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9.お犬様
友樹の御実家は田んぼに囲まれたのどかな土地にあった。古めかしく奥ゆかしい昔ながらの平屋が並んでいた。
「ここだ」
坂道を昇り、とある敷地に入っていく。
「え」
見渡しのいい、いや良過ぎるくらいのお屋敷を目の前に、車が停車する。
「え、友樹、金持ち?」
やっぱり田舎は空気が違う。凄く美味しい。
「普通」
いやいや玄関も大きいじゃんね。
「普通じゃないって」
「おれの家がな、土地持ってるだけだから」
いやいや、働かなくてもお金が入ってくるってことじゃんねそれっ!?
ガラガラと玄関扉を豪快に横に開けて、友樹が叫ぶ。
「母さーん? ただいまーっ!」
どんだけ広いんだよこの家。
わんわんわんわんとあちこち外から犬の鳴き声がし始めた。すると何処からともなく沢山の犬が集まって来た。大型から小型犬まで数えること十三匹。
「うおっ、皆大きくなったぁよしよし」
友樹はそれぞれの犬達をちゃんと構ってあげている。凄いな。
「わん」
ふと黒い茶眉の豆柴君が一匹、俺を見上げてちょこんと座っている。瞳の色が綺麗な青いビー玉色だった。
「あ、こんにちは」
まずは俺もしゃがみ、手の甲を出して匂いを嗅いでもらう。豆柴君は濡れた鼻をクンクンとさせて、ペロリと舐めてくれた。
「さ、触ってもいいですか」
「わん」
え? 話通じた? 許可、貰えた。
「失礼します」
抱っこさせて貰えた。もふもふで抱き心地が良過ぎる。
「まぁまぁいらっしゃい~」
奥から紫色の着物を着た美女が顔を出した。
「こんにちは。友樹から聞いてます」
まさかこんな美女がお母様なわけないよな。
「初めまして。羽桃李董一郎です。お、お姉さま? ですか」
ジトっと友樹に見られた。
「おまえ、気は確かか?」
「え?」
「このクソばばあのどこかおね」
刹那、友樹が左に吹っ飛んだ。
「やだもぅ。お姉さまだなんて。友樹の母、犬飼亜子です」
「!!! お母様っ!? えっ? いや、えっ!? 若過ぎええええっ!?」
目が飛び出そうだった。
「やだもぅ、嬉しいこと言ってくれるのね」
「いやいやいやいや。こんなお若くて綺麗なお母様は羨ましいです」
「貴方のお母様は、あたくし達犬一族よりも、それはもうお美しいのでしょう?」
お母さんの顔が浮かぶ。
「美しいというより幼児?」
「幼児・・・あぁ、可愛い系なのね」
「可愛い・・・んですかね?」
多分あの中で俺が常識人じゃないかとは思う。
「あの家では俺だけ浮いてましたから。きっと感覚が違うんだと思います」
「くぅん」
ペロリと豆柴君が顎を舐める。いけないいけない。辛気臭い。
「あぁそんなことよりその!」
「えぇ、槐の木よね。中庭にあるわ来て」
「あ、はい。お邪魔します」
長い廊下を歩く。木の香りが心地がいい。
「ここよ」
「あ」
一本の、逞しくもふとましい、青緑茂大きな木が鎮座していた。
引き寄せられるように、足が動く。そして手が伸びた。
『おぉ・・・』
木目に触れる手の平が凄く温かい。
『木がそなたの甘いふぇろもんが美味い美味いと喜んでおる』
ん?
誰が喋ってるんだ?
『わしのこの体で腕輪を作れば、どんどんそのふぇろもん食べてやるぞと言っておるぞ』
「あぁ、そうですかそりゃ嬉し・・・」
豆柴君が俺を見上げた。
『いいなぁ、わしにも送れ。指、吸わせておくれなもし』
「!? 豆柴君?」
『そうじゃ、ほれ、ちと指を向けてくれ』
木に触れていた左手を離して、人差し指を豆柴君に向けてみる。
『んちゅー・・・んんっ! 美味い!』
ちゅっちゅ豆柴君が俺の指を吸う。
「喋ってる!? だと・・・」
ここの犬は皆喋れるのかっ!?
「こぉらもう犬神様ったら」
ひょいっと俺の腕から亜子さんに抱っこされる。
「あ、あの、こ、こちらの、おおおお犬が喋ってあの・・・」
「えぇ。このお犬様は犬神様なの。普段姿を見せないのだけれど、桃が来るって知って待ってらしたのよ」
『いやはや美味じゃ。こんな純粋無垢な桃の味は久しいのぅ』
「犬神様・・・」
『そうじゃ今世の桃太郎よ。いや、桃太郎の【片割れ】、そう言った方が正しいかのぅ』
「!」
「その話、オレにもお聞かせ願いますか」
この声は。
振り返ると、ブスっとした友樹と何故か先生が立っていた。
「せ、先生!?」
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