追憶のquiet

makikasuga

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「あれ、この人」
 顔写真が目に入り、コウは思わず呟いた。
「もしかして、コウの知り合い?」
 声に反応し、マキは顔写真入りの資料をコウに手渡す。
「やっぱり、捜査一課の桜井さんだ。刑事課に異動になってまもない頃、管内で殺人事件が起きて、捜査一課と合同捜査になったことがある。そのときコンビを組んだんだよ」
「ふーん。コウで終わりだと思ったのにな、刑事をバラすのは」
 ハナムラでは人を殺すことをバラすという。殺して終わるだけではなく、何も無かったようにする。この世から存在そのものを消し去ってしまうことから、そう呼ぶようになった。
「マキ、資料は最後まで読め。刑事をバラすより前にやることがある。そいつと一緒に連続殺人犯を捜すんだよ」
「連続殺人って、まさか、今話題の切り裂きジャック?」
 現在、都内各所で発生している無差別連続殺人。犯人の手掛かりは全くわからず、犯行ばかりが増えていく。警察の無能さを嘲笑うように、イギリスで起きた世界的に有名な未解決事件の再来になるかと誰かが呟いたことから、世間では切り裂きジャック事件と呼ばれていた。
「そう。警察のお偉いさんが痺れを切らして、ボスに依頼してきたんだよ。世間を騒がしている殺人犯を処分しろってな」
 花村は警察官僚や有名政治家と深い繋がりを持っており、持ちつ持たれつの関係を続けているらしい。
「ハナムラに処分を依頼するのはわからなくもないけどさ、なんで捜一の刑事も一緒なわけ?」
「ここまで有名になった事件だ。今から裏社会の俺達に丸投げするわけにはいかない。どんな形であれ、犯人を捕まえたのは捜一の刑事ってことにしときたいんだよ」
「その後始末は僕らでしろってことか。可哀相な刑事さん」
 レイとマキの会話を、コウは神妙な顔つきで聞いていた。レイの資料に顔写真があるということは、桜井はハナムラの標的になって処分される。止めることなど出来やしない。それがわかっているからこそ、コウの心境は複雑であった。
「コウ、桜井って刑事はどんな奴だった?」
 コウの気持ちを知ってか知らずか、レイがたずねてきた。
「その頃は刑事に成り立てだったし、捜査一課ってこともあって、纏うオーラが違う感じがしたけど、優しい人だったよ。同僚にも好かれてたし。俺の家族の事件のときとか、辞めた後にも個人的に連絡をくれたりしてたけど、結局すれ違いになって、何も話さないままだったな」
「そうか。なら、話させてやるよ」
 レイがニヤリと笑った。自信満々の不敵な笑みが不気味に思える。
「そんなことをしたら、ボスがまた」
 元刑事というコウの経歴を花村は嫌っている。騒ぎを起こせば、それを理由に処分すると警告されているのだ。
「心配するな、ここまでの案内役を頼むだけだ。顔見知りがいた方が向こうも気が楽だろ」
「気が楽って、俺は死んだことになってんのに」
 刑事だったこともあり、表向きコウは事故死とされているのだ。
「後でバラすんだから、おまえの生存を知られても何の問題もない」
「けど、麻百合の側を離れるわけには」
「マキ、明日の午前九時、車で浅田家に行ってくれ。コウはマキの車で桜井って刑事を迎えにいって、ここに連れてくること」
「了解。金田さんと会うの、久しぶりだな。いつかの礼も言いたいし、そうだ、ハルも連れていっていい?」 
 尚、ハルはマキの恋人の名前である。
「好きにしろ。そういうわけだから、頼んだぞ、コウ」
 コウの気持ちはお構いなしに、レイは先の予定を決めていった。
「はいはい。行けばいいんだろ、行けば」
 コウは大きな溜息をつき、頭を掻いた。
「おまえも始末屋の訓練を受けたハナムラの人間だ。これぐらいやってもらわないと困る。言うまでもないことだが……」
「桜井さんを助けろなんて言わねえよ。俺はもう刑事じゃねえからな」
 先回りをして、コウは自ら言い放った。
「わかっているならいい。ほら、メンテナンス終了だ。シラサカにちょっかい出されないうちにさっさと帰れ」
 そう言って、十字架のペンダントを放り投げる。コウは両手で受け止め、首からぶらさげた。
「サンキュー、レイ。おまえのことだから、切り裂きジャック事件の犯人の目星もついてんだよな」
「いや、これから情報収集する。警視庁のデーターベースから資料を拝借して、今夜中にプロファイリングかな。依頼を受けるまで、ほとんど知らなかったし」
 毎日のように報道されているというのに、レイは興味がないという。思わずコウはマキと顔を合わせた。
「事件を知らなかったわけじゃないぜ。興味がないからスルーしてただけ。誰が死のうが生きようが、亡霊の俺達には関係ない話だろ」
 言われてみれば、その通りである。レイもマキもコウも、戸籍上は死んだ人間なのだから。
「それに、どう考えたって、俺達の方がジャック・ザ・リッパーだろ」
 ハナムラの仕事は、人を殺して死体すら無かったかのようにする。それこそが一番残虐な殺し方なのかもしれない。
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