桃李し男は鬼愛し

佐橋 竜字

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12.恋愛って、難しいよね

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「先生」
「なんだい?」
 大切なことを伝えなければいけない。
「友樹から、香った。あれは、陽菜の香りだよ、間違いない」
「・・・・・・そうか」
「驚かないのか?」
「まぁ、この離れを友樹を媒介に遠隔操作で自分の領域にしてしまうほどの能力。幸い最悪にもこの離れには桃の木がある。満開の桃の木に作られたこの結界は、内側からでしか破壊することができなかったしね」
「・・・マジかよ」
「オレを求めてなかったら、君は別の男に犯されていただろうね」
 む。その言い方嫌いだ。
「俺は男だ。男に襲われてたまるかっ」
 先生の後ろで、名靡く風に桃の花が散り乱れていた。さっきのお屋敷とはまた別の場所のようだ。
「桃源郷でも、ここでも、男の前に君は桃であることを自覚した方がいい。その香りは鬼を、犬をも魅了してしまう」
「でも俺は」
「妹の出来が良過ぎて皆がそっちに目が行ってしまったんでしょうね。十分董一郎、君も十分・・・『異常』だよ」
 なんでだ、なんでこうなった?
「ここに来たら、俺が桃だって知らない奴ばかりで、普通の人間として、普通に暮らして、普通に家庭を持ちたかったのに」
 普通。
 それが俺の欲しかったもの。
「普通を求めちゃいけないのかよ。自分の夢を見つけて、鬼と関わらない人生をただ歩きたかっただけなのに、なんで・・・」
 蹲ると、視界が暗くなった。先生の手がぽふりと頭に乗る。
「じゃぁ、鬼との関りを諦めて、オレと結婚してそれから夢を見つければ?」
「・・・・・・」
 ん? 今なんて言った?
「へぁ? 今、え?」
「だから、君が桃でいる限り、鬼からは逃れられない。だったら、もう出会ったオレと結婚して庇護下に入れば、後は君は自由に夢探しすればいいよ。あ、でも子供は欲しいかなぁ」
 開いた口が塞がらないとはこのことだ。
「せんせ」
「ん?」
「せんせは陽菜が好きなんだよな?」
 怖い笑みに変わる。
「いつ、誰がそんなこと、言った?」
 あれ? 違うのか?
「俺に栓したってのも、陽菜のフェロモンが男の俺で穢れないようにって」
「・・・逆、逆ね。どうしたらそういう解釈になるのかな? 君のフェロモンを彼女に汚されたくないからだよ」
「・・・ぇ、え? あ、そう、ふ、ふぅん・・・」
 あれ? なんか、ちょっぴり、嬉しい?
「せんせ」
「はい」
 大事な、重要な問題がある。
「せんせ、俺、男」
「うん」
「男同士、結婚できない」
「鬼と桃はできるよ?」
 は?
「子供、できない」
「鬼と桃ならできるよ? 鬼開発の薬を飲んで子宮を作って、できるよ?」
「何ソレ怖いんだけど!?」
「鬼と桃の常識を人間のそれで測ってはいけないよ。いつまでも平和ボケしていられるよう人間を護るのがオレ達の仕事なんだから」
 ちょっと緊急事態発生。
 えっと、俺は、先生に普通にプロポーズ、されている?
 だがしかし。
 俺はこの男、女たらしなのを知っている。
「先生は、俺のこと、好きなのか」
「あぁ好きだよ好き」
 即答。
「・・・軽っ!? ぃや言い方軽くね!? それは好きとは言わないのでは?」
「そうかな。受け取り方の解釈の違いだと思うよ」
 受け取るほうがそう感じるなら、発した方の意図とは違うということになるけど、それでもいいということだな?
「つかなんで俺?」
「え。そりゃぁオレのセックスについて来られるの、君が初めてだもん」
「だもん、じゃねぇよ。はぁ、分かってた。結局そういうことだよな」
「返事はいつでもいいから」
 少しドキマギした自分が悔しい。
 この鬼にとって、ただ美味しい食事が目の前にあるだけなのだ。俺の想像する好きと先生の好きは違う。
「先生、それじゃぁ本命の子が出来た時、大変だと思うよ」
「大変? 何が」
 この男。
「先生の好きは愛してるの好きじゃないんだって。エッチは別に普通の好きでもできるんだって」
「・・・恋愛経験の無い子に言われたくないなぁ」
 失礼な。
「ちゃんと、その子に、誠心誠意愛してるって、言ってあげてな」
 なんで俺が大の大人を諭しているのだろう。
「ちょっとあれ、片づけて来るから」
 話を逸らされた。
 あれ=友樹は元の姿に戻って、外の囲いの外壁にめりこんでいる。
 そしてふと俺にスーツの上着を被せてくれた。
「その格好。誘ってるとしか思えないよ」
「え」
 乱れた和服に破れたパンツの残骸が太ももに。
「俺、和服に着替えた覚えないんだけど」
「だってオレが着替えさせたもん」
「もんじゃないよ急に噛みついてなになんなんあれ! 痛かったし」
「内緒~」
 先生は軽々と友樹を担ぎあげる。
「この離れは君専用だからすきに使うといい。食事も運ばれて来るから」
「え」
 スタスタ行ってしまうもんだから慌てて追いかけた。なんちゅう足のはや・・・いや足が長いんだ。というか先生のスーツブカブカ、こんなに大きかったのか。あ、スン。先生のイイ香りがする・・・じゃなくて!
「先生!」
「なに」 
「なにじゃないよ。俺を一人にするわけ?」
「・・・・・・」
 先生が俺を凝視するなり、やれやれと重いため息をつかれた。
「今の君はオレにとって皮の剥かれた桃だ。言っている意味、分かるよね?」
 皮の剥かれた桃?
「え? ん~・・・? あ、美味しいよ?」
「お馬鹿っ、剥きたて! 食べてくださいって言ってるようなもんなの! これだから無自覚の無頓着の鈍感の無防備君は困る」
「酷くない!?」
「兎に角! 今は君のフェロモンを抑えるものがないから、オレにはキツイの。まぁ別に、食べて欲しいって言うんなら一緒にいてあげてもいいけどね」
 俺のフェロモンは男嫌いの先生にも効果があるんだっけか。俺って恐ろしいな。
「・・・別に、今更じゃん」
 俺なんか食べたいっていう人、先生ぐらいだと思うんだけど。
「・・・はぁ、その言葉、分かって言ってる?」
 む。
「俺だって子供じゃねぇし! た、助けて貰ってるし、恩は返さないとだし、返せるものがあるなら、返さないと」
 先生が俺の顎を取る。
「君は恩義でその体を差し出すんだね」
「その代わり! 護ってくれよな!? 信頼してんだから!」
 先生は目を真ん丸にすると、お腹を抱えて笑い出した。
「信頼!? 桃が鬼を!? あはははは」
 なんか角が立つ言い方だな。
「むっ。もういい」
 気持ちを言葉にした俺が馬鹿だった。
 部屋に戻ろうとするとちょうどタイミングよく、夕飯らしきお膳を持った着物の女性が顔を出した。
「そこの君、オレの分もここに持って来てくれるかな。あと替えの服も頼むよ」
「かしこまりました」
 俺はジト目で先生を睨み付ける。
「据え膳は食べないと」
「この助平が」
「誘ったのは君だし、君はオレと契約した。君がオレを望んだのなら、鬼はそれに答えないといけないしね」
「何が契約だよ。俺はただの食事のくせに」
「・・・前、はね」
「は?」
「この荷物を置いてくる。結界も張り直すから、先に食べてていいよ」
「え、あ、せん・・・」
 今度は先生の姿が瞬きしたらもう消えていた。何、そんな忍者みたいなことできるわけ? じゃあなにさっきはわざと俺に引き留められたいがために歩いたってこと? 何その駆け引きみたいなこと。言っておくけど俺そういうの得意じゃないし察しれないし。
「ん、分からん」
 お腹が減ったので先に食事にすることにした。

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