀬くん達も、来てたよ! なんだか、面白そうな企画じゃない? それよりさぁ、黒田くん……」
と、オープン・スクールのパレードの際に、コーラスを引き受けてくれたにもかかわらず、オレからの謝礼が遅れていることについてのお小言をいただいてしまった。
これには、中学時代の暴言は鳴りを潜め、最近、オレに対してソフトな対応を取ることが多かったモモカまで、絶対零度の視線で、
「くろセンパイ、なにやってんですか……? 失礼なのは、顔だけにしてください。センパイみたいなヒトから、誠意を取ったら、あとは、鈍感力くらいしか良さは残らないんですよ?」
と、数年前を思い起こさせる毒を吐いてくる始末だった。
ただ、モモカの発言は、浦嶋部長のツボにハマったようで、「ハッハッハ……」と、彼女は豪快に笑ったあと、
「まあ、身内にそこまで言ってくれる人が居るんなら、私らからは、これ以上、言えることもないかな? 黄瀬くんと天竹さんだっけ? あのふたりも良いコンビだと思ったけど、あんた達も、なかなか面白いね!」
と、オレの不義理を水に流してくれたようだ。
浦嶋先輩の言葉を受けて、
「えぇ~、良いコンビとか、そんなことないですよ~」
と言いながら、その後、なぜか機嫌が良くなったモモカとともに、文化系のクラブを訪問したが、どこも文芸部と壮馬たちに先を越されてしまっていた。
木曜日の最後に訪問した吹奏楽部で、早見部長と寿副部長から、
「私たちは、文芸部にお願いすることになったから……」
と、丁寧に断られたあと、
「文化系のクラブは、きぃセンパイ達に抑えられちゃった感じですねぇ……」
つぶやくように言ったモモカの表情を見ながら、オレは、なにか対策がないかと考えはじめた。
華道部と書道部でも、他の文化系クラブと同じような対応を受けたオレたちに残された訪問先は、いよいよ、美術部のみだ。
「運動系のクラブは、たくさん、候補に挙がりましたけど……ひとつくらい文化系のクラブの協力がほしいですねぇ」
最後の希望にすがるような声をあげるモモカに、
「あぁ、そうだな……」
と、短く返答する。
美術部の部室のドアをノックし、訪問目的を告げると、部長の加納亮子さんが、応対してくれたが、
「昨日、文芸部の人たちが来て、話しをして行ったわ。私たちは、先に訪問してくれた彼女たちの取材を受けようと思っているんだけど?」
と、これまでの文化系クラブと同じような反応が返ってきた。
(あぁ……やっぱり……)
といった感じで、モモカは、ガックリと肩を落とす。
ただ、ある程度、予想できていた回答をもらっても、オレは気落ちすることなく、相棒を励ます。
「モモカ、落ち込むのは、まだ早いぞ! スマホを準備して、例のアプリを起動してくれ」
(なんですか、くろセンパイ……)
と、いぶかしげな表情の彼女は、アプリを起動し、スマホのディスプレイに芦宮サクラを表示させた。
アバターが画面に出現したことを確認したオレは、モモカに無言で合図を送る。
「こんにちは~! 芦宮高校非公式Vtuberの芦宮サクラで~す。これから、わたしたちの高校のクラブを紹介してくから、ヨロシクね~」
七色に変化する声を持つモモカが、二次元キャラクター向きの声色のハスキーボイスに発声し、声に合わせてアバターが動作を始めると、興味を持った美術部員たちが、オレたちの元に集まってくる。
デモンストレーションが成功しつつあると確信したオレは、絵心のある部員が揃う美術部に対して、ある申し入れを行うことにした。
生徒会主催の連絡会が終わった直後から始めた、モモカとふたりで行うクラブ訪問の行脚も、ようやく終わりが見えてきた。
市立芦宮高校には、多数のクラブが活動していて、自分たち広報部や、壮馬と行動をともにする文芸部、すでにシロが協力を取り付けているダンス部を除いても、なお20団体以上のクラブが存在する。
オレが、普段から仲の良い二年の運動部系の部員たちを通じて、事前にクラブ訪問や取材のオファーを出していたので、最初のころは、相手の反応も良く、順調に訪問件数を重ねていけたが、文化系のクラブ訪問となる後半になると、訪問先のクラブの反応は、やや鈍いものになっていた。
「くろセンパイ、残りの訪問先は、あと何件ですか?」
訪問をはじめた当初の歓待ぶりから、訪問先の対応が、少し変わってきたこともあり、火曜日から一日5件以上のクラブ訪問をこなしてきたモモカの顔にも、疲労の色がうかがえる。
「残りは、茶道部・華道部・書道部と美術部、コンピュータークラブだな……ここは、部室も近いし……もう、あと一息だ」
「わかりました……今度は、良いお返事が聞けるとイイですね」
モモカは、そう言って笑みを浮かべ、次の訪問先に希望を託したのだが――――――。
「広報部ですか? 昨日、文芸部と広報部の共同企画の取材依頼があったところなんだけど……文芸部の人たちとは、また違う活動をしてるの?」
他の文化系クラブと同じく、前日あたりから、こんな反応が多くなってきた。
どうやら、壮馬と文芸部のメンバーは、いくつかのグループに別れて、各クラブを訪問しているらしい。
なかでも、自分の見通しに詰めの甘い部分があったことを認めざるを得なかったのは、コーラス部に訪問したときだ。
浦嶋部長のもとを訪れたのは、壮馬たちの後になってしまったようで、彼女からは、
「あ~、ちょっと前に、二年の黄瀬くん達も、来てたよ! なんだか、面白そうな企画じゃない? それよりさぁ、黒田くん……」
と、オープン・スクールのパレードの際に、コーラスを引き受けてくれたにもかかわらず、オレからの謝礼が遅れていることについてのお小言をいただいてしまった。
これには、中学時代の暴言は鳴りを潜め、最近、オレに対してソフトな対応を取ることが多かったモモカまで、絶対零度の視線で、
「くろセンパイ、なにやってんですか……? 失礼なのは、顔だけにしてください。センパイみたいなヒトから、誠意を取ったら、あとは、鈍感力くらいしか良さは残らないんですよ?」
と、数年前を思い起こさせる毒を吐いてくる始末だった。
ただ、モモカの発言は、浦嶋部長のツボにハマったようで、「ハッハッハ……」と、彼女は豪快に笑ったあと、
「まあ、身内にそこまで言ってくれる人が居るんなら、私らからは、これ以上、言えることもないかな? 黄瀬くんと天竹さんだっけ? あのふたりも良いコンビだと思ったけど、あんた達も、なかなか面白いね!」
と、オレの不義理を水に流してくれたようだ。
浦嶋先輩の言葉を受けて、
「えぇ~、良いコンビとか、そんなことないですよ~」
と言いながら、その後、なぜか機嫌が良くなったモモカとともに、文化系のクラブを訪問したが、どこも文芸部と壮馬たちに先を越されてしまっていた。
木曜日の最後に訪問した吹奏楽部で、早見部長と寿副部長から、
「私たちは、文芸部にお願いすることになったから……」
と、丁寧に断られたあと、
「文化系のクラブは、きぃセンパイ達に抑えられちゃった感じですねぇ……」
つぶやくように言ったモモカの表情を見ながら、オレは、なにか対策がないかと考えはじめた。
華道部と書道部でも、他の文化系クラブと同じような対応を受けたオレたちに残された訪問先は、いよいよ、美術部のみだ。
「運動系のクラブは、たくさん、候補に挙がりましたけど……ひとつくらい文化系のクラブの協力がほしいですねぇ」
最後の希望にすがるような声をあげるモモカに、
「あぁ、そうだな……」
と、短く返答する。
美術部の部室のドアをノックし、訪問目的を告げると、部長の加納亮子さんが、応対してくれたが、
「昨日、文芸部の人たちが来て、話しをして行ったわ。私たちは、先に訪問してくれた彼女たちの取材を受けようと思っているんだけど?」
と、これまでの文化系クラブと同じような反応が返ってきた。
(あぁ……やっぱり……)
といった感じで、モモカは、ガックリと肩を落とす。
ただ、ある程度、予想できていた回答をもらっても、オレは気落ちすることなく、相棒を励ます。
「モモカ、落ち込むのは、まだ早いぞ! スマホを準備して、例のアプリを起動してくれ」
(なんですか、くろセンパイ……)
と、いぶかしげな表情の彼女は、アプリを起動し、スマホのディスプレイに芦宮サクラを表示させた。
アバターが画面に出現したことを確認したオレは、モモカに無言で合図を送る。
「こんにちは~! 芦宮高校非公式Vtuberの芦宮サクラで~す。これから、わたしたちの高校のクラブを紹介してくから、ヨロシクね~」
七色に変化する声を持つモモカが、二次元キャラクター向きの声色のハスキーボイスに発声し、声に合わせてアバターが動作を始めると、興味を持った美術部員たちが、オレたちの元に集まってくる。
デモンストレーションが成功しつつあると確信したオレは、絵心のある部員が揃う美術部に対して、ある申し入れを行うことにした。
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