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第十話 そして死神の鎌を振り下ろす
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胸が塞がるような思いで、ひとりきりあてがわれた部屋でずっと耳を塞いで、目を閉じていた。
だから不意に玄関のほうで扉を叩く音がしてレンドーサは我に返る。
なんだ?また街人がフィンを訪ねてきたのか?
ソファから立ち上がって玄関に向かう。
扉を開くと、立っていたのはリュシアンだった。
「なんだ、あんたかよ」
「フィンはいるか?」
「え、あのひとなら…」
言いかけて、やっと異変に気づく。
玄関の扉を叩く音は聞こえていたはずなのに、なぜフィンは出て来ない?
待て。あのあと、フィンはちゃんと家の中に戻ったのか?
自分はただすべてから目を背けるように部屋の中に閉じこもっていたから、フィンが家の中に戻ったかどうかも確認していない。
反射的に家の中に戻って、フィンの自室に飛び込むがそこに彼の姿はない。
リビングもキッチンも、家の中すべてを探しても彼はどこにもいない。
礼拝堂にも彼の姿はなかった。
窓の外は夜の帳が下りている。雪が止んで冬の冴え冴えとした空に満天の星が輝く。
「フィンが、いない」
玄関で待っていたリュシアンに余裕のない声で言えば、リュシアンは息を呑んで庭のほうに駆け出した。
どくどくと、心臓がうるさく騒いでいる。
月明かりが照らす白銀の庭には、やはりフィンの姿は見えないのだ。
必死で彼の匂いを辿った。
あの、甘い血の香りを。
ふと足を止めたのは、夕方に彼と話した場所。
彼に想いを告げて、口づけたあの。
雪の上に落ちた赤い血は、フィンのものだ。
ここから感じ取れるフィンの匂いは雪に落ちた血だけで、彼の姿はどこにもない。気配すら。
立ち尽くしたままのレンドーサに気づいて、教会の敷地内を探していたリュシアンが駆け寄ってくる。
その手に持ったカンテラで雪の上を照らして、眉を寄せた。
白い雪は複数の靴で踏み荒らされたような跡がある。そして、人が倒れたような痕跡も。
ちょうど、フィンの血痕が残った辺りに。
それを確認してリュシアンが嫌な予感が当たったと言うように顔をゆがめた。
「…あのひと、どこ、行ったんだ」
茫然とした声がレンドーサの口から漏れる。
「あんた、知ってんのか?
あのひとに会いに来たなら。
なんか、知ってんのか?
なあ!?」
「………予期していたことが、当たったと思ったんだ。
教会の外に馬車の車輪の跡が残っていた。
この街で馬車なんて滅多に見ないからな。住民から聞いたんだ。
おまえとはじめて会ったときに、気になっていろいろ調べていたから」
「だからなにが…っ!」
嫌な予感は、最早吐き気のように強い。おそろしさに背筋が震えた。
「フィンはおそらく連れ戻されたんだ。
レンドフルール家の屋敷に」
「…は」
「フィンの身辺を嗅ぎ回っていた者がいたらしい。
たぶんレンドフルール家の本家のものの息がかかったものだろう。
ずっとフィンの動向をうかがっていたはずだ」
「なんで」
「フィンの余命が、残り少ないからだ。
あいつはもうリミットの十年を過ぎている。
“呪憑き”が死ぬとき、次の者が呪いを引き継がなければ一族すべてに死の呪いが降りかかる。
万一“呪憑き”が呪いに喰らわれる以外の形で死んでも、呪いの代償が支払われなかったとして一族に死の呪いが下るんだ。
出来れば一族の者は“呪憑き”が目の届く場所にいることが望ましかった。
フィンのケースは特例だったんだ」
『…オレがあんたを殺したら、あんたはそれで満足か?』
脳裏に蘇ったのは、この庭で交わした言葉。
もしも、フィンの身辺を嗅ぎ回っていた者がそれを聞いていたなら?
フィンが呪いに喰らわれる以外の形での死を望んでいると知ったなら?
レンドーサが悪魔であると知ったなら?
きっと、フィンはさらわれたのだ。レンドフルール家の者たちによって。
「…そんな、話が」
怒りでかすれた声がこぼれ落ちる。
そんな話があっていいのか。
生贄のように呪いを引き継がせておいて、フィンから人並みの幸福を奪っておいて、あまつさえ最期まで利用する気で、そんな。
怒りでは生温い、殺気が身体から膨れ上がる。
同時にレンドーサの身体からにじみ出た凄まじい魔力にリュシアンが息を呑んだときだ。
不意に頭上で響いた鳥の羽音に顔を上げると、翼を広げた大きな鳥が変化し、人の姿になって雪の上に足を降ろした。
「レンドーサ。
落ち着け。
魔力を察知されれば、ほかの悪魔祓いに気づかれるぞ」
「ファンティア…!」
地上に立ったファンティアが冷静な目でレンドーサを見上げ、リュシアンに視線を向ける。
「レンドーサから多少の事情は聞き及んでいる。
レンドーサが“呪憑き”の神父を愛したことも。
あなたは信頼していい悪魔祓いか?」
「…ひとまず今回は。
私はその“呪憑き”の友人だ」
「わかった」
険しい表情のまま頷いたリュシアンに、ファンティアはあっさりと容認すると雪の上に落ちた血痕を見た。
「なにがあった?」
「…フィンさんが、さらわれて、たぶん」
「あの血は、彼の血か?」
「ああ」
茫然としたまま答えたレンドーサに、ファンティアは手を持ち上げる。
その手の甲の上に、闇の中からフクロウが出現する。ファンティアは雪の上に落ちた血を指先ですくってフクロウの前に差し出す。フクロウはその血を嘴で啄むとバサッと音を立てて飛び立った。
「あの血の持ち主の居所を調べてくれる。
オレの使い魔が戻って来るまで、ひとまずお互いわかっている情報を交換しよう」
ファンティアはそう言って明かりの漏れる教会のほうを示した。
鈍い頭痛で目を覚ました。
「…う」
フィンはちいさくうめいて、まぶたを押し開けると薄暗い室内をぼうっと見やる。
あれ、自分はいつ寝た?昨日はなにが、とそこまで考えて意識を失う前のことを思い出して上体を起こした。
頭がかすかに痛む。
確か、教会の庭でレンドーサと話して、そのあと誰かが背後に近寄って来たような音がして、そのあと頭を殴られた、はずだ。
窓から差し込む月明かりと、格子のはめ込まれた鉄の扉の向こうから落ちるカンテラの灯り以外は光源はなにもない部屋。
寝台しか置かれていない石畳の部屋は、見覚えはない。
ただ、予想は出来た。
窓にも頑丈な鉄格子が嵌まっている。
そこから外を覗くと、ひどく高い塔の上だとわかった。
「……やはりか」
フィンはあきらめに似た感情でつぶやく。
ここはあの街から離れた場所にあるレンドフルール家の本邸。その敷地内にある塔の部屋。
歴代のレンドフルール家の“呪憑き”が幽閉されてきた場所だ。
かつん、と足音が聞こえて扉のほうに視線を向けると、足音は扉の前で止まった。
「目を覚ましたか」
声だけでは誰かわからない。低い男の声。おそらくはレンドフルール家の本家の誰かだろう。
レンドフルール家はなにも知らない者から見れば有名な貴族の家柄だ。
一族の者は本家の者だけでなく、複数の分家筋の者も含めれば五十人近くいるだろう。
フィンは分家筋の嫡男で、それ故に生贄として選ばれた。
生贄として差し出したのはフィンの親だ。
呪いを継承する者は、レンドフルール家の一族を死の呪いから守る生贄。
それを差し出した分家の者は、本家から莫大な資金援助を得られる。
フィンは親に金で売られて、十年前に呪いを継承させられた。
「…私が死ぬまで、私の自由を認めるという約束では?」
平淡な声で問いかければ「約束を破ろうとしたのはおまえだ」と返される。
「ほかの悪魔に命を売ろうとして、そんなマネをすれば一族すべてが死に絶えるとわかっていたはずだ。
おまえは歴代の“呪憑き”に比べて長く生きている。
おまえが長く生きればそれだけ次の継承者が救われるのだ」
その言葉に納得はした。
おそらくレンドフルール家の息のかかった者が自分の身辺を調べていたのだろう。
レンドフルール家の“呪憑き”は代々約十年で命を落とすが、自分はもうその十年を過ぎてまだ生きている。
自分が出来るだけ長く生きれば、次の者が呪いを継承するまでの時間が延びるのだ。
同時に自分が呪いに喰らわれる以外の形で命を落とせば、悪魔との契約を破棄したと見なされて一族すべてに死の呪いが降りかかる。
自分がレンドーサを教会に居候させるようになってから、その動向を注意深くうかがっていたのだろう。
そして、きっと聞いたのだろう。
意識を失う前に教会の庭でレンドーサとしたやりとりを。
レンドーサが悪魔であると。自分がレンドーサに殺されることを望んでいると。
だから自分を連れ戻す決定をしたのだ。
声の主は「おまえには死ぬまでここにいてもらう。それが一族の決定だ」とだけ言い残して去って行った。
自分の力は相手に触れなければ使えないし、頑丈な壁を壊せるような能力ではない。
窓には頑丈な鉄格子。万一壊せたとして、高い塔の上から落ちれば死ぬだろう。
フィンは深い息を吐いて寝台の上に寝転がった。
どうしよう。もう、どうしようもないのかな。
本来、自分はこの塔の中でずっと幽閉されているはずだった。
呪いを継承させられたときに「幽閉されるくらいならこの場で死んで一族すべてを滅ぼす」と脅して自由を得たのだ。
フィンの身体を包むのはシャツとズボンだけで、祭服は脱がされている。
おそらくどこかに武器を隠していないか調べるためだろう。
彼らは自分が自死することを恐れているのだから。
いっそ、死んでしまいたいと思ったこともあった。こんな呪いに喰らわれるくらいなら。
『…なんで、もっと早く会えなかったんだろうな。
もっと早く、あんたが呪いを引き継ぐ前に、会えたなら。
そうしたら、なにを引き換えにしても、誰を不幸にしても、どんな手段を使ってもあんたを連れて行ったのに』
なのに、呪われた生の最期に、レンドーサに出会ってしまった。
死にたくないと、思ってしまった。
レンドーサは、自分を探しているだろうか。
死ぬのはいやだ。
せめて、最期に彼に会いたかった。
リビングの暖炉の中で、薪が燃えている。
夜も更けた。
不意にソファから立ち上がったファンティアが窓を開け、戻って来た使い魔のフクロウを腕に乗せると窓を閉める。
「やはり、リュシアンさんに聞いた通りの場所にいるようだよ」
ファンティアの言葉にリュシアンは表情を険しくして「そうか」とだけ返した。
レンドフルール家の本邸はこの街からずいぶん離れた大きな都市の外れにある。
場所は先ほど知らせた。ファンティアは間違いなくフィンはそこにいると言ったのだ。
「リミットが近づけば、レンドフルール家が実力行使に出る可能性もあると考えていた。
呪いに喰らわれる前にほかの形で命を落とせば契約が破棄される。
“呪憑き”の一族にかけられた呪いは、殺され喰らわれた悪魔が残した命懸けの呪い。
血肉を喰らった時点で悪魔と契約を交わしたようなものだ。
その契約を破棄しようとすれば、死の呪いが降りかかる。
一族の者はそれを恐れているはずだ」
「っ…」
「待て。レンドーサ」
もうじっとしてはいられないと立ち上がったレンドーサを制したのはファンティアだった。
レンドーサはなぜ止めると非難するようにファンティアを睨んだ。
「連れ戻してどうする」
「おまえ、なに言って…!」
「彼を連れ戻したところで、彼の呪いは消えない。
彼はおまえに殺して欲しいと願ったのだろう?
…連れ戻したところで、彼が死を望んでいるならば遠からず別れは来るぞ」
どこまでも冷静なファンティアの言葉にレンドーサは目を見開いて、きつく拳を握りしめる。
「じゃあ、…じゃあどうすればいいんだよ!
おまえが言ったんじゃねえか!
悪魔の呪いは死ぬまで解けねえって!
じゃあ、どうすればいい!!!」
連れ戻しても、それでも、遠からずフィンは死ぬ。
永劫の別れが待っている。
ならば、どうすればいい。
胸を切り裂くような激しい痛みで、息も出来ない。
どうして、今だったのかと強く思う。
神を呪うほどに、強く。
「…なんで、…今だったんだ。
もっと、もっと早く、あのひとに会えていたなら救えたのか?
…どうすりゃよかった」
嘆き疲れたような声で吐露して、レンドーサは崩れ落ちるようにソファに身を沈め、顔を覆う。
「……………あいつは、ずいぶん変わったよ」
少しして口を開いたのは、ずっと黙っていたリュシアンだった。
「元々大人びていて冷静さの身についた男ではあったが、それでも呪いを継承する前は普通の若者らしいところもあった。
私やほかの友人たちと冗談で盛り上がることも、くだらないバカ騒ぎをして笑うこともあった。
だが、呪いを継承してからは、…そんな顔はまったく見せなくなってしまった。
昔住んでいた街からここに移り住んで、私たちが会いに来ない限りは会えなかった。
あいつから訪ねてきたことは、一度もない。
呪いを引き継いでからは、ただの一度も。
私たちとの間に、決して壊れない垣根を作って、心を閉ざしてしまった」
侘しいと言うような言葉に、レンドーサの頭に蘇ったのはあのあきらめたようなフィンの笑みで。
『…私と、同じではないんです』
「いくら話しても、私たちでは寄り添えない。
垣根の向こうには行けない。
人形のように綺麗に繕っただけの笑みを浮かべて、私たちとの間に線を引いて。
…だから、この前久しぶりに会って驚いた。
あいつが、昔のような顔で笑っていたから」
ああ、そうだ。レンドーサだって感じていた。
出会ったばかりのときと、フィンが“呪憑き”だと知ってそれでも「同じだ」と告げたあとから、彼のまとう雰囲気が変わったと。
気を許したようなやわらかな表情を見せてくれるようになった。
その変化を、自分は心地よく感じていた。きっと、うれしかった。
フィンと過ごす平穏な日々は、とてもあたたかで胸を詰まらせるほどに、幸福なものだった。
きっと、フィンがずっと望んでいた幸福は、そんなささやかな日々だったのだ。
「どうしてもっと早くに、おまえがあいつの前に現れなかったのかと神を呪った。
どうしてと、せめて、十年早ければあいつは、あんな空虚でさみしい日々を過ごさずに済んだはずだ」
「…十年とかじゃ足りねえよ」
思わず漏れたのは、やるせない響きの声だった。
リュシアンの台詞を遮って、レンドーサは繰り返す。
「もっとずっと、ずっとじゃなきゃ、意味がねえ。
ずっとじゃなきゃ、ずっと…、ずっと、あのひとがいなけりゃ、オレはどうやって」
これから先、どうやって生きていけばいい。
もう、彼なしの人生など思い描けなくなってしまったのに。
彼を失って永遠に等しい時間を、空虚なまま生きろと言うのか。
「…レンドーサ」
しん、と静まりかえった室内で、ファンティアが自分を呼んだ。
それは不思議な響きだった。
ゆっくりと顔を上げたレンドーサを見つめ、ファンティアは告げる。
「おまえに覚悟はあるか?」
「…え」
「…なにがあっても、彼を自分に繋ぎ止める、覚悟があるか」
背筋を震わせるほどにうつくしく整った顔に、触れがたいほどの荘厳さをまとってファンティアは続ける。
その先は、誰も想像もしていなかったことだった。
太陽が昇る。まぶしい陽射しが、塔の中にも差し込んだ。
フィンは寝台の上に横たわったまま、ぼんやりと虚ろに宙を眺めるだけだ。
食事も鉄の扉の下にあるわずかな空間から差し入れられるだけで、脱出出来るような隙はない。
自死すると言って自由を得た自分が相手なのだから、最大限に警戒しているだろう。
以前レンドーサに尋ねられたとき、自分では寿命はよくわからないと答えた。
だが、ほんとうはなんとなくわかっている。
自分の寿命は、あとわずかだ。
燃え尽きる寸前の蝋燭のような、わずかな時間しかないことがわかる。
それが燃え尽きるのが、明日なのかあさってなのか、一ヶ月後なのかはわからないけれど。
こんな呪いに喰らわれて死ぬのはいやだと思っていた。
でも、自分で死ぬ勇気もなかった。
『だから、最期にきみに会えて、楽しい時間を過ごせました。
私は幸運です』
嘘だ。大嘘吐きだ。
未練なんかないなんて、真っ赤な嘘だ。
未練ならある。たくさんあるんだ。
だって、死にたくない。
もっと、彼と話していたかった。一緒にいたかった。
死にたくなんてない。
シーツの上に手を突いて起き上がる。
ぎし、と寝台が軋んだ。シャツの前をはだけると、あの刻印が見える。
履いていたままの靴の底に手をやると、軽くずらした。
細工の施された靴底がスライドして、中に隠してあったナイフを取り出す。
服の中は調べたようだが、靴までは調べなかったのだろう。
「…これは、最後の手段だったんですけどね」
そうつぶやいて、自嘲を口の端に刻んだ。
出来ればやりたくなかった、最後の手段。
それでもレンドーサに出会う前、ずっと考えていた最後の手段だった。
レンドーサに出会ってから、いっそ彼に殺されたいと願うようになった。
けれど、
『生まれてはじめて本気で好きになったやつを、なんでオレがこの手で殺さなきゃなんねえ!』
彼が、自分を好きだと言ってくれたから。愛してくれたから。
それなら、今ならば。
このまま彼に会えず、ここで一人朽ち果てるよりずっといい。
すっと握ったナイフを両手で持って振り上げた。
(私は神様が居ないと知っている)
だから神に祈りはしない。
だから、悪魔に魂を売ってもいい。
呪われてもいい。
ただもう一度、会いたい。
会って彼に、
(もう一度、聞かせて欲しい。
あの、愛の言葉を)
叶うなら、微笑んできみに告げよう。
なんの飾りもない言葉を。
(私も、きみが好きだと)
振り下ろされた銀色の刃が皮膚を裂く。
散った鮮血がシーツを真っ赤に染め上げた。
だから不意に玄関のほうで扉を叩く音がしてレンドーサは我に返る。
なんだ?また街人がフィンを訪ねてきたのか?
ソファから立ち上がって玄関に向かう。
扉を開くと、立っていたのはリュシアンだった。
「なんだ、あんたかよ」
「フィンはいるか?」
「え、あのひとなら…」
言いかけて、やっと異変に気づく。
玄関の扉を叩く音は聞こえていたはずなのに、なぜフィンは出て来ない?
待て。あのあと、フィンはちゃんと家の中に戻ったのか?
自分はただすべてから目を背けるように部屋の中に閉じこもっていたから、フィンが家の中に戻ったかどうかも確認していない。
反射的に家の中に戻って、フィンの自室に飛び込むがそこに彼の姿はない。
リビングもキッチンも、家の中すべてを探しても彼はどこにもいない。
礼拝堂にも彼の姿はなかった。
窓の外は夜の帳が下りている。雪が止んで冬の冴え冴えとした空に満天の星が輝く。
「フィンが、いない」
玄関で待っていたリュシアンに余裕のない声で言えば、リュシアンは息を呑んで庭のほうに駆け出した。
どくどくと、心臓がうるさく騒いでいる。
月明かりが照らす白銀の庭には、やはりフィンの姿は見えないのだ。
必死で彼の匂いを辿った。
あの、甘い血の香りを。
ふと足を止めたのは、夕方に彼と話した場所。
彼に想いを告げて、口づけたあの。
雪の上に落ちた赤い血は、フィンのものだ。
ここから感じ取れるフィンの匂いは雪に落ちた血だけで、彼の姿はどこにもない。気配すら。
立ち尽くしたままのレンドーサに気づいて、教会の敷地内を探していたリュシアンが駆け寄ってくる。
その手に持ったカンテラで雪の上を照らして、眉を寄せた。
白い雪は複数の靴で踏み荒らされたような跡がある。そして、人が倒れたような痕跡も。
ちょうど、フィンの血痕が残った辺りに。
それを確認してリュシアンが嫌な予感が当たったと言うように顔をゆがめた。
「…あのひと、どこ、行ったんだ」
茫然とした声がレンドーサの口から漏れる。
「あんた、知ってんのか?
あのひとに会いに来たなら。
なんか、知ってんのか?
なあ!?」
「………予期していたことが、当たったと思ったんだ。
教会の外に馬車の車輪の跡が残っていた。
この街で馬車なんて滅多に見ないからな。住民から聞いたんだ。
おまえとはじめて会ったときに、気になっていろいろ調べていたから」
「だからなにが…っ!」
嫌な予感は、最早吐き気のように強い。おそろしさに背筋が震えた。
「フィンはおそらく連れ戻されたんだ。
レンドフルール家の屋敷に」
「…は」
「フィンの身辺を嗅ぎ回っていた者がいたらしい。
たぶんレンドフルール家の本家のものの息がかかったものだろう。
ずっとフィンの動向をうかがっていたはずだ」
「なんで」
「フィンの余命が、残り少ないからだ。
あいつはもうリミットの十年を過ぎている。
“呪憑き”が死ぬとき、次の者が呪いを引き継がなければ一族すべてに死の呪いが降りかかる。
万一“呪憑き”が呪いに喰らわれる以外の形で死んでも、呪いの代償が支払われなかったとして一族に死の呪いが下るんだ。
出来れば一族の者は“呪憑き”が目の届く場所にいることが望ましかった。
フィンのケースは特例だったんだ」
『…オレがあんたを殺したら、あんたはそれで満足か?』
脳裏に蘇ったのは、この庭で交わした言葉。
もしも、フィンの身辺を嗅ぎ回っていた者がそれを聞いていたなら?
フィンが呪いに喰らわれる以外の形での死を望んでいると知ったなら?
レンドーサが悪魔であると知ったなら?
きっと、フィンはさらわれたのだ。レンドフルール家の者たちによって。
「…そんな、話が」
怒りでかすれた声がこぼれ落ちる。
そんな話があっていいのか。
生贄のように呪いを引き継がせておいて、フィンから人並みの幸福を奪っておいて、あまつさえ最期まで利用する気で、そんな。
怒りでは生温い、殺気が身体から膨れ上がる。
同時にレンドーサの身体からにじみ出た凄まじい魔力にリュシアンが息を呑んだときだ。
不意に頭上で響いた鳥の羽音に顔を上げると、翼を広げた大きな鳥が変化し、人の姿になって雪の上に足を降ろした。
「レンドーサ。
落ち着け。
魔力を察知されれば、ほかの悪魔祓いに気づかれるぞ」
「ファンティア…!」
地上に立ったファンティアが冷静な目でレンドーサを見上げ、リュシアンに視線を向ける。
「レンドーサから多少の事情は聞き及んでいる。
レンドーサが“呪憑き”の神父を愛したことも。
あなたは信頼していい悪魔祓いか?」
「…ひとまず今回は。
私はその“呪憑き”の友人だ」
「わかった」
険しい表情のまま頷いたリュシアンに、ファンティアはあっさりと容認すると雪の上に落ちた血痕を見た。
「なにがあった?」
「…フィンさんが、さらわれて、たぶん」
「あの血は、彼の血か?」
「ああ」
茫然としたまま答えたレンドーサに、ファンティアは手を持ち上げる。
その手の甲の上に、闇の中からフクロウが出現する。ファンティアは雪の上に落ちた血を指先ですくってフクロウの前に差し出す。フクロウはその血を嘴で啄むとバサッと音を立てて飛び立った。
「あの血の持ち主の居所を調べてくれる。
オレの使い魔が戻って来るまで、ひとまずお互いわかっている情報を交換しよう」
ファンティアはそう言って明かりの漏れる教会のほうを示した。
鈍い頭痛で目を覚ました。
「…う」
フィンはちいさくうめいて、まぶたを押し開けると薄暗い室内をぼうっと見やる。
あれ、自分はいつ寝た?昨日はなにが、とそこまで考えて意識を失う前のことを思い出して上体を起こした。
頭がかすかに痛む。
確か、教会の庭でレンドーサと話して、そのあと誰かが背後に近寄って来たような音がして、そのあと頭を殴られた、はずだ。
窓から差し込む月明かりと、格子のはめ込まれた鉄の扉の向こうから落ちるカンテラの灯り以外は光源はなにもない部屋。
寝台しか置かれていない石畳の部屋は、見覚えはない。
ただ、予想は出来た。
窓にも頑丈な鉄格子が嵌まっている。
そこから外を覗くと、ひどく高い塔の上だとわかった。
「……やはりか」
フィンはあきらめに似た感情でつぶやく。
ここはあの街から離れた場所にあるレンドフルール家の本邸。その敷地内にある塔の部屋。
歴代のレンドフルール家の“呪憑き”が幽閉されてきた場所だ。
かつん、と足音が聞こえて扉のほうに視線を向けると、足音は扉の前で止まった。
「目を覚ましたか」
声だけでは誰かわからない。低い男の声。おそらくはレンドフルール家の本家の誰かだろう。
レンドフルール家はなにも知らない者から見れば有名な貴族の家柄だ。
一族の者は本家の者だけでなく、複数の分家筋の者も含めれば五十人近くいるだろう。
フィンは分家筋の嫡男で、それ故に生贄として選ばれた。
生贄として差し出したのはフィンの親だ。
呪いを継承する者は、レンドフルール家の一族を死の呪いから守る生贄。
それを差し出した分家の者は、本家から莫大な資金援助を得られる。
フィンは親に金で売られて、十年前に呪いを継承させられた。
「…私が死ぬまで、私の自由を認めるという約束では?」
平淡な声で問いかければ「約束を破ろうとしたのはおまえだ」と返される。
「ほかの悪魔に命を売ろうとして、そんなマネをすれば一族すべてが死に絶えるとわかっていたはずだ。
おまえは歴代の“呪憑き”に比べて長く生きている。
おまえが長く生きればそれだけ次の継承者が救われるのだ」
その言葉に納得はした。
おそらくレンドフルール家の息のかかった者が自分の身辺を調べていたのだろう。
レンドフルール家の“呪憑き”は代々約十年で命を落とすが、自分はもうその十年を過ぎてまだ生きている。
自分が出来るだけ長く生きれば、次の者が呪いを継承するまでの時間が延びるのだ。
同時に自分が呪いに喰らわれる以外の形で命を落とせば、悪魔との契約を破棄したと見なされて一族すべてに死の呪いが降りかかる。
自分がレンドーサを教会に居候させるようになってから、その動向を注意深くうかがっていたのだろう。
そして、きっと聞いたのだろう。
意識を失う前に教会の庭でレンドーサとしたやりとりを。
レンドーサが悪魔であると。自分がレンドーサに殺されることを望んでいると。
だから自分を連れ戻す決定をしたのだ。
声の主は「おまえには死ぬまでここにいてもらう。それが一族の決定だ」とだけ言い残して去って行った。
自分の力は相手に触れなければ使えないし、頑丈な壁を壊せるような能力ではない。
窓には頑丈な鉄格子。万一壊せたとして、高い塔の上から落ちれば死ぬだろう。
フィンは深い息を吐いて寝台の上に寝転がった。
どうしよう。もう、どうしようもないのかな。
本来、自分はこの塔の中でずっと幽閉されているはずだった。
呪いを継承させられたときに「幽閉されるくらいならこの場で死んで一族すべてを滅ぼす」と脅して自由を得たのだ。
フィンの身体を包むのはシャツとズボンだけで、祭服は脱がされている。
おそらくどこかに武器を隠していないか調べるためだろう。
彼らは自分が自死することを恐れているのだから。
いっそ、死んでしまいたいと思ったこともあった。こんな呪いに喰らわれるくらいなら。
『…なんで、もっと早く会えなかったんだろうな。
もっと早く、あんたが呪いを引き継ぐ前に、会えたなら。
そうしたら、なにを引き換えにしても、誰を不幸にしても、どんな手段を使ってもあんたを連れて行ったのに』
なのに、呪われた生の最期に、レンドーサに出会ってしまった。
死にたくないと、思ってしまった。
レンドーサは、自分を探しているだろうか。
死ぬのはいやだ。
せめて、最期に彼に会いたかった。
リビングの暖炉の中で、薪が燃えている。
夜も更けた。
不意にソファから立ち上がったファンティアが窓を開け、戻って来た使い魔のフクロウを腕に乗せると窓を閉める。
「やはり、リュシアンさんに聞いた通りの場所にいるようだよ」
ファンティアの言葉にリュシアンは表情を険しくして「そうか」とだけ返した。
レンドフルール家の本邸はこの街からずいぶん離れた大きな都市の外れにある。
場所は先ほど知らせた。ファンティアは間違いなくフィンはそこにいると言ったのだ。
「リミットが近づけば、レンドフルール家が実力行使に出る可能性もあると考えていた。
呪いに喰らわれる前にほかの形で命を落とせば契約が破棄される。
“呪憑き”の一族にかけられた呪いは、殺され喰らわれた悪魔が残した命懸けの呪い。
血肉を喰らった時点で悪魔と契約を交わしたようなものだ。
その契約を破棄しようとすれば、死の呪いが降りかかる。
一族の者はそれを恐れているはずだ」
「っ…」
「待て。レンドーサ」
もうじっとしてはいられないと立ち上がったレンドーサを制したのはファンティアだった。
レンドーサはなぜ止めると非難するようにファンティアを睨んだ。
「連れ戻してどうする」
「おまえ、なに言って…!」
「彼を連れ戻したところで、彼の呪いは消えない。
彼はおまえに殺して欲しいと願ったのだろう?
…連れ戻したところで、彼が死を望んでいるならば遠からず別れは来るぞ」
どこまでも冷静なファンティアの言葉にレンドーサは目を見開いて、きつく拳を握りしめる。
「じゃあ、…じゃあどうすればいいんだよ!
おまえが言ったんじゃねえか!
悪魔の呪いは死ぬまで解けねえって!
じゃあ、どうすればいい!!!」
連れ戻しても、それでも、遠からずフィンは死ぬ。
永劫の別れが待っている。
ならば、どうすればいい。
胸を切り裂くような激しい痛みで、息も出来ない。
どうして、今だったのかと強く思う。
神を呪うほどに、強く。
「…なんで、…今だったんだ。
もっと、もっと早く、あのひとに会えていたなら救えたのか?
…どうすりゃよかった」
嘆き疲れたような声で吐露して、レンドーサは崩れ落ちるようにソファに身を沈め、顔を覆う。
「……………あいつは、ずいぶん変わったよ」
少しして口を開いたのは、ずっと黙っていたリュシアンだった。
「元々大人びていて冷静さの身についた男ではあったが、それでも呪いを継承する前は普通の若者らしいところもあった。
私やほかの友人たちと冗談で盛り上がることも、くだらないバカ騒ぎをして笑うこともあった。
だが、呪いを継承してからは、…そんな顔はまったく見せなくなってしまった。
昔住んでいた街からここに移り住んで、私たちが会いに来ない限りは会えなかった。
あいつから訪ねてきたことは、一度もない。
呪いを引き継いでからは、ただの一度も。
私たちとの間に、決して壊れない垣根を作って、心を閉ざしてしまった」
侘しいと言うような言葉に、レンドーサの頭に蘇ったのはあのあきらめたようなフィンの笑みで。
『…私と、同じではないんです』
「いくら話しても、私たちでは寄り添えない。
垣根の向こうには行けない。
人形のように綺麗に繕っただけの笑みを浮かべて、私たちとの間に線を引いて。
…だから、この前久しぶりに会って驚いた。
あいつが、昔のような顔で笑っていたから」
ああ、そうだ。レンドーサだって感じていた。
出会ったばかりのときと、フィンが“呪憑き”だと知ってそれでも「同じだ」と告げたあとから、彼のまとう雰囲気が変わったと。
気を許したようなやわらかな表情を見せてくれるようになった。
その変化を、自分は心地よく感じていた。きっと、うれしかった。
フィンと過ごす平穏な日々は、とてもあたたかで胸を詰まらせるほどに、幸福なものだった。
きっと、フィンがずっと望んでいた幸福は、そんなささやかな日々だったのだ。
「どうしてもっと早くに、おまえがあいつの前に現れなかったのかと神を呪った。
どうしてと、せめて、十年早ければあいつは、あんな空虚でさみしい日々を過ごさずに済んだはずだ」
「…十年とかじゃ足りねえよ」
思わず漏れたのは、やるせない響きの声だった。
リュシアンの台詞を遮って、レンドーサは繰り返す。
「もっとずっと、ずっとじゃなきゃ、意味がねえ。
ずっとじゃなきゃ、ずっと…、ずっと、あのひとがいなけりゃ、オレはどうやって」
これから先、どうやって生きていけばいい。
もう、彼なしの人生など思い描けなくなってしまったのに。
彼を失って永遠に等しい時間を、空虚なまま生きろと言うのか。
「…レンドーサ」
しん、と静まりかえった室内で、ファンティアが自分を呼んだ。
それは不思議な響きだった。
ゆっくりと顔を上げたレンドーサを見つめ、ファンティアは告げる。
「おまえに覚悟はあるか?」
「…え」
「…なにがあっても、彼を自分に繋ぎ止める、覚悟があるか」
背筋を震わせるほどにうつくしく整った顔に、触れがたいほどの荘厳さをまとってファンティアは続ける。
その先は、誰も想像もしていなかったことだった。
太陽が昇る。まぶしい陽射しが、塔の中にも差し込んだ。
フィンは寝台の上に横たわったまま、ぼんやりと虚ろに宙を眺めるだけだ。
食事も鉄の扉の下にあるわずかな空間から差し入れられるだけで、脱出出来るような隙はない。
自死すると言って自由を得た自分が相手なのだから、最大限に警戒しているだろう。
以前レンドーサに尋ねられたとき、自分では寿命はよくわからないと答えた。
だが、ほんとうはなんとなくわかっている。
自分の寿命は、あとわずかだ。
燃え尽きる寸前の蝋燭のような、わずかな時間しかないことがわかる。
それが燃え尽きるのが、明日なのかあさってなのか、一ヶ月後なのかはわからないけれど。
こんな呪いに喰らわれて死ぬのはいやだと思っていた。
でも、自分で死ぬ勇気もなかった。
『だから、最期にきみに会えて、楽しい時間を過ごせました。
私は幸運です』
嘘だ。大嘘吐きだ。
未練なんかないなんて、真っ赤な嘘だ。
未練ならある。たくさんあるんだ。
だって、死にたくない。
もっと、彼と話していたかった。一緒にいたかった。
死にたくなんてない。
シーツの上に手を突いて起き上がる。
ぎし、と寝台が軋んだ。シャツの前をはだけると、あの刻印が見える。
履いていたままの靴の底に手をやると、軽くずらした。
細工の施された靴底がスライドして、中に隠してあったナイフを取り出す。
服の中は調べたようだが、靴までは調べなかったのだろう。
「…これは、最後の手段だったんですけどね」
そうつぶやいて、自嘲を口の端に刻んだ。
出来ればやりたくなかった、最後の手段。
それでもレンドーサに出会う前、ずっと考えていた最後の手段だった。
レンドーサに出会ってから、いっそ彼に殺されたいと願うようになった。
けれど、
『生まれてはじめて本気で好きになったやつを、なんでオレがこの手で殺さなきゃなんねえ!』
彼が、自分を好きだと言ってくれたから。愛してくれたから。
それなら、今ならば。
このまま彼に会えず、ここで一人朽ち果てるよりずっといい。
すっと握ったナイフを両手で持って振り上げた。
(私は神様が居ないと知っている)
だから神に祈りはしない。
だから、悪魔に魂を売ってもいい。
呪われてもいい。
ただもう一度、会いたい。
会って彼に、
(もう一度、聞かせて欲しい。
あの、愛の言葉を)
叶うなら、微笑んできみに告げよう。
なんの飾りもない言葉を。
(私も、きみが好きだと)
振り下ろされた銀色の刃が皮膚を裂く。
散った鮮血がシーツを真っ赤に染め上げた。
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