18 / 60
真実の先にあるもの
③
しおりを挟む
「まだ怒ってんのかよ、マキ」
シラサカの車でレイの自宅へ行けば、既にマキが別の車で待機していた。そこで車を乗り換え、レイがカーナビに目的地を入力する。マキはカーナビの案内に従って、車を走らせていた。
「怒るよ。僕だけ夕食抜きだし」
「食ってなかったのかよ」
「普通さあ、お土産くらい買ってくるでしょ、なんで手ぶらなのさ」
留守番させられたからというよりは、手土産がなかったことが不満らしい。
「悪かった。まだ話の途中でな。後でファミレス寄るから」
「なんで刑事さんは高級鉄板焼きで、僕はファミレスなのさ!」
食べ物の恨みは恐ろしいというが、本当のようだ。後部座席でふたりのやり取りを聞いていた桜井は、我慢出来ずに笑ってしまった。
「刑事さん、笑うところじゃないでしょ」
「マキ、刑事さん呼びは終わりだ。名前で呼んでやれ」
「そっか、協力してくれることになったんだね。じゃあ、改めてよろしくね、ナオ」
マキの発言に、桜井もレイも固まった。車という密室の中であっても、誰のことなのかと問いかけたくなった。
「僕、変なこと言った?」
微妙な空気を感じ取り、マキが発言する。
「いや、だから名前で呼べって言ったろ」
「刑事さんの名前、桜井直人でしょ? それならナオでいいじゃん」
「間違ってねえけど、それはやめて」
その呼び方は両親しかしない。その両親とも年に何回か会うだけ。知り合ったばかりの相手に呼ばれると、非常に恥ずかしいのである。
「えー、いいじゃん。二文字の方が呼びやすい」
そういえば、シラサカのこともマキは「サカさん」と呼んでいた。
「親にしか、その呼び方されたことねえんだよ」
それも子供の頃の話で、正確に言えば、母親がナオちゃんと呼んでいたのだ。
「よし、じゃあ、それでいくか」
振り返ったレイが不敵に微笑む。こうなれば、何を言っても聞いてくれないだろう。
「話を戻すぜ。俺達が今どこへ向かっているかわかるか、ナオ」
年下の得体の知れない連中に、親しげに呼ばれるのは不気味だった。気持ちを切り替えようと何気なく窓の外を見て、桜井は気づいた。
「フクザワヨシオの自宅、なのか?」
フクザワを殺したのは誰だという話から、彼の遺体だけが室内で発見されていたことがわかった。レイはフクザワの自宅の家宅捜索に鑑識が関わっていないことを聞くや、この行動に出た。
「そうだ。事件の概要はさっき話しただろう。タナカミチコを殺したのはカツラギ。そのカツラギを殺したのはフクザワ。フクザワがなぜ血文字を残したのか、彼らの繋がりを考えればその意味もわかるだろう」
血文字はKeep it quiet。その意味は秘密にしておくこと。
「そうか、秘密にしておきたいのは、三人でのグループセックスのことだったのか!」
派手な殺し方をしたのも、血文字を残したのも、自分達の裏の顔を知られないための偽装工作だったのだ。
まさか、こんな形で犯人にたどり着くなんて。
ここまではっきりと見せつけられたら、認めざるを得ないだろう。レイは天才だ。警察は全く見当違いの捜査をしていたのだから。
「待てよ。フクザワが血文字を残すのは理解出来るが、そのフクザワを殺した犯人は、なぜ血文字を残したんだ? フクザワの趣味を知っていたから? だとしても、四人目以降は関係ないよな? それとも今回の事件は全員その手の──」
「ごちゃごちゃうるせえ。言ったはずだ。三件目までと四件目以降の犯行を切り離して考えろと」
解決の糸口を見つけたことで、桜井は饒舌になっていた。レイが全ての犯人を逮捕することは出来ないと言ったのは、一人目、二人目の犯人は死亡しているからだったのだ。それなら、三人目以降の犯人を捕まえればいい。これで事件が終わる。もう誰も殺されなくてすむのだ。
「フクザワの部屋は当時のままにしてあると聞いたが、間違いないか?」
「ああ。だが殺害現場ではなく、なぜ被害者の自宅なんだ?」
「行けばわかる」
そうこうするうちに、車は三人目の被害者フクザワヨシオの自宅マンションへと到着した。
シラサカの車でレイの自宅へ行けば、既にマキが別の車で待機していた。そこで車を乗り換え、レイがカーナビに目的地を入力する。マキはカーナビの案内に従って、車を走らせていた。
「怒るよ。僕だけ夕食抜きだし」
「食ってなかったのかよ」
「普通さあ、お土産くらい買ってくるでしょ、なんで手ぶらなのさ」
留守番させられたからというよりは、手土産がなかったことが不満らしい。
「悪かった。まだ話の途中でな。後でファミレス寄るから」
「なんで刑事さんは高級鉄板焼きで、僕はファミレスなのさ!」
食べ物の恨みは恐ろしいというが、本当のようだ。後部座席でふたりのやり取りを聞いていた桜井は、我慢出来ずに笑ってしまった。
「刑事さん、笑うところじゃないでしょ」
「マキ、刑事さん呼びは終わりだ。名前で呼んでやれ」
「そっか、協力してくれることになったんだね。じゃあ、改めてよろしくね、ナオ」
マキの発言に、桜井もレイも固まった。車という密室の中であっても、誰のことなのかと問いかけたくなった。
「僕、変なこと言った?」
微妙な空気を感じ取り、マキが発言する。
「いや、だから名前で呼べって言ったろ」
「刑事さんの名前、桜井直人でしょ? それならナオでいいじゃん」
「間違ってねえけど、それはやめて」
その呼び方は両親しかしない。その両親とも年に何回か会うだけ。知り合ったばかりの相手に呼ばれると、非常に恥ずかしいのである。
「えー、いいじゃん。二文字の方が呼びやすい」
そういえば、シラサカのこともマキは「サカさん」と呼んでいた。
「親にしか、その呼び方されたことねえんだよ」
それも子供の頃の話で、正確に言えば、母親がナオちゃんと呼んでいたのだ。
「よし、じゃあ、それでいくか」
振り返ったレイが不敵に微笑む。こうなれば、何を言っても聞いてくれないだろう。
「話を戻すぜ。俺達が今どこへ向かっているかわかるか、ナオ」
年下の得体の知れない連中に、親しげに呼ばれるのは不気味だった。気持ちを切り替えようと何気なく窓の外を見て、桜井は気づいた。
「フクザワヨシオの自宅、なのか?」
フクザワを殺したのは誰だという話から、彼の遺体だけが室内で発見されていたことがわかった。レイはフクザワの自宅の家宅捜索に鑑識が関わっていないことを聞くや、この行動に出た。
「そうだ。事件の概要はさっき話しただろう。タナカミチコを殺したのはカツラギ。そのカツラギを殺したのはフクザワ。フクザワがなぜ血文字を残したのか、彼らの繋がりを考えればその意味もわかるだろう」
血文字はKeep it quiet。その意味は秘密にしておくこと。
「そうか、秘密にしておきたいのは、三人でのグループセックスのことだったのか!」
派手な殺し方をしたのも、血文字を残したのも、自分達の裏の顔を知られないための偽装工作だったのだ。
まさか、こんな形で犯人にたどり着くなんて。
ここまではっきりと見せつけられたら、認めざるを得ないだろう。レイは天才だ。警察は全く見当違いの捜査をしていたのだから。
「待てよ。フクザワが血文字を残すのは理解出来るが、そのフクザワを殺した犯人は、なぜ血文字を残したんだ? フクザワの趣味を知っていたから? だとしても、四人目以降は関係ないよな? それとも今回の事件は全員その手の──」
「ごちゃごちゃうるせえ。言ったはずだ。三件目までと四件目以降の犯行を切り離して考えろと」
解決の糸口を見つけたことで、桜井は饒舌になっていた。レイが全ての犯人を逮捕することは出来ないと言ったのは、一人目、二人目の犯人は死亡しているからだったのだ。それなら、三人目以降の犯人を捕まえればいい。これで事件が終わる。もう誰も殺されなくてすむのだ。
「フクザワの部屋は当時のままにしてあると聞いたが、間違いないか?」
「ああ。だが殺害現場ではなく、なぜ被害者の自宅なんだ?」
「行けばわかる」
そうこうするうちに、車は三人目の被害者フクザワヨシオの自宅マンションへと到着した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる