桃李し男は鬼愛し

佐橋 竜字

文字の大きさ
9 / 24

9.お犬様



 友樹の御実家は田んぼに囲まれたのどかな土地にあった。古めかしく奥ゆかしい昔ながらの平屋が並んでいた。
「ここだ」
 坂道を昇り、とある敷地に入っていく。
「え」
 見渡しのいい、いや良過ぎるくらいのお屋敷を目の前に、車が停車する。
「え、友樹、金持ち?」
 やっぱり田舎は空気が違う。凄く美味しい。
「普通」
 いやいや玄関も大きいじゃんね。
「普通じゃないって」
「おれの家がな、土地持ってるだけだから」
 いやいや、働かなくてもお金が入ってくるってことじゃんねそれっ!?
 ガラガラと玄関扉を豪快に横に開けて、友樹が叫ぶ。
「母さーん? ただいまーっ!」
 どんだけ広いんだよこの家。
 わんわんわんわんとあちこち外から犬の鳴き声がし始めた。すると何処からともなく沢山の犬が集まって来た。大型から小型犬まで数えること十三匹。
「うおっ、皆大きくなったぁよしよし」
 友樹はそれぞれの犬達をちゃんと構ってあげている。凄いな。
「わん」
 ふと黒い茶眉の豆柴君が一匹、俺を見上げてちょこんと座っている。瞳の色が綺麗な青いビー玉色だった。
「あ、こんにちは」
 まずは俺もしゃがみ、手の甲を出して匂いを嗅いでもらう。豆柴君は濡れた鼻をクンクンとさせて、ペロリと舐めてくれた。
「さ、触ってもいいですか」
「わん」
 え? 話通じた? 許可、貰えた。
「失礼します」
 抱っこさせて貰えた。もふもふで抱き心地が良過ぎる。
「まぁまぁいらっしゃい~」
 奥から紫色の着物を着た美女が顔を出した。
「こんにちは。友樹から聞いてます」
 まさかこんな美女がお母様なわけないよな。
「初めまして。羽桃李董一郎です。お、お姉さま? ですか」
 ジトっと友樹に見られた。
「おまえ、気は確かか?」
「え?」
「このクソばばあのどこかおね」
 刹那、友樹が左に吹っ飛んだ。
「やだもぅ。お姉さまだなんて。友樹の母、犬飼亜子です」
「!!! お母様っ!? えっ? いや、えっ!? 若過ぎええええっ!?」
 目が飛び出そうだった。
「やだもぅ、嬉しいこと言ってくれるのね」
「いやいやいやいや。こんなお若くて綺麗なお母様は羨ましいです」
「貴方のお母様は、あたくし達犬一族よりも、それはもうお美しいのでしょう?」
 お母さんの顔が浮かぶ。
「美しいというより幼児?」
「幼児・・・あぁ、可愛い系なのね」
「可愛い・・・んですかね?」
 多分あの中で俺が常識人じゃないかとは思う。
「あの家では俺だけ浮いてましたから。きっと感覚が違うんだと思います」
「くぅん」
 ペロリと豆柴君が顎を舐める。いけないいけない。辛気臭い。
「あぁそんなことよりその!」
「えぇ、槐の木よね。中庭にあるわ来て」
「あ、はい。お邪魔します」
 長い廊下を歩く。木の香りが心地がいい。
「ここよ」
「あ」
 一本の、逞しくもふとましい、青緑茂大きな木が鎮座していた。
 引き寄せられるように、足が動く。そして手が伸びた。
『おぉ・・・』
 木目に触れる手の平が凄く温かい。
『木がそなたの甘いふぇろもんが美味い美味いと喜んでおる』
 ん?
 誰が喋ってるんだ?
『わしのこの体で腕輪を作れば、どんどんそのふぇろもん食べてやるぞと言っておるぞ』
「あぁ、そうですかそりゃ嬉し・・・」
 豆柴君が俺を見上げた。
『いいなぁ、わしにも送れ。指、吸わせておくれなもし』
「!? 豆柴君?」
『そうじゃ、ほれ、ちと指を向けてくれ』
 木に触れていた左手を離して、人差し指を豆柴君に向けてみる。
『んちゅー・・・んんっ! 美味い!』
 ちゅっちゅ豆柴君が俺の指を吸う。
「喋ってる!? だと・・・」
 ここの犬は皆喋れるのかっ!?
「こぉらもう犬神様ったら」
 ひょいっと俺の腕から亜子さんに抱っこされる。
「あ、あの、こ、こちらの、おおおお犬が喋ってあの・・・」
「えぇ。このお犬様は犬神様なの。普段姿を見せないのだけれど、桃が来るって知って待ってらしたのよ」
『いやはや美味じゃ。こんな純粋無垢な桃の味は久しいのぅ』
「犬神様・・・」
『そうじゃ今世の桃太郎よ。いや、桃太郎の【片割れ】、そう言った方が正しいかのぅ』
「!」
「その話、オレにもお聞かせ願いますか」
 この声は。
 振り返ると、ブスっとした友樹と何故か先生が立っていた。
「せ、先生!?」

感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年