夜の彼は…私に優しい場所

銀条リン

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執務室の鍵、避妊の誓い

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数日後。

私の平穏は、些細なことで波立ち始めた。

「穂積本部長、これ決裁お願いしますぅ♡」

「本部長、今日のネクタイ素敵ですね!」

営業部のフロアでは、女性社員たちが静流さんの周りに群がっていた。

冷徹で近寄りがたいはずなのに、その〝氷の美貌〟と〝御曹司〟という肩書きは、多くの女性を惹きつけてやまない。

彼は表情一つ変えず、事務的に対応しているけれど…それを見ているだけで、私の胸の奥が黒い感情で塗り潰されていく。

(…私だって、触れたいのに。話したいのに)

「あら、桐沢さん。随分と熱い視線ね?」
背後から、棘のある声が降ってきた。
古株の女性社員、佐々木さんだ。彼女は私のことが気に入らないらしく、事あるごとに嫌味を言ってくる。

「身の程を知りなさいよ。中途採用の係長風情が、御曹司を狙うなんて」

「…そんなつもりじゃありません」

「ふん。顔だけで媚び売っても、本部長には通用しないわよ」

悔しさで唇を噛む。
違う。私はそんな軽い気持ちじゃない。
でも、言い返せない。私たちの関係は、絶対に知られてはいけない秘密だから。
その時だった。

内線電話が鳴り響いた。ディスプレイには〝本部長室〟の文字。

「…はい、営業部、桐沢です」

『…桐沢係長。至急、私の部屋に来てもらえませんか?』

冷たい声。
私は緊張しながら受話器を置き、佐々木さんの嘲笑うような視線を背に、本部長室へと向かった。

「失礼いたします」
重厚な扉を開け、中に入ると、静流さんはデスクで書類に目を落としていた。
私は背手で扉を閉めた。

カチャリ、と鍵をかける音が、二人だけの空間の始まりを告げる。

「…お呼びでしょうか、本部長」

「…ふぅ…機嫌が悪いですね?」
彼は顔を上げ、椅子を回転させてこちらを向いた。
その瞳は、もう〝上司〟のものではない。

「…顔に出ていますよ。嫉妬ですか?」

「ちっ…! ちが、います…」

「嘘つきだなぁ。…あんな雑魚たちの言葉なんて、気にしなくていいのに」
彼は手招きをした。私は吸い寄せられるように彼の足元へ歩み寄る。
彼の手が伸び、私の腰を引き寄せた。

「…君が頑張っているのは、僕が一番知っている。…佐々木に嫌味を言われても、グッと堪えて仕事を続けていたね。…偉いよ、詩織」

「…静流、さん…」
一番欲しかった言葉。張り詰めていた心が解けていく。
彼は私をデスクの陰に隠すように抱き寄せると、スカートの中に手を滑り込ませた。

「…でも、嫉妬してくれたのは嬉しいな。…身体はどう思ってる?」
彼の指が、ストッキング越しに私の秘部をなぞる。

「…んっ、あ…っ! し、静流さ、ん。ここ、会社です…っ!」

「鍵はかけましたよ。…それに、確認させてください」
彼は私のショーツを指でずらすと、そのまま顔を寄せ、あろうことか私の秘部に鼻を埋めた。

「あッ、えっ!? ちょ、な、なにを…っ!」

「…匂いですよ。…朝、あんなに中に出したから。…他の男に嗅ぎつけられないか、心配で」
スンスン、と彼が鼻を鳴らす。
会社で、上司の机の下で、股間の匂いを嗅がれている。
その異常な状況と背徳感に、私の頭は沸騰しそうだった。

「…うん。まだ、僕の匂いが残ってる。…それに、また濡れてきましたね?」

「ぅ…っ、静流さんが…嗅ぐから…っ」

「…可愛い。…じゃあ、続きは、夜にたっぷりと」
彼は名残惜しそうに私のそこへキスを落とすと、ハンカチで濡れた部分を拭い、身なりを整えてくれた。


その夜。Bar Amber。

私はカウンター席で、彼が作るカクテルを見つめていた。
昼間の〝お仕置き〟と〝救済〟の余韻が、まだ身体に残っている。

「…静流さん」

「はい?」
私はバッグから、ある物を取り出してカウンターに置いた。

小さな薬のシート。低用量ピルだ。

「…私、これ。飲み始めました」
彼は手を止め、驚いたように私を見た。

「…詩織、それは…」

「…ゴム、嫌いでしょう? …私も、静流さんの体温、直に感じたいから」
私は顔を赤らめながら、精一杯の想いを伝えた。

「…いつでも、中に出してください。…私、静流さんのためなら…何でもします」

今までは彼と激しい行為の後、〝アフターピル〟を使っていた。彼を受け入れ、感じれば感じるほど…彼のため…ううん、自分のために。

それは、〝避妊〟という実務的な報告以上の意味を持っていた。
貴方のすべてを受け入れる。貴方の欲望の掃き溜めになっても構わない。
そんな、重くて深い愛の告白。

静流さんはカウンター越しに私の手を取ると、その指先にうやうやしく口づけをした。

「…参ったな。…そんなこと言われたら、もう加減できませんよ?」
琥珀色の瞳が、情欲の炎で揺らめいた。

今夜もまた、長く激しい夜が始まる。
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