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番外編

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「ん~、噂通り。いや、それ以上の美しさだったね。さすが王女様なだけあるわ~」
「あ……あの……私は王女では……」
「あぁ、いいのいいの。ある程度話は聞いてるから」
「はぁ……あのそれより…」

 ゆるゆると髪の毛を指に巻き付けられながら話しかけられる。その指を横から掴んで止める手。

「なんでライトが一緒の馬車に乗ってるの?」

 隣に座るテオドールがギリギリと手を掴んで向かいに座っているライトを笑顔で睨みつける。

「えぇ、警備しなきゃでしょう? 仕方ないじゃないですか」
「それはそうだけど。だったら適度な距離を保って欲しいんだけど」
「え~、こんなに可愛らしい女の子がいるのに無理無理!」
「……君、ツェイが僕の婚約者だって知ってるよね」

 じとっとライトを睨みつけるけれどまったく響いていないのかニヤリと口の端をあげるだけだ。

「まだ結婚してないならチャンスあるかな~、って?」
「あるわけないだろ!」

(あわわ、テオドール様がまた怒ってる)

 また慌てるけれどはっきりとツーツェイを守るような発言に少し嬉しくなって口がにやけてしまう。

「うわ、ちょっ、こんなとこで魔術使わないでくださいよ! あー、もう手出しませんから!   ったく、この人も危ないなぁ」

 長い魔唱を唱え始めたテオドールを止める。

「はぁ、ルイもテオドール様も警戒心強いし……あ~、今度は皇太子妃でも狙ってみようかな。あの子もめちゃ美人……ッ!?」

 いきなり走った悪寒にライトが言葉を放つのをやめる。がたがたと身体が震えてくる。

「なんだろ……急にめちゃくちゃ寒いし怖い」
「命が惜しかったら二度とそんなこと言わないほうがいいと思う」

 その後なぜか静かになったライトが『やっぱりフリーの子狙ってきますね~』と使用人の女の子たちがいる馬車へと乗り換えていった。

「なんだか静かになりましたね?」
「はぁ、馬車に乗ってるだけで疲れたの初めて」
「ふふ、私は楽しかったですよ。テオドール様があんなに他の人に冷たいの初めて見ました」
「……それは楽しいの?」

 げっそりするテオドールに笑いかけると、困ったように息を吐いてから少し微笑む。

「それにしても、帝国にはお綺麗な男性が多いのですね。なんだか目がチカチカします」
「チカチカ?」
「はい、眩しくてチカチカ……」
「そう……」

 テオドールに元気を出してもらおうと、目をわざとらしく瞬きさせて笑いを誘う。けれどなぜかさらにむっと顔を顰めてしまった。

(あれ?   面白くなかったかな?)

 きょとんとしていれば、目の前にずいっと顔を近づけられて今度はわざとではなく本当に瞳をぱちぱちとさせてしまう。

「あ、あの……」
「ライトの方が好みなの?」
「え……え、ええ?」
「綺麗な男性って言ったでしょ」
「は、はぁ……それは……」

(言った、言ったけれど……それはわざと話を変えるた……)

「ッ!?」

 するりと手の甲で太ももを下から上へ撫でられる。

「あの、て、テオドール様、ここは馬車の中だし……」
「うん。悪いのはツェイだよね?」
「あ、な、なんで……」
「ツェイは誰の婚約者?」

 白のローブの首の留め具を外すテオドールにごくりと喉がなる。

(ま、待って!    心の準備が!   ていうか馬車でなんて聞いてない!!)


「まだわかってないみたいだから教える必要あるよね?」

 ――――シャッ!

 そう心の中で叫んだけれど、にっこりと悪い笑みを浮かべたテオドールに無慈悲に馬車の窓のカーテンが閉められた。

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