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19.執着の先に
気が付いたら白い霧の中に立っていた。
「何だここ?」
これは夢?
というか夢だって認知できる?
オレンジジュースだと思って飲んだら実はお酒でした~だもんな。
お酒に弱いってか飲めないんだよね。
「?」
黒い影がうっすらと見えた。
「そこに誰かいるのか?」
声をかけると、その影が揺らいだ。
「この声・・・鬼倉の?」
この声。俺も聞き覚えがある。
次第に霧が晴れ、その声に向かって歩く。
「あ」
「あっ! 鬼倉の!」
「そこで終わらないで。董一郎です」
多分俺より年上そうだから念のため敬語。霧が晴れて見えたのは桃貝まどかさん。
「あぁそうだとーいちろーだ」
何か馬鹿っぽく聞こえるのは気のせいか。
「まどかさん」
「まどかでいい。敬語もなし」
「あ、はぁ。じゃあまどか。ここは夢?」
「かもな。現実から遮断されてるな」
「そ、んなことも分かるのか」
「あ、あぁおまえ鬼のブースター能力だもんな。おれの能力は探知・索敵。これがFPSゲームに使えたらいいんだけどよ、さすがにコンピューターの世界にまで入れん」
え? 俺の能力が何だって? それよか。
「えーっ! マジかっけぇ! いいなぁ」
「だろー?」
どや顔するまどかは少し子供っぽく可愛らしい。なるほど、黙っていれば美青年だけど、話すと少しガサツさが目立つと言うか、綺麗どころに対してのこのギャップ萌えしたのだろうか。
「ん?」
下が、地面の様子がおかしい。
「なっ」
「あわっ!?」
急に水になり、俺達は堕ちた。どんどん暗闇の中へ、奥底へ。
【反転流魂】
聞き終えのある声がした。
「っあっ!?」
目が覚めた。
ん?
体が凄く火照っている。汗ばんで、この温もりこの感覚。
「あー、まどか一瞬トんでた~?」
え?
橙色の電気色の中、息を切らし長い髪を乱して、裸で覆い被さる玲さんがいる。そしてこの状況は、エッチの最中!?
「んあっ!? あ、や、え、あぁ!?」
なんで? なんで玲さんが?
「きもちぃねぁまどか」
まどか?
玲さんが俺の中にいる。俺の体? こんなに逞しかったっけ・・・じゃない!
「あ、や、ちがっ、ふぁっ」
俺じゃない! この体は俺じゃない! 先生じゃないのに感じてしまうのは俺じゃない!
「あぁ、出そう、出すね?」
可愛い声とは裏腹に、玲さんがペニスを打ち付けて来る。
「ひぁああああああ」
凄い速さで奥を突かれた。
「や、やだ、やぁ、や、あああああ」
先生じゃないのに。気持ちがいいなんて嫌だ気持ちが悪い嫌だ嫌だ嫌だ!
「あぁ~・・・」
「あっく」
中で熱いものが迸った。何だろう。凄い不快感を覚える。体と心がすれ違う。
「・・・聞いて、玲さん、おねが、ぁ」
「ん~?」
まだ熱い射精が終わらない。
「どうしたのまどか。まだ足りない?」
ったくこれだから鬼は!
ようやく俺の中から玲さんが抜けて行った。
玲さんが俺を「まどか」と呼ぶ。
「玲さん、俺、まどか、じゃないんすよ」
玲さんはきょとんとする。
「俺、は、董一郎です」
「ふふ、あはははは何言うの急に」
デスヨネー。そういう反応ですよね。
あの夢が、もしも。
「俺がこの体にいるのなら、本当のまどかは俺の体にいるはずです」
玲さんがまた覆い被さって来た。
スン。
首筋で鼻をヒクつかせる。
「・・・まどか、の匂い、じゃない?」
だから鬼なのに犬かあんたらは!
刹那、人差し指が痛くなった。
バチッ。
「痛っ!」
弾かれるかのように指環が抜けてシーツに落ちた。
「指環が・・・」
「・・・・・・」
玲さんは真剣な面持ちになって、その指環を拾った。
「・・・そう。君はまどかじゃないのね」
「! 信じてくれるんですか!?」
玲さんは指環を見せる。
「鬼が桃に愛されているという証の指環。桃に弾かれるのは・・・」
ガシガシと玲さんは頭を掻く。
「やだ、どういうこと? あっちは」
ガァン!
物凄い勢いでこの部屋の扉が開いた、というか吹っ飛んでった。
「統吾」
玲さんのその掛け声と同時に、二人は取っ組み合い対峙した。その間瞬き一瞬。
「不可抗力でしょうお互いよ、違う?」
先生は完全な鬼モードだった。巨大な二本の角に赤い髪。鋭利に金色な瞳を光らせている。
「フーッ・・・フーッ」
これはヤバい。先生を正気にしなければ。
「先生!」
「・・・・・・」
「先生!?」
「・・・・・・」
こっちを見てくれない。こうなったら!
「統吾!」
初めての名前呼び! ようやく先生が俺を見た。
「体は違うけど、俺はここにいるよ先生」
「・・・・・・」
金色の瞳が、黒く戻る。
「玲っ!」
やっぱり。俺が、俺の体が玲さんに抱きついた。
「・・・まどか?」
「そうおれっ! マジわけわかんねぇの! ほんと何なの!? つか高倉の鬼マジこえぇんだけど!」
玲さんの顔が綻びる。
「ふふ、姿は違うけど表情で分かる。わたしのの大好きなまどかだ」
「当たり前だろうが馬鹿」
俺の体で抱き合わないでお二人さん。
「せん・・・」
俺も俺で先生に抱き締められた。
「抱き心地が違うぅぅぅ」
「あはは怒るか泣くかにしなよ先生」
抱き返そうとした時だった。
「あのさっ!」
まどかが突然俺と先生の間に割り入って来た。
「玲も、聞いて」
まどかの真剣な表情に皆静になった。
「こんな状況であれなんだけど! おれ、妊娠、してんだっ」
沈黙が流れる。
「え?」
まどかが俺の手を握る。
「だからっ! おれの体、マジに大事にしろよな!?」
「そ、れ、本当・・・?」
声を震わせながら玲さんが口を押さえ、俺、すなわちまどかの体に対峙した。
「ぅん。最近吐き気があって、病院行ったら、うん、三週間目だってよ」
俺は玲さんに掻き抱かれた。
「ありがとう。ありがとうまどか」
俺は董一郎ですなんて言える雰囲気では無かった。一人を除いては。
「離れて。中身は董一郎だから」
キッと玲さんが先生を睨み付ける。うん、無理もないよね。
「一体どうしてこういう状況になったの? まどかの大事な時だっていうのに」
あ、凄く怒ってる。これは先生だと火に油だ。
「ごめん玲さん。陽菜が関係してる、と思うんだ」
「陽菜? あぁ、桃源郷の桃巫女、貴方の妹さんの?」
「はい。でもなんでこんなこと・・・」
「反転流魂」
先生の言葉に聞き覚えがあった。
「! それっ」
夢から覚める時に聞き覚えのある言葉。
「この能力は桃木の秘儀だ」
「密子のこと?」
桃木、密子。もしかしてあの金髪のギャル桃木さんのことだろうか。そう言えば最近会っていない。
「一週間前から行方不明でね、洋一に探させているんだけれど。もしかしたら、桃源郷にいるのかもしれない可能性が大きくなったかなぁ」
「密子が桃源郷に行ったっていうの?」
「弱みを握られたか、誘拐されたか、遠隔操作で操られて自分の足で行ったか、だね」
「なんでそこまでするのよ桃巫女は?」
「・・・先生を待ってるんだ」
陽菜は先生を欲してる。
「夢でも先生を連れて来ることが出来なかった。だから、次は・・・」
先生は鼻で笑う。
「桃源郷へ来させる理由作りか。桃巫女と話したことがあるけど、貴方は絶対に桃源郷に来るわって言われたっけ」
「えっ!?」
「まっさか、こんな形で行かざるを得ないとはね。向こうが一枚上手だったかな」
玲さんが大きな深い溜息を零した。
「巻き込まれたこっちの身にもなって欲しいんだけど」
「こればっかりは謝るごめん。よほど桃巫女様に気に入られてるもんでね」
やだ。
「ぃやだ」
俺は先生に抱きついた。
「董一郎?」
「やだ、絶対に、先生だけは、やだ」
「・・・・・・」
先生は何故か自分の顔を両手で覆った。
「ちょっと、聞いてんの先生!?」
「ちょっと、はこっちの台詞よ」
玲さんに先生から引き剥がされた。
「まどかの体で統吾君に引っ付かないで。嫉妬でわたし何するか分からないから」
「ちょっと!? こっちは妊婦ですからね!? 貴方の子ですからね!?」
ポッと頬を染める玲さんは本当に美女。だけど男。
「おい、今の発言を撤回しろ董一郎」
「へ?」
「なぁんでおまえが玲の子を妊娠してるような口ぶりするんだあぁ?」
「せ、先生・・・?」
そんなお口、悪かったでしたっけ? あぁでも別に先生に「おまえ」呼ばわりも悪くないかも・・・。
俺もといまどかの体は当然のごとく玲さんに抱き締められた。
「この子はわたしの子を妊娠してるの。気安く触らないで頂戴? 鬼倉の」
玲さん悪乗りし過ぎです。
「董一郎君」
耳元で玲さんのいい声が囁かれる。
「統吾はね、普段猫被ってるの」
「え」
「さっき、本性が見えて良かったね」
「え、え?」
「多分、この中で一番焦ってるわよ」
「え・・・うそ」
「何こそこそと話してるのさ?」
「彼ね、本当は気性が荒いの。だから桃が精神安定剤のようなもの。鬼の強さは己の野生を欲求をいかにコントロールできるか、なの。そして指環を嵌めることのできた桃こそ、その鬼の『癒し』となる」
「指環・・・」
「そう。今の彼には指環を嵌めた桃がいない。勿論わたしにも、だけど」
「ご、ごめんなさい」
「いいの。謝らせたいわけじゃないのただ」
玲さんは俺の方に額を付けた。
「お腹の子をお願い」
そうだった。
このまどかの体には小さな尊い命が宿っている。
「おまえらっ! いつまでくっついてんだっ! 玲の浮気者!」
「違うよ~、お腹の子を護って欲しいって、お願いしてんるんだよ~」
まどかの表情が一瞬で変わる。
「まじほんと、おれからも頼む」
でもその声は震えていた。
「分かってる。大丈夫。先生が護ってくれるから」
先生の目だけ、鬼モードの金色。
「ね? 先生?」
何か言いたげそうだったけど、大きくため息を零す。
「今回はこちらが悪いからね。でもオレと董一郎の子だと思わないと護れないから」
「・・・先生」
俺、ドン引きしてる。
「不本意だけどお願い」
「くっ、そ。頼む!」
「いいでしょう」
「どや顔するな! ったく」
先生は咳ばらいをした。
「董一郎」
「ん?」
「『統吾』って呼んで」
「・・・・・・え、何急に」
「さっき呼んだでしょう」
「そ、そうだっけ」
「先生、もいいんだけど。いずれ名前呼びだから呼んで」
ふと玲さんとまどかからの視線を受ける。お腹の子を護れるのは俺であって、その俺を護れるのは、先生、ただ一人。
「・・・統吾」
「えぇ?」
「と・う・ご! 統吾! これでいい!?」
何故か先生は蹲った。
「・・・いい」
「悶えないでキモイわよ」
先生は何故かしゃがみ込む。そしてシャキッと立ち上がる。
「明日の現当主への挨拶は取り止め。桃源郷に向かう、癪だけど」
あぁ、まさかこんな日が来るとは。
ぽんと頭に先生の手が乗っかる。
「以前の君とは違うんだから」
「え?」
先生がにかっと満面の笑みを向けてくれた。
「オレがいるんだから、任せなさい」
「! せんせぇ・・・」
こんな頼れる人が側にいる。
「この件落着したらオレらも子作りしよう」
「え」
「いつの間にウテルスの実を手に入れた?」
うてるすのみ?
「探すのに苦労したんですぅ。でも嬉しいわまどか。わたしとまどかの子・・・あぁん素敵。・・・こんなことがなければ。貸し一つよ。董一郎君の体護ってあげるんだから」
「あぁ。・・・分かってる」
そう言えば。
「ほんとに男でも妊娠するのな」
ふとまどかに言ってみた。
「ウテルスの実ってやつがこの鬼師島にあるらしくて、まぁまずはそれを見つけるのが大変らしい」
「へぇ・・・」
「あとは、母体となる奴がその実を食べて」
「うん」
「迫りくる発情に耐え」
「・・・ぅ、うんん!?」
「子種が欲しくて堪らなくなるんだ恐ろしいぜ全く・・・」
「・・・・・・」
「収まるまでしこたま交尾し続ける。おれはその後別に体に変化無かったからそのまま生活してたんだけど、この間の吐き気が来て、まぁ悪阻だった、と」
「・・・おめでとう」
肩を叩かれた。
「鬼の発情期に耐えるには桃も発情だ。ウテルスの実は鬼が発情期になったら喰えよ」
そうだった。なんか先生もそういうのあるんだった。
「なんだ、あれだ」
「何?」
「おまえ、鬼倉の鬼のこと、好きじゃん」
「・・・・・・」
ノーコメント。
「あんなに桃巫女にあいつが奪われるの嫌だって縋ってさ」
「縋ってない!」
「無自覚なのも酷だぞ。認めろよ? じゃないと後悔するぞ」
もう自覚してるし!
「好きなものを好きだと思って言って何が悪いんだよ。素直になれよ、先輩として言っておく」
「・・・・・・ん」
「好きじゃなきゃ、何回も抱かれねぇだろ。男にさ。それって、あいつをもう特別視、雄として見てるってことだっつーの」
「雄・・・言い方よ」
ふと先生が手を刺し伸ばしてくれた。
「明日に向けて寝ようか」
「・・・うん」
その手を取った。
「ちょっと! いやらしいことしないでよ!?」
ピキッ。
なんか音が聞こえた。
「・・・てめぇもな鬼頭」
先生!? 今のドスの聞いた声、先生ですか!?
やっぱり、玲さんの言うとおり、今の先生は情緒不安定?
人差し指の重さが懐かしく思えた。
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