竜使いの伯爵令嬢は婚約破棄して冒険者として暮らしたい

紗砂

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入学式当日。
私とレオニード様は同じ宿に泊まっている事もあり、2人で早めに向かった。

受付をしてから各科目のテントへと行きバッチを受け取る。


「……名前」

「アメリアですわ」

「レオニードだ」

「………ん」


私達の担当をした黒髪の先輩は少し眠そうだった。
必要以上に言葉がないのはそのせいなのか、それとも普段からなのかは分からないが……。


「おっ!
アメリアとレオニードじゃねぇか!」


奥から出てきた先輩は試験の時に色々と教えてくれたあの先輩だった。
赤髪が綺麗だなぁ…と思ったのでちゃんと覚えていた。
何となく、火属性の魔法が得意そうだと感じがする。


「おはようございます、先輩」

「おう!
そういやぁ、自己紹介がまだだったな!
俺はラン・クリーク。
ランでいいぜ!」


クリーク家と言えば槍で有名な家だろう。
馬上槍大会でもここ3年はクリーク家が優勝しているはずだ。
まぁ、私は1度も出たことがなかったが……。


「ラン先輩、よろしくお願いしますわ」

「よろしくお願いします」


ラン先輩のせいで有耶無耶になってしまっていたが……。
バッチは渡されないのだろうか?


「………これ」

「え…ありがとうございますわ」

「この色……」


レオニード様が呟いたのも無理はないだろう。
何故ならそのバッチは、黒く輝いていたのだから。
しかも2つとも、だ。


「お……2人共黒か。
んじゃ、強化合宿のグループは同じになるかもな!」


強化合宿……。
定期的に行われる過酷と名高いあれの事か。
先輩の言い方から察するにバッチの色事で分けられるのだろうか?
少しだけ楽しみだ。


「アメリア、なに笑っているんだ……」

「強化合宿が楽しみで……」

「………所詮アメリアはアメリアか……」

「レオニード様、それはどういう意味でしょうか?」


私は片手を剣に手をかけて笑顔で問いかける。
するとレオニード様は失礼な事に顔を引き攣らせ、誤魔化した。
元々冗談のつもりだったので私は剣から手を離しふふっと声を出して笑うとレオニード様は「仕方ない」とでも言うように苦笑を漏らした。


「ほら、さっさといかないと遅れるぞ」


そんなラン先輩の声で私とレオニード様はぺこりと頭を下げ、入学式の行われる館へと向かう。







長く退屈な入学式が終了すると私達はすぐに各クラスへと移動する。
私達のクラスは戦闘科の黒だ。
そのため少しだけ遠い塔にあるがそれくらいは仕方ない。


クラスへの移動が終了すると教師が教室へと入ってくる。
それに伴いジロジロと私を見ていた人達も教師へと視線が映り、ザワザワしていた教室がシンと静まる。
この切り替えの良さはさすがだと言えるだろうなどと思いつつ、私は教卓へと意識を向けた。


「私は元、近衛のタナトスだ。
本日を持ち、このクラスの担任を務める事になっている」


まず、その名にザワめいた。
それはそうだろう。
何故ならその名の元近衛といえば長年団長を務めてきた人物であり、最強とも言われていた人物なのだから。

そして、そんな人物が戦闘科の黒の担任であるとは……。
なんという幸運だろうか?


「…私がここで教えるに当たってだ。
途中で諦めるような者には出ていってもらう。
いいな?」


そんな元団長、タナトス先生の言葉に私達は全員、「はい!」と息を揃えて返事をしたのだった。
その返答に満足したのかタナトス先生はフッと笑みを零した。


「いい返事だ。
さて…何か質問はあるか?」


すると、スっと1人の手が上がる。
先程教室へ入って来た時にジロジロと私を見ていた人達のうちの1人だ。


「なんだ?」

「クラスは実力で選ばれると聞いたのですが…何故、女がいるのでしょうか?」


そんな男子生徒の言葉でクラスの視線が一気に私へと集まった。
元々あまり気が長い方ではないと自覚している私は微笑んだ。


「あら、実力も計れないあなたの方が実力不足ではなくて?」


少なくとも私は私を馬鹿にした男子生徒よりは強いという自信があった。
私が見るにその生徒の実力はレオニード様よりも下だろう。
だが、魔力だけはレオニード様よりも多いためせいぜいレオニード様の少し上止まりだ。
まぁ、魔力だけは、だが。
その程度の力では私には勝てない。
いや、勝たせない。
Sランク冒険者としての誇りとお母様の名にかけて。


「なっ……俺はBランク冒険者だぞ!?」


その言葉で私は首を傾げる。
『その程度で私に勝てると本気で思っているのか』
と。
確かにBランクは1流冒険者と言われてはいるもののその上にランクは3つある。
この年齢でBランクは高いかもしれないが自分の力を過信しているようではすぐに死ぬだろう。
それに、私は2年前には既にAランクだった。


「口を慎め」


私が口を開こうとした瞬間だった。
先生が先程よりも少し低めの声を出した。
私達が止まったのを見て、先生は再び口を開く。


「アメリア・ヴェノムは不正などしていない」


その言葉に男子生徒は納得出来ていない様子ではいたものの着席した。
理由は先生が多少の殺気を漏らしていた事にあるだろうが。
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