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20.桃源郷
「まさかな・・・」
「ほんと。こんな所にあったなんて」
先生と玲さんは苦笑を浮かべる。無理もない。
「桃源郷は桃の木が出入口なんだよ」
先生のご実家もとい宮殿に桃の木が並んでいたので、俺が向こうと繋げた。外の世界桃源郷は常に繋がっているのだ。
俺が桃の木に触れると、白い歪んだ空間が顕現する。ちなみに、この出入りも桃源郷出身者からしかできない使用だ。
「さ、行こうか」
「まどか、絶対に手を離さないで」
「おぅ」
俺は最後に入った。
一瞬、体がブレるがそれだけ。
「・・・ヒュ~♪」
「まぁ、素敵ね」
「うわ、別世界じゃん」
俺達の前には、桜が満開の村、桃源郷が待っていた。大きな桃の形の門構えの、その重厚な扉が開かれる。
そこには、扇子を持った可憐な美女、桃巫女様直々のお出迎えだった。
「あぁん! お兄様ぁ!」
「っ!」
先生が俺の前に立とうと前に出た。
「先生ストップだいじょぶ」
これには驚いた。目が合った瞬間、熱い抱擁が待っていた。
「陽菜・・・」
ちゃあんと俺の魂が入った、このまどかの肉体の方に。つまり、入れ替わっていることを知ってるのだ。
もはや確定的。
「ずっと待っておりましたのよ!」
ぷんぷんと頬を膨らます妹。
ジト目で可愛い我が妹を見下ろす。その艶のある両頬を引っ張ったみた。
「嘘つけ全く。先生に迷惑ばかりかけたのは何処のどいつだ? んん?」
「はぁい、あらひれふは、ほひぃはは」
両頬を放すと、きちんと陽菜の目を見て対峙した。
「陽菜、俺達がどうしてここへ来たか分かっているな?」
陽菜は微笑む。
「えぇお兄様。どうぞ、こちらへ」
先生達には予め、ここの飲み物や食べ物は出されても一切食べないようにと念を押して置いた。何故なら、ここでは当たり前のように媚薬が含まれているからだ。外の者達はその食事生活に慣れていないだろうから、下手をすれば元に戻れなくなるかもしれない。
案内されたのは、訪問者を迎える旅館、その名も「海桃」だ。海とモチーフとした青色と海鮮料理を得意とする宿屋。よく厨房を任されていた働いていた、懐かしい。
通された一室に、彼女が待っていた。
「密子!」
「統吾君・・・」
金髪でたわわな胸はご健在だが、おや? 何だかギャルだったはずなのに艶々しくなって、あれ? 雰囲気が変わったような。橙色の着物がよく似合う。
「おまえ・・・」
密子さんは目を泳がせる。
「密子ちゃん、こっちにおいで」
「はい、姫様」
姫様、だと!?
「・・・・・・」
先生の目つきが鋭利になった。
「先生」
先生の袖を引っ張った。
陽菜とその横に密子さん、それに対峙するかのように、俺と先生、玲さんとまどかで畳に腰を下ろした。
「さて。お飲み物は・・・」
俺が早速手をあげる。
「陽菜、出しても飲まないよ」
「まぁ、そうなのね。つまんないの」
「陽菜、俺達を元に戻して欲しい」
陽菜は不遜の笑みを浮かべる。紫色の口紅がまぁよく似合う。桃色の長い髪をお団子に、真っ赤なその着物は品格を見せつける。同じ兄妹、双子なのになぁ。
「ダメよ。もう少しお話ししましょ」
「どうしてこんなことを?」
「だって、そうでもしないと・・・」
陽菜が先生を見つめた。
「来てくれない、でしょう?」
「・・・・・・」
先生は黙ったままだ。
「統吾さんの弱みを握ったら、ここへ来てくれると思って」
「陽菜・・・」
「お兄様も統吾さんも好き合ってるのは知ってる。でもお兄様は『好き』って言えないものね」
「ひ・・・」
「どういうことだ?」
先生の声に覇気が。いつもない覇気が。
「うふふ。桃源郷の双子は、双子で一人の雄か雌を共有しなければならないの」
先生の覇気がっ。
「そして、お兄様は言霊を使えるの。でもその強い桃の気で、お兄様は制御できない。だから、軽々しく気持ちを言えないのよ。好きって言ってしまえば、相手を束縛してしまうから。勿論・・・」
にっこりと陽菜は笑う。
「そうしたら、統吾さんはあたしのものにもなる。うふふ、そうよねぇお兄様?」
もしも俺が、普通に女性を好きになってたら。
「お兄様が女性をお好きになっていたら、女のあたしは子孫を残せないから言霊の固縛に縛られることはない。でも、うふふ」
楽しそうに、愉快愉快とばかりに。
「男性を好きになるなんて。やっぱりお兄様には、あたしと同じ、男を虜にする能力が強いのね」
やっぱり、俺は、陽菜と同じ、なんだ。先生に好きとは言えない。言ってしまったら、先生は陽菜のものにもなる。
「そうか、別に構わないよ」
ようやく先生が口を開けた。
「好きと言われなくても、一緒に居ればどう思われているかぐらい分かるし。言葉は確かに大事だね、でもオレに対する仕草や動作で気持ちが分かるから、そこは気にしてないから」
「先生・・・」
「オレとしては董一郎とツガウつもりだから、悪いけど、元に戻して貰いたい」
刹那、冷ややかな風が頬を切った。
「・・・ダメよ」
陽菜の雰囲気が、纏う気が黒く、冷たいものになり始めた。
「陽菜・・・」
そんなに先生のことを。
兄として、自分の気持ちにけじめを付ける為にも。何よりも、俺の本気を示さないと。
「陽菜、ごめん」
「お兄様?」
「俺、先生だけはおまえに譲れない」
陽菜の目が、瞳孔がはっきり開いた。
今まで自分の気持ちをはっきりと伝えたことが無かったから。いつも、陽菜の言う通りにして来たから。
「こんな兄ちゃんでごめんな。こればっかりは、俺は」
「イヤよ」
「聞いてくれ」
「イヤ、聞きたくない」
なんで? どうして?
「陽菜?」
「ようやく、ようやくこの日が来たの。あたしはずっと待ってた」
「俺だって、一人の人間だ。先生が大事だって気づ」
俺の右手首を、陽菜に力強く掴まれた。
「ダメよ。お兄様を大事にするのはずっと、陽菜だった。これからも、ずっとよ? お兄様」
「え・・・?」
陽菜の腕を先生が振り払う。そして身構え俺を先生自身の後ろへ。
「そういうことか。なんかおかしいと思ったんだよね」
陽菜が突然狂ったかのように笑い出す。
「これで、お兄様とあたしは繋がれるの。大丈夫よ鬼頭の玲さん? お兄様のお腹の子は、あたしが責任もって育ててあげるわ」
刹那、ズンッと重圧を感じた。
「何を言ってるのかしらこの小娘は」
え、ちょっと待って。話がよく見えないんだけど。
「やべぇっ、おまえの妹マジやべぇっ!」
「え? どういうこと?」
「はっ? おまえ分かんねぇのこの状況!? そりゃ鬼倉は難儀だわっ!」
「はぁ?」
「妹は本当は統吾さんじゃなくて、おまえを愛してたってことだっ!」
「・・・え」
なんて?
「おまえを外に行かせたのは双子じゃ一緒になれねぇからっ! だから反転流魂させ別の体にさせたおまえと一緒になるつもりなんだなこれっ!」
「そっ・・・」
陽菜を見た。
「狂ってやがるこの女! ブラコンにも度があるだろ!」
「ひ、陽菜・・・?」
あ、あれ? 陽菜は先生が・・・。
「ふふ。大好きよ、お兄様」
その言葉はよく聞いていた。でもその好きは愛してるの意味、だったのか。
「お兄様に嫉妬して欲しくて、沢山の雄と寝たのに」
「ええっ!?」
「お兄様は昔から、あたしを雌としては見てくれなかったもの」
「見るわけないだろう!? 大事な、血の分けた妹なのに!」
「そう、だからよ。その血が、一つになりたがっているのよお兄様」
「え?」
陽菜は胸元の、桃太郎印を見せた。
「桃太郎の御霊は二つに分かたれてしまった。だから、一つにならないと、しないと」
陽菜は手を出し伸ばす。
「ね? お兄様。一つに、なりましょう?」
頭真っ白。
「おれぇぇぇぇぇ!?」
先生が鼻で笑う。
「何処のそんなエロゲのような台詞を吐けたもんだなぁおい。今じゃ誰もホイホイ行かねぇよビッチが」
「せ、せんせぇ~!?」
今俺の妹をビッチ、ビッチって言ったぁ!?
「出たわね本性が。お兄様、これが本来の鬼倉の本性よ? 野蛮で口と素行と行儀の悪いクズな雄なのよ」
「ひぃなぁ~!?」
おまえもおまえだよ!
あれ? おかしいな? 地面が、家が揺れてるぞ。
「ここで勝てると思ってるの鬼倉の? ここはあたしの領域よ?」
「やってみなきゃわかんねぇだろうがよ」
玲さんの瞳が鋭利に光る。
「そうよねぇ、最強の鬼二人に勝てると思ってるのかしらこの女狐はぁ?」
ーバァンッ!
突如の陽菜の台パン。
「お兄様を護れるのはあたしだけなの!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
先生と玲さんは押し黙る。
「陽菜?」
俺を護る?
密子さんが陽菜の肩に手を置く。
「姫様。もう正直になられては?」
「・・・・・・」
陽菜は俯いて、ふと体が震えているようにも見える。
「陽菜? なんだよ? 俺が何だよ?」
陽菜が俺を見た。しかしすぐ逸らされる。
先生ははぁとあぐらを掻いた。
「・・・なるほど」
何察した? 何、どこらへんでできた?
「護る? 一体何のこと? なぁ陽菜。おまえはずっと、俺に何を隠してきた?」
ずっと、何かから、俺を護ってきたというのか?
「姫様。例え、魂と器を変えても、共にあることは出来ません。むしろ正常な状態でない肉体と魂はいずれ暴走が起きてしまいます。今の董一郎様を見て、歪さを感じられたでしょう?」
「・・・・・・ん」
あれ? 密子さん、そんなおしとやかキャラ、だっけ? ギャル・・・要素は?
「護り方を間違えてしまったことは、認めになられますね?」
ブスっと陽菜は頬を膨らませる。
「解除、申し上げても?」
陽菜は俺をまた見つめた。でもそんな悔しそうに唇を噛みしめなくても。
「・・・いい、わ」
密子さんは頷く。
「では」
そして、大きくパァンッと柏手を打った。
「【反転流魂】」
「っ!」
視界が真っ白になって体がズシンッと重力を感じたと思ったら、意識が遠のいた。
「董一郎!」
「まどか!?」
白い通路をずーっと勢いよく突き通る。そしてバシュッと眩い光に包まれた。
「まどか!」
目を開けると、玲さんの顔が。思わず苦笑を浮かべた。
「俺はまどかじゃないですよ」
このクダリは二回目。
あぁ、しっくりくる自分の体。玲さんはハッとするなり、先生を突き飛ばしてまどかの側へ。
「せんせ!」
倒れそうになった先生に俺は追い打ちをかけるように抱きついた。
「と」
「やった元に戻った先生!」
あぁ、先生の香りが分かる。あぁ、じわじわと自分の気が体中に巡るのを感じる。循環させるのも早く上手くなったぁ自分。
先生がぐわしと俺を抱き締め返してくれる。結構熱い抱擁。いつになく。
「あの~」
陽菜が手をあげる。
「いちゃつくの、止めてもらえる~?」
気が付けば俺達四人とも熱い抱擁を合わす2ペアになっていた。
「あーあ、やだやだ」
陽菜がテーブルに突っ伏す。
「本当に、お兄様を護れるのは、このあたしだけだって、そう思ってたのに・・・」
「嘘だね」
先生はすぐに否定した。
「自分では護れない、護れきれない。だから董一郎を選ぶ鬼を探した。そして見つけ、品定めをした。違うか?」
「え?」
「・・・・・・」
「確かにオレは最初、董一郎という人間を知る前は、食い物として見ていたよ」
「食い・・・」
え、いや急に暴露してきたねおい。
「だから君は董一郎を通して干渉して来た。大事なお兄様を食い物にする鬼を殺す為に」
「ぅえええっ!?」
今までの干渉はそういうことなの!?
「でもオレは指環を渡した。ド鈍ちんの董一郎は嵌めてくれた、拒絶しなかった。この意味が、仮な桃巫女であるとしても、君なら分かるだろう?」
陽菜は無言で俺を見ていた。
ん? 仮?
「え? 高倉の。え、今仮って言ったか?」
まどかの問にこくりと頷いた。
「本当の桃巫女は君じゃなく、董一郎だったってことだね」
「・・・・・・」
「え?」
陽菜は否定しなかった。
「え? はい?」
先生の目が鋭利なものになる。
「・・・外の世界に桃太郎の先祖返りを送るなんて。・・・上の指示かな?」
「そうなんだよぉ統吾君! 陽菜ちゃんは大人の重圧に仕方なくぅ! 助けてあげたくて私・・・っ!」
急にギャルに戻る密子さん。
「・・・・・・陽菜」
知らなかった。
「・・・ごめん。俺、出来損ないの自分のことばかりで・・・」
陽菜も大変な思いをしていたことに気が付いて上げられなかった。
「違うのお兄様」
「違くないだろう? 俺は、兄さんなのに、できる完璧な妹のおまえに憧れも嫉妬もした。
大事な妹なのに、兄らしいこと、してあげられてなかった」
「一緒に生まれたのよお兄様。運命付けたのは私達の意思よお兄様」
「・・・え?」
「先代桃月院代表が、先祖返りのわたし達双子を知るには時間がかからなかったそして、わたし達どちらかが、閉鎖的な桃源郷を出て都市進出計画の駒になることは決まっていたの」
桃月院?
「都合よく、お兄様は外の世界に憧れた。だから私はここに残り桃巫女になることになった。全て、桃月院の計画通り」
陽菜が先生を見やる。
「ねぇ、先生? 純血種高倉が、その計画をご存じない? そんなわけ、ないですわよねぇ?」
え。
「・・・・・・」
先生?
「最初から知っててお兄様に近づいた。だから見張っていたのよ。とっとと食い物にして、無理に結婚させて、孕ませようという魂胆じゃないかしらってね?」
俺のことを、最初から、知ってた? でも確かに、ずぐに大学で声をかけられた。あそこにも他にも桃がいたはずなのに。しかもそうだ。超がつくほどの男嫌いな先生が、男の俺にピンポイントで。
「ねぇ先生? 貴方は本当に味方? それとも敵・・・?」
敵って・・・。
気まずい沈黙を破ったのは玲さんだった。
「まぁまぁ『ここ』の桃巫女さん。上の重圧があるのは何も貴方だけじゃないのよ。純血にも純血の悩みがあるのよ。寧ろ、統吾が董一郎君を選んで良かったのよ。あの兄よりもね」
「兄? あのチャラ男のことですの?」
「えぇぇ!? せんせお兄さんいたの初耳なんだけど!?」
突然不機嫌マックスになった。
「・・・あいつの話は止めろ。蟲頭が走る」
ガチトーン声だ。これはヤバい。地雷を踏んでしまったようだ。
「男嫌いの弟だからって、のんびりしてたようだけど、まさかあっさりとかっ攫われるとはねぇ。兄より先に無事董一郎君との婚約発表したし、いい牽制に出来たとは」
「思わない」
先生は玲さんの言葉に重ねる。
「董一郎を他の鬼から護る為に早急に婚約したが、あいつは寧ろ人のモノをを欲しがる。寧ろこれからが正念場だ」
俺達、本当に婚約告知、したんだと実感。
「なんだぁ? つまり都市の上位の鬼達は最初から董一郎を狙ってたことかよ?」
まどかにいきなりバシッと背中を叩かれた。
「モテ期だなぁおい」
冷ややかな目でまどかを見てやった。なんて能天気な頭なんだ。
「・・・・・・」
何はともあれ、うん、先生で、うん、良かったな。
「董一郎」
「ん?」
左手を取るなり、先生はいきなり俺の人差し指にある指環にキスして来た。
「っ!?」
「きっかけは大人事情の邪なものだった。でも今はおまえを知って、本当におまえが好きになって、おまえを愛しいと思う。だからオレに護らせて欲しいし、愛して欲しい」
ガチトーンのガチ告白じゃんこれぇ!
「・・・嫌いに、なったか?」
ふぐっ! そしてしゅんっと耳と尻尾を垂らした反省大型犬にモードになるんじゃないよ卑怯だろう!
「・・・怒ってる・・・?」
潤んだ瞳での上目遣いをされて怒れるか!
「~っ! もう! そういうのズルい!」
「そうだよな~? 好きじゃ無かったら指環、嵌められないもんなぁ~? 鬼が桃から愛される証、『相思相愛』が言葉の指環、だもんなぁ~?」
「・・・え」
にまにまと話すまどか、そして玲さん。
「そうよねぇ。その指環が嵌められるからこその、確信をもっての婚約発表よねぇ統吾~?」
先生の目が泳ぐ。先生のあの愛され自信はそういうこと、だったのか。最初から、俺の気持ちはバレバレのお見通し、だったってことか~?
「・・・先生」
「うん?」
「俺に何か言うことはある?」
「え」
「俺は言うことあるよ?」
「・・・・・・え?」
おもいっきり先生を睨み付けてやった。
「俺、先生のこと、嫌いじゃぁ、ないよ?」
腹が立ったので席を立った。無知な俺に、だけど教えてくれなかった皆にも。一番は最初から全て分かってて何も言ってくれなかった先生にも。
「何か殴り壊せるもの、ないかな」
久しぶりに怒りというものを感じた。
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