追憶のquiet

makikasuga

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過去の扉

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 蓮見が去ってすぐ、桜井達も三人目の被害者フクザワヨシオ宅を後にした。
「レイのバカ、バカったらバカ!」
 急用が出来たといって、レイはシラサカを呼び出して別行動となり、マキと桜井は帰宅を言い渡された。
「都合のいいときだけ命令扱いなんてひどいよ、肝心な事はダンマリで、サカさんばっか頼るんだから!」
 文句を言おうとしたマキに対し、レイは先程と同様に命令だといってねじ伏せた。車に乗り込んだまではよかったが、走らせた瞬間から、マキは不満をぶちまけ始めたのである。
「それに、僕が晩飯まだだってこと、すっかり忘れてるし!」
「どっかで飯食うか? 帰りにファミレスに寄るくらいなら、文句言わな──」
「そういう問題じゃないの!」
 桜井の言葉を遮るマキ。ボルテージが上昇しているのは、空腹もあってのことだろう。
「あいつのことだから、考えがあってのことだろ。マキを蔑ろにしようなんて、思ってないよ」
 レイがマキを信頼していることは、桜井から見てもよくわかる。大切な仲間だからこそ立ち入らせたくない。そんな風に思う気持ちは理解出来た。
「さっき会った蓮見って奴、ナオは知ってた?」
 マキは唐突に話題を変えた。助手席から横顔を覗き見れば、少し冷静さを取り戻したように見える。
「面識ないよ。向こうは知ってるみたいだったけど」
 さっき出会った蓮見の顔を思い起こす。年齢は桜井より上、四十代半ばか後半ぐらいと推測する。警察の人間にしては禍々しい空気を纏い、高圧的な態度を取る。桜井を階級で呼んだことも、昨日の草薙を思い出させるようで不快だった。
「レイは蓮見が来ることをわかっていたみたいだし、あの感じだと草薙と関係してるっぽいよね。蓮見もレイのこと、JTRって呼んでたし」
 マキが言うように、蓮見は草薙の名前に反応を示し、桜井に伝言まで託した。またJTRはジャック・ザ・リッパーの略称で、蓮見はレイを今回の事件の真犯人だと誤解していた。
「レイは四人目の被害者と真犯人に繋がりがあるって言ってたな。しかも、犯人は次の犯人に殺されて被害者になる法則があると」
「四人目の被害者ってどんな奴なの?」
 事件の話になったことで、マキは冷静さを取り戻したようである。
「レイから聞いてないのかよ」
「僕の管轄じゃないからよくわかんない。もらった資料なら、後部座席に転がってるよ」
 振り返ってみれば、無造作に透明のファイルが放置されてある。
「ひとりで仕事してたときはちゃんと見てたけど、今はレイの言う通りに動くだけだから、名前と顔しか見てない」
 桜井は後部座席に手を伸ばし、ファイルを持ち出した。パラパラとめくってみれば、レイが見せてくれたタブレットの内容と同じだった。
「ひとりだったことがあるのか?」
 意外だった。レイの側にマキがいるのが自然だし、桜井が聞きかじった噂でも、レイの相棒はマキということになっていたから。
「最近のことだよ、レイと組めるようになったのは。僕はサカさんに、レイはヤスオカさんに引き取られていたし、高校も別だった。会えるのは年に何回かでサカさんも一緒が条件だった」
「高校も別って、そんな頃からこんなことやってんのかよ」
「そうしなければ、生きられなかったから」
 前にも同じ言葉を聞いた。マキは大きく息をついて、寂しそうな表情になった。
「レイのおかげで生き延びた。僕はレイに何度も救われてきたんだ。それなのに、僕はレイを助けたことがない。レイが大変だったときは、側にいられなかった。金田さんからレイが死のうとしていたことがあるって聞いて、本当はすごくショックだった」
 自信有り気で横柄で口が悪い。桜井が知る限り、レイはそんなことをするタイプには見えない。金田という人物が誰なのかは気になったが、聞ける雰囲気ではなかった。
「僕とレイは運命共同体で、死ぬときは一緒だって約束してたのに」

 まさかこいつら、そういう仲なのか?

 夕食の席で妙な誤解をされたことを思い出した。それならマキがレイに拘るのも、わからなくもない。
「変な誤解しないでよ。僕、恋人いるから」
 先回りして釘を刺された。口に出さなくてよかったと、内心胸を撫で下ろす桜井であった。
「しかも、レイを助けたのがコウだったなんて。あー、もう我慢出来ない。全部吐かせてやる!」
 マキはいきなり方向転換した。それまでの穏やかな運転とは異なり、スピードを上げ、次々と前方の車を追い抜いていく。
「どこへ行くんだよ」
「コウのとこ。ナオも話し足りないでしょ」
「柳……じゃなかった、あいつは」
「今のは聞かなかったことにしてあげるけど、コウの本当の名前、絶対口にしないで。言ったら問答無用でバラすからね」
 柳という名を口にしただけで殺されるとは。これぞ正に口は災いの元である。
「あいつは、管轄が違うと言ってたぞ」
 コウは桜井をレイに引き合わせるだけに呼ばれたと言っていたし、専属のボディーガードをしているという話だった。
「管轄は違っても、ハナムラの人間だもん。レイが何も話さないのが悪い。僕だけ仲間外れにするのが悪い。絶対吐かせてやるんだから!」
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