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ありがとうとさよならと(2)
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えっと、なになに。難しい業績の話は私にはわからないよ。
「バカ、一番下だ」
一番下ぁ? この功績をたたえ、七瀬こよみに現世への通行証を……ええっ、いいなあ。現世への通行証って生き返りってことでしょ? 七瀬さんって人よく頑張ったんだねえ。ようし、私もそれを目指して、ん? 七瀬こよみって……!
「私じゃん!」
「お前だよ」
「こよみちゃんなんだもんね」
え、ええ、でもさっき、レイくん私のことヨミって……。
「こっちのほうが呼びやすかったんだもん」
な、なんですかそれ。
信じられなくて何度も何度も同じ部分を読む。
七瀬こよみ。七瀬こよみ。私だ、七瀬こよみ。
「ほら、通行証だ」
思わずソファーから立ち上がると、クロノさんが一枚の薄い紙を差し出した。
「これが、通行証……」
私が欲しくてたまらなかったもの。
「左手出せ。貼ってやる」
「シールなのっ?」
「落としたりしたら困るだろ」
まあ、それは確かに。
指示に従うと、手の甲にぺたりとシールが貼られた。まじまじと見る間もなく、すうっと肌の中に入って消えてしまった。
「消えちゃった!」
「許可を得たやつしか使えないようなシステムなんだよ。よかったじゃねえか」
「見送りに来たんだよ」
「今から帰るのっ?」
「善は急げって言うだろ」
そりゃあそう言うけれど、でも、心の準備ってものが。
「こっちはできてんだよ。せっかくレイも来てくれたじゃねえか」
そう言われちゃえばそれまでだけど。でも、これ、どうやって帰るんですか?
「いつもと一緒だ、行くぞ」
クロノさんのあとに続いて廊下に出る。
なんだか今日はいつもより強引な気がするよ。
「開けてみろ」
「わ、私があけても……」
今まで何回やってもただの壁だったもの。
そう伝えようとしたけれど、二人の真剣な顔に黙るしかなかった。
意を決して扉を開く。
「黒い……」
「今日は、一方通行だからな」
ぐるぐると見慣れた黒が広がっている。
一方通行、ここから先に行ったらもう帰ってこられないんだ。
おかしいな、ずっと、今日のために働いてきたのに。
「クロノさん、あの……」
「泣き言は聞かねえぞ」
クロノさんが私の言葉を遮る。最後までそうなんだもん。だったら私も。
「泣き言なんて言わないよ」
「あ?」
「クロノさん、俺様なとこ直したほうがいいと思う」
「はあっ?」
何を言い出すんだお前は、という言葉がたった二文字に隠されている。
だって、もう言えないんでしょ?
「子供っぽいし、負けず嫌いだし、見栄っ張りだし……」
「おいおい」
「強引だし、怖い思いさせるし、説明下手だし……」
本当に、ダメなとこだらけ。それで本当に大人なの、って感じ。
でも、でも、でもね……でもね。
「そういうとこ全部含めて、クロノさんだもんね。私はクロノさんと一緒にお仕事ができて良かったよ」
「は……バカかよ、ヨミ」
「はやく三文字言えるようになるといいね」
レイくんのほうを向いて、頭を下げる。
もっと、色々話してみたかったけど、もう時間だもんね。
「クロノさんのことよろしくね、レイくん」
「うん。ヨミちゃん、元気でね」
バイバイ。
ありがとう。
さようなら。
二人に背を向けて黒のぐるぐるに向かって歩き出す。
最初に入った時くらい緊張するよ。
ずるっと体が飲み込まれていく。
あたりが完全な真っ暗になって、思わず目を瞑る。
「元気でな、こよみ」
最後にクロノさんの声が聞こえた気がした。
「バカ、一番下だ」
一番下ぁ? この功績をたたえ、七瀬こよみに現世への通行証を……ええっ、いいなあ。現世への通行証って生き返りってことでしょ? 七瀬さんって人よく頑張ったんだねえ。ようし、私もそれを目指して、ん? 七瀬こよみって……!
「私じゃん!」
「お前だよ」
「こよみちゃんなんだもんね」
え、ええ、でもさっき、レイくん私のことヨミって……。
「こっちのほうが呼びやすかったんだもん」
な、なんですかそれ。
信じられなくて何度も何度も同じ部分を読む。
七瀬こよみ。七瀬こよみ。私だ、七瀬こよみ。
「ほら、通行証だ」
思わずソファーから立ち上がると、クロノさんが一枚の薄い紙を差し出した。
「これが、通行証……」
私が欲しくてたまらなかったもの。
「左手出せ。貼ってやる」
「シールなのっ?」
「落としたりしたら困るだろ」
まあ、それは確かに。
指示に従うと、手の甲にぺたりとシールが貼られた。まじまじと見る間もなく、すうっと肌の中に入って消えてしまった。
「消えちゃった!」
「許可を得たやつしか使えないようなシステムなんだよ。よかったじゃねえか」
「見送りに来たんだよ」
「今から帰るのっ?」
「善は急げって言うだろ」
そりゃあそう言うけれど、でも、心の準備ってものが。
「こっちはできてんだよ。せっかくレイも来てくれたじゃねえか」
そう言われちゃえばそれまでだけど。でも、これ、どうやって帰るんですか?
「いつもと一緒だ、行くぞ」
クロノさんのあとに続いて廊下に出る。
なんだか今日はいつもより強引な気がするよ。
「開けてみろ」
「わ、私があけても……」
今まで何回やってもただの壁だったもの。
そう伝えようとしたけれど、二人の真剣な顔に黙るしかなかった。
意を決して扉を開く。
「黒い……」
「今日は、一方通行だからな」
ぐるぐると見慣れた黒が広がっている。
一方通行、ここから先に行ったらもう帰ってこられないんだ。
おかしいな、ずっと、今日のために働いてきたのに。
「クロノさん、あの……」
「泣き言は聞かねえぞ」
クロノさんが私の言葉を遮る。最後までそうなんだもん。だったら私も。
「泣き言なんて言わないよ」
「あ?」
「クロノさん、俺様なとこ直したほうがいいと思う」
「はあっ?」
何を言い出すんだお前は、という言葉がたった二文字に隠されている。
だって、もう言えないんでしょ?
「子供っぽいし、負けず嫌いだし、見栄っ張りだし……」
「おいおい」
「強引だし、怖い思いさせるし、説明下手だし……」
本当に、ダメなとこだらけ。それで本当に大人なの、って感じ。
でも、でも、でもね……でもね。
「そういうとこ全部含めて、クロノさんだもんね。私はクロノさんと一緒にお仕事ができて良かったよ」
「は……バカかよ、ヨミ」
「はやく三文字言えるようになるといいね」
レイくんのほうを向いて、頭を下げる。
もっと、色々話してみたかったけど、もう時間だもんね。
「クロノさんのことよろしくね、レイくん」
「うん。ヨミちゃん、元気でね」
バイバイ。
ありがとう。
さようなら。
二人に背を向けて黒のぐるぐるに向かって歩き出す。
最初に入った時くらい緊張するよ。
ずるっと体が飲み込まれていく。
あたりが完全な真っ暗になって、思わず目を瞑る。
「元気でな、こよみ」
最後にクロノさんの声が聞こえた気がした。
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