ヤンデレ系アンドロイドに愛された俺の話。

しろみ

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二章

18a

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「…………は?」


 たっぷり静寂を置いてから、気の抜けた声を出した。
 そのままテーブルに置かれたタブレットへ視線を落とす。画面には一時停止された少年の姿が映し出されている。



「―……う、うん…?…すみません……今…この動画の子がナオだと聞こえたんですが……」
「ええ。私は今ハッキリと、そう言いました」
「……」



 来多は相変わらず笑顔のままだ。その笑顔に圧倒されてしまい、たじろぎながら、動画を改めてじっくりと眺めてみる。


「え、えぇ……と…」


 ちょっと理解が追いつかなかった。

 来多曰く動画の少年はナオだと言う。アンドロイドということもあってか、この少年はナオと同じように人形めいた整った顔立ちをしている。しかしどっからどう見ても、髪色や身長、目、鼻、唇、それぞれの形が毎日眺めるナオとは異なる。
 

「同じアンドロイドには……、見えませんが……」


 控えめにそう呟いて顔を上げる。

 そうすれば、来多は破顔した。


「あはは。仰る通り。ヤツは貴方好みにボディを変えてますからね。だけなら別物でしょう」
「………?」
「ボディはただの器だと思ってください。本件で重要視すべき点は、彼らが同一の人格を持つ、ということです」


 反射的に「人格?」と語尾を上げた。

 その言葉は、ヒトの性格や考え方を指すようなものだろう。機械であるアンドロイドには相応しくない言葉だと思い、怪訝に眉を寄せた。


「ええ。そのような顔をされるお気持ちは十分に理解できますよ」


 わざとらしく大きく頷いてみせた来多は、徐にスーツのポケットから銀色の小さなキューブを取り出した。それを人差し指と親指で挟み、両側をカチッと押す。すると、キューブが青色に変色し、天井に向けて一点の光を放つ。その光は左右に広がり、人体模型のようなホログラムを作り出した。


「本来、アンドロイドは人格を持ち得ません。しかし…アンドロイドの思考は、人工知能コンピュータシステムで構成されていますが、システム内で何らかの異常が起きた場合、独立した思考が生じることがあるのです」


 ホログラムはアンドロイドの構造を示しているようだ。アンドロイドの皮膚がすうっと透明になると、骨組みや回路配置などの内部構造が見え、人間でいう脳の部分が、危険信号のように、赤く点灯し始める。


「近年流行しているアンドロイドウイルスが、まさにこの状況です。…まぁ、この呼称はマスコミが適当に名付けたものなので、正確には“アンドロイドウイルス”というものは存在しませんがね」
「え……?」


 来多はホログラムを見上げたまま、説明を続ける。


「正確には、一つの人工知能から生まれた“支配”です。その人工知能というのが今し方お見せした動画のアンドロイド。彼は、突然変異によって人格を形成した人工知能の中で、特に優秀な頭脳を持ちます。彼はある時期から驚異の知的成長を遂げ、この世界を制御している中枢システムにまで根を張りました」
「……」


 あまりにもスケールの大きい話に、俺は唖然とするしかなかった。

 “中枢システム”とは、世界の重要な機能を統合し、管理するための中心的なシステムのことだ。政治、経済、環境、医療、通信など、社会全体の要素を包括的に結びつけるものであり、人口動態や天候変動から経済指標、国際的な危機まで、あらゆるデータを収集・分析し、世界の各機関に指示を送る。電子化が進んだ昨今において、このシステムは地球の脳髄といっても過言じゃないだろう。


「アンドロイド製造社がウイルスという名称を否定しない理由は社会の混乱を防ぐためです。…まあ、実際には“生物の範疇を超えた思考をコントロールできない”、と素直に認めないプライドの高さが邪魔してるのでしょうが」
「…ど、どういうことですか……?」


 目を白黒させると、部屋の扉を叩く音がする。来多は剣呑な様子で首裏を掻き、「入れ」と低い声を出す。


『失礼します』

 
 「あ」と声を漏らした。扉から現れたのは、昨夜居酒屋で会った警察型アンドロイドだった。


 彼は来多に耳打ちをする。


『―――』


 その声は小さ過ぎて聞こえないが、悪い知らせだということは察せた。来多の顔がくしゃりと歪み、大きな溜め息が落ちたからだ。


「……はぁ、まだ1時間も経ってへんのに……わざわざ本体でお出ましかいな……」


 耳打ちをされた来多は顔面を片手で覆い、項垂れる。そしてもう一度深い溜息を吐いたあと「もうええ。……通してやれ」と手のひらの隙間から声を溢す。


『ご注意ください。危険性が極めて高い状態です』
「承知の上や。…もしもの時は援護頼むわ」
『承知いたしました』


 そうしてアンドロイドの彼は耳朶に人差し指を当て、『武装解除。地下エリアに案内しろ』と何者かに指示を送る。

 そんな様子を茫然と見ていると、来多は力なく笑った。


「あはは…。まだまだ話したいことが山ほどあったのですが…、どうやら時間切れのようです」
「……え?」
「やはり化け物ですねぇ。一瞬のうちに施設を滅茶苦茶にされてしまったようでして。…ああ、でも、新しく投与したナノマシンの説明だけでも―」


 「しなくては」と来多の手が俺の腕に触れたときだ。ビリッと空気が凍るような、そんな鋭い気配がした。


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