69 / 74
三章
25b
しおりを挟む「もう大変でしたよ。オレたちが乗る電車やバスがことごとくシステムエラーになっちゃって。復旧に5時間かかるって言われたときは絶望しました。交通会社はオレに感謝すべきですね!オレのおかげで5時間の作業を2時間に短縮できたんですから!」
「そ、そんなことが……。お疲れ様でした」
花のエリアのショーを観た俺たちは、同エリアのレストランで昼食をとっていた。
目の前に座るのは、犬飼の弟、薫だ。
短いパンツを覆い隠す程ゆったりとした大きめの黒のニットセーターを着た薫は、露わになった素脚をぷらぷらと動かしながらテーブルの上のポテトを頬張る。
「どんな交通手段も次々に潰されていくから、システムがわざとオレたちを遊園地から遠ざけてるのかと思いましたよ。遊園地じゃなくて厄祓いに行こうかと思ったレベルです」
なにやら薫は遊園地に向かう途中に交通機関のシステムエラーに見舞われ続けた挙げ句、パニックになった作業員の復旧の手伝いまでして、やっとの思いでパーク内に入場することができたらしい。
…来る途中に《遅刻します》と連絡があったが、まさかそんなことになっていたとは……
…しかし電車とバスが同時にシステムエラーになるなんて聞いたことない…。交通機関は悪質なウイルスにでも乗っ取られたんだろうか……
「…ん?」
……システムを…乗っ取る……?
その瞬間、頭の中に一つの疑惑が思い浮かぶ。
パッと顔の向きを変えた。そこには俺の隣に座ったナオがいる。どうやらずっとこちらを見つめていたようで、顔の向きを変えた瞬間、かちりと目が合った。
『?』
「……」
…そういえば、薫たちが遅刻するらしいと伝えたとき、『無理に来なくていいのに』と愉快そうに返事をされた。ナオは遊園地に行くこと自体にはノリノリだったが、ダブルデートという点に関しては出発するまで不満気な様子だったんだ。
まさか…―
「……な、なんかすみません。俺のせいで大変な目に遭わせてしまって」
急激に罪悪感に苛まれた。証拠があるわけじゃないから口には出さないが、薫を散々な目に遭わせてしまった原因はナオかもしれない。いや、ナオのせいにするのは違うか。そもそも俺がナオの束縛に我慢できていて、犬飼に相談などしなかったら、薫はこんな目に遭わなかった。
つまりは、俺が全面的に悪い。
しおしおと頭を下げると、薫はポテトを頬張る手をピタリと止めて、首を横に振る。
「え?ああ、いいえ。別にお兄さんを責めたつもりじゃなかったんですけど…―」
そこまで言いかけて、薫は「ふっ」と笑い、おかしそうに言葉を続けた。
「―…てか実はオレ、研究所で会ったときから、お兄さんが兄ちゃんの会社の先輩って気付いてたんです」
「えっ……?」
ハンバーガーを咀嚼する薫の口元にソースがつく。するとそれをペロリと舐め取ったのは、薫の両脇に座っていたアンドロイドだ。彼らは無表情のまま奪い合うように薫の唇に舌を這わせる。
薫はそのまま彼らと交互にキスをしてから、猫のように目を細めた。
「だから今日は誘ってもらえて嬉しいです。…兄ちゃんから話は聞いてます。例の件。オレで良かったら、力になりますよ」
テーブルの下で、ナオに握られた片手は、『放さない』と言わんばかりに力強く締め付けられている。
薫はそう言って、悪戯を思いついた子供のように唇をニッと吊り上げた。
応援ありがとうございます!
21
お気に入りに追加
147
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる