FLY HIGH

真山マロウ

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過去

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 現在、ありがたいことに大学生になることができた。

 県外にしたのは、遅かれ早かれ家をでるつもりだったから。社会人になるタイミングで自立したら仕事も生活も共倒れになりそうで、まだ余裕がある学生のうちにと考えたのだ。

 そうして始めた新生活。キャンパスライフは単位をとることだけに専念し、それ以外の時間は家のことをするのに重点をおいた。授業にでて、帰宅後に課題。休みの日には掃除や洗濯、作りおきの自炊など。変化にとぼしい日々を淡々のくり返しだった。――あの日、シロと出会うまでは。

 唐突に現れて恩返しなんて言いだした、正体不明の謎の人。常に笑顔で善良で、あたたかくて、私の話を真剣に聞いてくれた、唯一の存在。泣いても笑っても、明日でお別れ。どうにかして今夜中に答えをださないと。

 まぶたを閉じる。まっ暗な世界で懸命に夢を探しあぐねて、とほうに暮れて、挙句の果て、ありもしない空想に逃げこむ。

 もし、私が運動神経抜群だったなら。
 もし、私が見目うるわしい容姿だったなら。
 もし、私が愉快な話術をもっていたなら。

 もし、街ゆく人を立ちどまらせるような歌がうたえたなら。

 もし、誰かの心が震えてやまないような絵が描けたなら。

 けど、そんなバラ色の未来は瞬く間に色あせ、虚しさだけが去来する。その先が見えない。私には豊かな想像力さえもないのだ。

 無慈悲な事実に胸が締めつけられ、ひっきりなし涙があふれる。巨大な塊となった絶望と卑屈がのしかかってきて、ぺしゃんこに押しつぶされてしまいそうだ。

 ない。ない。なにもない。才能もない。センスもない。知恵もない。体力もない。根気もない。努力する根性もない。だから、夢も希望もない。こんな人間に、なにができるっていうんだろう。いったい、なにになれるっていうんだろう。

 未来が怖い。孤独が怖い。この期に及んでも変われない自分の弱さが、無能さが怖くて憎い。私はきっと、さいごまで、ここのまま。誰からも必要とされず、誰の役にも立てず。なにもなさず、なにも遺さず。からっぽに一生を終えるんだ、たった一人ぼっちで。

 得体のしれない底なし沼に引きずりこまれる。粘っこい、おぞましい泥がまとわりつき、じたばたしようにも身動きがとれない。

 ずぶずぶと没入していくにつれ、どす黒いなにかが皮膚をすり抜け、体の内まで侵食していく。

 そうして助けを呼ぶのもままならず全身を塗りこめられ、どこまでも深く深く、溺れ沈んでいく――。
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