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第130話 クローディアの願い

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「本家との会談が決まったわ」

 クローディアは公邸に呼び出した従姉妹いとこのブライズとベリンダにそう告げた。
 その言葉に2人は表情をくもらせる。

「クローディア。ブリジットと和睦わぼくするつもりか?」

 部屋には3人しかいないため、ブライズは従姉妹いとことしての口調でそうたずねた。
 彼女の言葉にクローディアは首肯しゅこうする。
 ブライズとベリンダは互いに顔を見合わせてうなづき合った。

「クローディア。ワタシたちは反対ですわ」
「別に姉を殺されたからってんじゃないぞ」

 彼女たちの姉であるバーサはブリジットに戦いを挑んで敗れ、命を落とした。
 そのことでブリジットをうらむ気持ちはブライズもベリンダにも毛頭ない。
 ダニアの女としては勇戦の上の戦死ならば、それは名誉めいよなことだからだ。
 だが彼女たちは本家を分家に吸収し、クローディアがその頂点に立つことを望んでいる。
 そのためにはブリジットを殺さねばならないと考えていた。

 そうしなければダニアは1つにはまとまれない。
 女王が2人いたのでは、いつまでもダニアは分裂したままだ。
 ベリンダは身を乗り出す様にして言った。

「クローディア。ブリジットを殺すために今、様々な毒薬を開発中です。すでに試薬が完成してすぐにでも試せるものもいくつかありますわ」

 もちろんブリジットを毒殺などするのはダニアの女としては恥ずべき行為と知っていてベリンダは言っている。
 名誉めいよをかなぐり捨ててでもブリジットを殺す覚悟があるということだ。
 それを分かった上でクローディアは首を横に振った。

「それは一族をひきいる長として承服できないわ。ベリンダ」

 そう言うとクローディアは従姉妹いとこの2人をじっと見据みすえた。

「ワタシたちの本当の敵は誰かしら?」

 その言葉にブライズとベリンダは顔を見合わせる。
 2人もダニア分家を取り巻く厳しい環境は知っているが、クローディアのように本当の意味で未来を見据みすえてはいなかった。

「ブリジットじゃないとしたら……公国か?」

 そう言うブライズにクローディアはうなづく。

「そうね。公国も敵であることは間違いないわ。でも一番の敵は……王国よ」

 クローディアの話にブライズたちは息を飲む。
 王国と自分たちは協力関係にあるはずだ。
 そう思っていたが、クローディアが自分たちとは違う視点を持っていることに気付いたベリンダは思わずまゆを潜める。

「王国がワタシたちを裏切るということですか?」
「裏切る……正確には違うわ。だって最初から王国はワタシたちの味方ではないもの。彼らはワタシたちを手駒てごまとして使い続けたいだけよ。り切れて使えなくなるまでね。で、利用価値が無くなったらアッサリ捨てるわ」

 そう言うとクローディアは椅子いすから身を乗り出した。

「あなたたちはワタシの大事な身内よ。だからワタシの本当の考えを打ち明けるわ」

 そう言うとクローディアはブライズとベリンダの顔を順に見つめ、ゆっくりと息を吸ってから告げた。

「ワタシは人から借りた仮住まいでは満足できないの。自分の家が欲しいわ。ダニアの一族皆が胸を張って暮らせる家がね」

 その言葉の真意を即座に理解してブライズとベリンダは息を飲んだ。 

「ほ……本気か?」
「王国の傘下さんかから離脱して……新たな国家を立ち上げるということですか?」

 すぐに自分の話を理解してくれた従姉妹いとこ2人に感謝の笑みを浮かべると、クローディアはうなづいた。

「誰かさんはワタシがチョコチョコ姿を消して男あさりしてるなんて言っていたけれど、ワタシが忙しくしていたのはこの計画のためよ」

 その言葉に思わずバツが悪そうな表情を浮かべるベリンダのかたわら、信じられないといった面持おももちでブライズは乾いた声をらす。

「そ、そんなことになれば王国はワタシらを許さない。つぶされるぞ」

 いかにダニアが勇猛果敢な一族とはいえ、王国の兵力に比べれば10分の1にも満たない。
 数の力で容易にひねつぶされてしまうことは誰の目にも明白だった。

「だからこそブリジットたちの力が必要なのよ。本家と分家がつぶし合うのではなく、共に立つの。本家と分家の境界を超えて、戦える戦力を全て集結させれば、ワタシたちに勝機はあるわ。ワタシはそう信じている」

 そう言うとクローディアは立ち上がる。

「あのバーサが命をかけて挑んでも勝てなかったブリジット。そんなすごい女王なら、敵としてつぶし合うよりも協力し合うべきよ。だってもったいないじゃない?」

 クローディアはそう言うと2人に歩み寄った。

「だからあなたたちには納得してほしいと思っているわ。ブライズ。ベリンダ。バーサがいなくなってしまってワタシには頼れる身内が少ない。あなたたちがワタシと共に行動してくれるのならばこんなに心強いことはないわ。どうかしら?」

 クローディアの熱弁にブライズとベリンダはすぐに返事が出来なかった。
 自分たちの女王であり従姉妹いとこであるクローディアの要請にこたえたかったが、戸惑いが大きく頭を整理する時間が必要だった。
 そんな2人の反応も当然織り込み済みのクローディアはふいに背後を振り返ると、声を発した。

「アーシュラ。入って来なさい」

 彼女がそう呼びかけるととびらが開いてアーシュラが部屋に入ってきた。
 彼女がクローディアの腹心の部下であることはブライズもベリンダも知っていたが、とびらの向こうにいるのをまるで感じさせなかったその不気味な存在に2人はわずかに警戒の表情を浮かべる。

「ワタシが王国に離反する勝機を見出した根拠をもう少し丁寧ていねいに説明する必要があるわ。そのためにはこの子が必要なの。話を聞いてあげて」

 そう言うとクローディアは不敵に微笑むのだった。
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