15 / 24
第一章
第十五話 『戦いがはじまります・一』
しおりを挟む
エリス様のお話を聞いて、わたしはすぐさま、リヴィ様に手紙を飛ばすことにした。
もし二通目の手紙が届かなかった場合、なにかあったと思ってくださいと。それだけ書けば、察しのいいリヴィ様はわかってくださるはずだ。
廊下の窓を少しだけ開けて、青い小鳥を音もなく空へ放つ。黒く厚い雲の下、青い羽ばたきが遠くなっていく。
お願い、どうか早く届いて。
滅入るような曇天から、粒の大きい雨が降りはじめた。騒々しい雨音が屋敷内に響く。
「領地はもっと雨が酷いらしいね。旦那様と奥様は、今夜も向こうでお休みになるそうよ」
「エセルお嬢様の家庭教師も、馬車がぬかるみに車輪をとられて遅くなるとさ」
「大変ね。早くやんでくれるといいのだけど」
窓に落ちてくる雨粒を見つめていると、廊下の向こうで使用人たちが心配そうに話し込んでいる。
「すみません、エセルバート様は今おひとりなのですか?」
「あら、シャルティーナ様。そうなのです。勉強部屋でお待ちしていらっしゃるはずですよ」
問いかければ、気さくな副侍女長のメリアーノさんが答えてくれた。
「こんな日くらい、お休みになればいいだろうになぁ。最近のエセルお嬢様は元気がなくて、見ていて心が痛む」
「トラシス、言葉を慎みなさい。エセルお嬢様はがんばっていらっしゃるのよ」
いつもはロナを諫める側のトラシスさんが、思わずといった風に呟いた。メリアーノさんはたしなめつつも、その表情は晴れない。やはり思っていることは皆同じなのだ。
「エリス様の授業は終わったのですが、この雨ですから、もう少し弱くなるまで待たせていただこうと思っていたのです。その間、わたしがエセルバート様の勉強を見て差し上げてもよろしいでしょうか?」
「そうですねぇ、……ああ、ダストンさん!」
首を傾げて思案したメリアーノさんは、わたしの背後からやってくる人を見つけて呼び止めた。家令のダストンさんだ。
ダストンさんに話をすれば、「問題ないでしょう」と頷いてもらえた。
「少しの間、お相手をしていただくくらいなら大丈夫でしょう。シャルティーナ様、お願いできますかな?」
「もちろんです」
ダストンさんに笑みを返し、わたしは西棟の部屋まで案内していただいた。
「失礼いたします、エセルバート様」
ダストンさんが丁寧に扉を叩く。中から幼くも美しい声が応じた。
開かれた扉の向こうでは、少女がひとり、ぽつんと椅子に座っている。
薄暗い室内でも輝く金髪。宙を見つめている青い瞳。
少女用のくるぶし丈の服から覗く手足は、もしかするとエリス様より細いかもしれない。
「本日、天候不良のため、リンドール様の到着が遅れております。その間、シャルティーナ様がお相手してくださりますので、お招きいたしました」
ダストンさんはそう言ってわたしを招き入れてくれた。
「改めてご挨拶させてくださいませ。シャルティーナ・グランツと申します」
スカートを摘み頭を下げる。なんの返答もない。姿勢を戻せば、エセルバート様は茫洋とした視線を、どこともわからないところへ向けていた。
「ではシャルティーナ様、どうかよろしくお願いいたします」
「わかりました」
頷けば、ダストンさんは静かに退室していった。
ふと部屋の中を見回す。勉強部屋なのにとても広い。石壁に飾られた大きな織物や、天井の格子ひとつひとつに描かれた絵画も華やかだ。もしかすると、以前は貴賓室だったのかもしれない。
だが今はその面影も薄く、家具が極端に少ない。扉近くにある本棚と、大きな机。エセルバート様がお座りになっている椅子。備え付けの暖炉くらいしか見当たらない。
そういえば、常に控えているはずの侍女も見当たらなかった。
「エセルバート様、侍女をつけていらっしゃらないのですか?」
「……先生が、気がちるとおっしゃるから」
か細い声でエセルバート様が答えた。
なるほど、ふたりきりになるため、侍女などの使用人は一切入れていないのだろう。そのための結界なのか、それとも結界を張るための言い訳か。
やはり、エセルバート様とふたりきりでお話しできるのは今しかない。
この機会を逃せば、なにか恐ろしいことが起こる可能性が――。
わたしは努めて笑みを浮かべ、エセルバート様の傍に膝をついた。
「エセルバート様。先生がいらっしゃるまで、わたしとお話ししてはいただけないでしょうか」
「……あなたと」
「はい。エセルバート様は化学や魔法学に興味がおありと聞き及んでおります。わたしは不詳ながら魔法士見習いです。様々な方の意見や知識を教えていただき、学んでいるところなのです」
「まほうし……、あなたが……」
心あらずといった様子は変わらないが、エセルバート様はわたしの言葉に反応していらっしゃる。
掌を差し出し、その上に力を集中させた。魔法を扱う資質がある者にしか聞こえない、さらさらと流れるような音が響く。
わたしの掌の上に、小さな水の球体が形成されていった。
ぼんやりとしていた青い瞳が、球体へと注がれる。エセルバート様の意識を向けることに成功したようだ。
「空気中に漂う水分を集め、このような形へ変化させました。雨で湿気が高くなりましたから、簡単に集められます」
エセルバート様が見やすいよう、掌を差し出せば、わかりやすく表情が明るくなった。
「もう少し見ていてくださいね」
そう言って微笑みかけ、集めた水を高く移動させる。ぱしゃりと弾けた水は、細かくなって再び空中へ戻っていった。
「魔法によって、ものの形を自在に変化させられるのです」
物質変化は初歩の初歩だが、それでも見慣れない者には不思議に映るのだろう。
驚きに大きく目を瞠り、エセルバート様はわたしの掌と天井を、ゆっくりと交互に見遣った。
「こちらの部屋にも魔法が使われていますね。結界が張られていることが多いようですが、どのような魔道具をお使いなのですか?」
周囲を見回し、わたしは何気なさを装って尋ねた。
先程集めた水はこの部屋の中のものだ。本来なら境の有無を問わず集められるが、なにかに阻害され、壁向こうには力が届かなかった。水を戻した際も同じ。
つまり、この部屋に結界が張られていることは間違いなく、そして、結界内での魔法は使用可能ということだ。
リンドール氏がなにを行おうとしていたのかわからないが、卑しいだろうことは想像に難くない。
「せ、せん……、せんせいが……」
小さな声に振り返ると、エセルバート様ががたがたと身体を震わせ、明らかに恐怖の表情を浮かべていた。
「先生? リンドール先生ですか?」
わたしの問いにも答えられず、ただ恐れ戦くエセルバート様。関節が目立つ細い手で、己の身体をきつく抱き締めている。
リンドール氏のことを思い出しただけで、ここまで恐怖を抱くものだろうか。
一瞬過ぎった事柄にまさかと思いつつ、確かめるためにエセルバート様へ手を伸ばした。
「失礼いたします!」
エセルバート様の袖を引き上げる。骨が浮き上がるほどに細い腕。真っ白な肌に、どす黒い痣が鎖のように絡みついていた。
これは傷ではない。入れ墨でもない。――呪いだ。
魔法士にしか見ることができない呪い。幼い身体には不釣り合いなほど強力に、身体を、魂を強く縛る呪いだ。
これがきっと、エリス様が見たという長いものの正体だろう。エセルバート様が茫洋とし、やせ細っている理由がようやくわかった。
「なんてものを……! エセルバート様、これは誰にかけられたのですか?」
傍らにしゃがみこみ、俯いたエセルバート様を覗き込む。薄紅色の唇は、噛み締められ赤黒くなっていた。
「……わたくしが、エセルが悪い子だから、しかたないの」
「悪い子?」
「先生の、いいつけを、守らなかったから」
「そんな、おかしいです。まだ幼い貴女を、こんな魔法で縛り付けるなんて……!」
怒りに震えるわたしとは反対に、顔に恐怖を張り付けたまま、エセルバート様は小さく首を横に振り続けた。
「……わたくし、いい子にしなければならないの」
「いい子?」
細い肩を抱き締めるが、エセルバート様の震えは一向に止まらない。
大きな青い瞳は焦点が合わず、ここにはいない『なにか』に恐怖している。
「だって……、おじい様が、おっしゃっていたわ。わたくしはお家のために、いずれどこかにおよめに行くの。そのためだけに生まれた子なの。だから、余計なことはしないで、なにもしないで、ただだまっていればいいって。いい子にしていればいいって。そうすれば、お父様もお母様もよろこぶからって。先生も、たえることが一番大事だって、おっしゃったわ」
堰を切ったように、エセルバート様が言葉を吐き出す。だがそれは、決められた文言をただなぞっているだけに思えた。
「そんなこと……! そんなことありません!」
「悪い子には、おしおきが、ひつようなの……」
震えながら首を振り続けるエセルバート様を抱き締める。
言葉の中にあった『おじい様』というのは、先代マティアス卿のことだろう。生前からエセルバート様を洗脳し、虐待していたのか。
自分の孫に、か弱い少女に、何故このような仕打ちができるのだろう。身体の中からふつふつと怒りが湧き上がってくる。
失礼とは思いながらも、エセルバート様の頭を優しく抱え込んだ。
「貴女は確かに伯爵令嬢です。その身に背負うものはたくさんあるでしょう。だからといって、縛り付けられ耐えることが一番大事だなんて、そんなことは絶対にありません!」
腕の中の小さな身体が、びくりと反応した。わたしを見上げる瞳が、何故、と問うている。
再び口を開こうとしたそのとき。
「わたしの生徒に余計なことを吹き込まないでいただきたい」
突如聞こえた声に振り返る。いつの間にか暖炉の傍に、リンドール氏が立っていた。
冷笑を浮かべ、蔑むような視線をこちらへ向けるリンドール氏は、余裕ありげに暖炉へ寄りかかっている。よく見ると、暖炉の石壁に隙間ができていた。隠し通路かもしれない。
「……貴方」
恐怖で固まるエセルバート様を抱き寄せ、わたしは男を睨みつけた。
もし二通目の手紙が届かなかった場合、なにかあったと思ってくださいと。それだけ書けば、察しのいいリヴィ様はわかってくださるはずだ。
廊下の窓を少しだけ開けて、青い小鳥を音もなく空へ放つ。黒く厚い雲の下、青い羽ばたきが遠くなっていく。
お願い、どうか早く届いて。
滅入るような曇天から、粒の大きい雨が降りはじめた。騒々しい雨音が屋敷内に響く。
「領地はもっと雨が酷いらしいね。旦那様と奥様は、今夜も向こうでお休みになるそうよ」
「エセルお嬢様の家庭教師も、馬車がぬかるみに車輪をとられて遅くなるとさ」
「大変ね。早くやんでくれるといいのだけど」
窓に落ちてくる雨粒を見つめていると、廊下の向こうで使用人たちが心配そうに話し込んでいる。
「すみません、エセルバート様は今おひとりなのですか?」
「あら、シャルティーナ様。そうなのです。勉強部屋でお待ちしていらっしゃるはずですよ」
問いかければ、気さくな副侍女長のメリアーノさんが答えてくれた。
「こんな日くらい、お休みになればいいだろうになぁ。最近のエセルお嬢様は元気がなくて、見ていて心が痛む」
「トラシス、言葉を慎みなさい。エセルお嬢様はがんばっていらっしゃるのよ」
いつもはロナを諫める側のトラシスさんが、思わずといった風に呟いた。メリアーノさんはたしなめつつも、その表情は晴れない。やはり思っていることは皆同じなのだ。
「エリス様の授業は終わったのですが、この雨ですから、もう少し弱くなるまで待たせていただこうと思っていたのです。その間、わたしがエセルバート様の勉強を見て差し上げてもよろしいでしょうか?」
「そうですねぇ、……ああ、ダストンさん!」
首を傾げて思案したメリアーノさんは、わたしの背後からやってくる人を見つけて呼び止めた。家令のダストンさんだ。
ダストンさんに話をすれば、「問題ないでしょう」と頷いてもらえた。
「少しの間、お相手をしていただくくらいなら大丈夫でしょう。シャルティーナ様、お願いできますかな?」
「もちろんです」
ダストンさんに笑みを返し、わたしは西棟の部屋まで案内していただいた。
「失礼いたします、エセルバート様」
ダストンさんが丁寧に扉を叩く。中から幼くも美しい声が応じた。
開かれた扉の向こうでは、少女がひとり、ぽつんと椅子に座っている。
薄暗い室内でも輝く金髪。宙を見つめている青い瞳。
少女用のくるぶし丈の服から覗く手足は、もしかするとエリス様より細いかもしれない。
「本日、天候不良のため、リンドール様の到着が遅れております。その間、シャルティーナ様がお相手してくださりますので、お招きいたしました」
ダストンさんはそう言ってわたしを招き入れてくれた。
「改めてご挨拶させてくださいませ。シャルティーナ・グランツと申します」
スカートを摘み頭を下げる。なんの返答もない。姿勢を戻せば、エセルバート様は茫洋とした視線を、どこともわからないところへ向けていた。
「ではシャルティーナ様、どうかよろしくお願いいたします」
「わかりました」
頷けば、ダストンさんは静かに退室していった。
ふと部屋の中を見回す。勉強部屋なのにとても広い。石壁に飾られた大きな織物や、天井の格子ひとつひとつに描かれた絵画も華やかだ。もしかすると、以前は貴賓室だったのかもしれない。
だが今はその面影も薄く、家具が極端に少ない。扉近くにある本棚と、大きな机。エセルバート様がお座りになっている椅子。備え付けの暖炉くらいしか見当たらない。
そういえば、常に控えているはずの侍女も見当たらなかった。
「エセルバート様、侍女をつけていらっしゃらないのですか?」
「……先生が、気がちるとおっしゃるから」
か細い声でエセルバート様が答えた。
なるほど、ふたりきりになるため、侍女などの使用人は一切入れていないのだろう。そのための結界なのか、それとも結界を張るための言い訳か。
やはり、エセルバート様とふたりきりでお話しできるのは今しかない。
この機会を逃せば、なにか恐ろしいことが起こる可能性が――。
わたしは努めて笑みを浮かべ、エセルバート様の傍に膝をついた。
「エセルバート様。先生がいらっしゃるまで、わたしとお話ししてはいただけないでしょうか」
「……あなたと」
「はい。エセルバート様は化学や魔法学に興味がおありと聞き及んでおります。わたしは不詳ながら魔法士見習いです。様々な方の意見や知識を教えていただき、学んでいるところなのです」
「まほうし……、あなたが……」
心あらずといった様子は変わらないが、エセルバート様はわたしの言葉に反応していらっしゃる。
掌を差し出し、その上に力を集中させた。魔法を扱う資質がある者にしか聞こえない、さらさらと流れるような音が響く。
わたしの掌の上に、小さな水の球体が形成されていった。
ぼんやりとしていた青い瞳が、球体へと注がれる。エセルバート様の意識を向けることに成功したようだ。
「空気中に漂う水分を集め、このような形へ変化させました。雨で湿気が高くなりましたから、簡単に集められます」
エセルバート様が見やすいよう、掌を差し出せば、わかりやすく表情が明るくなった。
「もう少し見ていてくださいね」
そう言って微笑みかけ、集めた水を高く移動させる。ぱしゃりと弾けた水は、細かくなって再び空中へ戻っていった。
「魔法によって、ものの形を自在に変化させられるのです」
物質変化は初歩の初歩だが、それでも見慣れない者には不思議に映るのだろう。
驚きに大きく目を瞠り、エセルバート様はわたしの掌と天井を、ゆっくりと交互に見遣った。
「こちらの部屋にも魔法が使われていますね。結界が張られていることが多いようですが、どのような魔道具をお使いなのですか?」
周囲を見回し、わたしは何気なさを装って尋ねた。
先程集めた水はこの部屋の中のものだ。本来なら境の有無を問わず集められるが、なにかに阻害され、壁向こうには力が届かなかった。水を戻した際も同じ。
つまり、この部屋に結界が張られていることは間違いなく、そして、結界内での魔法は使用可能ということだ。
リンドール氏がなにを行おうとしていたのかわからないが、卑しいだろうことは想像に難くない。
「せ、せん……、せんせいが……」
小さな声に振り返ると、エセルバート様ががたがたと身体を震わせ、明らかに恐怖の表情を浮かべていた。
「先生? リンドール先生ですか?」
わたしの問いにも答えられず、ただ恐れ戦くエセルバート様。関節が目立つ細い手で、己の身体をきつく抱き締めている。
リンドール氏のことを思い出しただけで、ここまで恐怖を抱くものだろうか。
一瞬過ぎった事柄にまさかと思いつつ、確かめるためにエセルバート様へ手を伸ばした。
「失礼いたします!」
エセルバート様の袖を引き上げる。骨が浮き上がるほどに細い腕。真っ白な肌に、どす黒い痣が鎖のように絡みついていた。
これは傷ではない。入れ墨でもない。――呪いだ。
魔法士にしか見ることができない呪い。幼い身体には不釣り合いなほど強力に、身体を、魂を強く縛る呪いだ。
これがきっと、エリス様が見たという長いものの正体だろう。エセルバート様が茫洋とし、やせ細っている理由がようやくわかった。
「なんてものを……! エセルバート様、これは誰にかけられたのですか?」
傍らにしゃがみこみ、俯いたエセルバート様を覗き込む。薄紅色の唇は、噛み締められ赤黒くなっていた。
「……わたくしが、エセルが悪い子だから、しかたないの」
「悪い子?」
「先生の、いいつけを、守らなかったから」
「そんな、おかしいです。まだ幼い貴女を、こんな魔法で縛り付けるなんて……!」
怒りに震えるわたしとは反対に、顔に恐怖を張り付けたまま、エセルバート様は小さく首を横に振り続けた。
「……わたくし、いい子にしなければならないの」
「いい子?」
細い肩を抱き締めるが、エセルバート様の震えは一向に止まらない。
大きな青い瞳は焦点が合わず、ここにはいない『なにか』に恐怖している。
「だって……、おじい様が、おっしゃっていたわ。わたくしはお家のために、いずれどこかにおよめに行くの。そのためだけに生まれた子なの。だから、余計なことはしないで、なにもしないで、ただだまっていればいいって。いい子にしていればいいって。そうすれば、お父様もお母様もよろこぶからって。先生も、たえることが一番大事だって、おっしゃったわ」
堰を切ったように、エセルバート様が言葉を吐き出す。だがそれは、決められた文言をただなぞっているだけに思えた。
「そんなこと……! そんなことありません!」
「悪い子には、おしおきが、ひつようなの……」
震えながら首を振り続けるエセルバート様を抱き締める。
言葉の中にあった『おじい様』というのは、先代マティアス卿のことだろう。生前からエセルバート様を洗脳し、虐待していたのか。
自分の孫に、か弱い少女に、何故このような仕打ちができるのだろう。身体の中からふつふつと怒りが湧き上がってくる。
失礼とは思いながらも、エセルバート様の頭を優しく抱え込んだ。
「貴女は確かに伯爵令嬢です。その身に背負うものはたくさんあるでしょう。だからといって、縛り付けられ耐えることが一番大事だなんて、そんなことは絶対にありません!」
腕の中の小さな身体が、びくりと反応した。わたしを見上げる瞳が、何故、と問うている。
再び口を開こうとしたそのとき。
「わたしの生徒に余計なことを吹き込まないでいただきたい」
突如聞こえた声に振り返る。いつの間にか暖炉の傍に、リンドール氏が立っていた。
冷笑を浮かべ、蔑むような視線をこちらへ向けるリンドール氏は、余裕ありげに暖炉へ寄りかかっている。よく見ると、暖炉の石壁に隙間ができていた。隠し通路かもしれない。
「……貴方」
恐怖で固まるエセルバート様を抱き寄せ、わたしは男を睨みつけた。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる