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第40話:覚醒《ブレイク》

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「ぐううううう!!!!」


ナディアさんは苦しそうに頭を抱えている
それに比例するように赤い魔力マナがどんどん放出している

ど、どうしたら…


「モネ!『暴走』ってなんだ!?」

「ゆっくり説明している暇なんてないよ!
このままじゃナディア君だけじゃなく、町にまで被害が及ぶかもしれない…
ボクたちを町の外に転移テレポートできない!?」

「ム、ムリだ!
さっきの戦いでだいぶエネルギーを使っちまったんだ!
やっても、せいぜい2,3mが限度だよ!」

「そんな…」

ブン!

万策尽きた…と思った瞬間、後ろから馴染みのある効果音が響いた

ルカ!ザベっさん!


「爆発音がした方へ来てみれば…
なんだこの状況は!?
どうなっている!」

「後ろにいるのは…まさか炎獣イフリート
いけません…!あの状態は危険です!」

「話はあとだ!ルカ!
ナディアさんと俺たちを町の外に転移テレポートさせてくれ!
俺はもうガス欠寸前なんだ!」

「こ、この人数をか?…仕方ない。
皆、それぞれ手を繋いでくれ」


ルカが座標を検索してる間に、俺はルカとモネと手を繋いだ
ザベっさんはルカとだ


「よし、ここに来る道中の休憩ポイントに転移テレポートするぞ!」

ブン!


☆☆☆


視界が蒼から元の色に戻り、場所が移り変わった
数時間前に寄った川のほとりだ
ここなら人気もないし、とりあえずは大丈夫だろう
けど、問題は…


転移テレポート完了。
零人、状況を説明してくれ」

「ああ。
けど、時間が無いから簡単に説明するぞ。
ルカ達と別れた後、鳥女ハーピーの魔族に襲われたんだ。
ナディアさん達が助けてくれたんだけど、そん時にあの状態になっちまったんだ」

「…そうか。
どうやら悠長にしてる暇はないな」

「グゥゥゥゥ!!!ガアァッ!!」


…依然として、ナディアさんは完全に我を忘れている様子だ
後ろにいる魔物はまだ消えていない…
どうすれば元の彼女に戻せるんだ!

ドン!!

ナディアさんは両手を地面に叩きつけると、ゆっくりと立ち上がった

…!


「ウォルト様…」

「まさか…ナディア君!」


ナディアさんの表情はまるで人形のように無と化していた

しかし、ある1点だけは違う
さっき片眼だけだった金色の瞳は、両眼にその光が宿っていた

ナディアさんは口を小さく開いた


「「ヒトノ子ヨ…私ト立チ合エ」」

「「「!?」」」


いま…ナディアさんの口から彼女の声の他に別の声が響いた…
聴くだけで背中の痛みを忘れるくらい、ゾッとする恐ろしい声色だ…


「貴様…何者だ」


ルカは俺を庇うような位置に浮かんだ


「「私ハ汝ラガ『炎獣イフリート』ト呼ブ存在…汝ラニモ問オウ。
私ハコノ娘ト共二、今日二至ルマデノ汝ラノ軌跡ヲ観察シテキタ」」

「……?」

「蒼ノ宝石…ソシテ、マミヤ・レイト。
汝ラハ魔王二挑マントスル抗イシ者…
ソノ資格ト覚悟ハ持ッテイルカ?」


資格と覚悟だって?
そんな立派なもん…


「俺が魔王に挑む理由に大義なんてないさ。
ただ、俺は『紅の宝石ルカの兄貴』を救って元の世界に戻るために…
なにより、俺の命を救ってくれたルカのために戦うって決めたんだ!」

「零人…」


一日たりとも忘れはしない
黒竜ブラック・ドラゴン』から助けてくれた恩を
その恩人の家族が囚われているなら、今度は俺が助ける!


「…そうだな。全くもって同意見だ。
私は世界の命運などはどうでもいい。
契約者の『宝石スフィア』として戦うまでだ。
そして、零人の『相棒』として…私は力を行使する!」

ゴゥ!!

ルカは言葉と共に蒼のエネルギーを滾らせた
…ったく、ルカもヘロヘロだろうに…
無茶すんなよな


「「ナ…ナラバ『力』ヲ示シテモラオウ。
我ガ炎…退ケテミセロ!」」


ナディアさんは背中に背負っていた大剣を構えた
やっぱり彼女と闘うしかないのか…!


「零人。
お互いに万全な状態ではないが、ここは引くことはできない。
準備は良いな?」

「あぁ!心の受け入れは、準備完了だ!」

「よし…いくぞ!」

「「『同調シンクロ』!」」


☆☆☆


人間の形態から粒子状になったルカが俺に飛び込んできた
少しずつ身体に浸透し、やがて俺たちはひとつになった

ボン!

蒼の爆発をさせて、ルカと今回の『敵』を確認する


「零人、私の声は聞こえているな?
敵性存在『炎獣イフリート』を撃破し、ナディア・ウォルトを救出する」

「おう。ルカ、ナディアさん自身の弱点は変わってないけど、後ろの『炎獣イフリート』がヤベぇんだ。
さっき、腕伸ばして鳥女ハーピーを捕まえたあと、そのまま丸焼きにしてたんだよ」

ブン!

ルカに軽く炎獣イフリートの戦法を伝えながら、彼女に渡しておいた俺の装備を再び手に戻した


「お二方。微力ながら私もお力添え致します。
どうやら、かの魔物は『霊体』に近い存在…
私の攻撃は有効と推測します」


ザベっさんはクロスボウを携帯モードからガシャンと変形させて、こちらにやって来た

…やっぱりその武器カッコイイな…
武器の変形は男心をくすぐられる


「マミヤ君、ルカ君。
ボクの言ったこと覚えてる?
今回はお金は気にしなくていい…
存分に『仮面遊戯ペルソナ』を使って!」

「ああ。
正直、私たちのエネルギーはもう残り少ない。
には悪いが、使わせてもらおう」

「そうだな。力を借りるぜモネ。
仮面遊戯ペルソナ』!」

ボゥ!

モネの力のひとつ、『仮面遊戯ペルソナ』の起動コードを口にすると、仮面から彼女の魔力マナが吹き出した
ちなみに形は『黒獄犬ヘルハウンド』だ

そして仮面を被ると、丁寧な口調の声が聞こえてきた


<ユーザー認証、マミヤ・レイトを確認。
黒獄犬ヘルハウンド』モード起動。
おはようございます、マミヤ様。>

「よう。
早速で悪いんだけど、力を貸してくれるか?
あの『炎獣イフリート』をとっちめてやりたいんだ」

<了解しました。
しかし、当該目標の属性は『火炎』でございます。
したがって、こちらの属性も合わせる必要があります。
『魔物』を変更致しますか?>


さぁて、こっからお金がどんどん消えてくぞ~
モネに教えてもらった、魔物をチェンジするための合言葉を口にする


「ああ、頼む。…『再始動リブート』」

<『再始動リブート』コードを確認。
しばらくお待ちください………完了。
水竜アクア・ドラゴン』モード起動>


………今、聞きたくない単語が聞こえた
………ドラゴン…?

身につけた仮面は、いつの間にか変形して角が飛び出した、水色のドラゴンを模している形になっていた


<ヒャハハハハッ!!!
よぉ、待たせたなマミヤ様!
炎獣イフリートなんざ軽く捻ってやるぜ!!>

「チェンジ!!チェンジで!」

「あちゃあ…ゴメンね、マミヤ君。
仮面遊戯ペルソナ』の魔物は自動的に決まっちゃうんだ」

「はぁ!?」


先に言えよ!
ていうか、仮面の喋り方も変わった…
そういえば前に、魔物によって人格も変わるって言ってたな…


「くっくっく…零人、笑わせてくれるな。
ある意味君は、『幸運』なのかもしれんぞ?」

「うるせぇ!…ああもう、しょうがねぇ!
今回の作戦は!?」

<んなもん決まってるぜ。
俺様の力は水属性だぞ?
とっておきの『水』をお見舞いしてやるだけよ!
耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ。
魔法名コードは…>

「了解だ。ラミレス、センチュリー。
こちらの準備が整うまで、共に時間稼ぎを頼む」

「かしこまりました。戦闘を開始します」

「おっけー。
仮面遊戯ペルソナ』!『再始動リブート』!」


☆ナディア・ウォルトsides☆


暗い……
ここは、どこだ?
何も見えない、聴こえない、感じられない
私は地面に立っているのか寝ているのか?

私は、たしか…

………………


「………!そうだ!私は鳥女ハーピーを…!
マミヤ殿とモネは!?」


一気に記憶が覚醒するが、あたりの状況が掴めない
なんだこの状況は!?


「気ガツイタカ。
私ノ宿リシ人ノ子、ナディア」

「……!?貴公は…もしや『炎獣イフリート』か」


突然、目の前に炎を抱いた、獅子の魔物が現れた
修業で炎獣イフリートとの対話をしてはいたが、実際に姿かたちを見るのは初めてだ

……このような姿だったのか


「ソウダ。
訳アッテ、今ハ汝ノ身体ヲ借リテイル。
スマナイガ、シバラク我慢シテクレ」

「私の身体を…?どういう意味だ?」

「…コウイウ意味ダ」

ガァルル!!

炎獣イフリートが吠えると、真っ暗だった視界が突然白い光に包まれ、私の目を襲った

やがて、その視界に少しずつ目を開けていくと、最初に声が聞こえ始めた


「うおおお!!」

ガキン!!

この声…マミヤ殿!?
剣戟をしているのか?

しかし誰と?

その答えは、すぐに判明した


「「『炎斬撃フレイム・スラッシュ』」」

「ぐっ…!!」


私だ…!
なぜ、私と闘っている!
そもそもどうして身体の自由がきかん!?
口も勝手に開いたぞ!

まさか、炎獣イフリートが言っていたのは…


「お下がりくださいレイト様!
私におまかせを!
幻霊射ファントム・ショット』」

キン!!

飛んできた太い針のような物体を、大剣で防いだ

…全く攻撃が読めなかった
しかし、それにも関わらず私の身体はしっかりと軌道を読み、的確に攻撃を躱した

明らかに矛盾している…


炎獣イフリートに負けないでナディア君!
『風弾《ウインド・ボール》』!」


仮面を付けたモネが風属性の魔法を撃ってきた!
あの形…『鳥獣ガルーダ』を模している…?
使う魔法も一緒だ


「「私ニハ通ジナイ。『炎竜巻フレイム・サイクロン』」」


大剣を振り回し、創り出した炎の渦を風魔法にぶつけ、そのままモネに差し向けた
何をする!?


「やばっ!?」

ブン!

「大丈夫かモネ」

「ふぃー…
流石のモネさんも今のは焦っちゃったよ~。
サンキュー、マミヤ君」


間一髪、マミヤ殿が転移テレポートでモネを逃がしてくれた…
おのれ、あれが当たっていればタダでは済まなかったぞ!


「クソっ!後ろの『炎獣イフリート』を抜きにしても、めちゃくちゃ強えじゃねぇか!」

「ああ。
わずか1年で『堅・冒険者アドバンス』にまで上り詰めたことだけはあるな。
その功績に相応しい力だ」

「なんと…ぜひウォルト様には『戦乙女ヴァルキュリア』に加入していただきたいものです」

「アハハ!
それならこのあと誘ってみれば良いじゃん!」


みんな何を呑気に話し合っている!?
私は正気じゃないんだぞ!
早く逃げ…


「「汝ラハオ喋リガ過ギルナ。
炎覚醒フレイム・ブレイク』」」

ボウォォォ!!

まさか、この魔法は!?

ダメだ、やめろ…やめてくれ…
私の大事な友を…傷つけないでくれ…!!

炎獣イフリートはそんな私の懇願を気にも留めず、炎の魔力マナを吹かし続けた…


☆間宮零人sides☆


「「『炎覚醒フレイム・ブレイク』」」


ナディアさんの全身から、とめどなく炎の魔力マナが溢れだしている
あれはさっきナディアさんが苦しそうにしてた時と同じ…


「レイト様。あの魔法は非常に危険です」

「…!?ザベっさん、知ってるの?」


彼女はコクンと頷いた


「私たち人間が身体の筋力の100%を使うことが出来ないように、魔法にも『暴走』しないよう無意識の内に『制限』を掛けています。
しかし、『覚醒ブレイク』という究極魔法に含まれる超高等魔法を使用すれば、意図的に『暴走』状態になることができるのです。
私も使用している者を見るのは初めてです…」

「ああ、なるほど…
要は『火事場の馬鹿力』を自分で使うことができるということか」

「面白いことわざですね。
その通りでございます」


マジかよ…
こっちはまだ『仮面遊戯ペルソナ』の魔法撃つ準備ができてないんだぞ
あんなんどうしたら…


「マミヤ君!
あっちが『力』で来るなら、こっちは『技』で対抗するしかないよ!」


モネが俺の肩を叩いて提案すると、それにルカも応じた


「その通りだ。少々作戦を変更する。
時間稼ぎを止め、直接ウォルトの脆弱性を突く」

「『脆弱性』?
そのようなものが分かるのですか?」

「うん。
俺とルカはエネルギーの流れで、その箇所が分かるんだ。
ナディアさんの脆弱性は後ろの腰だ。
どうにか一撃を入れよう」

「なるほど…かしこまりました。
それでは私も戦法を変更致しましょう」

カシャ、カシャン

ザベっさんはクロスボウを棒状へ戻し、再び変形させた
うお、今度は刃の付いていない剣の形になった!

か、かっけぇ…


「『霊剣エーテル・キャリバー』。
これならば私の手数も増えるので、お役に立てるはずです。
では…参ります!」

ブゥン…!

ザベっさんは霊力エーテルを剣に纏わせ、ナディアさんへ走り出した!


「よーし、マミヤ君、ルカ君。
ボクとザベ姉で撹乱するから、キツい一撃は頼んだよ」


ザベ姉って…
まぁいいか


「ああ。けど、無理すんなよ」

「うん!絶対ナディア君を取り戻そう!」


仮面遊戯ペルソナ』を外して腰に戻した俺に対し、モネはグッと仮面を被り直し、風の魔力マナを展開させた

よし、最終局面だ…!絶対に勝つ!


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