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序:断罪劇
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パーティ会場が異様な騒がしさに包まれていた。
その中心にいたのはこの国の王太子と彼を取り巻く女達だ。
「セリーネ・ド・コルヌアイユ、そなたとの婚約を破棄する。そしてここに、アンナと婚約を宣言する」
「殿下!」
気の強そうな女が甲高い声をあげた。
「黙れ! 言い訳はききたくない。そなたは、弱いものを虐げ、その悪辣さは婚約者としてあるまじきものだ。しかも、ジャレアン公爵家の悪行にも調べがついている。そのようなものを王太子妃にできるものか!」
「なっ!」
「クロード」
王太子の側でリスのような可愛らしい女が不安そうな声をあげた。
それをみたセリーネ嬢はきっと睨みつけた。
「殿下、お考え直しを。その女は我々と同じ青い血を持っておりません。それにいわれのない罪で我がジョレアン公爵を侮辱するなど、殿下でもゆるされることではありません」
セリーネ嬢は気丈に振る舞っていたが、内心はかなり困蹙していた。
彼女自身、アンナ嬢や他の者に対して数々の虐めを行っており、殺人教唆なども行っていた。
そして、彼女の生家であるジョレアン公爵も事実、海を挟んだ隣国と不穏な繋がりがあることをセリーネ嬢自身も微かに知っていた。
「すでに証拠はあがっている。その傲慢な態度で王家を侮辱することにも我慢ならない。今、この場を持って婚約を破棄する!」
この茶番のような断罪に誰も弁護をすることなく、周りは観劇するように話したり笑ったりしていた。
助け舟もない中で一人奮闘するセリーネ嬢の旗色は悪い。彼女の味方であるはずの父母はこの場におらず、異母兄はなぜか傍観を決めている。
「お待ちなさい」
玲瓏な声が会場に響き、皆が静まる。
群衆は道を開けて、一人の女性騒動の中心へと通す。
「私は王太子の決断に反対です」
「「王妃陛下」」
希望に溢れたセリーネ嬢の声と苦虫を噛み潰したような王太子の声が重なる。
「ジョレアン公爵令嬢、私は貴女を擁護するつもりもありません。ジョレアン公爵の愚行を王家はゆるすことはありません。敵国と内通するなどあってはならぬこと」
王妃の言葉に場は騒然とする。
公爵夫妻がこの場にいないことが更に信憑性を増させる。
「正式な処罰は追って発表されます。しかし、それを引いても貴女の言動は目にあまる。汚点のある者など次期王妃に相応しくない。ましてや愛妾ごときに乱されるなど、なんとも恥ずかしい」
王妃の棘のある台詞は、会場にいた、セリーネ嬢でもアンナ嬢でもない者に向けられており、それを知っている会場の貴族たちはその者に向けて嘲笑した。
「私が反対するのは、王太子とそこの娘との婚約です。貴族の婚姻とは、一朝一夕で決められるものではありません。とくに、王族ならば国家を背負う国政なのです。そこのつまらない女、しかも青い血ではない者が王太子妃になるなど言語道断。貴方の結婚は私情でできるものではないのです」
セリーネ嬢が王太子と婚約を結んだのも、王家の傍系であり、数代前に隣国の王族と血縁を結んだからだ。しかし、その隣国と共謀したので、この婚約もなかったことになった。
「そこの娘と関係を持ち続けたいのなら愛妾に迎えなさい。いずれ国王となり公妾として囲めばよろしい」
その場の貴族も王妃の意見に賛同するように賛辞を送った。
「そこの娘の結婚相手は……。ティオゾ伯爵、どうかしら?」
ティオゾ伯爵の名に再び場は騒然とした。
嗤う者、顔色をうかがう者、怒る者。
そんな中、ティオゾ伯爵は王妃の前にやって来て恭しく頭をさげる。
「陛下のお望みとあらば」
黒い髪をなびかせながら、真っ直ぐな視線をティオゾ伯爵は王妃に向けた。
「母上! そいつは……っ」
「もし左手結婚を望むのであれば、王籍から排除する」
その言葉にさすがに黙っていられなくなった国王が王妃の隣に来てとりなそうとする。
「クラウディア、さすがにそれは……」
「陛下、ルイ=クロードを廃嫡しても第二王子であるシャルル=ジルベールがいます」
「だがジルはまだ幼い」
「陛下はまだご健在であらせられる。何を心配なさることがありましょうか」
宰相が王妃を擁護するように言った。
まわりは王太子が廃嫡されるのではないかや、ティオゾ伯爵の動向などをうかがっていた。
この現状に最も困惑していたのは王太子の隣にいたアンナ嬢だった。
こんな筈ではなかった。
悪役令嬢の断罪までシナリオ通りだった。そこを乗り越えれば、結婚だったはずなのだ。そういうストーリーなのに。
結婚エンドの裏にこんな話があるなんて聞いていない。
「皆さま、お騒がせしました。気を取り直しましてパーティの続きを楽しみましょう」
王妃の明るく人好きする声によってパーティの再開が告げられる。
踊って、食事をして、ガードゲームをして、享楽にふける。
その影で、王妃が小さく合図を出し、セリーネ嬢が会場から姿を消した。
その中心にいたのはこの国の王太子と彼を取り巻く女達だ。
「セリーネ・ド・コルヌアイユ、そなたとの婚約を破棄する。そしてここに、アンナと婚約を宣言する」
「殿下!」
気の強そうな女が甲高い声をあげた。
「黙れ! 言い訳はききたくない。そなたは、弱いものを虐げ、その悪辣さは婚約者としてあるまじきものだ。しかも、ジャレアン公爵家の悪行にも調べがついている。そのようなものを王太子妃にできるものか!」
「なっ!」
「クロード」
王太子の側でリスのような可愛らしい女が不安そうな声をあげた。
それをみたセリーネ嬢はきっと睨みつけた。
「殿下、お考え直しを。その女は我々と同じ青い血を持っておりません。それにいわれのない罪で我がジョレアン公爵を侮辱するなど、殿下でもゆるされることではありません」
セリーネ嬢は気丈に振る舞っていたが、内心はかなり困蹙していた。
彼女自身、アンナ嬢や他の者に対して数々の虐めを行っており、殺人教唆なども行っていた。
そして、彼女の生家であるジョレアン公爵も事実、海を挟んだ隣国と不穏な繋がりがあることをセリーネ嬢自身も微かに知っていた。
「すでに証拠はあがっている。その傲慢な態度で王家を侮辱することにも我慢ならない。今、この場を持って婚約を破棄する!」
この茶番のような断罪に誰も弁護をすることなく、周りは観劇するように話したり笑ったりしていた。
助け舟もない中で一人奮闘するセリーネ嬢の旗色は悪い。彼女の味方であるはずの父母はこの場におらず、異母兄はなぜか傍観を決めている。
「お待ちなさい」
玲瓏な声が会場に響き、皆が静まる。
群衆は道を開けて、一人の女性騒動の中心へと通す。
「私は王太子の決断に反対です」
「「王妃陛下」」
希望に溢れたセリーネ嬢の声と苦虫を噛み潰したような王太子の声が重なる。
「ジョレアン公爵令嬢、私は貴女を擁護するつもりもありません。ジョレアン公爵の愚行を王家はゆるすことはありません。敵国と内通するなどあってはならぬこと」
王妃の言葉に場は騒然とする。
公爵夫妻がこの場にいないことが更に信憑性を増させる。
「正式な処罰は追って発表されます。しかし、それを引いても貴女の言動は目にあまる。汚点のある者など次期王妃に相応しくない。ましてや愛妾ごときに乱されるなど、なんとも恥ずかしい」
王妃の棘のある台詞は、会場にいた、セリーネ嬢でもアンナ嬢でもない者に向けられており、それを知っている会場の貴族たちはその者に向けて嘲笑した。
「私が反対するのは、王太子とそこの娘との婚約です。貴族の婚姻とは、一朝一夕で決められるものではありません。とくに、王族ならば国家を背負う国政なのです。そこのつまらない女、しかも青い血ではない者が王太子妃になるなど言語道断。貴方の結婚は私情でできるものではないのです」
セリーネ嬢が王太子と婚約を結んだのも、王家の傍系であり、数代前に隣国の王族と血縁を結んだからだ。しかし、その隣国と共謀したので、この婚約もなかったことになった。
「そこの娘と関係を持ち続けたいのなら愛妾に迎えなさい。いずれ国王となり公妾として囲めばよろしい」
その場の貴族も王妃の意見に賛同するように賛辞を送った。
「そこの娘の結婚相手は……。ティオゾ伯爵、どうかしら?」
ティオゾ伯爵の名に再び場は騒然とした。
嗤う者、顔色をうかがう者、怒る者。
そんな中、ティオゾ伯爵は王妃の前にやって来て恭しく頭をさげる。
「陛下のお望みとあらば」
黒い髪をなびかせながら、真っ直ぐな視線をティオゾ伯爵は王妃に向けた。
「母上! そいつは……っ」
「もし左手結婚を望むのであれば、王籍から排除する」
その言葉にさすがに黙っていられなくなった国王が王妃の隣に来てとりなそうとする。
「クラウディア、さすがにそれは……」
「陛下、ルイ=クロードを廃嫡しても第二王子であるシャルル=ジルベールがいます」
「だがジルはまだ幼い」
「陛下はまだご健在であらせられる。何を心配なさることがありましょうか」
宰相が王妃を擁護するように言った。
まわりは王太子が廃嫡されるのではないかや、ティオゾ伯爵の動向などをうかがっていた。
この現状に最も困惑していたのは王太子の隣にいたアンナ嬢だった。
こんな筈ではなかった。
悪役令嬢の断罪までシナリオ通りだった。そこを乗り越えれば、結婚だったはずなのだ。そういうストーリーなのに。
結婚エンドの裏にこんな話があるなんて聞いていない。
「皆さま、お騒がせしました。気を取り直しましてパーティの続きを楽しみましょう」
王妃の明るく人好きする声によってパーティの再開が告げられる。
踊って、食事をして、ガードゲームをして、享楽にふける。
その影で、王妃が小さく合図を出し、セリーネ嬢が会場から姿を消した。
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