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破滅の幕開け
①
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「レイがそんなに思い詰めてたなんて、知らなかった。僕、何にも知らなかったんだよぉ!」
柳ことコウの元へ連れて行かれ、レイの過去話を聞いた。その後マキと共に、元いたレイの自宅であろう場所に戻され、そのまま酒を飲まされた。
当初、マキは酒を水のようにかぶ飲みして、顔色一つ変えずレイのことを自慢していた。酒の勢いも手伝って、そんなにレイが好きなのかとたずねてみれば、大好きだよと真顔で返された後、わぁっと泣き出したのである。
「コウの前で泣くのは嫌だったから、我慢してた」
「俺の前ならいいのかよ」
「ナオは口固そうだし、後から喋ることないし」
マキは殺し屋で、この違法捜査が終われば桜井を殺す役目を担っている。本人を前にして、これだけはっきり言えるのだから、相当自信があるのだろう。
「本人を前にして言うなよな」
「サカさんは全部知ってた。レイは僕よりサカさんの方が大好きなんだよぉ!」
桜井の言葉など耳に入っていないらしく、マキはまた泣いた。顔色が変わらなかっただけで、マキは盛大に酔っているのである。
「レイがマキを嫌っていないことは、俺からみてもわかるから」
正直面倒くさかったけれど、マキがレイを思いやる気持ちに嘘がないことだけはわかっていた。年上として、ここは宥めてやることにする。
「なんでわかるのさ、昨日会ったばっかりじゃん!」
だったら絡むなよと言いたい気持ちを抑え、桜井は黙り込む。脳裏に苦い記憶が蘇ってきた。
元恋人と再会を果たしたのは容疑者と刑事という立場でのこと。そのとき初めて彼女が解離性同一性障害だと知った。彼女の凶暴な別人格に秘密を打ち明けられ、激しい殺意を向けられた。
今まで何度となく殺意を向けられたことはあったが、桜井は怯まなかった。それなのに、彼女の別人格に殺意を向けられたときは足が竦み、怖いと感じた。
(桜井君。最期にあなたの顔を見られてよかった)
桜井の気持ちを悟ってのことだろう、彼女は寂しげに笑い、桜井の目の前で自殺した。恐怖の存在が目の前で消えたこともあって、桜井は正気を取り戻したのだった。
「ごめん、言い過ぎた」
マキに声をかけられ、桜井は我に返った。
「なんだよ、突然」
「そんな傷ついた顔されたら、さすがに責任感じる」
「傷つくって、そんなわけないだろ」
そんな顔をしていたのだろうかと、桜井は気を引き締める。
「ホント、奇跡でも起きてくれないかなぁ」
マキの口からこんな言葉が出てくるのだから、やはりまだ酔っているのだろう。
「殺したくないって思ったの、二人目なんだよね」
「殺したくないって、俺のことか?」
「そうだよ。僕の酒と愚痴につきあってくれてさ、刑事にしとくのもったいないよ」
「俺は殺し屋になる気はねえぞ」
「わかってる。コウが言ってた通りだよ。ナオは優しすぎ。だから僕達みたいなのに目をつけられるんだよ」
目をつけられると言われても、違法捜査をやれと命令したのは、警視総監の草薙である。桜井が望んでしたことではないのだ。
「出来るだけ苦しまないようにしてあげるね」
「そりゃどうも」
「もし、やりたいこととかあったら今のうちに言っといて」
「親父とおふくろに心配かけたくないから、その辺うまくカバーしてくれ」
「了解。レイに頼んどく」
自分が死ぬと決まっているのに、実感が湧かない。恐怖よりは安堵の気持ちが強かった。
あのときからずっと、俺はこうなることを望んでいたのかもしれない。
マキの軽快な言葉を聞きながら、桜井の瞼はゆっくりと閉じられていった。
柳ことコウの元へ連れて行かれ、レイの過去話を聞いた。その後マキと共に、元いたレイの自宅であろう場所に戻され、そのまま酒を飲まされた。
当初、マキは酒を水のようにかぶ飲みして、顔色一つ変えずレイのことを自慢していた。酒の勢いも手伝って、そんなにレイが好きなのかとたずねてみれば、大好きだよと真顔で返された後、わぁっと泣き出したのである。
「コウの前で泣くのは嫌だったから、我慢してた」
「俺の前ならいいのかよ」
「ナオは口固そうだし、後から喋ることないし」
マキは殺し屋で、この違法捜査が終われば桜井を殺す役目を担っている。本人を前にして、これだけはっきり言えるのだから、相当自信があるのだろう。
「本人を前にして言うなよな」
「サカさんは全部知ってた。レイは僕よりサカさんの方が大好きなんだよぉ!」
桜井の言葉など耳に入っていないらしく、マキはまた泣いた。顔色が変わらなかっただけで、マキは盛大に酔っているのである。
「レイがマキを嫌っていないことは、俺からみてもわかるから」
正直面倒くさかったけれど、マキがレイを思いやる気持ちに嘘がないことだけはわかっていた。年上として、ここは宥めてやることにする。
「なんでわかるのさ、昨日会ったばっかりじゃん!」
だったら絡むなよと言いたい気持ちを抑え、桜井は黙り込む。脳裏に苦い記憶が蘇ってきた。
元恋人と再会を果たしたのは容疑者と刑事という立場でのこと。そのとき初めて彼女が解離性同一性障害だと知った。彼女の凶暴な別人格に秘密を打ち明けられ、激しい殺意を向けられた。
今まで何度となく殺意を向けられたことはあったが、桜井は怯まなかった。それなのに、彼女の別人格に殺意を向けられたときは足が竦み、怖いと感じた。
(桜井君。最期にあなたの顔を見られてよかった)
桜井の気持ちを悟ってのことだろう、彼女は寂しげに笑い、桜井の目の前で自殺した。恐怖の存在が目の前で消えたこともあって、桜井は正気を取り戻したのだった。
「ごめん、言い過ぎた」
マキに声をかけられ、桜井は我に返った。
「なんだよ、突然」
「そんな傷ついた顔されたら、さすがに責任感じる」
「傷つくって、そんなわけないだろ」
そんな顔をしていたのだろうかと、桜井は気を引き締める。
「ホント、奇跡でも起きてくれないかなぁ」
マキの口からこんな言葉が出てくるのだから、やはりまだ酔っているのだろう。
「殺したくないって思ったの、二人目なんだよね」
「殺したくないって、俺のことか?」
「そうだよ。僕の酒と愚痴につきあってくれてさ、刑事にしとくのもったいないよ」
「俺は殺し屋になる気はねえぞ」
「わかってる。コウが言ってた通りだよ。ナオは優しすぎ。だから僕達みたいなのに目をつけられるんだよ」
目をつけられると言われても、違法捜査をやれと命令したのは、警視総監の草薙である。桜井が望んでしたことではないのだ。
「出来るだけ苦しまないようにしてあげるね」
「そりゃどうも」
「もし、やりたいこととかあったら今のうちに言っといて」
「親父とおふくろに心配かけたくないから、その辺うまくカバーしてくれ」
「了解。レイに頼んどく」
自分が死ぬと決まっているのに、実感が湧かない。恐怖よりは安堵の気持ちが強かった。
あのときからずっと、俺はこうなることを望んでいたのかもしれない。
マキの軽快な言葉を聞きながら、桜井の瞼はゆっくりと閉じられていった。
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