脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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お礼

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そして、愛梨と相対した日の夜。
私は再び父に呼び出されていた。
昨日の今日ということもあって、少し緊張気味に父の部屋の扉を叩く。


「…入れ」


その声は少し強ばっているような気がした。
また松江家から苦情があったのだろうか?
それならば今回は仕方ない。
素直に怒られようと思う。
今日は少しやりすぎた気もするし。


「失礼致します」


意を決して中に入ると目に入ってきたのは土下座した父だった。


「……ふぇ?」


私の口からそんな間抜けな言葉が漏れる。


「咲夜!!
済まなかった!
私が一番お前を信じてやらなければならないというのに松江の言葉を鵜呑みにして信じてやれなかった!
本当に済まない!
駄目な父親だと言うことは重々に理解している!
だが……」


それは、昨日の件の謝罪だった。
それは私を信じてくれたという事の現れでもあるのだろう。
その事が私にとって一番嬉しかった。
何より、父に私の頑張りを認められたような気がしたのだ。


「お父様、もう良いですわ。
昨日の事ですもの。
ですから…そろそろ頭を上げてください」


それでも父は決して頭を上げようとはしなかった。


「お父様っ!
私はもう気にしてませんから…頭を上げてください!」


娘に土下座する父親とか……なんかシュール……。
というか、こんな父を見たくなかった……。


「……だが…」


未だに渋る父に対し私はならば……と、お願いをした。


「お父様、今度海外から帰ってくる際は美味しいマカロンのお土産を買ってきてください。
それで許しますわ」


父は恐る恐るといった様子で頭をあげた。


「そんな事でいいのか?」

「……美味しいマカロンじゃなきゃ嫌ですよ?」


なんて言って笑いあった後、松江家の話となった。


「咲夜、松江の事だが……。
松江の娘は転校になるそうだ。
それと、お詫びの品を届けると言ってきた。
……咲夜、それでは気が済まないかもしれぬが…」


許して欲しい、と父は私に言ってきた。
父が何に怯えているのかは分からないが、私は笑顔で頷いた。

確かに愛梨に対しては怒りを感じていたがもう言いたい事は言った。
何より、紫月と愛梨が顔を合わせなければいい。
それに……愛梨は奏橙にご執心だった様だし奏橙と会えないという事が彼女にとって一番の罰になるだろう。
そう考えたからだった。

その他にも理由はあるが……一番の理由といえばまた顔を合わせるようなことになれば、兄を止められないと感じたからである。


「咲夜、悠人を呼んで来てくれるか?」

「分かりましたわ。
…失礼しました」


兄に何の用があるのだろうか?

……天体望遠鏡の件だろうか?
それか愛梨の事……はないか。
…兄には迷惑をかけたし、ファンクラブの会長さんへのお礼もしなきゃいけないからクッキーでも作ろうかな?
まぁ、それもとりあえず兄を呼んでからか。

兄の部屋の扉を軽くノックすると、扉の前にいたのかと思う程早く扉が開いた。


「咲夜、どうしたの?
一緒に遊びたいのかい?」


……兄の中の私はどれくらい小さいままなのだろうか?
私はもう高校生なのだが……。


「お父様がお兄様をお呼びですわ」


すると兄は少々ガッカリした様子でテンションを下げた。


「…そう。
分かったよ。
咲夜が遊びにきてくれたわけじゃ無かったんだね……」


チラチラとこちらを伺う兄は正直に言ってウザかった。
だが迷惑をかけた事もあり強くは言えなく、私は内心ため息をつくと機嫌を良くするため1つお願いをした。


「……お兄様、今度の休日ですが水族館に行き…」

「一緒に行こうか」


……兄のテンションが急上昇した。
先程とは打って変わって満面の笑み。
対する私は思わず顔を引き攣りそうになる。
それをどうにか堪え笑みを浮かべる。


「ありがとうございます、お兄様!
私は戻りますね」


私は兄に止められないうちに逃げだすと厨房をのぞき込む。
すると、最近入った見習いさんと目が合った。


「あ……お、お嬢様!?」


バレてしまったなら仕方ないと私は彼のそばまでいき、手元をのぞき込んだ。
彼の手元にはお菓子や料理などのコツが細かく書きこまれたノートがあり、その消耗している様子からとても大切にしてきただろう事が伺える。


「お、おおおお嬢様!?
な、なな何を…!!」


その慌て様に思わずふふっと笑ってしまう。
すると彼は何故か顔を赤く染め上げた。

……恥ずかしかったのだろうか?
私もそうだけど……努力しているところを見られるのってなんか恥ずかしいから良くわかるんだよね。


「あ…申し訳ありませんわ。
今日はあなた1人なのですか?」

「い、いえ!
料理長は食材の注文を…」


あぁ、だから今は彼1人なのか。
2人は……多分休みかな?


「料理長はいつ頃戻ってくるか分かりますの?」

「出ていったばかりなので30分は戻らないと……」


そうか……。
教えて貰いながらやろうと思ったが……仕方ない諦めるか……。
…クッキーの作り方ならこの人でも分かるよね?


「お嬢様はどうしてこちらへ?」


丁度いい。
彼にお願いするか。


「お兄様にお渡しするクッキーを作りたかったんですの。
…教えてくださいませんか?」


兄との生活の中で上目遣いが一番有効であるという事は既に分かっている。
私は羞恥心を捨て、上目遣いでお願いする。
その効果はあったのか、彼は顔を赤くしながらも了承してくれた。
優しい人で助かった。


「お嬢様…」

「咲夜でいいですわ。
あなたの名前も教えてくださるかしら?」

「し、失礼しました!
私は、天童司といいます」


天童さんか……。
天童、天童……うん、覚えた。


「よろしくお願いしますわ、天童さん」

「は、はい!」


そうして始まったクッキー作りは思いのほか順調だった。
中等部の2年の時以来だったが天童さんの教えもあり上手くできた。


いくつか上手く焼けたものをラッピングをするとそのうちの1つを天童さんに手渡す。


「え……」

「今日のお礼ですわ。
天童さんに教えてもらいながらでしたので天童さんより下手かもしれませんが貰ってくださいませんか?」


どうせ作り過ぎちゃったし。
お兄様と、会長さんにあげるとして、残りは13。
愛音と、紫月、天也、奏橙、皐月先輩、白鳥先輩、朝霧先輩、鬼龍院先輩に渡すとしても残りは5つ。
母と父にも渡すとしても3つは余ってしまう。
あとは清水にも渡すとして残り2つ。
愛音には弟がいたし、愛音繋がりで渡すとしても結局1つは余ってしまうのだ。
そのため、お礼の意もこめ天童さんに渡そうという事であった。


「さ、咲夜様……俺…私なんかが貰っていいのでしょうか?」

「勿論ですわ。
…それとも、これでは嫌ですか?」


嫌と言われたら何か他のものを買って渡そう。
お礼はしなきゃいけないし。
あ、でもそうなった場合このクッキーどうしよう?


「い、いえ!!
滅相もございません!
ありがとうございます、咲夜様」


天童さんは笑顔でクッキーを貰ってくれた。
うん、よかった。

私はもう一度お礼を告げると兄は後回しにして母の元へ向かった。


「お母様、よろしいでしょうか?」

「あら、咲夜ちゃん。
勿論、いいわよ」


優しく微笑んでいる母にクッキーを渡すと嬉しそうに頬を綻ばせた。


「ありがとう、咲夜ちゃん。
後で美味しくいただくわ」


そんな母の可愛らしい笑顔を見て、私もつい頬を緩ませた。

そのまま母の部屋を後にすると廊下で私は考え出した。

…父と兄はまだ話をしているだろうか?
話の途中で乱入するのも申し訳ないし…清水に渡す事にしよう。

清水は簡単に見つかった。
私の部屋の前にいたからだ。
清水の表情は見ている人を安心させるように思える程、穏やかなものだった。


「お嬢様、お元気になられたようでよかったです」


清水は私と2人の時、お嬢様と呼ぶのだ。
何度も名前で呼んでくれと言っているのだが聞き入れてはくれなかった。

清水は清水で私を心配してくれていたようで申し訳ない気持ちと少し嬉しいような、そんな感情が混ざり合う。


「清水、心配をかけましたわ。
…お詫びといってはなんですけれど貰ってください」


清水は目を見開いた後、嬉しそうに目を細めた。


「…お嬢様、ありがとうございます。
家宝に致します」


いや、そこは食べようよ。
家宝って……腐るし!
本当、清水は大袈裟だ。

私は「言い過ぎですわ」などと困ったように笑い、最後に父と兄の元へ向かった。

丁度話が終わったところの様だ。
兄は薄く笑みを浮かべているが、父は何故か怯えたような引きつった笑みを浮かべていた。

…ま、いっか。


「お父様、お兄様先程作ったのですが…貰ってくださいませんか?」


なーんて、伺うように聞いてみると突然視界が暗転したうえ息苦しさも感じる。


「咲夜!
咲夜咲夜咲夜咲夜!!
ありがとう、作ってくれたんだね。
可愛い可愛い僕の天使…やっぱりあと30年くらいは婚約者を決めないようにしよう」


……兄が怖い。
いや、今に始まった事じゃないけどさ……。
だけど怖いものは怖いのだ。
というか兄よ。
30年は行き遅れになってしまうのだが…。


「お、お兄様!
苦しいですわ…!」


幸い、右手だけは無事だったので右手を使い兄の背中をポンポンと叩く。
そんな私に兄はハッとした様子で力を緩めた。
……依然として腕の中にいるのは変わらないが。


「済まない、咲夜!
咲夜が可愛すぎて……。
大丈夫?
怪我はない?
……あぁ、良かった…」


怪我って……。
抱きしめられただけで怪我って……。
……それは勘弁願いたい。


「さぁ、行こうか咲夜」


え……まだ父にクッキー渡してない…。

兄の顔を見上げると笑顔の裏にはヒシヒシと怒りが満ち溢れているような気がした。
これって愛梨のせい?
それとも父が何かやらかした?


「お兄様、少しだけ待っててください。

お父様、折角作ったので渡しておきますね。

お兄様、お待たせしました」

「咲夜、ありがとう」


父が目を細めると兄はすぐに睨みつけた。
するとそんな兄の咎めるような視線にウッと息を詰まらせると小さく「済まない」と呟いたのを私は聞き逃さなかった。

……兄は一体何をやったんだろうか?


「……お兄様」


私はどうしても父の事が気がかりで兄に尋ねてみる事にした。


「どうしたんだい?
折角の可愛い顔が台無しだよ?」


……安定のシスコン発言でした。
まぁ、この際それは置いとくとして……。


「お父様はどうかなさったのですか?
先程と比べて元気が無……」

「咲夜は気にしなくともいいんだよ。
あんな僕の咲夜を泣かせるような奴の事なんて……ね」


兄の目は据わっていた。
口元だけは弧を描いていたが目は全く笑っていない。
その歪さが余計私に恐怖を与える。

私は兄をどうこうするのでもなく心の中で父に向けて合掌をした。
『強く生きてください、お父様……』
その言葉が届く事はなかったが 後数日。
父が無事に生きている事を願いたい。

あ、そうだ。
朝霧先輩と白鳥先輩、鬼龍院先輩、皐月先輩に渡すクッキー、兄に渡して貰おう。


「お兄様、皐月先輩と朝霧先輩と、白鳥先輩と鬼龍院先輩に渡して欲しいのですが……」


すると、私からのお願いだからなのか嬉しそうに微笑んだ。
その笑みを私以外の女の人に向ければいいのに……。
例えば愛音とか皐月先輩とか……。


「咲夜からのお願いなら拒む理由は無いね。
分かったよ。
僕が責任を持って渡しておくよ。
……涼太や鬼龍院先輩には咲夜の手作りクッキーは勿体ないと思うけど」


兄が最後に呟いた言葉は正直聞きたく無かったなぁ……。
あれ、そう言えば兄は私が天也と奏橙と関わるのは嫌そうにするのに朝霧先輩と関わる時だけ何も言わないなぁ……。
何でだろ?
…兄の親友だからかな?


「……燈弥にも勿体ないな」


……そうでも無かったようです。
この兄のシスコンもどうにかならないだろうか?

恋愛というものに興味がないわけじゃないのに兄がシスコンのせいで恋愛なんて考えられない。

……私が恋をした時点で絶対に相手の人に対して兄が何かやるという自信があるから。
『咲夜の婚約者になるならこれくらいできるよね?』
と無茶振りを言って笑う兄の姿が頭の中に浮かんだがまさか兄がそれだけで済ますはずがないと考えないことにした。
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