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8.大量の贈り物
しおりを挟む「や、やっぱり……」
伝票に書かれた名前。送り主のところに綺麗な文字で『久世』という名前が書かれている。
すぐに起き上がってほかのダンボールも開いてみれば、たくさんの食材や日持ちがする保存食、お米、化粧道具や日用品までありとあらゆる一流品が入っている。
(な、なんでこんな……っていうか、まず……)
「なんで私の住所知ってるの!?」
そのことに気がついて顔が青ざめていく。それに彼と出会ったのは昨晩のことだ。
『あぁ、それでいいよ。早急に準備して。早急にね。じゃあまた連絡する』
『さすが弁護士さん。お忙しそうですね』
『うん? そんなことないよ。楽しいから』
バーでお酒を共にしていたときに何度か電話やメールのやり取りをしていて忙しそうだなぁと声をかけたけれど、満足げに微笑んだ久世さん。そんな久世さんに立派な人だなぁと感心していた。
感心していた、けれど……していたはずなんだけど……まさかと思うがそのまさかなのかもしれない。
「私の住所調べて、この送り物の準備してたの!?」
(嘘でしょう!? 怖すぎる、なんなのあの人!)
ますます彼の真意がわからない。酔いは醒めているはずなのに頭がぐわんぐわんと回ってくる。感心していた純粋な自分を返して欲しい。
とにかく送り返さなければと封を閉じようとすれば中にメモが入っているのに気がつく。怖かったけれど彼の真意が知りたかったのでそのメモを手に取って読む。
『よかったら使ってほしい』
そう書かれたメモ。いや、使ってほしいと言われても身分不相応すぎて洋服やバックに着られるだけなのですけれどと苦笑してしまう。
(早く返送しないと、もちろん着払いで)
すっとメモを戻してから他のダンボールに入っていたメモも読む。
『送り返してもまた送るから』
私の考えを読んでいるような一文。
そうなら現金書留で払える分を払うしかないか……と頭を抱えて、ゼロが数が少ない通帳が入った棚をチラリと見てから、また次のメモを開く。
『お金を払ってきたら、その分をまた送るから』
「怖っ! あの人エスパーなの!?」
メモを壁に叩きつける。乾いた音だけ響いて床にヒラヒラと嘲笑うように軽やかに落ちていく。
『生鮮食品もあるから、返送してる間に腐ってしまうよ』
『日持ちするものも俺は食べないから腐らせるだけ』
『あぁ、せっかく作ってくれた方々に申し訳ないね』
そう私の心をえぐるような一文のメモばかり。なんていうか私が弱いところを知り尽くされている。昨日会ったばかりなのに。
さすが弁護士なだけあると違う意味でまた感心してしまう。
(仕方ないわ。生ものだけ有難くいただいて、あとは直接お返しするしかなさそうね)
伝票に書かれているのは久世さんの法律事務所の住所。今日は土曜だからやっていないだろうから週明けどこかで時間をとって返しに行くしかないかとため息をつく。
「できれば思い出にしたかったのにっ……」
またあの重い婚姻届を思い出して身震いする。けれど横目に入ったのはA5ランクの黒毛和牛。はぁはぁと荒い息と口に涎が溜まってくる。
「く、腐らせても牛さんに申し訳ないよねっ!? これは生命に感謝してるだけだし?」
なんとも単純な私は先程の身震いを忘れて、緩む口を抑えながらA5ランクの黒毛和牛と高級食材をスキップでキッチンに運んだのだった。
その後、十五年振りくらいに食べた黒毛和牛。『お口の中でとろける!』と大粒の涙を流しながら笑顔で食べたのは私くらいかもしれない。
そんな久しぶりの満腹感を噛み締めた翌日の日曜日──……。
「お姉さん、またっすか? てか部屋に入ります?」
「ははは……無理やり詰め込みますから置いといてください……」
「重めな彼氏なら別れた方がいいんじゃないっすか? まぁ俺がこんなこと言うのも失礼かもだけど」
「はははー……」
「じゃあこんだけなんで、あざっしたー」
げんなりする表情を浮かべた昨日と同じ宅配のお兄さんが手をヒラヒラと振りながら立ち去っていく。
部屋に大量に積まれたダンボール。もはやダンボール屋敷と化していて、いま地震が起きれば私は確実に死ぬレベル。
満足げに黒毛和牛を堪能した昨日の単純な自分を殴りたい。今度は高級鶏の詰め合わせ。冷蔵便以外は恐ろしいのでもはや開けていない。
肉系は日持ちもしないから、頑張ってお腹に詰め込む。部屋同様に私の胃袋もキャパオーバーだ。なんだったら冷蔵庫も。
食材以外のダンボールを下から見上げて怒りが沸いてくる。あの人はきっとボロアパートの広さや冷蔵庫の大きさ理解していない。根っからのお金持ちに違いない。
(すぐに文句を言わないと!)
そうダンボールを強く叩けば、少しぐらついたので慌ててしがみついて倒れないようにした。
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