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衝撃
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「夢とか目標とか、そういうのあります?」
思いきって打ちあける。野木さんの丸みのある目が、さらにまん丸になる。
「それ、学校の課題とか?」
「ではないんですが……」
うまく説明できずにいると、野木さんは少しばかり考えこむようにして、
「ないこともないけど、人に言うほどでもない」
「ですよね! 私も、まったくないわけじゃないんですけど、なんていうか漠然としてるというか」
この先どんなふうに生きていけたらいいか、と考えてみる。
とりあえず無事に就職して。それがまあまあ無理なく自分にあって。なにごともなく安定した収入をえて。できれば人間関係とかのトラブル少なくて。そこそこストレスフリーで……。
こうして並べると随分わがまま。これじゃあ夢じゃなくて、ただの欲望だ。ちょっと恥ずかしい。
「たとえばなんですけど」
迷いつつ前置きをして。
「恩返しで応援っぽいことしたいから夢教えてって言われたら、なんて答えるのが正解なんでしょうか」
野木さんの眉が怪訝にゆがむ。そりゃそうだ。私が逆の立場でも、なにその質問って思うし。
こんなことなら適当にごまかせばよかった、かえって迷惑かけてしまった、と後悔した矢先、野木さんは至極まじめに、
「なにが正解かは人それぞれな気がするから、私がどうこう言えることじゃないかも」
と答えてくれたあと、
「でもまあ、恩返しで夢応援って、それこそ夢みたいな話だね」
まったくもって仰るとおり。シロは出会いからなにから全部、まるで本当に夢みたい。だけども――どれだけファンタジックに思える時間も、摂理どおり着々と過ぎていく。
「あとどのくらい? 残り日数」
翌日の休憩時間、シロにたずねる。
「二日だよ」
明日は仕事、明後日は休み。実質あと一日。なのに、いまだに最適解を見つけられずにいる。いっそのことデタラメに、とりつくろってみようか。
……いや、やめよう。シロに嘘なんかつきたくない。
「悠乃、どうしたの?」
黙りこくった私にそそがれる、不安まみれの子犬みたいなまなざし。
「あのさ、恩返しって……」
出発の延期はだめなの?
そう続けようとして飲みこんだ。シロの都合じゃ変えられないってのを思いだして。
「大丈夫、まだ時間あるから心配ないよ。ちゃんと恩返しするからね」
再び黙った私を、いたわるようにシロがほほえむ。それが献身的であればあるほど、ずきんと胸が鋭く痛んだ。
まもなく、この笑顔を失う。私はまた、ひとりぼっちになってしまう。
思いきって打ちあける。野木さんの丸みのある目が、さらにまん丸になる。
「それ、学校の課題とか?」
「ではないんですが……」
うまく説明できずにいると、野木さんは少しばかり考えこむようにして、
「ないこともないけど、人に言うほどでもない」
「ですよね! 私も、まったくないわけじゃないんですけど、なんていうか漠然としてるというか」
この先どんなふうに生きていけたらいいか、と考えてみる。
とりあえず無事に就職して。それがまあまあ無理なく自分にあって。なにごともなく安定した収入をえて。できれば人間関係とかのトラブル少なくて。そこそこストレスフリーで……。
こうして並べると随分わがまま。これじゃあ夢じゃなくて、ただの欲望だ。ちょっと恥ずかしい。
「たとえばなんですけど」
迷いつつ前置きをして。
「恩返しで応援っぽいことしたいから夢教えてって言われたら、なんて答えるのが正解なんでしょうか」
野木さんの眉が怪訝にゆがむ。そりゃそうだ。私が逆の立場でも、なにその質問って思うし。
こんなことなら適当にごまかせばよかった、かえって迷惑かけてしまった、と後悔した矢先、野木さんは至極まじめに、
「なにが正解かは人それぞれな気がするから、私がどうこう言えることじゃないかも」
と答えてくれたあと、
「でもまあ、恩返しで夢応援って、それこそ夢みたいな話だね」
まったくもって仰るとおり。シロは出会いからなにから全部、まるで本当に夢みたい。だけども――どれだけファンタジックに思える時間も、摂理どおり着々と過ぎていく。
「あとどのくらい? 残り日数」
翌日の休憩時間、シロにたずねる。
「二日だよ」
明日は仕事、明後日は休み。実質あと一日。なのに、いまだに最適解を見つけられずにいる。いっそのことデタラメに、とりつくろってみようか。
……いや、やめよう。シロに嘘なんかつきたくない。
「悠乃、どうしたの?」
黙りこくった私にそそがれる、不安まみれの子犬みたいなまなざし。
「あのさ、恩返しって……」
出発の延期はだめなの?
そう続けようとして飲みこんだ。シロの都合じゃ変えられないってのを思いだして。
「大丈夫、まだ時間あるから心配ないよ。ちゃんと恩返しするからね」
再び黙った私を、いたわるようにシロがほほえむ。それが献身的であればあるほど、ずきんと胸が鋭く痛んだ。
まもなく、この笑顔を失う。私はまた、ひとりぼっちになってしまう。
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