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しおりを挟む「子作りって……」
表情を引き攣らせた。先程から『子作り』と何度も同じ事を言う。意味が分からない。男同士で子作りだなんて不可能だ。しかも私たちは親子である。
「お父さんお父さん」
頬擦りをされながら、確信した。
…この子は…気が狂ってる…。
「すみ、れ……」
ゆるゆると手を持ち上げた。震えていて力が入らない。だが必死に動かして、菫の体を押し返す。
「私と菫はっ…男同士で親子だ…」
「ん~?…んっ…」
「ぁ…っ…」
途端、ぱくっと指を食まれた。そのまま指の隙間から手のひらまで舌が這う。生々しい舌の感触にゾワッと肌が粟立った。
手を引こうとしたが手首を掴まれる。
「んっ…。ふふ。それが何?」
「子作りはできない。肉体関係になっては…いけないんだっ……」
「どうして?……お母さんと子作りしてたよね?僕は駄目?どうして?」
「…っ、だから! 私たちは親子だから――」
思わず声を荒げた。すると菫の瞳が仄暗く染まった。
「…親子でも夫婦になれるよ……?法的には難しいけど……想いが繋がれば…僕はそれでいい……。だってそうでしょ……。お父さんはまだ分からないだけだ。お父さんは、僕と結ばれるべきなんだよ……」
「何を言って……」
「お母さんの事は忘れて。いつまで未練を感じているの?あんな性悪の何がいいの?僕に見せつけるみたいに夜な夜なセックスしてさ……。僕が寝てると思った……?リビングでヤってたよね?僕見てたんだ。お母さん、わざと寝室の扉を開けてたからね。毎晩…毎晩……声が聞こえてきたよ。本当…嫉妬でおかしくなりそうだった……。お母さんは僕の気持ちに気付いて、僕を苦しめたんだ。だから…ああったのは…当然の報い………」
ぶつぶつと譫言のように呟く。その姿は鬱々としていて、不気味だった。徐々に両手を押さえる力が強まり、手首に爪が食い込む。
その痛みに顔を歪めた。
「は、離しなさ……」
「やだ。離れたら…お父さんは………お母さんを追っていっちゃうつもりでしょう……?」
目を見開いた。
「……そんなの、絶対許さない」
菫は小袋から桃色の錠剤を取り出し、唇で挟んだ。そのまま私の唇に重ねる。まただ。薬を飲ませようとしているのだ。ゾッとした。薬漬けにでもするつもりか。やめろ、と首を振るが、呆気なく口内に錠剤が流れ込む。吐き出そうとするが蓋をするそうに唇で塞がれる。私が飲み込むまで離れるつもりはないようだ。「んぅ!」と籠った声を上げるが、唇は解放されない。
苦しい。でもいやだ。飲みたくない…っ。
必死に首を振る。しかしそんな抵抗は虚しく、生理反応で嚥下してしまう。
「…っぁ…ああ」
…飲んでしまった。
「もっと堕ちて。駄目になっていいんだよ?僕が……僕だけが…お父さんを幸せにしてあげる」
深い口付けをされる。舌先で翻弄され、呼吸もままならない。
酸欠になりそうだ。
ぎゅっと目を瞑った。
「お父さん…お願い…。僕を受け入れて……」
切ない声と共に温かい液体が耳に落ちる。
薄く目を開けた。
「菫……」
…泣いている。彼は美しい顔をくしゃりと歪めて声を震わせる。
「お願い…。じゃないと僕……」
「……」
「苦しいんだ……」
「お父さん助けて……」と彼は首筋に顔を埋める。
唇をもごもごとさせた。どう応えるのが正解なのだろうか。眦から溢れる涙を見つめ、言い淀む。
哀れな子だ、と思った。こんな私の何が良いのか。菫ならどんな美女でも選び放題だろう。だと言うのに父親である私とセックスがしたいと懇願する。
父親ぶって説教するのが良いのか。
否、今更だ。父親らしいことなんて何もしたことがない私が何を今更…。偉そうに説けることなどない。
ぐっと唇を結んでから、ゆるゆると口を開いた。
「……………わかった」
「……え?」
「菫の気持ちが軽くなるのなら……好きにしてくれ…」
震えた声だ。情け無い。もう薬を飲まされてしまった。きっとまた思考を鈍らせるようなものなのだろう。そう思いたかった。半ば投げやりにそう言えば、菫はぱあっと瞳を輝かせた。
「いいのっ?」
「……ああ」
「………お父さん…」
感極まった声で呼ばれる。臍の辺りには菫の熱くて硬いものが押し付けられている。こんな状況で断るというのが無理な話だった。
…もはや逃げ場はない。
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