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第27話:仮面遊戯《ペルソナ》
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考えてみれば、俺はこの世界に来てから嫌というほど、ドラゴンに絡まれている
異世界で初めての魔物→『黒竜』
草とりに行ったら居た→『地竜』
盗賊のペットだった→『怒れる竜』
……………………
前にフレイが言っていた
ドラゴンは全ての魔物の頂点に君臨している種族だと
しかもほとんどが一匹狼のため、人々に悪さをするために1箇所に住み着いているドラゴンとかじゃない限り、出くわすことは滅多にないらしい
……そんな存在と何回もエンカウントする俺って…俺って…!
「『海竜』!バカな…なぜ王都の中に…」
「考えるのは後よ!
こいつは水属性の魔法に長けたドラゴンなの!
モタモタしてると撃ち込まれてしまうわ!」
ルカとフレイは臨戦態勢をとり、いつでも迎撃できるようだ
だけど…俺はすでに、ドラゴンのキャパオーバー状態になってんだよ!
「もう嫌だァァァァ!!!
なんでいつも俺はドラゴンと出会っちゃうんだよぉぉ!!!」
「え、えーとマミヤ君?どうしちゃったの?」
頭を抱えて絶叫すると、モネが珍しく目を丸くして、こちらを気にしてきた
いや、そんなことはどうでもいい…!
早く脱出しなければ!
「ルカ!フレイ!逃げんぞ!
こんな奴の相手をする必要なんてない!」
「レイト!
いい加減ドラゴン恐怖症を治しなさい!
そんなんじゃいつまで経ってもヘタレのままよ!」
フレイはそんな俺の逃げ腰に反発し、正面から闘うようだ
こいつもこいつでスパルタな面があって、たまについて行けなくなる
ルカに助けを求めようと顔を向けると、何かに気づいた
「待て!さらに後方からエネルギー反応!
いや…こいつは…!」
ルカが警告すると同時に、赤いエネルギーの波動が俺の目の前を通り過ぎて行った
「『炎斬撃』!!」
ドン!!
「ゴアッ!?フシュルルル!!」
見覚えのあるその攻撃は、海竜の頭部にクリーンヒットした
属性の相性は水の方が強いため、そこまでのダメージではないようだが、食らった衝撃は相当のようだ
俺の知り合いで火属性を得意とする人物は、1人しかいない
その女性は大剣を肩に乗せながら、こちらに走ってきた
「誰かと思えば、マミヤ殿たちか。
こんな所で何をしている?」
「な、ナディアさん!?
あなたこそどうしてここに…」
「私は見てのとおり、臨時の任務だ。
今朝、王都の地下にドラゴンと思しき目撃情報が警備隊に寄せられてな。
どうやら奴がそのドラゴンのようだな」
ナディアさんをよく見てみると、警備隊の仕事着…黄金の鎧を装備していた
た、助かった!
ここはナディアさんにおまかせして、俺はとっとと…
ガシッ!
…逃げようとしたらフレイに肩を掴まれた
「それで、貴公らは何故にここに居るのだ?
フレイ殿はともかく、マミヤ殿とルカ殿はそこの『占術士』の娘と仕事だったのではないか?」
「こっちも色々あったのよ。
あのドラゴンは『占術士』の仕事のオマケみたいなものね」
はぁ!?
オマケだぁ!?
「ふざけんな!
単にハゲオヤジの不幸にこっちまで巻き込まれてるだけじゃねぇか!
俺は帰るぞ!!」
「あっ!?マミヤ君!?」
肩の手を払って、モネと手を繋いで座標を検索していると、ナディアさんの身体から赤い魔力がメラメラと燃えだした
えっ…また…?
「マミヤ殿…私は言ったはずだ。
『負けることは許さない』と。
敵前逃亡なぞ、勝つ負ける以前に勝負すら挑めない、ただの臆病者だぞ!
貴公はそれで良いのか!?」
そうだった…
ナディアさんもフレイと同じで、戦いに関してはクッソ厳しい人だった…
「ナディアの言う通りよ!
あんた、ここで闘えないんじゃ紅の魔王に勝つなんて到底無理だわ!
根性見せなさいレイト!」
フレイもナディアさんの言葉に乗っかり、俺に追撃をしてきた
……なんだろう、泣きたくなってきた
俺だってできることならば、ドラゴン恐怖症を克服したいと思ってはいる
だけど、頭では分かっていても身体と心はドラゴンを拒否してるんだよ!
コイツらはそれを分かってない!
しかし、それを伝えたいのに上手く言葉が出てこない…
そんな俺を見限るかのように、2人の目が険しくなった
「もういい。
貴公のような男に期待をした私が愚かだった。
そこで指をくわえて見ていろ!」
「レイト。正直、見損なったわ…
あんたはモネとそこの倒れてる男を連れて帰りなさい!
私たちが闘うわ!」
フレイとナディアさんはそれぞれの得物を構えて、海竜に立ち向かって行った
クソ…!俺は…!!
「えっとー…
もしかしてキミ、ドラゴン苦手だったり?」
ほんの少しだけ気まずそうにモネは確認してきた
既に答えるまでもない気がするが、一応…言っとくか
「俺がこの世界…いやこの星に来て、最初に襲ってきた魔物がドラゴンだったんだよ…
こっちには魔物なんていないし…
あんなの、トラウマにならない方がおかしい…!」
情けなさと恥ずかしさを押し殺しながら、絞り出すように言うと、意外にもモネは笑わなかった
「キミの星にはドラゴンは居ないんだね…
そっか。
教えてくれてありがと、マミヤ君」
モネは俺が掴んでいる手をギュッと握り返した
な、なんだ?
「マミヤ君。
キミがルカ君のお兄さんを救って元の星に帰りたいのなら、あのドラゴンと闘わないといけない。
そう運命を星がボクに教えてくれたんだ」
「は、はぁ!?だから、俺は…」
「大丈夫。ボクがキミを手伝うよ。
どうか信じて」
「あ……」
いつものヘラヘラした表情は消え失せ、真剣な目つきで真正面から俺を射抜いた
その眼差しは俺の不安な感情を和らげ、少しだけ希望を感じさせるような不思議なものだった
なぜかな…ついさっきまでムカついてしょうがない奴だったのに、今はこいつに背中を預けても良いと思ってしまった
…変な女だ
「……分かった。あいつと闘うよ。
ルカ!やるぞ!」
「ふふ、その言葉を待っていたぞ!
心を合わせろ!」
「ああ!」
「「『融解』!!」」
☆☆☆
トポン…
エネルギーの粒子体と化したルカが、俺の奥深くまで浸透する
やがて俺たちは交じり合い、ひとつになった
ボン!と爆発し、いつもの台詞が聴こえてくる
「よし。私の声は聴こえているな?
敵性ドラゴン、『海竜』と戦闘を開始する!」
「了解だ!モネ!
手伝うってんなら、それなりに自信はあるんだろうな?」
「フッフッフー!
まぁ、任せときなって!いくよー!」
モネは懐から水晶…ではなく、狼か犬を模しているような仮面を取り出した
なんだありゃ?
「『仮面遊戯』!」
自身の魔力を仮面に送り込むと、とてつもないエネルギーを秘めた物に変貌した!
「ほら!受け取って、マミヤ君!」
彼女は、自分の頭上に浮かんでいる俺に向かって仮面を投げた
…っておいおい!コントロール下手くそだな!
慌てて転移を発動させる
ブン!
「っと…モネ、これは?」
「口で説明するよりも実際に使ってみた方が分かりやすいと思う。
とにかく仮面を付けてみて!」
「分かった」
言われたとおり仮面を身に付ける
すると…
<ユーザー認証、『マミヤ・レイト』を登録。
対象の敵を捕捉します……完了。
『黒獄犬』モード起動>
なんだぁ!?
仮面が喋った??
<マミヤ様。
これよりあなたの身体に魔力を充填します。
しばらくお待ちください>
「ほう…仮面に人格があるとは…
中々に面白い魔法だな」
仮面が喋り終わると、突如俺の中にいつもの蒼のエネルギーとは違う、何か別のエネルギーが流れ込んで来た
これは…
「マミヤ君!
キミは今だけ『黒獄犬』と同じ能力を使えるよ!
思いっきり暴れちゃって!」
なるほど…
もしかしてさっきの『仮面遊戯』って、仮想の魔物と同調するような魔法なのだろうか?
しかし、受け取ったはいいが、肝心のその魔物の能力が分からない
「『黒獄犬』ってまだ戦ったことないな…
ルカ、どんな魔物なんだ?」
「リストによれば、黒い毛並みが特徴の犬型の魔物だ。
能力としては、近接攻撃は大したものではないが、海竜と同じく、魔法攻撃を得意としている」
「そうなのか!魔法の属性は?」
ルカに訊いたつもりだったが、代わりに仮面が答えた
<『黒炎』属性でございます、マミヤ様。
かの敵、海竜に対して絶大な効果を期待できます。
存分にご活用下さいませ>
「分かったよ、ありがとう」
よし、説明は充分だ
あとは実際に闘ってみて使い勝手を試そう
見てろよ、あの脳筋女ども!
☆ナディア・ウォルトsides☆
「『炎弾』!」
ドン!!
「よし、やってくれ!フレイ殿!」
「任せなさい!『森緑投槍』!」
私の魔法に合わせて、少し離れた位置に陣取ったフレイ殿が、木属性の魔力で生成した槍を海竜に投擲する
キィン!!
「ゴアアアアア!!」
「くっ…!
やっぱりあの『水幕』が厄介ね…!」
「ああ、やはりそううまくはいかないか…」
悠々と空中に留まっている海竜の周囲には、水属性のバリアが展開しており、あらゆる攻撃が弾かれていた
よりにもよって、私の『炎獣』と相性が最悪のドラゴンとは…
私は、生まれつきこの魔物を代償無しで『召喚』できるが、代わりに火以外の属性の魔力を生み出すことができない
したがって、決め手はフレイ殿に頼るしかないのだが…
「フシュウウウ…ガァッ!!」
海竜が自身の前方に、魔力を集中し始めた!
あれは…まずい!
「『水雪崩』だ!逃げろ!」
「ウソ…
まさかこの地下水道ごと沈没させる気!?」
集積していく魔力はやがて、激流渦巻く水へと変化していった
あれほどの規模となると、もはやどこへ行っても呑み込まれてしまう…
万事休すか…!
「あっ!?ナディア!上よ!」
フレイ殿の叫びに反応して上を見ると、水魔法『水刃』が目前にまで迫っていた!
まさか、あれは囮だったのか!?
ダメだ、間に合わん!
ブン!
「ふ……!?なに、今何が起こった!?」
「大丈夫ですかナディアさん」
目を開けると、謎の仮面を付けた男に抱き抱えられていた
その声…まさか…!
「マミヤ殿!?その姿はいったい…」
「これが前に話した『融解』です。
この仮面についてはまぁ…俺も初めて使うのであまり期待しないでください。
それよりも降ろしますよ」
「はぁ…?なっ、貴公、宙に浮けるのか!?」
下を見てみると、地面ではなく地下水が流れていた
思わずマミヤ殿にギュッとしがみついてしまう
「ちょ、だから危ないですって!
降ろしますから」
「ちょっと!?羨ま…じゃなくて!ナディア!
くっついてんじゃないわよ!」
トン…とマミヤ殿はフレイ殿の近くに降りて、私を地面に立たせてくれた
な、何やら良い匂いがしたな…
…ってそうではない!
「マミヤ殿…戻ってきてくれたのか?」
「はい、お待たせさせちゃってすみません。
あとは俺に任せてください」
マミヤ殿はそう言うと右手にファルシオンを持ち、空中に飛び上がって海竜に向かって行った
ああ…そうだ
蒼い姿、蒼い魔力、そして強大な敵に立ち向かおうとするその勇気…私はあの男に負けたのだ
私の…初めての人…
☆間宮零人sides☆
ナディアさんを降ろしたあと、再び海竜の所へ向かう
それと同時に右眼にエネルギーを回す
さて、まずは脆弱性のポイントを…ふむ、大体腹の当たりか
だけど…
<マミヤ様。対象のドラゴンの周りには、水魔法『水幕』が展開している模様です。
その状態では攻撃を行なっても効果が薄いでしょう>
「その通りだ。
まずはあのバリアを剥がす必要がある…
ちなみに、君は何という名前なのだ?」
<私には名前は存在しません。
『仮面遊戯』はその都度…魔物によって人格が変わりますゆえ>
…なんだか、俺の身体がずいぶん賑やかになってきたな
身体は1つなのに3人で喋ってる
<『水幕』に対抗する手段として、黒炎魔法の使用を推奨します。
マミヤ様、如何なされますか?>
「ああ、お願いするよ。
何をすれば良いんだ?」
<黒炎属性の魔力を貴方様の左手に集中させます。
準備ができたら敵に向け、魔法名を口にしてください。その名前は…>
魔法の名前を聞き、頷く
「了解だ!いっちょやってやるか!」
☆☆☆
「ギャオオオンン!!ゴアアッ!!」
海竜の正面に浮かび、ファルシオンを構えると、分かりやすく威嚇をしてきた
……まったく、どいつもこいつも、俺が出会うドラゴンは血の気が多いやつばっかりだな
「作戦開始だ。
まずは、黒炎魔法の準備ができるまで我々で時間を稼ぐぞ。
敵の魔法は私が防ぐ。
零人は回避に専念してくれ」
「ああ!頼んだぜ!」
海竜は俺に注視し、再び魔力を集中させている
あの魔法は…たしかガルドにいる頃、フレイも使っていた技だな
「気をつけなさい!『水弾』よ!」
下から声がしたので見てみると、フレイとナディアさんが近くに来て得物を構えていた
は!?何こっちに来てんだ!
「おい!危ないからお前らは隠れていろ!」
「はぁ!?イヤよ!
私も闘うに決まっているでしょ!
あんたを焚き付けといて、自分だけ隠れるなんてできないわ!」
「ああ!
それにやられっぱなしでは、警備隊の名に傷が付く!」
いや、そういう事じゃないんだが…
これから行う攻撃は威力が知れないから、できるだけ仲間を遠ざけておきたい
すると、ルカは俺の意図を汲んでくれたようだ
「シュバルツァー。
零人は新しい力を得たのだ。
だが、攻撃範囲がまだ不明だ。
君はウォルトと共にラミレスを守ってくれ」
「あ…!ちょっとル…」
ブン!
フレイが言い切る前に、問答無用で2人を転移させた
ご、強引だなぁ…
「ガアアッ!!」
ドン!ドン!ドン!
モタモタしてる間に海竜は三連の水弾を撃ってきた!
おお!やっぱりドラゴンなだけあって、大きさはケタ違いだ!
「フン…
大層な魔法だが、スピードは話にならんな。
貴様に返すぞ」
ルカは3発の水弾を同時に転移させ、海竜の顔・身体・また顔にぶち込んだ!
すげぇな!
「グルル!?フシュルルッ!」
自分の水を食らった海竜は、流石に動揺してるのか、何度も頭をブルブル振っている
<黒炎魔法、準備完了。
マミヤ様、いつでも撃てます>
「来たか!行くぜ、ルカ!」
「ああ!トカゲもどきにお見舞いしてやれ!」
海竜の背後に転移し、熱く滾り出している左手を構えた
「『黒炎弾』!」
ボッ…ゴオォッ!!
俺の手から、黒い炎に包まれたエネルギーの塊が放出された
そして、その弾は海竜の背中に命中する
ドオォォォン!!!
「ガアァッ!?」
「うわぁっ!?な、なんて威力だよ…」
爆発したエネルギーの余波は凄まじく、一瞬体勢が逆さまになってしまった
やっぱりあの2人逃がしておいて正解だったな
「ぼんやりしているヒマはないぞ!
零人、今だ!」
「おうっ!」
ブン!
水幕が解け、無防備になった海竜の腹部に転移する
そして、ファルシオンを構えた
「こっからぁ、出て行けぇ!!」
ボコッ!!
「ギャアア!?」
ドラゴンの逆鱗に斬りつけ…ずに、柄で殴った
それだけでも、ダメージは相当のようで、ヨロヨロとバランスを崩しながら痛みに悶え始めた
へへ…やった!
するとルカは疑念を抱きながら質問してきた
「零人、なぜ逆鱗を斬らずに殴ったのだ?」
「ここ地下水道だろ?
あんなでけぇのが墜落して水をせき止めでもしたら、大変なことになるんじゃないかと思ってさ」
「なるほど、そういう事か。良い判断だ」
やがて海竜は痛みに慣れてきたのか、再びこちらに向き直ってきた
んだよ、まだやる気なのか?
ファルシオンを構えてもう1発入れようとした瞬間、予想外の事が起こった
「ミゴトダ、異邦ノ人間ヨ。
ヨクゾ我ガ力ヲ凌イダナ」
「「!?」」
は…?
しゃ…喋ったァァァ!!!??
異世界で初めての魔物→『黒竜』
草とりに行ったら居た→『地竜』
盗賊のペットだった→『怒れる竜』
……………………
前にフレイが言っていた
ドラゴンは全ての魔物の頂点に君臨している種族だと
しかもほとんどが一匹狼のため、人々に悪さをするために1箇所に住み着いているドラゴンとかじゃない限り、出くわすことは滅多にないらしい
……そんな存在と何回もエンカウントする俺って…俺って…!
「『海竜』!バカな…なぜ王都の中に…」
「考えるのは後よ!
こいつは水属性の魔法に長けたドラゴンなの!
モタモタしてると撃ち込まれてしまうわ!」
ルカとフレイは臨戦態勢をとり、いつでも迎撃できるようだ
だけど…俺はすでに、ドラゴンのキャパオーバー状態になってんだよ!
「もう嫌だァァァァ!!!
なんでいつも俺はドラゴンと出会っちゃうんだよぉぉ!!!」
「え、えーとマミヤ君?どうしちゃったの?」
頭を抱えて絶叫すると、モネが珍しく目を丸くして、こちらを気にしてきた
いや、そんなことはどうでもいい…!
早く脱出しなければ!
「ルカ!フレイ!逃げんぞ!
こんな奴の相手をする必要なんてない!」
「レイト!
いい加減ドラゴン恐怖症を治しなさい!
そんなんじゃいつまで経ってもヘタレのままよ!」
フレイはそんな俺の逃げ腰に反発し、正面から闘うようだ
こいつもこいつでスパルタな面があって、たまについて行けなくなる
ルカに助けを求めようと顔を向けると、何かに気づいた
「待て!さらに後方からエネルギー反応!
いや…こいつは…!」
ルカが警告すると同時に、赤いエネルギーの波動が俺の目の前を通り過ぎて行った
「『炎斬撃』!!」
ドン!!
「ゴアッ!?フシュルルル!!」
見覚えのあるその攻撃は、海竜の頭部にクリーンヒットした
属性の相性は水の方が強いため、そこまでのダメージではないようだが、食らった衝撃は相当のようだ
俺の知り合いで火属性を得意とする人物は、1人しかいない
その女性は大剣を肩に乗せながら、こちらに走ってきた
「誰かと思えば、マミヤ殿たちか。
こんな所で何をしている?」
「な、ナディアさん!?
あなたこそどうしてここに…」
「私は見てのとおり、臨時の任務だ。
今朝、王都の地下にドラゴンと思しき目撃情報が警備隊に寄せられてな。
どうやら奴がそのドラゴンのようだな」
ナディアさんをよく見てみると、警備隊の仕事着…黄金の鎧を装備していた
た、助かった!
ここはナディアさんにおまかせして、俺はとっとと…
ガシッ!
…逃げようとしたらフレイに肩を掴まれた
「それで、貴公らは何故にここに居るのだ?
フレイ殿はともかく、マミヤ殿とルカ殿はそこの『占術士』の娘と仕事だったのではないか?」
「こっちも色々あったのよ。
あのドラゴンは『占術士』の仕事のオマケみたいなものね」
はぁ!?
オマケだぁ!?
「ふざけんな!
単にハゲオヤジの不幸にこっちまで巻き込まれてるだけじゃねぇか!
俺は帰るぞ!!」
「あっ!?マミヤ君!?」
肩の手を払って、モネと手を繋いで座標を検索していると、ナディアさんの身体から赤い魔力がメラメラと燃えだした
えっ…また…?
「マミヤ殿…私は言ったはずだ。
『負けることは許さない』と。
敵前逃亡なぞ、勝つ負ける以前に勝負すら挑めない、ただの臆病者だぞ!
貴公はそれで良いのか!?」
そうだった…
ナディアさんもフレイと同じで、戦いに関してはクッソ厳しい人だった…
「ナディアの言う通りよ!
あんた、ここで闘えないんじゃ紅の魔王に勝つなんて到底無理だわ!
根性見せなさいレイト!」
フレイもナディアさんの言葉に乗っかり、俺に追撃をしてきた
……なんだろう、泣きたくなってきた
俺だってできることならば、ドラゴン恐怖症を克服したいと思ってはいる
だけど、頭では分かっていても身体と心はドラゴンを拒否してるんだよ!
コイツらはそれを分かってない!
しかし、それを伝えたいのに上手く言葉が出てこない…
そんな俺を見限るかのように、2人の目が険しくなった
「もういい。
貴公のような男に期待をした私が愚かだった。
そこで指をくわえて見ていろ!」
「レイト。正直、見損なったわ…
あんたはモネとそこの倒れてる男を連れて帰りなさい!
私たちが闘うわ!」
フレイとナディアさんはそれぞれの得物を構えて、海竜に立ち向かって行った
クソ…!俺は…!!
「えっとー…
もしかしてキミ、ドラゴン苦手だったり?」
ほんの少しだけ気まずそうにモネは確認してきた
既に答えるまでもない気がするが、一応…言っとくか
「俺がこの世界…いやこの星に来て、最初に襲ってきた魔物がドラゴンだったんだよ…
こっちには魔物なんていないし…
あんなの、トラウマにならない方がおかしい…!」
情けなさと恥ずかしさを押し殺しながら、絞り出すように言うと、意外にもモネは笑わなかった
「キミの星にはドラゴンは居ないんだね…
そっか。
教えてくれてありがと、マミヤ君」
モネは俺が掴んでいる手をギュッと握り返した
な、なんだ?
「マミヤ君。
キミがルカ君のお兄さんを救って元の星に帰りたいのなら、あのドラゴンと闘わないといけない。
そう運命を星がボクに教えてくれたんだ」
「は、はぁ!?だから、俺は…」
「大丈夫。ボクがキミを手伝うよ。
どうか信じて」
「あ……」
いつものヘラヘラした表情は消え失せ、真剣な目つきで真正面から俺を射抜いた
その眼差しは俺の不安な感情を和らげ、少しだけ希望を感じさせるような不思議なものだった
なぜかな…ついさっきまでムカついてしょうがない奴だったのに、今はこいつに背中を預けても良いと思ってしまった
…変な女だ
「……分かった。あいつと闘うよ。
ルカ!やるぞ!」
「ふふ、その言葉を待っていたぞ!
心を合わせろ!」
「ああ!」
「「『融解』!!」」
☆☆☆
トポン…
エネルギーの粒子体と化したルカが、俺の奥深くまで浸透する
やがて俺たちは交じり合い、ひとつになった
ボン!と爆発し、いつもの台詞が聴こえてくる
「よし。私の声は聴こえているな?
敵性ドラゴン、『海竜』と戦闘を開始する!」
「了解だ!モネ!
手伝うってんなら、それなりに自信はあるんだろうな?」
「フッフッフー!
まぁ、任せときなって!いくよー!」
モネは懐から水晶…ではなく、狼か犬を模しているような仮面を取り出した
なんだありゃ?
「『仮面遊戯』!」
自身の魔力を仮面に送り込むと、とてつもないエネルギーを秘めた物に変貌した!
「ほら!受け取って、マミヤ君!」
彼女は、自分の頭上に浮かんでいる俺に向かって仮面を投げた
…っておいおい!コントロール下手くそだな!
慌てて転移を発動させる
ブン!
「っと…モネ、これは?」
「口で説明するよりも実際に使ってみた方が分かりやすいと思う。
とにかく仮面を付けてみて!」
「分かった」
言われたとおり仮面を身に付ける
すると…
<ユーザー認証、『マミヤ・レイト』を登録。
対象の敵を捕捉します……完了。
『黒獄犬』モード起動>
なんだぁ!?
仮面が喋った??
<マミヤ様。
これよりあなたの身体に魔力を充填します。
しばらくお待ちください>
「ほう…仮面に人格があるとは…
中々に面白い魔法だな」
仮面が喋り終わると、突如俺の中にいつもの蒼のエネルギーとは違う、何か別のエネルギーが流れ込んで来た
これは…
「マミヤ君!
キミは今だけ『黒獄犬』と同じ能力を使えるよ!
思いっきり暴れちゃって!」
なるほど…
もしかしてさっきの『仮面遊戯』って、仮想の魔物と同調するような魔法なのだろうか?
しかし、受け取ったはいいが、肝心のその魔物の能力が分からない
「『黒獄犬』ってまだ戦ったことないな…
ルカ、どんな魔物なんだ?」
「リストによれば、黒い毛並みが特徴の犬型の魔物だ。
能力としては、近接攻撃は大したものではないが、海竜と同じく、魔法攻撃を得意としている」
「そうなのか!魔法の属性は?」
ルカに訊いたつもりだったが、代わりに仮面が答えた
<『黒炎』属性でございます、マミヤ様。
かの敵、海竜に対して絶大な効果を期待できます。
存分にご活用下さいませ>
「分かったよ、ありがとう」
よし、説明は充分だ
あとは実際に闘ってみて使い勝手を試そう
見てろよ、あの脳筋女ども!
☆ナディア・ウォルトsides☆
「『炎弾』!」
ドン!!
「よし、やってくれ!フレイ殿!」
「任せなさい!『森緑投槍』!」
私の魔法に合わせて、少し離れた位置に陣取ったフレイ殿が、木属性の魔力で生成した槍を海竜に投擲する
キィン!!
「ゴアアアアア!!」
「くっ…!
やっぱりあの『水幕』が厄介ね…!」
「ああ、やはりそううまくはいかないか…」
悠々と空中に留まっている海竜の周囲には、水属性のバリアが展開しており、あらゆる攻撃が弾かれていた
よりにもよって、私の『炎獣』と相性が最悪のドラゴンとは…
私は、生まれつきこの魔物を代償無しで『召喚』できるが、代わりに火以外の属性の魔力を生み出すことができない
したがって、決め手はフレイ殿に頼るしかないのだが…
「フシュウウウ…ガァッ!!」
海竜が自身の前方に、魔力を集中し始めた!
あれは…まずい!
「『水雪崩』だ!逃げろ!」
「ウソ…
まさかこの地下水道ごと沈没させる気!?」
集積していく魔力はやがて、激流渦巻く水へと変化していった
あれほどの規模となると、もはやどこへ行っても呑み込まれてしまう…
万事休すか…!
「あっ!?ナディア!上よ!」
フレイ殿の叫びに反応して上を見ると、水魔法『水刃』が目前にまで迫っていた!
まさか、あれは囮だったのか!?
ダメだ、間に合わん!
ブン!
「ふ……!?なに、今何が起こった!?」
「大丈夫ですかナディアさん」
目を開けると、謎の仮面を付けた男に抱き抱えられていた
その声…まさか…!
「マミヤ殿!?その姿はいったい…」
「これが前に話した『融解』です。
この仮面についてはまぁ…俺も初めて使うのであまり期待しないでください。
それよりも降ろしますよ」
「はぁ…?なっ、貴公、宙に浮けるのか!?」
下を見てみると、地面ではなく地下水が流れていた
思わずマミヤ殿にギュッとしがみついてしまう
「ちょ、だから危ないですって!
降ろしますから」
「ちょっと!?羨ま…じゃなくて!ナディア!
くっついてんじゃないわよ!」
トン…とマミヤ殿はフレイ殿の近くに降りて、私を地面に立たせてくれた
な、何やら良い匂いがしたな…
…ってそうではない!
「マミヤ殿…戻ってきてくれたのか?」
「はい、お待たせさせちゃってすみません。
あとは俺に任せてください」
マミヤ殿はそう言うと右手にファルシオンを持ち、空中に飛び上がって海竜に向かって行った
ああ…そうだ
蒼い姿、蒼い魔力、そして強大な敵に立ち向かおうとするその勇気…私はあの男に負けたのだ
私の…初めての人…
☆間宮零人sides☆
ナディアさんを降ろしたあと、再び海竜の所へ向かう
それと同時に右眼にエネルギーを回す
さて、まずは脆弱性のポイントを…ふむ、大体腹の当たりか
だけど…
<マミヤ様。対象のドラゴンの周りには、水魔法『水幕』が展開している模様です。
その状態では攻撃を行なっても効果が薄いでしょう>
「その通りだ。
まずはあのバリアを剥がす必要がある…
ちなみに、君は何という名前なのだ?」
<私には名前は存在しません。
『仮面遊戯』はその都度…魔物によって人格が変わりますゆえ>
…なんだか、俺の身体がずいぶん賑やかになってきたな
身体は1つなのに3人で喋ってる
<『水幕』に対抗する手段として、黒炎魔法の使用を推奨します。
マミヤ様、如何なされますか?>
「ああ、お願いするよ。
何をすれば良いんだ?」
<黒炎属性の魔力を貴方様の左手に集中させます。
準備ができたら敵に向け、魔法名を口にしてください。その名前は…>
魔法の名前を聞き、頷く
「了解だ!いっちょやってやるか!」
☆☆☆
「ギャオオオンン!!ゴアアッ!!」
海竜の正面に浮かび、ファルシオンを構えると、分かりやすく威嚇をしてきた
……まったく、どいつもこいつも、俺が出会うドラゴンは血の気が多いやつばっかりだな
「作戦開始だ。
まずは、黒炎魔法の準備ができるまで我々で時間を稼ぐぞ。
敵の魔法は私が防ぐ。
零人は回避に専念してくれ」
「ああ!頼んだぜ!」
海竜は俺に注視し、再び魔力を集中させている
あの魔法は…たしかガルドにいる頃、フレイも使っていた技だな
「気をつけなさい!『水弾』よ!」
下から声がしたので見てみると、フレイとナディアさんが近くに来て得物を構えていた
は!?何こっちに来てんだ!
「おい!危ないからお前らは隠れていろ!」
「はぁ!?イヤよ!
私も闘うに決まっているでしょ!
あんたを焚き付けといて、自分だけ隠れるなんてできないわ!」
「ああ!
それにやられっぱなしでは、警備隊の名に傷が付く!」
いや、そういう事じゃないんだが…
これから行う攻撃は威力が知れないから、できるだけ仲間を遠ざけておきたい
すると、ルカは俺の意図を汲んでくれたようだ
「シュバルツァー。
零人は新しい力を得たのだ。
だが、攻撃範囲がまだ不明だ。
君はウォルトと共にラミレスを守ってくれ」
「あ…!ちょっとル…」
ブン!
フレイが言い切る前に、問答無用で2人を転移させた
ご、強引だなぁ…
「ガアアッ!!」
ドン!ドン!ドン!
モタモタしてる間に海竜は三連の水弾を撃ってきた!
おお!やっぱりドラゴンなだけあって、大きさはケタ違いだ!
「フン…
大層な魔法だが、スピードは話にならんな。
貴様に返すぞ」
ルカは3発の水弾を同時に転移させ、海竜の顔・身体・また顔にぶち込んだ!
すげぇな!
「グルル!?フシュルルッ!」
自分の水を食らった海竜は、流石に動揺してるのか、何度も頭をブルブル振っている
<黒炎魔法、準備完了。
マミヤ様、いつでも撃てます>
「来たか!行くぜ、ルカ!」
「ああ!トカゲもどきにお見舞いしてやれ!」
海竜の背後に転移し、熱く滾り出している左手を構えた
「『黒炎弾』!」
ボッ…ゴオォッ!!
俺の手から、黒い炎に包まれたエネルギーの塊が放出された
そして、その弾は海竜の背中に命中する
ドオォォォン!!!
「ガアァッ!?」
「うわぁっ!?な、なんて威力だよ…」
爆発したエネルギーの余波は凄まじく、一瞬体勢が逆さまになってしまった
やっぱりあの2人逃がしておいて正解だったな
「ぼんやりしているヒマはないぞ!
零人、今だ!」
「おうっ!」
ブン!
水幕が解け、無防備になった海竜の腹部に転移する
そして、ファルシオンを構えた
「こっからぁ、出て行けぇ!!」
ボコッ!!
「ギャアア!?」
ドラゴンの逆鱗に斬りつけ…ずに、柄で殴った
それだけでも、ダメージは相当のようで、ヨロヨロとバランスを崩しながら痛みに悶え始めた
へへ…やった!
するとルカは疑念を抱きながら質問してきた
「零人、なぜ逆鱗を斬らずに殴ったのだ?」
「ここ地下水道だろ?
あんなでけぇのが墜落して水をせき止めでもしたら、大変なことになるんじゃないかと思ってさ」
「なるほど、そういう事か。良い判断だ」
やがて海竜は痛みに慣れてきたのか、再びこちらに向き直ってきた
んだよ、まだやる気なのか?
ファルシオンを構えてもう1発入れようとした瞬間、予想外の事が起こった
「ミゴトダ、異邦ノ人間ヨ。
ヨクゾ我ガ力ヲ凌イダナ」
「「!?」」
は…?
しゃ…喋ったァァァ!!!??
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