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第三部
第3章〜裏切りのサーカス〜⑦
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~白草四葉の見解~
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「ナニも聞こえないわね……」
放送室に面する小会議室の壁にガラス製のコップをあて、耳をすませたものの、隣室からは、物音ひとつ聞こえて来なかった。
「もすかすたら、先輩と佐倉さんは、もう放送室には居ないかも知れないべ。わたす達と違って、たくさんのクラブに取材しに行くようだがら……」
冷静に他のグループの状況を分析する雪乃の言葉に、我に返ったわたしは、
「そうね……雪乃の言うとおりかも知れない」
と、彼女の方に向きなおる。そして、今日、雪乃とふたりで集まった理由を思い出して、あらためて、たずねた。
「ゴメンね、連絡会の話しを聞き終わってなかったっけ? なにか決まったことがあるってことだったけど……」
「はい、取材するクラブが取り合いにならないように、スプレッドシートっていう一覧表のファイルで、お互いのグループの取材先や活動内容を報告しあうことになりまスた。もう、ファイル共有の招待メールが来てるかも知れねぇでス」
雪乃は、そう言って、自分のカバンからタブレットPCを取り出して起動させる。
彼女がログインを行うと、画面下部にあるシェルフのG-mailアイコンに着信マークが表示されていて、アイコンをクリックしてメーラーを起動すると、生徒会のアカウントから、メールが届いていた。
メールのURLリンクをクリックすると、雪乃の言ったとおり、スプレッドシートが開き、動画コンテストの参加者が、取材先のクラブや提携する内容を書き込めるようになっていた。
「ふ~ん……これで、お互いに取材先が被らないようにできるってことか……まあ、ダンス部としか話し合っていないわたし達のグループには、ほとんど関係ないけど……」
生徒会が用意してくれた共有ファイルにさして興味をそそられなかったわたしが、そう言うと、雪乃がうなずきながら、こんなことを言ってきた。
「たしかに、四葉ちゃんの言うとおりだべ……だども、他のグループが、どんな風に動いているのか、リアルタイムで理解るのは、ありがたいべ……便利なものを用意してくれた生徒会の人たちには感謝だべ」
彼女の一言に、わたしは、身を乗り出して聞き返す。
「雪乃! いま、なにが、ありがたいって言った?」
可愛らしい後輩は、わたしの表情に驚きながらも、的確に返答する。
「他のグループが、どんな風に動いているのか、リアルタイムで理解るのは、ありがたい、と言ったべが……」
パチン、と指を鳴らしたわたしは、
「それよ!」
と、声をあげる。
これで、クロ達のグループの行動をある程度、把握することができる。
あのク◯生意気な下級生と一緒に活動しているということの他に、今回の『動画コンテスト』の期間中、わたしにとって、もうひとつの心配事が、クロが吹奏楽部の紅野さんと再接近しないか、ということだった。
先月のオープン・スクールまで、クロと紅野さんの接近をうながしていたのは、あくまで、わたしの考えたシナリオに沿った上でのことだ。
ただ、今回の『動画コンテスト』は、わたしの想定していないことから始まったイベントでもあるし、クロと別々のグループになってしまった以上、状況をコントロールすることは難しい。
(口も性格も悪い下級生に、クロがすぐさま靡くとは思えないけど……また、紅野さんと仲良くなったら、どうしよう)
そんな心配をしていたのだけど、クロ達のグループが、吹奏楽部と接点を持っているのかどうか、リアルタイムに把握できるだけでも、わたしのモヤモヤした気持ちを整理することができる。
「ね、ねぇ、雪乃……クロ……黒田クン達のグループは、どこのクラブに取材しているのかな? た、たとえば、吹奏楽部とか? ほら、吹奏楽部って部員の数も多いし、ちょっと、気になって……」
少々のためらいを覚えながらも、雪乃にたずねると、彼女はディスプレイを確認しながら、すぐに答えてくれた。
「まだ、黒田先輩のグループの行動は、なにも書き込まれていないべ……だども、黄瀬先輩のグループが、吹奏楽部との取材内容をたくさん書き込んでるべ。今日の連絡会の雰囲気から、これからは、他のグループが取材しているクラブには手を出さない、という暗黙のルールが出来たような感じなので、黒田先輩のグループが、吹奏楽部と接点を持つことはないと思うべ」
「そ、そうなんだ……」
雪乃の回答に、心の底から胸をなでおろし、
(ヨシ! (๑•̀ㅂ•́)و✧ これで、今回の『動画コンテスト』で、クロと紅野さんが接近することはない!)
無意識に小さくガッツポーズを作る。
そうして、いまの状況に大いにまんぞくしながら、
「たしかに、あなたの言うとおり、生徒会は便利なモノを提供してくれたわね。花金先輩たちに感謝しないと」
と雪乃に語りかけると、彼女は「あっ!」と声を上げる。
「黒田先輩たちのグループが情報を更新したみたいだべ! 美術部と《キャラクターデザインのミーティング》をするらしいべ」
雪乃の一言に、わたしは、ピクリと反応して、彼女に聞き返す。
「ねぇ、さっき、美術部に対して、黒田クンが、Vtuberのキャラクターデザインの依頼をしたって言ってたけど……美術部の部長さんって、どんな人なのかな?」
「入学したばかりなので、わたすには、詳しいことはわかんねけども……」
雪乃は、一瞬、うつむいてそう返答したものの、すぐに顔を上げて、
「任してほしいべ、四葉ちゃん! わたす、こういうことは得意なんですぐ調べてみるべ!」
と言ってから、タブレットPCで、すぐに美術部の部長さんの名前を検索したあと、今度はスマホを取り出して、《ミンスタグラム》をアプリをタップし、パブリックサーチを始める。
良く知られている『エゴサーチ』の対義語として用いられるパブリックサーチ(通称:パブサ)は、インターネット上で有名人や友人など特定の他者を検索することを指す。 つまり、エゴサは自分自身、パブサは他人を検索するものと考えて良い。
すぐに、美術部の部長である加納涼子さんのアカウントを発見した雪乃は、
「四葉ちゃんの情報や投稿に対する反応を検索しているいつもの習慣が役に立ったべ」
と言いながら、スマホの画面をこちらにかざす。
雪乃が示した画面には、主に、投稿主が描いたと思われる絵画を中心に画像がアップロードされていたが、時おり自撮りと思われる画像も混じっていた。
切れ長の瞳とクールな表情もさることながら、特徴的なのは、ツーテールに伸びる髪の根元を、ひとつづつお団子のようにまとめている髪型だ。
海外でも人気のある日本のアニメ、セーター服姿の美少女戦士の主人公を想像してもらえると、わかりやすいだろうか?
「な、なんというか……さすが、美術部の部員さんは、独特のセンスをしているわね」
言葉を選びながら、感想を述べつつも、わたしの中で、黄瀬クンたちが、先に取材の約束を取り付けていたにも関わらず、クロの提案で美術部が、クロのチームと組むことになったらしい、という雪乃の報告が気になっていた。
黄瀬クンたちには悪いけれど、さすがは、わたしが見込んだ相手というべきか、相変わらずクロは、他人の心を動かすのが上手い。
彼の提案は、きっと、自分たちの描くキャラクターを見てもらいたい、と考えている美術部の部員の心に刺さったのだろう。
(もう……そういうところだぞ……)
正直なところ、多くの人(特に女子)にクロの良さを知ってもらうことは嬉しく感じる反面、どこか、心の中にモヤが広がっていく部分があるのは事実だ。
(クロの本当に良いところは、わたしだけが知っておけば良いんだし……)
彼の評価が上がるのは嬉しいけど、しんどい部分もあるんだなぁ……あらためて、そんな風に感じている自分に気づき、
(アレ? もしかして、これが、よく言う『推し』に対する『同担拒否』ってヤツ?)
と、小学生の頃から見られる側に居たわたしは、初めて感じる感情に戸惑い、自分でもコロコロと表情が変わっていることに気づく。
そんな自分のようすを不思議そうに見つめていた雪乃が、
「これは、他の女子に黒田先輩が褒められるのを聞いたときの四葉ちゃんの表情だべ……心配しなくても、『女房の妬く程に亭主もてもせず』という言葉もあるべ……だども、安堵と不安でコロコロと変わる四葉ちゃんの表情は、時間が進むごとに様々な色を見せてくれる晴れた日の三陸海岸の空と同じくらい美しいべ」
と、小声でブツブツとつぶやいているようにも感じられたけど、良く聞き取れなかったわたしには、彼女が、なにを考えているのか、良く理解できなかった。
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「ナニも聞こえないわね……」
放送室に面する小会議室の壁にガラス製のコップをあて、耳をすませたものの、隣室からは、物音ひとつ聞こえて来なかった。
「もすかすたら、先輩と佐倉さんは、もう放送室には居ないかも知れないべ。わたす達と違って、たくさんのクラブに取材しに行くようだがら……」
冷静に他のグループの状況を分析する雪乃の言葉に、我に返ったわたしは、
「そうね……雪乃の言うとおりかも知れない」
と、彼女の方に向きなおる。そして、今日、雪乃とふたりで集まった理由を思い出して、あらためて、たずねた。
「ゴメンね、連絡会の話しを聞き終わってなかったっけ? なにか決まったことがあるってことだったけど……」
「はい、取材するクラブが取り合いにならないように、スプレッドシートっていう一覧表のファイルで、お互いのグループの取材先や活動内容を報告しあうことになりまスた。もう、ファイル共有の招待メールが来てるかも知れねぇでス」
雪乃は、そう言って、自分のカバンからタブレットPCを取り出して起動させる。
彼女がログインを行うと、画面下部にあるシェルフのG-mailアイコンに着信マークが表示されていて、アイコンをクリックしてメーラーを起動すると、生徒会のアカウントから、メールが届いていた。
メールのURLリンクをクリックすると、雪乃の言ったとおり、スプレッドシートが開き、動画コンテストの参加者が、取材先のクラブや提携する内容を書き込めるようになっていた。
「ふ~ん……これで、お互いに取材先が被らないようにできるってことか……まあ、ダンス部としか話し合っていないわたし達のグループには、ほとんど関係ないけど……」
生徒会が用意してくれた共有ファイルにさして興味をそそられなかったわたしが、そう言うと、雪乃がうなずきながら、こんなことを言ってきた。
「たしかに、四葉ちゃんの言うとおりだべ……だども、他のグループが、どんな風に動いているのか、リアルタイムで理解るのは、ありがたいべ……便利なものを用意してくれた生徒会の人たちには感謝だべ」
彼女の一言に、わたしは、身を乗り出して聞き返す。
「雪乃! いま、なにが、ありがたいって言った?」
可愛らしい後輩は、わたしの表情に驚きながらも、的確に返答する。
「他のグループが、どんな風に動いているのか、リアルタイムで理解るのは、ありがたい、と言ったべが……」
パチン、と指を鳴らしたわたしは、
「それよ!」
と、声をあげる。
これで、クロ達のグループの行動をある程度、把握することができる。
あのク◯生意気な下級生と一緒に活動しているということの他に、今回の『動画コンテスト』の期間中、わたしにとって、もうひとつの心配事が、クロが吹奏楽部の紅野さんと再接近しないか、ということだった。
先月のオープン・スクールまで、クロと紅野さんの接近をうながしていたのは、あくまで、わたしの考えたシナリオに沿った上でのことだ。
ただ、今回の『動画コンテスト』は、わたしの想定していないことから始まったイベントでもあるし、クロと別々のグループになってしまった以上、状況をコントロールすることは難しい。
(口も性格も悪い下級生に、クロがすぐさま靡くとは思えないけど……また、紅野さんと仲良くなったら、どうしよう)
そんな心配をしていたのだけど、クロ達のグループが、吹奏楽部と接点を持っているのかどうか、リアルタイムに把握できるだけでも、わたしのモヤモヤした気持ちを整理することができる。
「ね、ねぇ、雪乃……クロ……黒田クン達のグループは、どこのクラブに取材しているのかな? た、たとえば、吹奏楽部とか? ほら、吹奏楽部って部員の数も多いし、ちょっと、気になって……」
少々のためらいを覚えながらも、雪乃にたずねると、彼女はディスプレイを確認しながら、すぐに答えてくれた。
「まだ、黒田先輩のグループの行動は、なにも書き込まれていないべ……だども、黄瀬先輩のグループが、吹奏楽部との取材内容をたくさん書き込んでるべ。今日の連絡会の雰囲気から、これからは、他のグループが取材しているクラブには手を出さない、という暗黙のルールが出来たような感じなので、黒田先輩のグループが、吹奏楽部と接点を持つことはないと思うべ」
「そ、そうなんだ……」
雪乃の回答に、心の底から胸をなでおろし、
(ヨシ! (๑•̀ㅂ•́)و✧ これで、今回の『動画コンテスト』で、クロと紅野さんが接近することはない!)
無意識に小さくガッツポーズを作る。
そうして、いまの状況に大いにまんぞくしながら、
「たしかに、あなたの言うとおり、生徒会は便利なモノを提供してくれたわね。花金先輩たちに感謝しないと」
と雪乃に語りかけると、彼女は「あっ!」と声を上げる。
「黒田先輩たちのグループが情報を更新したみたいだべ! 美術部と《キャラクターデザインのミーティング》をするらしいべ」
雪乃の一言に、わたしは、ピクリと反応して、彼女に聞き返す。
「ねぇ、さっき、美術部に対して、黒田クンが、Vtuberのキャラクターデザインの依頼をしたって言ってたけど……美術部の部長さんって、どんな人なのかな?」
「入学したばかりなので、わたすには、詳しいことはわかんねけども……」
雪乃は、一瞬、うつむいてそう返答したものの、すぐに顔を上げて、
「任してほしいべ、四葉ちゃん! わたす、こういうことは得意なんですぐ調べてみるべ!」
と言ってから、タブレットPCで、すぐに美術部の部長さんの名前を検索したあと、今度はスマホを取り出して、《ミンスタグラム》をアプリをタップし、パブリックサーチを始める。
良く知られている『エゴサーチ』の対義語として用いられるパブリックサーチ(通称:パブサ)は、インターネット上で有名人や友人など特定の他者を検索することを指す。 つまり、エゴサは自分自身、パブサは他人を検索するものと考えて良い。
すぐに、美術部の部長である加納涼子さんのアカウントを発見した雪乃は、
「四葉ちゃんの情報や投稿に対する反応を検索しているいつもの習慣が役に立ったべ」
と言いながら、スマホの画面をこちらにかざす。
雪乃が示した画面には、主に、投稿主が描いたと思われる絵画を中心に画像がアップロードされていたが、時おり自撮りと思われる画像も混じっていた。
切れ長の瞳とクールな表情もさることながら、特徴的なのは、ツーテールに伸びる髪の根元を、ひとつづつお団子のようにまとめている髪型だ。
海外でも人気のある日本のアニメ、セーター服姿の美少女戦士の主人公を想像してもらえると、わかりやすいだろうか?
「な、なんというか……さすが、美術部の部員さんは、独特のセンスをしているわね」
言葉を選びながら、感想を述べつつも、わたしの中で、黄瀬クンたちが、先に取材の約束を取り付けていたにも関わらず、クロの提案で美術部が、クロのチームと組むことになったらしい、という雪乃の報告が気になっていた。
黄瀬クンたちには悪いけれど、さすがは、わたしが見込んだ相手というべきか、相変わらずクロは、他人の心を動かすのが上手い。
彼の提案は、きっと、自分たちの描くキャラクターを見てもらいたい、と考えている美術部の部員の心に刺さったのだろう。
(もう……そういうところだぞ……)
正直なところ、多くの人(特に女子)にクロの良さを知ってもらうことは嬉しく感じる反面、どこか、心の中にモヤが広がっていく部分があるのは事実だ。
(クロの本当に良いところは、わたしだけが知っておけば良いんだし……)
彼の評価が上がるのは嬉しいけど、しんどい部分もあるんだなぁ……あらためて、そんな風に感じている自分に気づき、
(アレ? もしかして、これが、よく言う『推し』に対する『同担拒否』ってヤツ?)
と、小学生の頃から見られる側に居たわたしは、初めて感じる感情に戸惑い、自分でもコロコロと表情が変わっていることに気づく。
そんな自分のようすを不思議そうに見つめていた雪乃が、
「これは、他の女子に黒田先輩が褒められるのを聞いたときの四葉ちゃんの表情だべ……心配しなくても、『女房の妬く程に亭主もてもせず』という言葉もあるべ……だども、安堵と不安でコロコロと変わる四葉ちゃんの表情は、時間が進むごとに様々な色を見せてくれる晴れた日の三陸海岸の空と同じくらい美しいべ」
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