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全て棚に上げて
しおりを挟む鬱陶しいほどの視線を感じながら1人、廊下を歩く。
俺が通り過ぎた途端にギャアギャア喚く害虫達に嫌気が差し、近くにあった壁に思いっきり拳を打ち付けた。
「チッ、うっせぇなァ……ギャアギャア喚くんじゃねぇよ」
ついでとばかりに髪の隙間から睨み付ければ、周囲に群がっていた人間があっという間に口を閉ざして散っていく。
おかげで放課後になったばかりにも関わらず、現在廊下にいるのは俺1人となった。
実に快適である。
「あっれぇ~?そこにいるのはもしかしなくてもボスじゃ~ん」
訂正しよう、五月蝿いのがまだ1人いた。
「何してんの~?」と、何が楽しいのかいつもヘラヘラと笑っている男が手を挙げながら近付いてくる。
面倒なのが来たと、ため息代わりの舌打ちをこぼした。
「アッハハ、相変わらず愛想悪いな~。さっすがボス」
呑気に目の前までやって来た男は、顔を顰めた俺を見て「さすがさすが」と笑い飛ばす。
一体何が流石なんだか。
長い付き合いだが、コイツの思考は相変わらず読めない。
「…ンな用だ」
そのままにしていたら1人でずっと話し続けるコイツの先制を打ち、さっさと本題を吐くように言う。
「ん?あ、そうそう~、なんと!世紀の大発見をした救世主が1年にいたんだよ~!すごくない?いやぁ~、オレオメガじゃん?あの子が真実を解明してなかったら、今のオレはここにいなかったんだよね~。だからさ~、あの子が同じ場所にいるって知って居ても立ってもいられなくなってもう─」
「で?何?」
ペラペラとよく回る口を遮り、ここに来た理由を問う。
救世主と呼ばれている奴が1年にいる事は分かった。が、コイツが俺の所に来たこととどう関係しているのかが読めない。
俺の問を聞いたヤツがニヤリとした瞬間、かなり嫌な予感がした。
そして、最悪なことにこういう予感は大抵的中する。
「ボスも一緒に見に行かない~?」
「却下だ」
「え~~っ!い~じゃん!一緒に行こ~よ~~!!」
速攻で拒否した途端に「行こう行こう一生のお願いだから~!!」と、ヤツは餓鬼のように駄々をこね始めた。
こうなってしまったら面倒だ。
コチラが折れるまで、コイツは本職の餓鬼も驚くであろうほど駄々をこね続ける。今までの最長記録は5時間だ。
試した事は無いが、多分コイツなら余裕で1週間ほどやり続ける。
「………はぁぁぁ…」
至った思考によって出来た眉間のシワを丹念に揉みほぐし、長いため息をつく。舌打ちで代用出来ないほどのストレスは久しぶりだ。
─いや、つい2日前にもあったわ。
あれもコイツによるものだったな…と思い出しながら、ゆっくり重い口を開いた。
「チッ…分かったからもう止めろ」
「え、良いの!やったね~!!やっぱ押しまくればボスは聞いてくれんだ~!ほら、早く行くよ!!じゃないとあの子帰っちゃう!ほらほら~」
やっぱってなんだ、やっぱって。
コイツ駄々こねてんの確信犯でしかねぇじゃないか。誰だそんな意味不過ぎる情報コイツにやったの。
グイグイと、俺の腕を遠慮なく両手で引っ張る茶髪頭を見下ろしながら、本日何度目かになる舌打ちを落とした。
「良かった~!まだ帰ってないっぽいっ!!」
とある教室の中を覗いてそう歓喜の声を上げたのは、エンカウントしてしまってから10分程経った頃だった。
まるで女のように頬を紅く染め、一心に救世主とやらを見つめる奴を横目に、腕を組んで壁に凭れかかる。それから瞼を伏せ、余計な視界情報をシャットアウトした。
というか、救世主って女だったのか。
先程目にした長髪の人間を脳内に思い浮かべてそう思う。
興味無いから知らなかった。
「……あなた達、誰?」
酷く澄んだ、知らない声を耳が拾った。決して大きくはないのに、一直線に空気を裂いて貫き通す、そんな感じの声だった。
「あわ、あわわわわッ!?オ、オレたちに言ってるの?!」
これ以上ないってほどに慌てた奴の声がする。アイツがこんなに慌てるとか…明日はタイヤでも降るのか?
「…そう、あなた達に聞いてる。さっきから私を見てたでしょう?」
「お、オレたちはキミを見に来たんだ。…救世主、だから」
余裕が無いのか、俺に話しかける時のように語尾や言葉を伸ばしていない。しかも微妙に会話が成り立ってもいない。
「そう……で、あなた達は誰?」
アイツの言葉に対する相槌は先程と同じものだったが、何故か落ち込んだトーンな気がした。
「え、オレたちを知らないの?」
「私が知るわけがない、初対面なのに」
「そ、それもそ~なんだけど~…」
語尾を伸ばす余裕は出てきたらしいが、知らないと言われてテンションが明らかに低迷している。かなり愉快だ。
「まぁいいか~……っじゃあ、自己紹介するね~!オレは荵�蕗邀ウ豬キ髻ウ、よろしくねぇ」
「荵�蕗邀ウさん、ね…。あの人は?」
やはり名前の部分は聞こえない。副作用なのか、あの時から人の名前だけが聴こえなくなった。また、人の名前の部分だけ文字化けを起こしているように見える為、読むことさえできない。
「あ、ボスのこと~?」
「…ボスさんっていうの?」
「違う違う、オレがそう呼んでるだけ~」
「…そう」
そのこともあり、俺は元々少なかった口数がより少なくなった。自覚があるだけマシだと思う。
「……そろそろ行くぞ」
会話が一息ついた頃だろうと思ってそれだけを告げ、彼らに背を向けてさっさと歩き出す。
「ちょっとボス待ってよ~!」
救世主と呼ばれている年下の女に簡単な別れを告げ、いつも通り賑やかな奴がパタパタと背後から走り追いかけて来る音が聞こえた。
涼やかな声の女に対し、コイツと違って特に感謝も思うところも無い。ただ、もっと早く解明出来なかったのかと、自分ではできもしないことを棚に上げて、そう考える俺が何処かにいた。
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