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第2章
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現在午後十七時四分。
結果的に僕は幼馴染の井口柚葉と「喫茶ニュートン」にいる。
こうなった経緯。
場面は放課後に遡る。
前から歩いてきた女子二人。一人は知らない一年生,もう一人はやはり柚葉だった。
僕を見つけると先の相沢動揺に玩具を見つけたような笑顔を見せる柚葉。悪い予感しかしなかった。
「陽葵ー」
大声で,しかも放課後帰宅する生徒が集まる下駄箱で僕の名前を高らかに呼んだ。今日の僕は勘だけはどうも働いているみたいだ。悪い予感的中!
気付かない振りをしようとしても公衆の面前で大声を出されたため,皆僕の方を見ていた。いつも相沢という学園のアイドルといるので余計目立ってしまう。
瞬時に逃げようと裏門へ踵を返す僕の足を性格の良い相沢が引っかける。
危うく派手に転びそうなった僕を,相沢は何事もなかったかのようにそれはもう満面の笑みで見ている。そんな顔で見ないで欲しい,殺意が湧きてしまうだろうが。
相沢のせいで,小走りしてこちらに向かってくる柚葉がもう目の前まで来ていた。
転びそうになり膝まづいている僕。ここから形勢逆転などおこがましい。
そしてあえなく柚葉に捕獲される。首根っこを捕まれ振り返ると僕は玩具にされることを確信し観念した。二対一の鬼ごっこ,鬼が二人で勝てるはずもない。
「これより質疑応答に入ります。被告人前にっ!」
前も何も,目の前数十センチの距離にいるし裁判沙汰になんかされては困る。
「井口裁判官。弁護人はいらっしゃらないんでしょうか?」
小芝居に乗っかってしまう。昔のノリでやってしまった。
「黙れ!この小童がっ!」
裁判官失格である。柚葉はさらに続ける。
「被告人を有罪とします」
にべもないが,逃げようとした僕にも三分の理はある。しかし今言い訳をしたところで状況はどうせ悪化するに決まっている。
ふと相沢がいた方向を見るとすでに姿はない。正門の方に目を向けると相沢は柚葉と一緒にいた子を連れて帰っていた。次の日に聞いた話だがカラオケに行っていたらしい。本当にアイドルというのは手癖が悪い。
というわけで,僕は柚葉に連行され現在喫茶ニュートンにいる。
僕の前にはミルクティー。その対面にはカフェオレが置かれている。
「すみませんでした」
開口一番僕はとりあえず陳謝しておく。
柚葉のことだこんな事では許してくれるはずもない。
「とりあえず謝っとけみたいな薄情な精神がすけすけなんだけど」
やはりそう簡単にはいかなかった。柚葉はその整った顔を崩さない,何か僕に与える罰を考え込んでいるのだろうか。そして柚葉は続けた。
「とりあえず今日のところはここの奢りで済ましてあげる」
今日のところは,ね。
僕は内心怯えていた。明日からどんな仕打ちを受けるのだろうかと。
「さて,ようやく落ち着いて話ができそうね。陽葵」
落ち着いてなどいない。言葉とは裏腹に少し眉間に皺が寄ったのを見逃さなかった。またしても殺気が感じ取れた。
「まあ柚葉さん落ち着いて下さい。そうだ,ここのモンブラン一押しですよ!」
女の子は甘いものに弱い。この僕でも知っている。そんなの常識である。
「陽葵くんそんなに畏まらないでいいのにー。私は普通にお話がしたいだけなのに」
彼女の眼光から恐ろしい何かを感じる。
油を注いでしまった。やはり彼女をもので釣ろうとした僕が間違っていた。
某有名科学者も残している「常識とは十八歳までに集めた偏見のコレクションである」と。
十八歳にはまだなっていないわけだが,彼女を前にして,もので釣ろういう考えはただの偏見でしかなかった。
このまま話を脱線に追いやっても強引に軌道修正されてしまうのは目に見えている。後々の学園生活を慮ればここできちんと柚葉と向き合うことの方がいいと思えた。
久しぶり会ったことだ,相手をするのが礼儀だろう。
相手をする前に隣の席を片付けている店員を呼び止める。
「すいません。モンブランを一つ」
偏見とは言っても昔から柚葉がモンブランが好きなことは僕の中の常識である。
「ありがとう」
その顔は僕が知っている彼女のいつもの表情に戻っていた。
結果的に僕は幼馴染の井口柚葉と「喫茶ニュートン」にいる。
こうなった経緯。
場面は放課後に遡る。
前から歩いてきた女子二人。一人は知らない一年生,もう一人はやはり柚葉だった。
僕を見つけると先の相沢動揺に玩具を見つけたような笑顔を見せる柚葉。悪い予感しかしなかった。
「陽葵ー」
大声で,しかも放課後帰宅する生徒が集まる下駄箱で僕の名前を高らかに呼んだ。今日の僕は勘だけはどうも働いているみたいだ。悪い予感的中!
気付かない振りをしようとしても公衆の面前で大声を出されたため,皆僕の方を見ていた。いつも相沢という学園のアイドルといるので余計目立ってしまう。
瞬時に逃げようと裏門へ踵を返す僕の足を性格の良い相沢が引っかける。
危うく派手に転びそうなった僕を,相沢は何事もなかったかのようにそれはもう満面の笑みで見ている。そんな顔で見ないで欲しい,殺意が湧きてしまうだろうが。
相沢のせいで,小走りしてこちらに向かってくる柚葉がもう目の前まで来ていた。
転びそうになり膝まづいている僕。ここから形勢逆転などおこがましい。
そしてあえなく柚葉に捕獲される。首根っこを捕まれ振り返ると僕は玩具にされることを確信し観念した。二対一の鬼ごっこ,鬼が二人で勝てるはずもない。
「これより質疑応答に入ります。被告人前にっ!」
前も何も,目の前数十センチの距離にいるし裁判沙汰になんかされては困る。
「井口裁判官。弁護人はいらっしゃらないんでしょうか?」
小芝居に乗っかってしまう。昔のノリでやってしまった。
「黙れ!この小童がっ!」
裁判官失格である。柚葉はさらに続ける。
「被告人を有罪とします」
にべもないが,逃げようとした僕にも三分の理はある。しかし今言い訳をしたところで状況はどうせ悪化するに決まっている。
ふと相沢がいた方向を見るとすでに姿はない。正門の方に目を向けると相沢は柚葉と一緒にいた子を連れて帰っていた。次の日に聞いた話だがカラオケに行っていたらしい。本当にアイドルというのは手癖が悪い。
というわけで,僕は柚葉に連行され現在喫茶ニュートンにいる。
僕の前にはミルクティー。その対面にはカフェオレが置かれている。
「すみませんでした」
開口一番僕はとりあえず陳謝しておく。
柚葉のことだこんな事では許してくれるはずもない。
「とりあえず謝っとけみたいな薄情な精神がすけすけなんだけど」
やはりそう簡単にはいかなかった。柚葉はその整った顔を崩さない,何か僕に与える罰を考え込んでいるのだろうか。そして柚葉は続けた。
「とりあえず今日のところはここの奢りで済ましてあげる」
今日のところは,ね。
僕は内心怯えていた。明日からどんな仕打ちを受けるのだろうかと。
「さて,ようやく落ち着いて話ができそうね。陽葵」
落ち着いてなどいない。言葉とは裏腹に少し眉間に皺が寄ったのを見逃さなかった。またしても殺気が感じ取れた。
「まあ柚葉さん落ち着いて下さい。そうだ,ここのモンブラン一押しですよ!」
女の子は甘いものに弱い。この僕でも知っている。そんなの常識である。
「陽葵くんそんなに畏まらないでいいのにー。私は普通にお話がしたいだけなのに」
彼女の眼光から恐ろしい何かを感じる。
油を注いでしまった。やはり彼女をもので釣ろうとした僕が間違っていた。
某有名科学者も残している「常識とは十八歳までに集めた偏見のコレクションである」と。
十八歳にはまだなっていないわけだが,彼女を前にして,もので釣ろういう考えはただの偏見でしかなかった。
このまま話を脱線に追いやっても強引に軌道修正されてしまうのは目に見えている。後々の学園生活を慮ればここできちんと柚葉と向き合うことの方がいいと思えた。
久しぶり会ったことだ,相手をするのが礼儀だろう。
相手をする前に隣の席を片付けている店員を呼び止める。
「すいません。モンブランを一つ」
偏見とは言っても昔から柚葉がモンブランが好きなことは僕の中の常識である。
「ありがとう」
その顔は僕が知っている彼女のいつもの表情に戻っていた。
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