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第37話:霊森人《ハイエルフ》

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「ジオンサマ、ごめんなさいでした!」

「良いのだ少年。
子供はたくさん遊び、大きくなる。
ちゃんとこの人にも謝るのだぞ?」

「ハイ!
黒い髪のオニーサン、ごめんなさい!」

「はいよ。ちゃんと謝れてえらいなお前」

「えへへ、それじゃあねぇ!」


窓をぶち割ったボールで遊んでいた、亜人の子供たちがわざわざ謝罪に来た

どんなヤンチャボウズどもかと思ったけど、なかなか素直じゃねぇか
これなら怒れないなぁ

俺に『回復ヒアル』を掛けているシルヴィアが見直したようにジオンへ話しかける


「ジオンさん。
あなたは子供たちに慕われているのですね」

「当然だ。貴族として、『領民から信頼を得ねば領地は瞬く間に廃れる』と教わっている。
ましてや、子供たちは未来の宝。
あれくらい元気な方が安心するというものだろう?」

「……ええ、本当に。私もそう思います」


以前、シルヴィアは彼女の故郷である修道院の話をしてくれた
幼い弟がいると…
その関係もあって、子供に対する思い入れは強いのだろう

くるっと、ジオンはモネの方へ身体を向けた


「ところでラミレス嬢。
君はレイト殿を紹介するためだけに、『理の国ゼクス』よりはるばる来たというのか?」

「んーん。ボクたちが来たのは…」


俺たちは少し端折って、経緯を説明した


☆☆☆


「紅の魔王だと…?バカな…
まさか我が国に魔族の王が復活した…?」

「まだそうと決まったわけじゃない。
ただ、俺たちの師匠曰く2人のうち1人の姿形は、過去の魔王と同じらしい」

「だが、その魔族どもは私の兄…『宝石スフィア』を使役していなかった。
このような姿だ」


ルカは人間形態から六角形の宝石へと姿を変えた
おお、なんか久しぶりに見たかもその形態…
最近は寝る時も人間の形態だからな

毎夜ルカと同衾してるせいか、フレイとナディアさんは毎朝、何事も無かったかとしつこく聞いてくる

たまにくすぐってきたりちょっかい出してくるけど、特にエロい事は何も起きない

出会ってからずっと一緒だし、宝石でも人間でも、ルカが隣に居ないと妙に落ち着かないんだよなぁ


「な、なんと…
よもやこのような種族が存在するとは…
僕にもまだまだ知らないことがあったのだな!」

「坊っちゃま。落ち着きなさい。
未知の見聞に興奮するのは、貴方様の悪い癖です」


メイドさんは、はしゃぐジオンの襟首を掴んで席へ戻した
主に対して容赦ないな…


「ちなみに魔族の方はこんな奴らなんだけど、どう?
この辺で見かけなかった?」


俺はスマホの写真アプリを起動し、ジオンとメイドさんに見せた

多分聞き込みするだろうと思って、あらかじめ『千里眼ボヤンス』の映像を録っておいたのだ
フレイの方にも、同じ映像を収めたタブレットを渡してある


「な、なななんだ!この『魔道具アーティファクト』は!?」

「これは……流石に驚きを隠せませんね。
異世界からやって来たと仰られていましたが、本当だったのですね」


2人は目を丸くしている
毎度みんな同じ反応だけど面白いな


「これが魔王……
いや、少なくとも僕らの町の周辺では見たことはないな。
力になれずに申し訳ない」


ジオンは分からないようだ
まぁ、そうだよな
そんなすぐに見つかるわけ…


「レイト様。
私、この映像に見覚えがあります」


見つかったわ


「マジすか!」

「エリザベス、本当か!?」

「はい。正確にはこの森についてですが」


おお!
場所だけでもかなり有用な手がかりじゃないか!
まさかこんなに早く情報を得られるとは!


「メイドさん!場所を教えてください!」

「かしこまりました。
この森は『王都ノルン』より東に位置する場にあります。
近くにある村が私の故郷なので、間違いありません」

「なんと…貴公は『霊森人ハイエルフ』とお見受けするが、もしや…」

「仰る通りでございます、ウォルト様。
私は『ドノヴァン・ヴィレッジ』の出身です」


エルフ??
フレイ達のエルフとは違うのか?
俺の疑問を察したモネが教えてくれた


「マミヤ君。
ハイエルフ族はね、フレデリカ君やジオン君達とは似てるけど、違う人種なんだ。
キミに分かりやすい言い方をすると、エネルギーの種類が『魔力マナ』じゃなくて、『霊力エーテル』っていうものなんだよ」


思い出した
そういえばガルドの授業でも習ったな
他に『半森人ハーフエルフ』、『闇森人ダークエルフ』とかもいるんだったか

しかし、『エーテル』?
なんぞそれは
初めて聞いたな


「…やはりか。
他の人間達とはどこかエネルギーが違うとは思ったが、そういう事か」


ルカは勘づいていたらしい


「そんなに違うの?どれどれ…」


右眼に蒼のエネルギーを集中させ、メイドさんを観てみる
すると、確かに彼女に流れているエネルギーの質が違っていた

なんというか、洗練されている…いや、高潔なエネルギーと言った方が良いかもしれない
すごくなエネルギーだ…

しばらく観察していると、モネが余計な茶々を入れてきた


「そんなジロジロ見ちゃって…
マミヤ君のエッチ」

「はぁ!?」

「恐れ入ります、レイト様。
私、未だ嫁入り前の身ですので、そういった行動は差し控えていただけると」


ちょ!?
なんで俺が悪者みたいになってんの!


「「零人(マミヤ殿)…?」」

「いだだだだ!見てない!
もう見てないから耳引っ張んな!
ジオン、分かったろ!
俺は何をしてもこうなるんだ!」

「エリザベスを一目見ただけでここまでの『不幸』を得られるとは…!
レイト殿、何か秘訣でもあるのかい!?」


「知るか!!
俺の周りの女どもが凶暴なだけだろ!」


バン!!


「皆さん!今は魔王の行方でしょう!?
真面目にやってください!」


シルヴィアが声を荒らげてテーブルを叩いた
ほらぁ、怒られちゃったじゃん

メイドさんはすっと立ち上がり、客間に設置してある棚から『亜人の国ヘルベルク』の地図を出してきた


「コホン、お戯れはこのくらいにして話を戻しましょう。
この町から『ドノヴァン村』まではそれなりに距離があります。
道中にある王都や町などで、補給しつつ向かわれることを推奨します」

「うーん。
ボクたち一応王都には寄るつもりだけど、このメンバーだとちょっと目立っちゃうかもね」


聞いた感じだと『亜人の国ヘルベルク』の中で、人族に対して温厚に接してくれるのはこの町だけらしいからな
石を投げられる覚悟で臨まないといけないのだろう

…ため息しか出ないな


☆☆☆


ドン!ドン!ドン!

ドノヴァン村へ向かうルートを相談している最中、突然外から何かを叩く音が響いてきた

今度はなんだぁ!?


「町長様!居られますか!?
お、お助けを!!」


外から誰かが叫んでいる
かなり焦っている様子だ…


「エリザベス!」

「はっ」


ジオンとメイドさんは客間から飛び出して行った


「零人、私たちも行くぞ!」

「ああ!」


☆☆☆


声の主は町の入り口や櫓にいた衛兵だった
その姿はボロボロで、得物の槍を支えにしている
よろめきながら、必死に事を伝え始めた


「魔族が…
魔族が突然、町に襲来してきたのです!」

「「「!!!」」」


な、なんだと!?
ここから真反対の所に居るんじゃなかったのか!?


「いやぁぁぁ!!!たすけてぇ!!」

「いっ、命だけはぁっ!!」

「者ども!隈無く捜索しろ!!
奴らを必ず見つけ出すのだ!」


開かれた玄関ドアの向こうに目をやると、背中から羽を生やした人型の魔族が黒い毛並みが特徴の犬の魔物『黒獄犬ヘルハウンド』、緑色の小さい怪物の『小鬼ゴブリン』など、様々な魔物を引き連れて町中で暴れ回っていた

紅と黒の甲冑じゃなかったのか…

…?
いや待て、あいつ見たことがある
そうだ!千里眼ボヤンスで観た!
イザベラの部下の1人だ!
まさか、俺を探してるのか…?


「…エリザベス!
戦乙女ヴァルキュリア』を展開しろ」

「かしこまりました」


ヴァ、ヴァル??

ジオンが叫ぶと、メイドさんは懐から何かを取り出した
あれは、ベル?

チリン…

ベルを鳴らすとエントランス中に涼やかな音色が響き渡った
次の瞬間、どこからともなくメイドさんと同じ制服を来た女性たちが次々と現れた


「わっ!?何この人たち!?」


全員メイド服ではあるが、一人一人の人種は様々だ
…一瞬転移テレポートでも使ったのかと思うくらいいきなり現れたぞ
どこに隠れてたんだ?


「総員、第1種緊急配備に付きなさい。
優先事項は、民の保護と町の防衛です。
確実に遂行しなさい」

「「「……………」」」


メイドさんが命令を下すと女性たちは返事をしないまま、それぞれの持ち場と思われる所へ移動を始めた

え…あの人達走っているのに音が聴こえない…?
どうなってんだ!?

そんな慌ただしい状況であっても、ナディアさんは不敵に笑い炎を片手に宿らせた


「エリザベス殿、私達も助太刀いたそう。
王国警備隊の実力、見せてくれる!」


か、かっこいい…
ナディアさんの力強い言葉に、メイドさんは微笑んだ


「…ウォルト様、心より感謝致します。
ですが、お客様に怪我をされてはいけません。
どうかここは私達におまかせくださいませ」


どうやらメイドさんは自分たちだけで闘うようだ
…けど、アイツの目的は俺である以上、さすがに知らないフリはできない


「ルカ!」

「フフ、分かっているさ。
センチュリー、私達は奴の『主人』に少々因縁がある。
悪いが強制的にでも介入させてもらうぞ」

「……かしこまりました。
しかし、この場において足手まといは要りません。
自信が無いのでしたら、無理をせず屋敷に隠れるように」


おっ?
ルカの言い方が気に食わなかったのか、彼女は少し冷ややかな目つきになった

意外とメイドさんって煽り上手なのかな?
そんなこと言われたら俺だって意地でも戦いたくなってきたぞ!


「あんたこそ引っ込んでもらってもいいんだぜ?
霊力エーテル』だかなんだか知らないけど、そんなにその力は凄いのかよ?
ウチの蒼の力を舐めんなよ、ザベっさん!」

「ざ、ザベ…?」


意表を突かれたのか、彼女は目が丸くなった

そして、俺の啖呵にナディアさんはとびきりの笑顔で肩を叩いてきた


「良く言ったマミヤ殿!
それでこそ、我が王に認められし冒険者だ!
さぁ、行くぞ!」

「うっす!シルヴィア、モネ!
お前らは町の人たちの救護を頼むぜ!」

「りょ、了解です!」

「は~い。
あ、マミヤ君。ルカ君もちょっと…」


モネにちょいちょいと手招きをされた
なんだ?


「あのね、今日は…(ゴニョニョ)」

「え!?ホントにいいの!?」

「確かに助かるが…些か気が引けるな」

「大丈夫大丈夫!思いっきりやっちゃえっ!」


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