追憶のquiet

makikasuga

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 同時刻、都内某所。

「おまえだったのかよ、全科目オール百点の安岡零やすおかれいって!?」
 厄介事を押しつけられて機嫌が悪いというのに昔の名前を出され、ハナムラコーポレーションの情報屋レイの不機嫌レベルは増した。
「うるせえな、静かにしろ」
「こないだヤスオカさんに初めて会って、そのとき色々教えてもらってさ。名前も同じだし、クソ生意気な態度とか話し方とか、言われてみれば、納得なんだよな」
 ちなみにヤスオカとは、以前レイと同じ立場(情報屋のリーダー)だった人物である。
「バラされてえなら、いつでもやってやんぞ、コウ」
「そんなわけねえじゃん。そっか、だから借りか。悪いな、すっかり忘れてたわ」
 レイがいくら凄んでも、コウは気にも止めない。それどころか、懐かしさに目を細めるばかりである。
「でも、正直ほっとしたかな。留学して事故死したって聞いて、あいつの後を追った形になったろ。後味悪くて、俺、しばらく沈んでたんだぜ」
 コウはレイの高校時代を知る唯一の人物で、命の恩人でもあった。レイが生きる世界とは真逆におり、刑事という肩書きを持っていたが、紆余曲折あって裏社会に堕ち、今は同じ立場にいる。
「昔話をするために来たわけじゃねえだろ、さっさとGPS寄越せ」
 その肩書きのせいで一生監視されることになり、今日は肌身離さず身につけているGPSのメンテナンスでやってきた。レイに言われるがまま、コウはGPSがついた十字架のペンダントを差し出した。
「ところで、麻百合さんはどうした?」
「シラサカさんが来てくれてるから」
 コウはハナムラコーポレーションの株主である金田麻百合の専属ボディーガードをしている。そして麻百合はコウの恋人でもあった。
「ふたりきりにしたのかよ、シラサカに喰われんぞ」
「そんなことする人じゃねえよ。おまえが安岡零だったってことは、あん時の事件もシラサカさんが解決したってことだろ。本当すげえ人だよな」
「そうだよ、コウ、サカさんは凄いんだからね!」
 シラサカの名を聞いたからか、離れた場所にいたはずのマキがやってきて、割り込んできた。右目だけが灰色の始末屋で、オッドアイとも呼ばれるレイの相棒。身長は一六五センチと小柄で、可愛らしい外見とは裏腹に非情な殺し屋として恐れられている。
「クールでスマートだし、ボスに次ぐ立ち位置だし、芸術的なバラし方って言われてるし」
「わかるわかる。その上優しいし、強いもんな」
「僕がここへ来たときから、サカさんは始末屋のリーダーなんだよ。ボスがさ、サカさん死んだらハナムラは終わりだって言ったらしいし」
「それ、マジですげえじゃん!」
「でしょ! なのに、レイったらさあ」
「少しばかり腕が立つオッサンだろ」
 シラサカは始末屋のリーダーで、マキを始末屋に育て上げた人物でもある。二丁拳銃を扱える凄腕の暗殺者で、日本とドイツのクォーターのためか、目の色は青い。
 マキとコウはシラサカを尊敬しているようだが、レイからすれば、金の亡者なオッサン(三十代後半)のどこがいいのか、理解出来ない。
「ところでコウ、あん時の事件って何? 僕はレイと高校別だったし、三年の途中で退学しちゃうしで、事情は知らされてないんだよね」
「えっと、それは……」
 コウがチラリとレイを見やれば、もはや不機嫌というレベルを超え、無表情になっていた。
「ごめん、マキ。俺からは何も言えないや」
 これでは本当にバラされかねないと、コウは口を噤んだ。
「えー、ズルい。もう時効だろ、ふたりだけの秘密なんて変だよ」
 以前から、いくら聞いてもレイは勿論シラサカも何もしゃべらない。コウにまで同じ対応をされたため、マキは不服を訴える。
「その話はいいだろ。それよかマキ、今度の仕事、厄介だぞ」
 話を変えるべく、レイは透明ファイルをマキに差し出した。マキはレイと違い、アナログな情報を好むため、書類にして渡すのが常なのだ。
「ちょっと待って、また刑事なの?」
 中の書類に目を通しながら、マキはうんざりといった表情になる。刑事という言葉が気になり、コウはマキの書類を横目で見やった。
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