竜使いの伯爵令嬢は婚約破棄して冒険者として暮らしたい

紗砂

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そして、遂に婚約者との顔合わせ当日。
私は少し緊張しながらも初めて見る婚約者に対し色々な想像を膨らませた。

そして、遂に婚約者となるレオニード様が入室してきた。
澄んだ青い瞳に海の様な青の髪。
その容姿は話に聞いていたよりも綺麗だと感じた。

私が挨拶をしようとしたその時だった。


「…こんな男勝りな女が俺の婚約者なんて…世も末だな」


などと口にしたのだ。
『男勝り』だと。
少なくとも初対面でそれは無いだろう。


「……名も知らぬ方に言われたくはありません。
それと……礼儀も弁えない方が婚約者などそれこそ世も末では?」


私は満面の笑みを浮かべ言ってやる。
私はお母様譲りで気は強い方なのだ。
確かに私は男勝りかもしれない。
それは認めよう。
何せ、お母様に剣術を教えてもらったりお母様の知り合いの冒険者の方から魔法や槍術、弓術など色々と教わってきたのだから。


「…なっ……。
お前こそ礼儀を弁えろ。
俺は侯爵家の」

「あら…。
あなたが私の婚約者になるのでしたら将来はヴェノム家の婿養子という事になるのでしょう?
侯爵かもしれませんが……。
侯爵家と言えどあなた自身は何もしていませんわ。
それに、この家は伯爵とはいえ辺境伯爵。
その意味くらいお分かりになりますでしょう?」


私は好き放題言って満足した。
そのため私は相変わらず笑顔で部屋をあとにした。

そして自室に戻り、頭をかかえる。


「あら…お嬢様…顔合わせはどうなされたのですか?」

「……イラッときたから好き放題言って出てきた……」

「……相変わらずですね…」


そう。
私には以前、いくつかの縁談があった。
その度に私は何度も同じ事をやって破棄されてきたのだ。

……相変わらず学習しない私だった。
直そうとはしているんだけどなぁ……。

だが、侯爵家といえど辺境伯爵には手出しはできない。
何故なら辺境伯爵こそが国の防衛線であり、なくてはならない家だからである。
そして、その中でもこの地の隣接国は好戦的であり他の辺境よりも敵が攻めてくる回数が非常に多い。
だからこそ私兵も他の家よりも強く、防衛にも長けている。
軍力ではある意味国よりも高いとされている家なのだ。
その家を敵に回すなんて馬鹿な事はしない、否。
できないのだ。

私もいざと言う時のために戦えるよう、剣と槍、徒手空拳を習っている。
……主に母からだが。
時々、この領地にいる騎士や父からも習う事がある。


「お嬢、入りますよ」


扉の向こうから聞こえてきたのは馴染みのある人の声だった。
父の側近であり、時々私に剣を教えてくれる人だ。


「相手方が何か苦情でも?
私は反省はしておりますが後悔は全くしていませんが……」

「……自覚があるなら辞めて欲しいんですがねぇ……。
ま、幸い苦情はありませんでしたよ。
それどころか逆に気に入ったらしいです。
良かったですねぇ、お嬢」


……それは嫌味だろうか?
いや、それよりも気に入ったって……何がどうしてそうなった!?


「……で、お嬢。
旦那様と奥様がお呼びですよ」


という事で私はお父様の執務室まで足を伸ばした。


「……アメリア。
あのブシュベルが正式に婚約を申し込みたいそうだ。
……どうする?
私は反対だ。
アメリアは誰にも渡さ…」

「ラサール?」


お母様がナイフの刃をきらめかせるとお父様はグッと黙り込んだ。
そしてお母様はため息をつき、お父様の変わりに話し始めた。

…いや、それよりも侯爵家をごときというのはどうかと思うのだが。


「アメリア、どうする?
婚約を受け入れるか、破談にするか…」


と言われても相手は侯爵。
受け入れなければ色々と叩かれるのであろう。


「破談させたとしてもそう簡単には転ばないさ。
そんな事はラサールに任せてしまえばいいしな。
だからアメリア、家の事は気にしなくてもいい」


お母様は嘘をつく時、いつもより少しだけ目を細める。
そして、今回、お母様は目を細めた。
と、言うことは…だ。
お母様は嘘をついている。
それは多分、立場が厳しくなるかもしれないと言うことなのだろう。
ならば私が取る答えは1つしかない。


「……お受けいたします」

「……そうか。
済まない」

「アメリ…グハッ」


お母様は申し訳なさそうに顔を歪めた後、お父様の言葉を遮るようにして鳩尾へと拳を放った。
鳩尾へと綺麗に決まった拳のせいでお父様は椅子からずり落ち痛みで悶えている。


「アメリア、久しぶりに手合わせでもしないか?」

「お願いします!」


お母様には型を見てもらったり教えて貰うことはあったが手合わせをしたのは2年前程になる。
あの時、私はあっさりと負けた。
だから今度はせめて一発くらいは打ち込む。

そんな意思で私はお母様に挑むために準備をした。
屋敷とは少し離れた位置にある訓練所へお母様と共に行く。
すると、そこにはレオニードがいた。

…敬称?
必要な時はちゃんとつけるさ。


「アメリア、ハンデはだ。
いいな?」

「っ…はい」


ハンデが無いという事はようやく私がお母様のになると認められたという事だ。
ならば、私はそれに全力を持って応えよう。


「ライン、合図を頼む」


父の従者であるラインは私の時とは対応を変えていた。


「はっ!
それでは…初め!!」


私とお母様は互いに一歩も動かずに動きを観察している。
私はどう動けばいいのかをシミュレーションしていくがどれもお母様には叶わない。
私の技量や運動神経はまだまだお母様には届かないという事だ。
…だが、ここで諦めるような私ではない。
私が今、手に持っているのは木刀だ。
だが、私が習っているのは剣だけではない。
槍と徒手だって習っているのだ。

全てを活かし、全てを打ち消す。
それがお母様のやり方。
ならば私はお母様のものを最大限に利用させてもらおう。
これでやり方は決まった。

ゆっくりと、お母様や騎士達から教わった事の1つ1つを思い出しモーションに入る。
するとお母様はすっと、目を細めた。
私を射抜くような冷たく、鋭い視線に戦きそうになる。
お母様からかかってくるプレッシャーに怖いとさえ感じる。
私はそんな感情を捨て去るように深く息を吸い込んだ。
冷たい空気が酷く心地よい。


「ふぅ…………」


と、肩の力を抜くと私は一直線にお母様に向かっていった。
そして、お母様の剣が届くギリギリのところで止まり、後ろへと回り込む。
だが、次の瞬間、ガンッという木刀とは思えない程鈍い音をたて私の手から木刀が滑り落ちた。


「勝負あり!」


ラインのその宣言の元、私はため息を付き思考を開始した。


「アメリア、精進しろ」

「はい、お母様!」


そんな私達を見ていたレオニードは気が気じゃなかった。
当然だろう。
最強といわれる唯一のSSランク冒険者。
それが彼女、スカーレット・マグス・ヴェノム元の名をスカーレット・マグス・ヴィンターという女なのだから。
Sランク冒険者は現在11名いる。
だが、その誰もがスカーレットに挑み、ハンデありの状態で瞬殺されているのだ。
それなのに…それなのに彼女は、アメリアはハンデ無しの状態で1分は持ちこたえた。
……と、いう事はだ。
彼女はその歳ですでにSランク冒険者よりも強いという事なのだから。


「……帰る」

「ブシュベル様、よろしいので?」

「あぁ、俺もこのままじゃいられないからな」


彼は従者にそう答えると訓練所に背を向け、歩き出した。


「さて、アメリア。
訓練を始めようか」

「はい!
お母様!!」


元・SSランク冒険者とそれを知らないアメリアはとことん訓練を続けていたのだった。
それを見た従者達は一様にまたか……という呆れた表情をしていた。
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